脱走計画
「ここから逃げ出す!? 厳重な警備体制の、収容所から?」
「そうだ!」
「一緒に逃げるって……いったいどうやって?」
「……それは、これから考える。だが信じてくれ。逃げ出して、また一緒に暮らそう!」
「はい!」
ユキは、元の素直なユキに戻り、笑顔を向けて返事を返してくれた」
さて、一緒に逃げると言ったものの、どうやって逃げるかが問題だ。
施設内の模範囚が集うこの奴隷棟は、他の棟に比べて警備は緩い。
だからと言って、簡単に逃げ出すことは難しいだろう。
もっとも警備が緩くなる時間と場所を見極めなければ……。
何日か、ここでの行動を体験したが、同じ奴隷棟の仲間と言っても、ユキと俺と出は行動する様々な事柄が違う事が分かった。
外の運動場に出られる班分けもエリートクラスとビギナークラスに分けられる。
当然ユキはエリートクラスで、俺はビギナークラス。
しかし、ただ一日に一回だけ、行動を共にする時間がある。
それは朝の散歩の時間。
ここでもユキは先頭で、俺は最後尾。
その他にもチャンスのある時間と場所、それにタイミングを探っていた。
唐突に見つけたチャンスと思える場面も有ったが、それはホンの一時的なものに過ぎず、その一時的に発生した偶然を狙って行動を起こしたとしても、ユキと俺が同じタイミングで行動に移すのは、やはり無理がある。
計画のない行動、は一瞬で捕まるのがオチだし、同じタイミングでの二度目はない。
しかも、一回でもしくじると、その後の行動は困難なものになるだろう。
ユキを助けるためには、もう少し時間がいる。
俺たちの行動は、予め決められた時間割通りに事務的に進められることが、この四日間で分かった。
その中で最も可能性のあるのは、やはりあの朝の散歩の時間。
仲間同士の喧嘩を避けて、間隔を置いての監守付き沿いでの散歩だけど、その時間だけは未熟な監守も動員されて俺たち全員が外に出る。
順番は牢屋の並び順だから俺が牢から外に出されたときには、先頭にいるユキの姿は見えないけれど、中間点手前の小高い丘に登ったところで丘の下の道を歩くユキとすれ違う。
奴らは規則正しい行動が好きだから、この四日間毎回この地点で俺は丘の上の同じ位置から、ユキを見る事が出来た。
ここが最もユキと近くなる場所で、背の高い監守を上から襲える唯一の場所。
チャンスは一度だけ。
失敗は許されない。
仲間に頼んで、独房沿いにバトンリレーのように決行日と場所をユキに伝えてもらった。
仲間からは、失敗するからやめろと言われた。
失敗したら一次収容棟に戻されて、処刑されるかも知れないと忠告してくれる仲間もいた。
もし失敗したとしても、ユキだけは助けたい。
だからユキには、俺が監守を襲うまで何もするなと伝えてもらった。
盛りの付いたオスが、美女目当てにナリフリ構わず襲い掛かる事など、そう珍しい事でもない。
失敗した時は、俺はそういうオスに成り下がればユキだけは守れるはずだ。
朝の散歩に時間、監視人は俺の体に巻き付けたロープを手に持って歩く。
言うことをきかなければロープを容赦なく引っ張ることで、苦痛を与えて無理やり従わす。
古典的な方法だけど、ナカナカ上手いやり方だ。
それでも、このやり方は完璧なわけではない。
俺は今日までの詳しく観察した中で、このやり方の弱点を見つけ出した。
そして、この四日間の散歩でも奴らが自分たちの弱点に気がついていないことも。




