表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Babel Online   作者: 虹色橋
9/26

09

 廊下で戦っている二人に気づかれないように扉を閉め、厨房の方へと戻りましょう。

 私は何も見ませんでした。本当に危なくなったら救援メールを送ってくると思いますし。


 ……んー。とはいえ、この部屋も大体漁っちゃったんですよねぇ。

 あ、そうだ。せっかくスキレットを手に入れた事ですし、料理スキルを試してみますか。スキレットを装備して……≪料理≫を使用。


『調理方法を選択してください』


 選択できる調理方法は『焼く』と『茹でる』ですか。今持っている食材は蛙の足なので……焼くより茹でた方が多分美味しいですね。調味料とか……ない……?

 とりあえず、『茹でる』を選択すると、どこからともなく簡易コンロが現れ、スキレット内に水が張られていました。

 スキレットに張られた水は……うん、普通の水ですね。調味料も全部こちらで用意しないといけないようです。水が張られたという事は、一応油とかは用意してくれそうですが。

 

 蛙肉の調理なんてしたことないので、調理方法の最適解がわかりません……が。そもそも選択肢があってないようなものなので。

 焼き加減とかもあまり良く分からないので、今度調べておくことにしましょう。茹でていれば焦がしたりすることもありませんし、よっぽどのことがない限り不味くはなりません。まあ、元の肉がある程度美味しければの話ですが。

 

 インベントリから蛙の肉を取り出して、下準備……は調味料がないのでナシで。

 コンロの火をつけてから、お湯を張ったスキレットの中へ蛙肉を投入。

 蛙肉は可食部がほとんど下半身に集約されているので、ドロップした肉も下半身――主にももの部分だけになっていますね。

 蛙は雑食系の入門としても割と優しい、もとい食べやすい部類なのでまだいいですが。昆虫食とかに比べれば、大体は易しいですけど。

 

 私も、食べる事は好きなのですが……流石にリアルで昆虫食などに手を出す勇気はありませんでした。そもそも、そんなもの《珍味》を提供するお店自体が希少ですし……。

 最近の通販は進化しているので、ネットで注文することも出来るようになりましたが、流石に家族と一緒に住んでいる状態で下手なものをキッチンで捌けませんし。


 私の記憶の中のお姉様は何でもかんでも美味しいと言って食べている姿ばかりなので、お姉様ならば大丈夫かもしれませんが……。お母様に見つかった場合、なんて言われるか分かったものじゃありません。


 何も言われなかったとしても、家で調理をする勇気が私にはないですけれど。新しく専用の包丁とかまな板とか買わないといけませんし。流石に、普段使いの調理器具をキワモノ調理との共用として扱うわけにはいきませんし。


 いつか……いつの日か……具体的には一人暮らしを始めたらの楽しみに取っておきましょう。


 さて、お肉の状態は……蛙肉なんて茹でた事がないので、全くもっていいのか悪いのかがわかりませんが……。んー……もう少しでしょうか。

 一応、用心してもう少し湯がいておきますか。寄生虫とかも怖いですし。

 あ、いや、流石にゲーム内でドロップした肉に寄生虫が住んでいるなんて事はないですか。そうじゃないと生肉なんて食べられないですし。

 あれ? でもよくよく考えたら私が生のままお肉を食べられたのって、スキルのおかげなのではないでしょうか……。

 蛙に生息する寄生虫の名前ってなんでしたっけ……。アニサキスやエキノコックスみたいな有名どころなら分かるんですけど……。


 まあ、生じゃなければ大丈夫でしょう。

 欲を言えば、唐揚げとかを食べたかったんですけど……。今回はボイルで我慢です。スキルレベルを上げていけば選べる調理法も増えていくと思いますし。

 なるべく早く揚げ物とか作りたいので、早々にレベリングを済ませたい所ではありますが……今解放されている調理法で量産可能なものと言えば……ゆで卵?

 卵をそのままお湯の中に入れて放置するだけでできますし、レベリングにはもってこいだとは思うんですけど……問題は卵の入手経路だけですね。


 卵だけではありません。肉が腐ってしまう以上、食材を溜めておくことは出来ませんし……常に新鮮なものを手に入れる事の出来る流通ルートの確保も重要です。

 いや、そもそも肉が腐るのが悪いんですよ。時間経過しない食材保存用のアイテムボックスとかあればいいんですけど。


 ん、お肉もそろそろいい感じですかね。

 菜箸……はないので。さっき手に入れたフォークで掬い上げて……完成!


【料理】ボイルフロッグレッグ レア:N 品質:D

 茹でられただけの蛙のもも肉。


 品質Dですか……。ま、まあ、スキルレベルも調理器具も初期装備みたいなものですし……。


『製作した料理をレシピブックに登録することが出来ます。登録しますか?』


 レシピブック……?

 えーっと、ヘルプヘルプ……あ、あった。


※レシピブック

 自分の製作した料理のレシピを他プレイヤーに対して公開することが出来ます。

 公開しているレシピブックを他プレイヤーが閲覧した場合に、ロイヤリティーが発生致します。レシピブックを登録出来るのは、全ての工程を自身でこなした場合に限ります。


 ふむふむ……。なるほど、つまりお金が入ってくるクック〇ッドみたいな感じですか。誰も作らないとは思いますけれど、一応登録しておきましょうか。

 ただ蛙の肉を茹でただけの料理をレシピと言い張るのはどうかと思いますが……別に減るものじゃないですし。


 このスキレット内に余った水はどうしましょう……。程よく蛙の出汁でも出ていてくれたら……あー。うん、捨てましょう。


 お姉様の事も気がかりですし……。ナイフトフォークを装備をし直して……食堂からお姉様たちが戦闘をしていた廊下へ向かおうとした所で、戦闘を終えたお二人と鉢合わせました。


「トクヒメさん。そちらは何か収穫がありましたか?」

「いや、特に何も。さっきまであの宝箱と戦ってたんだけど……倒しても何もドロップしなかったー……」

「アレに挑んだのですか……。呼んでくださればよかったですのに」


 本当は気づいていましたけど。


「いやぁ、なんか行けそうだったから。毒状態にして蜘蛛糸で動きを遅くして後は逃げ回ってればハメ殺せた! そっちはなんかあったー?」


 なるほど、時間が掛かっていたのはそのせいですか。


「私が見つけたのは調理器具と武器ですね」


 言いながら、その場でナイフトフォークを抜刀する。


「ただのナイフとフォークじゃん!」

「それは言わないお約束です」

「武器……武器……? 武器ってなんだ……?」

「世の中にはトランプを武器にして戦う人もいますし、まだ形状的には武器でしょう」

「確かに……?」

「納得して頂けて何よりです。あ、それとこの奥の部屋に封鎖されていた廊下の先へと繋がる扉がありましたよ」

「あ、ここから行けるんだ。てっきり入口まで戻らないといけないかと思ってた。じゃあ、そっち行ってみようか」

「ええ、そうしましょうか。私一人で先に進もうかな、と思っていたのですけれど。シスさんを置いていくのは忍びないと思ったので待っていたのです」

「私は!?」

「トクヒメさんは別段居なくても……って、先程からシスさんの反応がありませんけど、ちゃんといますか?」


 お姉様の後ろで微動だにせず立ち尽くしているシスさんの姿は、まるで理科室に置いてある骨格標本です。

 近づいて、目の前で手をひらひらと振ってみても何の反応もありません。


「離席……したんですかね?」

「んー。どうだろ、何も言ってなかったからちょっとわかんないや。この部屋に入って来るまでは確かに居たはずなんだけど」

「まあ、部屋に入っていますしね。少し待ってみます? それでも戻って来なかったら――」

「す、すいません。戻りました……」


 私の発言を遮るように、カタカタと骨を鳴らしながらシスさんが声を上げた。


「あ、良かった良かった。急に反応が無くなっちゃったからびっくりしたよ」

「本当に、すみません。何も言わずに席を外してしまって。申し訳ないですが、急用が出来てしまったので、今日はこの辺で落ちますね。お疲れさまです」

「はーい、お疲れさまー。まったねー」

「わかりました。シスさんお疲れ様です」

「お二方とも、今日はありがとうございました。また今度よろしくお願いしますね」


『コクシクスがログアウトしました』


 あ、同じフィールドにいたフレンドがログアウトした時にアナウンスがあるんですね。なるほど、通知から設定を切っておきましょう。


「お姉様、どうしますか?」

「んー……どっちでもいいよ? 二人で一緒にゲームするなんて久しぶりだし、せっかくだから探索しちゃう? まだ時間大丈夫?」

「私は大丈夫ですよ。あ、ていうか、個人チャンネル以外ではトクヒメさんって呼んだ方がいいですかね」

「別に隠すような事でもないからどっちでもいいよ? 姉妹なのがばれた所で何の問題もないし。人が多い所だとちょっと考えた方がいいかもしれないけど……TPOを弁えてれば大丈夫大丈夫」

「じゃあ周りに人がいる時はトクヒメさんって呼ばせて頂きますね」

「昔みたいに、ヒメ姉って呼んでくれてもいいんだよ?」

「それは遠慮しておきますね」

「なんでぇー!?」


 そんな会話をしながら、1Fの探索を続行。

 厨房から廊下へと出て、ぐるりと時計回りに一周。入って来た入口へと帰ってきました。

 一応、一周して帰ってくるまでに同じように部屋がいくつかありましたが、雑魚モンスターが配置されていただけで、特に何も目ぼしいものはありませんでした。

 

 残った二階を探索するため階段を登っていきます。

 階段を登り切った正面には、大きな扉が一つ。そして、左右に真っすぐ伸びた廊下がありました。廊下に面した左右の壁には、それぞれ扉が二つずつ。

 

 「さて、どうします? お姉様はこういう時、正面のおっきな扉から開けますよね?」

 「私はそう。だって、どう考えても怪しいじゃんここ。イヴちゃんは、マップの端から攻めていくタイプだよね?」

 「ええ、そうですね。明らかにイベントがありそうな部屋は最後に行きます。そうしないと、戻れなくなってアイテムを取り逃したりしますし」

「じゃあ、この部屋は最後にして……。左と右、どっちがいい?」

「どちらでもいいんですけど。一階は時計回りに行きましたし、今回は右手側から攻めてみましょうか」


 手前側の扉から順に開けて行ってみますが、どの部屋の作りも下の階にあった客室と同じような感じです。微妙に差異はありますが、ほぼ同じと言っても過言ではありません。

 ある程度の探索をしてみましたが、特に目ぼしいものもありません。


【素材】蝙蝠の羽 レア:N 品質:E

蝙蝠が落とす黒く大きな羽。


【素材】蝙蝠の牙 レア:N 品質:E

 小さな蝙蝠の牙。


【素材】蜘蛛の糸 レア:N 品質:C

意外と丈夫な蜘蛛の糸。


 左右の廊下に合った全ての部屋の探索を終えて、手に入った素材です。

 一番最後の蜘蛛の糸は、お姉様のお尻の部分に糸くずが付いていたので、取ろうとしたら手に入ってしまった完全な副産物のようなものですが。


 さて、と。残るはこの大きな扉です。


「お姉様、準備はいいですか? 開けますよ?」

「大丈夫。いつでもいいよ」


 お姉様の返事を聞いてから扉に手を掛けた。ギィ、と音を立てながらゆっくりと扉が開いていく。

 開いた扉を潜り、部屋の中へと入る。


 ……? 特に、何もない……?

 大きな部屋の中には、壁一面に設置された本棚。四隅には薄暗いスタンドランプが配置されています。


「特に何も見当たらない……?」


 探索をしようと部屋の中央へ近づいた所で、天井から何かが落ちてきている事に気が付きました。

 それは、ぽとり……ぽとり……と、一定間隔で地面へと向かって落ちてきています。天井から降ってきているものの正体を確かめようと、落下地点に手を差し伸べる。


 私の掌へと着地したのは赤黒い液体。ぴちゃん……ぴちゃん……と音を立てながら手の中に溜まっていき、やがて床へと零れ落ちていく。


「危ないっ!」


 降ってきていた液体の正体を確認しようと、上を見上げようとしたその瞬間。

 背後から聞こえて来たお姉様の叫び声と共に、私の身体が後ろへと引っ張られ――先程まで私が居たはずの場所を、真っ黒な物体が通り過ぎ去っていきました。


「す、すみませんお姉様。ありがとうござい……蝙蝠?」


 物体の軌跡を目で追っていくと、そこには一匹の大きな蝙蝠が天井にぶら下がっていました。今の私と同じ程度のサイズをした蝙蝠の口からは、血のようなものが滴っています。


「多分、この部屋のボスなんだろうけど……。イヴ、あれ……届く?」

「いや……少し厳しいですね。攻撃スキルもロクに取っていないですし……。私の武器は双剣扱いなので、レンジが圧倒的に足りていません」

「私も結構厳しかったり……シスちゃんがいれば骨ブーメランとかが届いたんだけど……」


 シスさんの骨ブーメランって自分の骨を投げるんですかね……?


「ないものねだりをしても仕方ありませんし、どうにか私たちで倒す方法を考えないと……。お姉様、あいつ毒にしたり出来ないんですか?」

「一応、攻撃さえ当たれば……。ただ、私の毒付与も確率だから何回かチャレンジしないと」

「それでしたら――っ! 悠長に話している時間も無さそうですね。私が時間を稼ぐので、お姉様は隙を見て攻撃を当ててください! 方法は任せました!」


 会話の途中でも容赦なく蝙蝠はこちらへと突撃をしたのちに、また天井へと戻っていきました。

 どうにかしてあいつを引きずり降ろさないと……話はそれからです。

 お姉様の邪魔をしないように、扉付近から離れ部屋の一番奥の方へと。ナイフトフォークを抜刀して、蝙蝠の方を睨みつけてみますが動きはありません。


 ただ睨み合うだけの時間が過ぎていき、蝙蝠がバサリと翼を開いたかと思うと、一直線へこちらへと突っ込んできました。突撃に合わせ、半ばカウンターのような形で蝙蝠の一撃を喰らいつつ、相手を切りつける。

 ……ダメですね。ダメージ交換が割に合っていません。相手の一撃が重すぎて、ライフを削り切る前にこちらが殺されてしまいます。


 とはいえ、攻撃が単調なので避ける事は簡単なのですが……。それじゃあいつまで経っても倒せませんし……。困りました――っ!

 今度の突撃は軌道上に入らないように早めに回避をして――えいっ!

 私の振るった剣は、蝙蝠の身体を捉えることなく空を切る。くぅ……タイミングが合いませんでしたか……。回避行動にワンクッション置いてしまうと、どうしても遅れてしまいます。


 お姉様は……何やら部屋の隅の方で、蜘蛛の糸を張り巡らせていました。お姉様の準備が終わるまで、蝙蝠の気を引いておくのが私の仕事です。


 とはいえ、一定間隔での突撃……それも一直線という単調な攻撃を避けるだけなので、楽な作業ですが。


 そんな風に、思っていたのですけれど。

 何度目の突撃だったでしょうか。避ける事にも慣れ始め、回避行動をしながら攻撃を繰り出し体力を地道に削っていたのですが。おおよそ、四分一程ライフバーを削った所で、天井にぶら下がった蝙蝠の肉体がボロボロと崩れ始めました。


「……え?」


 崩れていく蝙蝠の肉体から落ちている大小様々な破片は、まるで意思を持っているかのようにこちらへと向かってきます。

 地面に這いつくばりながら、突撃してきた破片を避ける。ギリギリまで接近したことで、突撃してきたモノの正体がわかりました。

 破片だと思っていたものは、通常サイズの蝙蝠の群れでした。大きな一匹の蝙蝠が分裂した……というのが正しいのでしょうか。

 吸血鬼とかだと、無数の蝙蝠になって攻撃を避けたりするのは見たことがありますが……。


 数が多い挙句、小さくなったせいで適当に振り回していた斬撃が蝙蝠たちに掠りも

しなくなりました。

 範囲攻撃を持っていないのが悔やまれます……。幸い、一匹一匹の攻撃力はそれほど高くはないので、掠っても致命傷にはなっていませんが……塵も積もれば山となる、です。流石に長引くと……ってあれ!? なんであいつ回復して――ドレインですか!

 ドレインは非常に不味いです。どうにかしてこの状況を打破しなければ……って言っても、私のスキルに広域範囲攻撃なんてないですし……空腹ゲージも溜まるまでもう少しかかりそうです。


 と、とりあえず回避に専念するしかなさそうです。天井付近をくるくると旋回している蝙蝠の群れから距離を取る。

 攻撃方法は大きい時と同じ単調な突撃しかしてこないのが救いですが、数が多くなった分だけ攻撃範囲が広くなってしまったのが難儀です。回避行動の一歩目を迷うと、微妙に掠ってしまい相手を回復してしまうのが……しかも、こちらからの攻撃は大したダメージを与えられないと。


『麻央! こっちの用意は終わったから次の突撃を回避したらこっち側に走ってきて!』

「了解です」


 ぐるぐると部屋の中を周りながら、蝙蝠と鬼ごっこをしているとお姉様から連絡が。

 扉の方へと目をやると、蜘蛛糸を紡ぎ合わせて防壁を作り出していました。蝙蝠の突撃を躱しつつ、お姉様の元へ。


「すみません。助かりました」

「こっちこそ、時間かかってごめんね。大丈夫?」

「無事ではないですけど、一応大丈夫です」

「とりあえず、あの群れは私の糸でどうにか出来ると思う……けど、数が多いから糸の耐久が持つかどうか」


 そんな話をしていると、私を追いかけてきた蝙蝠が、お姉様の作った防壁へ衝突すると同時にキィ、と鳴き声を上げながら地面へぼとぼとと落ちていきました。


「ふ……ふふ、ふふふふふ! 見たか新技ポイズンネット!」

「なるほど、糸自体に毒を張り巡らせているんですか」

「進化した時に取得したスキルだよー! 触れた相手に毒を付与する糸なんだけど、自在に操れるからトラップとして設置したり出来るんだよね」


 蜘蛛糸に触れた蝙蝠たちが次々に地面へと落ち、群れの数が半分程になった所で防壁の耐久力がなくなってしまい崩れ落ちていきました。


「思ったより早い……けど、結構数は減らせたんじゃない?」

「蝙蝠の数と体力が連動していると見て間違いないですね……残り半分ですか。ついでに聞いておきますけれど、もう一回あの防壁を出すことは」

「無理だね! 普通にコストオーバーだよ。普通の糸なら割と余裕はあるけど、毒性の糸は結構きついかな。少し時間をおけば大丈夫だけど、あの規模はきつい」

「了解です。じゃあ、このままどうにかしないといけないわけですか」


 空中を旋回していた蝙蝠の群れはいつの間にか、一匹の蝙蝠へと戻っていました。心なしか、最初に見たときよりもサイズが小さくなっているような気がします。


「攻撃が届かないなら、届くようにすればいいんだよね? 私の糸で捕縛するから、蝙蝠が身動き取れなくなったらボコボコにして」

「わ、わかりました。時間を稼ぐ必要はありますか?」

「いや、大丈夫。近くで様子見ててくれたらいいや。もし、麻央の方に突撃してったら……その時はその時だよ」


 お姉様は、糸を紡ぎ簡易的なネットを編みながら蝙蝠の距離を取って行く。私は一定の距離を開けながら、蝙蝠の背後に陣取りいつでも攻撃を繰り出せるように抜刀して待機。


 蝙蝠はまるで弾丸のように、お姉様へと向かって一直線に突っ込んでいきました。

 相対するお姉様も、自分の正面に編み込んだ蜘蛛糸を三重に張り巡らせ、蝙蝠の攻撃に備えて居ました――が。蝙蝠は蜘蛛糸など関係ないと言わんばかりに、そのままお姉様の方へ。


「お姉様ッ!」


 蜘蛛糸のおかげでいくらか衝撃が緩和されたとはいえ、突撃をモロに食らったお姉様の身体は部屋の端へと吹っ飛んで行きました。


『私はいいから攻撃!』


 慌ててお姉様の方へと近づこうとした所で、制止の声が頭に響いて足を止めた。

 先程までお姉様がいた場所に視線をやると――蜘蛛糸に絡まった大きな蝙蝠が、地面でジタバタと藻掻いていました。


「せいやぁっ!」


 走り出していた勢いをそのままに、飛びかかるように蝙蝠を切りつける。

 一撃目を繰り出した勢いのまま、流れるように畳みかける。どうやら、蜘蛛糸の効果が重複しているようで、拘束時間が通常よりも長くなっているようです。

 こんな事なら、攻撃スキルを取っておくべきでした。通常攻撃の連打では微妙に火力が足りていません。できる限りタイムロスがないように、通常攻撃を繰り出してはいますが……。


「間に合わ……ないっ!」


 体力ゲージが微妙に残った状態で拘束が解けてしまい、空中へ逃げようとする蝙蝠に追撃を繰り出しましたが、私の剣は蝙蝠を捉えることなく空を切りました。

 くっ・・・・・・あの状態でまた分裂されてドレインされたら面倒な事に・・・・・・!


「私に任せて!」


 私の背後からお姉様の声が響くと同時に、まるで鞭のような動きをした糸が蝙蝠を捕縛し、そのまま地面へと叩きつけました。


 ギ、キィ……という声と共に蝙蝠の体力ゲージが0になり、戦闘終了です。


日本で食用蛙としてメジャーなウシガエルは特定外来生物なので生きたまま運搬することは禁止されています。

捕まえたらその場で〆るように心がけましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ