自由に過ごせる者と、そうでない者
ある日の午後、俺は彼女のユキと秋の紅葉に色づく公園を、肩を並べて散歩していた。
「今日は空が綺麗ね」
「まさに、天高く馬肥ゆる秋。秋刀魚の美味しい季節だな」
「まあ!アキラったら、直ぐ食べる事ばかりね」
「だって、キンモクセイの香りを楽しんでいても、生きてはいけないだろ?」
そんな他愛もない会話を楽しみながら。
しかし、楽しい時間は長くは持たない。
「しっ!誰かくる」
俺はユキを連れて、雑木林の中に隠れた。
この俺たちの住む世界は、著しく平等じゃない。
自由に過ごせる者たちと、そうでない者たち。
残念ながら、俺たちは、その後者にあたる。
俺たち、そうでない者は、こうして自由に外を歩き回る事もままならない。
常に人目を気にしていなければ、命が幾つあってもたまらない。
もちろん、俺たちの敵は、自由に過ごせる者たち。
そいつらに酷い目にあった仲間も大勢見て来たし、最悪の場合は車でひき殺されるか、捕まえられて施設に連れて行かれる。
一旦施設に連れて行かれたら、もう二度とここには帰れない。
摑まった後、しばらく経って戻って来られるのは、奴隷に成り下がった奴らだけ。
鎖につながれて、まるで御主人さまの機嫌を取るように尻尾を振るその姿ときたら見ちゃあいられない。
まあ自由に過ごせる奴らの殆どがそういう危険な奴らではなく、実際は俺たちに友好的な人間が殆どだが、その見極めを誤ると取り返しがつかない事になる。
だから、油断禁物ってわけだ。
ユキと雑木林に隠れて、そいつが通り過ぎるのを待っていた。
隠れていて正解だった。
通り過ぎたのは、軍服に武器を持った奴だった。