き
この時期になると、思い出さずにはいられない。
嫌でも思い出してしまうに決まっていた。それしかなかったのだ。
あれから何年もが過ぎているというのに、未だに忘れられよう日はやってこないのだ。
まさか忘れたいと思っているわけはないのだから、忘れられないことをマイナスの意味として捉えているようなことはありえない。
少しばかり、寂しさは蘇ってくるというだけだ。
僕らの約束を君はまだ覚えていてくれているだろうか。
いつまでも引き摺っているのは僕だけで、きっと君はもう忘れてしまっているんだろうな。
仲良しだった、大好きだった、大切だった、少なくとも僕は君のことをそう思っていた。
「大きくなったら結婚しようね」
「うん、大きくなったら結婚する!」
そう言って二人は小指を絡め合った。
幼稚園生から小学校も低学年生の、幼い子どもの言うような結婚に、幼い子どもがするような約束に、どれほどの意味があることだろう。
思春期に差し掛かればその約束は効力を失い、十年も経つうちには記憶にもさっぱり残っていないか、笑い話になっているかのどちらかだ。
薄れる前に君を失ってしまったから、足りない、寂しい、約束がどうのというのが必要以上に大きくなってしまっただけ。
それは事実に近いだろうから、認めてしまえばいいのだろう。
それで認められるものならば、君のことなどとっくに忘れてしまっている。
矛盾とも呼べる感情が、僕の中で渦巻いていた。
約束を交わしてから、半世紀にも近い時間が過ぎてしまっている。
結局、探偵を雇うだとか調査を始めるだとかして探しているわけではないのだから、当然と言えば当然なのだけれど、君とは会えないでいるままだ。
親の都合で君が引っ越してしまって、小学校を転校してしまって、それ以来、僕の中の君の時間は止まってしまっている。
今更君に会えたところで、何が起こるわけでもない。
僕は既に別の女性と結婚しているし、君だって僕の知らない場所で僕とは無関係にだれかと結婚しているのだろう。幸せに過ごしているのだろう。
まだ僕の息子は十三歳で、無論子どもなどはいないけれど、年齢を考えたら君に孫がいたとしてもおかしくないということである。
懐かしい、その先の会話が出てくるはずもない。
幼いころは仲良かったとはいえ、今となっては知らない二人、初対面のようなものだとも言えるだろう。