み
定年を機に本気で探してみようかなんて、五十歳になったばかりの頃には思ったものだ。
節目を前にするたびに思っているもので、実際にそれで動いたことなどただの一度だってないのだから、これから定年を迎えたところで何か言い訳をして僕は動かないだろう。
けれど記憶の中で、僕の望むように成長している君の姿こそが、最も素晴らしい姿なのではないだろうかとも思えるのだ。
僕の想像している君の姿が、どこかで生きているだろう君と重なるはずはない。
それに、もし君がもうどこにもいないのだとしたら、そんなことは考えるだけでも辛かった。
事実を知ることに意味はない。
意味のない事実のために、傷付いてやるようなつもりは、僕には到底ないのであった。
中々果たされることのなかった約束、それはきっと、永遠に果たされることはない約束。
それならば、時効切れということにして、君のことを忘れたふりをしてしまおうか。
どうして、あんなに大切な約束だったはずなのに、どうして……。
僕の喉は叫ぼうとしても叫んでくれない、声にならず嗚咽を漏らすばかりだ。
こんな僕がいるということを、僕の家族さえも知らない。僕の家族すら知らないことを、君が知っているはずもない。
実際の姿を僕たちは僕たちを知らないのだ。
そうあってくれと僕が望んでいるだけで、それこそ実際の君は僕のことを忘れてしまっているのだろう。
ここまで僕は冷めた考えを残せるものだろうか。
僕が大人になってしまったということなのだろうか……。
年齢の点で言えば、当の昔に僕は大人であるに決まっているのだけれど、そういう問題ではなくて、いつの間にか大人になってしまっていたということなのだ。
改めて、それを感じてしまうのであった。
幼い頃を思い出しているせいだろうか、思い出すことが増えていた、というわけでもないのだけれど。
大人になってしまった。
良いことか悪いことかは別として。