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追憶の旅(3)


「いっ……お母さんキツい」


「我慢しなさい。でもね、莢果……欲しい物は我慢しなくていいのよ。お母さんだって浴衣くらい買ってあげられるんだから」


「だって……高かったでしょ? これ」


「あんたねぇ、ただでさえ普段から欲しい物あっても言わないんだからこういう時くらい好きな物買いなさい」


だって、うちお金無いじゃん。とは流石に言えなかった。お母さんはお父さんが死んじゃってから十分過ぎるほど頑張ってるって私が一番よく知ってるもん。

それでもこの時にお母さんが言ってくれた言葉は凄く嬉しくて、そんなお母さんに買ってもらったこの浴衣は、ずっとずっと大切にしようって思ったんだっけ。


「はいっ、出来上がり。可愛いわよ。これで将太くんも莢果に惚れる事間違い無しね!」


そう言って背中をパンと叩いたお母さんに振り向いた私は「なんで将太に惚れられなきゃなんないのよ」と視線を落とした。

お母さんは私がしーちゃんと付き合っている事をまだ知らない。

だって昔から私達の事をよく知ってるお母さんに"そういう関係"になったって言うのがなんだか恥ずかしくて、ひとまず私達の事はしーちゃんと二人だけの秘密にしていたのだ。

そしてこの時、この過去の光景を見ている私の脳裏に"お母さんにはちゃんと言っておけば良かったな……"という後悔の念がふと浮かび上がってきたのだった。


あれ……これから言う機会なんてたくさんあるはずなのに。なんで今、私は後悔なんてしたんだろう……


そんな不思議な感情に戸惑いつつも、私はこの旅が終わったら、ちゃんとお母さんには話さなくちゃな、と小さく溜息を吐いた。


「いってらっしゃい! あまり夜遅くならないようにねっ」


そんなお母さんの声にふと視線を上げると、いつの間にか私は家の外の道へと出ていて……アパートの二階の窓からお母さんが微笑んで手を振っているのが見えた。


「花火終わったら帰るよっ、じゃぁ行ってくるね」


そう言って足を進めた私の視界の片隅に、ゆっくりと消えていくお母さんの姿が名残惜しく感じてしまったのは、きっと長い旅をし過ぎてもうすぐ訪れるであろう"今"が恋しくなっただけなのだとその時は思った。


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