あの柵を越えろ!
幸い俺を担当する看守は、新米の女。
散歩中、俺は従順な模範囚を演じて監守に最も負担が掛からないように、まるで美女をエスコートする紳士のように振る舞った。
監守もスッカリ安心しきって、時折俺に話し掛けてきたり、鼻歌を歌ったりしている。
やがて散歩のコースが丘にさしかかる。
丘の下に注意を払うと、松の樹の影からユキの姿が見えて来た。
俺は行動に出る。
かなり恥ずかしい行為だが、監守の目の前で、何の前振りもなく俺は失禁してみせた。
それも大きい方を。
綺麗で清潔な生活に慣れている奴らは、こういう時にも衛生面に気を使う。
俺のロープを握っていた女の監守が、俺の失禁物を処理しようとする。
片手が塞がっているというのに、奴らは自分たちのテリトリーが汚されるのを極端に嫌う。
案の定、ロープを握っていた手の力が緩くなる。
“今だ!”
急に全力でダッシュを決めると、ロープは呆気ない程簡単に、監守の手から離れた。
そのまま全力で丘を駆け降りる。
丘の下の道を通るユキを目指して。
道の手前にある大きな石の上からジャンプして、ユキのロープを握っている背の高い監守に飛びつく。
背の高い監守は、不意打ちを喰らって直ぐに倒れてノックダウン。
簡単なものだ。
「ユキ。行くぞ!」
「アキラ!」
俺とユキは駆け出した。
なるべく奴等から離れるため。
そしてここから脱出するために。
ユキを連れて柵に向かって走る。
遠くから見ていた時よりも、思った以上に高い。
俺一人なら、なんとか越えられそうな高さだと思うが、ユキには無理だ。
「いいかユキ、俺が柵の前で台になるから、思いっきり俺を踏み台にして飛べ」
「でも、それじゃあアキラは!?」
「なあに、俺はこの位の柵なんて何ともない。直ぐに追いつくから心配するな」
「分かった。やってみる」
俺が先に柵に取り付いて、ユキが走って来るのを待つ。
ユキは真直ぐに俺に向かって走って来る。
そして俺が踏ん張ると、その背中に乗り思いっきりジャンプした。
「行けー!」
華麗にジャンプするユキの体が宙に浮くと、見事な弧を描いて空に延び、柵の向こうに着地した。
「次はアキラの番よ!早く!!」
追手は直ぐそこまで来ていた。
少し助走距離が短いけれど、俺は思いっきり走り、そしてジャンプした。




