08
戻ってきましたよ、空腹の森。
いやぁ、まさかこんなに早く戻ってくることになるとは思いませんでしたが。
あのお城の攻略を続けるのか、お姉様に判断を仰ごうとしたところで、お姉様の方から連絡が飛んできました。
『いや、ほんっとごめん! わざとじゃないから! 信じて!』
「まだ、何も言ってないのですが……。正直、お姉様の事ですから受け狙いでわざとやったのかと思っていましたけどね」
『流石に私でもそんなことはしないってば! 麻央と二人でならまだしも……』
「では、次からお姉様とパーティを組むのはご遠慮しておきますね」
『待って! 嘘! 嘘だから!』
「冗談ですよ。それより、どうしますか? 再チャレンジします?」
『うん! 当たり前じゃない! あっ、でも時間大丈夫……? ちゃんと睡眠時間取らないと美容と健康に悪いよ?』
「お姉様がそれを言いますか……。別に、明日は休みですから大丈夫です。夜更かしも慣れたモノですし」
『おっけー。じゃあ、すぐそっちに戻るね。ただ、そこそこ時間が掛かるかもしれないから先に探索しててもいいから!』
「わかりました」
お姉様との会話を打ち切って、すぐに吸血鬼の城へと。まあ、二つ隣のマップなので直ぐに戻れるのですが。
さて、お姉様たちはまだ来ていませんね?
辺りを見回してみても、それらしき姿は見えません。どうしましょうか、先に探索していてもいいと言われていますが……。
あ、せっかくですしスキルのチェックでもしておきますか。レベルもそこそこ上がっていますし、取得できるスキルも……おぉ、増えていますね。
種族スキルもいくつか解放されていますし、何か取っておきましょうか。
武器を取得してないので、武器関連のスキルはまだ一つも解放されていませんが。
確か、武器は装備して使っていれば熟練度が上がって……その熟練度によってスキルが解放されていく……んでしたよね?
武器種類もそれぞれ様々で、片手剣、両手剣、双剣、槍、斧、ハンマー、弓、杖などのメジャーなものから、楽器、鞭、ドリル、スリングショット、鉄扇、チャクラムなどの所謂キワモノもかなりの数がある挙句、各武器種毎にスキルが存在しているという……。
チャクラムや鉄扇はわかるとして、楽器ってどのような扱いになるのでしょうか……? 音色で敵を操ったり……往年のロックスターのように楽器で直接殴ったりするほうが楽しそうですけどね。
武器のスキルは武器が手に入った時に考えるとして、今は種族スキルの方を取っておきましょう。拳のレベルが上がってるお陰で、一応近接攻撃スキルも開放されましたが……。これは別にいりませんね。
現在のレベルは10で、習得可能な種族スキルは二つ。
≪イーターソウル≫
戦闘中に限り、攻撃力増加大、防御力低下大。
≪イートイン≫
体力が10%以下の魔物を確率で捕食することが出来る。
スキルレベルに応じて、捕食成功確率が増加する。
ふむ……。≪イートイン≫は迷う余地がありませんね。これは習得しておきましょう。≪イーターソウル≫も悪くはないんですけれど……防御力低下のデメリットがメリットを打ち消してしまうレベルなので、とりあえず保留にしておきましょう。
えーっと、スキルポイントを使用して≪イートイン≫を習得。
スキルレベルって勝手に上がるんでしたっけ……? ヘルプは……ありますね。
※スキルレベルの上昇について
スキルを使用する毎にスキル経験値が溜まっていき、スキル経験が一定以上溜まるとスキルレベルが上昇します。
また、スキルポイントを使用することでスキルレベルを上昇させることも可能です。スキル経験値をが溜まり、スキルレベルが上昇することによって、スキルレベルの上昇に使用したスキルポイントは返還されます。
なるほど。スキルポイントを余らせるくらいならスキルレベルを上げてくださいねってことですか。スキルを使っていれば、スキルレベルが上がって使用したスキルポイントも帰ってくると。
ん、あれ? いつの間にか進化情報が見れるようになっていますね?
進化タブを開いて……。
『エクストラクラスが解放されました』
脳内に響き渡るアナウンス。突然頭の中に鳴り響くのはいまだに慣れません。もっと、こう、カウントダウンをしてから……いや、とても面倒な事になりそうなのでこのままで結構です。
進化……うわぁ……、あー……条件解放型ですか。んー、ツリータイプよりは好きです。
現時点で進化可能なのは……?
カニバル
同種族の肉のみを喰らい続ける魔物。
空腹令嬢
空腹の杯の力によって、常に空腹感に襲われる事となった種族。
カニバルが解放されたのは、おそらくイーターの肉を食べた事がトリガーになっているのでしょう。もう一つは、空腹樹で手に入れた杯によって解放された種族と。
他の進化先の解放条件とかって見れたり……出来ないですね。
■■を捕食、とか大事な部分が隠されてしまっていますが……人喰い≪マンイーター≫の解放条件はどう考えても人間の捕食ですよね、これ。
せっかくエクストラ種族が解放されたわけですし、進化先はほぼこっち一択ですよね。それに、令嬢という事は、進化すればキャラクタークリエイトで作った姿に変わる可能性もありますし。
もし、それでもこの姿《白ハゲ》のままなら、人間の姿になることは諦めるしかないです。
他の進化先の解放条件も不透明ですし、進化してしまいましょうか。というか、スキルを取得する前に進化すれば良かったのでは……?
ま、まあ。過ぎたことは気にしても仕方ありませんし……。
『エクストラ種族、空腹令嬢が選択されました。決定後の変更は不可能です。進化を開始してもよろしいですか?』
進化開始を選択。
『空腹令嬢への進化を開始します』
アナウンスと同時に開いていたタブが全て終了し、身動きが取れなくなりました。
ゴポォ……という音と共に、私の口の中から赤黒い液体が物凄い勢いで流れ落ちていき、まるで意思を持っているかの様に、私の身体を包み込みました。
目の前が紅く染まっていき、やがて何も見えなくなりました。
『種族スキル変更。≪空腹≫が≪飢餓≫へと変化しました』
『種族スキル追加。≪暴飲暴食≫を習得しました』
『進化が完了致しました』
アナウンスと共に、身体全体を覆っていた液体が口の中へと戻っていきます。流れ出て来ていた液体が全て無くなった所で、身体が動かせるようになりました。
これで進化完了ですか……。
まずは見た目の確認を……。
ステータス画面を開いて、表示された自分の姿を見た瞬間、思わず小さくガッツポーズ。やりました、これですよこれ。私が作った見た目になってるじゃないですか。
なんか、若干目の下にクマがあったりとか、若干頬がこけていたりしていますけど。白ハゲより全然マシです。
腕の長さも一般的な人間の長さまで戻っていますし、胸のふくらみもしっかりある……この進化は正解でしたね。
見た目の確認はここまでにして、次は変更されたスキルと習得スキルの確認を。
≪飢餓≫
満腹度が常に0になり、空腹ゲージの増加速度が上昇する。
≪暴飲暴食≫
空腹ゲージが最大まで溜まっている状態で発動することが出来る。
攻撃力と敏捷が上昇し、手あたり次第に捕食していく。
捕食するたびに空腹ゲージが減少し、0になった時点で効果が途切れる。
スキルレベルに応じて、攻撃力と敏捷の上昇量増加。
飢餓は空腹にデメリットを追加したスキルですね。これは特に問題ありません。むしろ、このデメリットはもう一つのスキル効果を考えるとメリットになります。
満腹度が0になってから空腹ゲージが溜まっていく仕様なので、単品で見れば食べる事で真価を発揮するイーターとの相性が悪いですが、飢餓のおかげで暴飲暴食が使いやすいのはいい事です。
習得できる種族スキル追加は……されてないですね。はい。
とりあえず、確認はこんなものですか。
暴飲暴食の効果を試してみたいですけれど、空腹ゲージもほぼ溜まっていないですし……。探索途中に機会があれば使ってみましょう。
スキルタブを閉じると同時に、お姉様から連絡が。
『今どこー?』
「もう既にお城の扉の前で待機してますが……?」
『えっ? どこどこー?』
「さっき私たちが入っていった扉の前ですよ?」
辺りを見回すと、近くにお姉様とシスさんの姿が。
チャンネルを閉じてからお姉様の方へと近づいていき、声を掛けると。
「「いや、誰(ですか)!?」」
と、叫ばれました。
いや、確かにそうですよね。ついさっきまで白ハゲだったのに、いつの間にか普通の人間みたいになってるとわかりませんよね。
「いやぁ……お二人が戻って来るまで時間があったので……スキルの確認ついでに進化したらこんな風に」
「へぇー……イーターの進化って白ハゲのままじゃないんだ。いやぁ、可愛くなったねえ?」
「この種族、エクストラなので通常進化であれば白ハゲのままだったかもしれませんけど……。っていうか、トクヒメさんも色変わっていませんか? なんか毒々しくなっていません?」
真っ黒だったはずのお姉様が、微妙に緑がかった姿に変貌しています。
「あ、気づいちゃった? 私も進化したんだよー。ポイズンスパイダー!」
「毒ですか。トクヒメさんらしいですね」
「ちょっと聞き捨てならないんだけど!?」
そんな話をしつつ、再度城の中へ。
同じように左側へ向かい、部屋の中へと入ろうとしたお姉様をシスさんと二人がかりで制止して先へと進みます。
何度も何度も同じところで躓いている場合ではないのです。
廊下を真っすぐ進んで行き、突き当りを右へと曲がる。道なりに進んでいると、壁が現れて、これ以上先へは進めないようになっていた。
「あれー……? 行き止まり?」
「そうみたいですね、こちら側はハズレでしょうか」
「一応、部屋あるけど……入る?」
壁の手前辺りには扉が左右に設置されています。
「では、こうしましょう。私とシスさんがこちら側の扉を調べますのでトクヒメさんはそちらをお願いします」
「あれー!? 私一人で調べないといけないの!?」
「だって死にたくないですし……」
「うっ……。そう言われると何も言い返せない……」
「シスさんもそれで大丈夫ですか?」
「私は良いですけど……ヒメさんを一人にして大丈夫ですか……?」
「あー……確かに、言われてみれば……」
お姉様と共に行動する危険性と、お姉様を単独で放置する危険性……。どちらもかなりリスクが高いですが……。
考え込んでいると、シスさんが個人チャンネルで連絡をしてきました。
「ヒメさんを一人で放っておくのは危な……心配なので、私がついていきましょうか?」
「割とあの人なら一人でもどうにかなるとは思うんですけど……。すみません、お願いしても良いですか? もし危なくなったら連絡ください。すぐに駆け付けるので」
「わかりました。レイヴンさんもお気をつけて」
シスさんがお姉様を宥めながら扉の中へと入っていったのを確認してから、私も逆側の扉を潜って部屋の中へと。
ここは……ダイニングでしょうか。部屋の中央には大きな円卓が鎮座していて、円卓を囲うように13個の椅子が設置されている。
部屋の北側には扉が一つ。もしかすると、あちらの扉から壁の向こう側へと続く道があるかもしれません……が、とりあえずこの部屋を探索していきましょう。
まずは、このいかにもな円卓から……。円卓の中央には、花の刺さってない花瓶が一つ。ひっくり返しても、何も出て来ませんでした。
テーブルの裏側や、椅子の裏など、脱出ゲームでアイテムを隠すには定番の場所を調べてみますが、何も見当たらず……。壁に掛けられている食器類や、棚の中など、目ぼしい場所を漁ってみましたが、成果はありません。
ダメですね。思考や発想の問題かもしれないので、後でお姉様たちにも探索をしてもらった方がいいかもしれませんね。
となれば、この部屋の探索は打ち切って北側の扉を開く。
こちらは厨房ですか。内装は至って普通……? 洋風のお城の厨房なんて見学したことがないので何とも言えないのですが……。部屋の中央には長机が置いてあって、上にはカゴに詰められた果物が並んでいました。
北側の壁には無数の鍋やフライパンなどの調理器具が掛けられていて……んん? どれもが赤錆ていたりしている中で一つだけ、見た目が綺麗なものがありますね。
手が届くでしょうか……んー……背伸びをすればギリギリ……っと、取れましたね。
【調理・主道具】スキレット レア:N 品質:C
一般的なスキレット。
お、思わぬ収穫です。もしかしたら、武器かもしれないという不安があったのですが、ちゃんと調理道具で安心しました。
これでやっと、料理が出来ます……! あのまま不味い生肉を食べ続けるような生活が続かないと思うだけで、心が踊りそうです。
これで、調べていないのは東側の壁に設置された大きな棚だけですが……。さて、何かありますかね?
んー……ここもダメ。ここにもありませんし……こっちにもない。
手当たり次第引き出しを引っ張って中を確認してみますが、 ほとんど何も入ってみません。次が最後の引き出しですが……。
お……?
【武器・双剣】ナイフトフォーク レア:R 品質:B
マナーをきちんと守りましょう。
武器……武器? ぱっと見た感じだと、唯のナイフとフォークなのですが。えっと、装備装備……インベントリを開いてからナイフトフォークを装備して……。
うわっ、大きくなった!?
なるほど、抜刀すると大きくなるタイプの武器なんですねこれ。
武器の命名センスは若干気になりますが……。割と好きなデザインなので当面の間はこれを使う事にしましょう。
この部屋はこんなものでしょうか。一応扉の先を確認して……。やっぱり、壁の先に続いていますね。
先に進んで……いや、先にお姉様たちと合流するべきですか。
もう少し待てば来るでしょうし……むしろ、迎えに行く方がいいかもしれません。
通ってきた扉を戻っていき、食堂から廊下へ出た所で、お姉様とシスさんの姿を発見……そして、もう一つ見慣れた姿が。
二人は、手足の生えた宝箱と廊下の曲がり角の辺りで戦っていました。
……。
…………見なかったことにしてもいいですかね?
最近肩こりが激しくて、肩が上がらなくなってきました。