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Babel Online   作者: 虹色橋
5/26

05

 朝ごはんも食べ終わりましたし、空腹樹の攻略をやっていきましょうか。

 今日はお母様が作ってくれるらしいので、ご飯の用意はお休みして一気にやってしまいましょう。

 

 コフィンの中へと潜り込み、BOを起動。

 

 さて、攻略の時間……ですけれど。別に攻略を見たわけではないので、手探りで何処まで行けるかですね。出来れば、今日中に踏破してしまいたいです。

 

 早速、空腹樹の中へ……と行きたい所なのですが。どうやったら行けるのか、まだはっきりとしていないんですよね。多分、食材を捨てる事がトリガーなのだと思うのですが……。そういえばこれが空腹樹だと確定もしてないですね? 

一応鑑定をしておきましょうか。


 空腹樹

 ありとあらゆるものを養分に成長する神木。

 

 まあ、この一本だけ他と比較にならないくらい大きいですし、マップの中央に立っていますもんね。何かないと逆に不自然です。

 

 確認が済んだので、空腹樹を正面に見据えつつインベントリを開いて、イーターの肉を捨てた瞬間――木の幹が口を開いたかのように割れ、無数の枝が飛びだしてきて身体を拘束しながら中へと引き摺り込んでいく。

 なるほど、こういうギミックですか。前回は、背を向けて座っていたので気づけませんでしたが、私はこの木に食べられたと。


 肉の残りは三つ。つまり、後三回まではとりあえず死んでもすぐに復帰出来るので、行き当たりばったりですが進んでいきましょう。

 まずは、あの部屋まで辿り着かなければ……。昨日はマップを埋めるために中央よりでしたが、隠し部屋への入口が隠されていたりするかもしれないので、今回は壁を探りながらです。

 まあ、何もないまま辿り着いてしまったわけですが……。


 前回は、部屋の中央付近に付いた瞬間床が抜けたので、今回は端を沿うように行ってみましょうか。途中までは何事もなく行けたわけですし……。これで落ちるのであれば他の方法を模索するしかないですが……。

 ずりずりと、背中を壁にこすりつつ慎重に進んでいく。


 結果として、向かいの階段まで落ちることなく辿り着く事が出来ました。

やっぱり、一定範囲内に入ると反応するタイプだったようですね。ただ、もしかすると何か重要なアイテムが隠されていたりするかもしれませんが……。

 先に頂上を目指すべきでしょう。ギミックが解明されている部屋で、不確定なものを探した結果死ぬのは最悪ですし。

唯の勘でしかないのですが、どうせまたここを通る羽目になる気がぷんぷんするので。

 先に上層のギミックを理解してからの方がいいでしょう。


 うーん……。

 結構階段を登り続けているのですが、景色が変わり映えしませんね……。

 見上げても、真っ暗で先は見通せませんし。下の方からは何か変な音が聞こえてきていますし……。

 と、振り返って後ろを確認したところで、頭の中に疑問符が浮かんできました。

 

 私が登って来た階段は何処へ……?


 振り返った先で視界に入って来たものは、メキメキと音を立てながら今にも襲い掛かろうとしている無数の木の枝。


「ちょっ!? なんですかこれ!」


 腕に絡みついてくる枝を振り払い、逃げるように階段を登っていく。

 あと少しでも気づくのが遅れていたら、なすすべなく飲み込まれてしまっていたでしょう。

 まあ、現時点でも後ろから迫って来ていますけどね!

 少し急げば追い付かれない程度の速度ではありますが……。気は抜けません。背後に注意しながら、気を付けて登らないと……。


「んっ……?」


 気を入れなおして、急ぎ足で階段を登ろうと足を踏み出したと同時に、顔に水滴のようなものが触れた。


 あっっつい! 待ってください! 水滴が触れた部分は熱くなって――体力が削れていってる!? 敵の姿も見えないですし……即座に登るに限ります!

 上からは一定の間隔で水滴が落ちて来ていますが、当たっても大したダメージにはなっていませんし、どうにか間に合っ――。

 

 全速力で階段を登っている私の視界に入ったのは、ゆっくりと階段を下ってくるイーターの姿。

 よりにもよって、こんなタイミングで現れないといけないんですか!?


 背後には大量の枝が押し寄せてきていて、少しでも立ち止まっている暇はありません。

 落ちてくる雫のせいで、既に体力が半分程削れてしまっています。戦闘をする余裕は時間的にも体力的にも無理ですね……。


 敵対しないことを祈って横を通り抜けるしか……。

 あっ、待ってください。遠くからでは確認出来ませんでしたが、イーターのサークルが紅くなっているので、既に戦闘状態になっていますね?


 あっ……。


 イーターと目が合った瞬間。一直線にこちらへと向かってこようとしたせいで、螺旋階段の中央の吹き抜け部分へと落ちて行ってしまいました。


 見なかったことにしておきましょう。


 何にせよ、これで邪魔者が居なくなったので急いで上へ。

 さっきのイーターが階段をずっと下ってきたとは考えにくいですし、すぐ近くに部屋があるはずです。


 やっぱりありましたね!

 部屋の中へと転がり込むようにして枝を躱し、背後を確認。どうやら部屋の中までは入ってこないようですね。どうにか、助かりました。

 ふぅ、と。一息ついてから、辺りの確認をしてみましたが……。

 何もない、ですね。

 結構登って来たのですから、装備品の一つくらいあってもいいと思うのですが。部屋の構造は、下にあった部屋とほぼ同じ……と。円形の部屋に階段。

 違うのは、階段が先程までとは違って螺旋階段ではない事と、部屋の左右に扉があることですね。

 扉の方へと近づいて、まじまじと観察してみると、小さな鍵穴のようなものが見えました。同じように、反対の扉にも小さな鍵穴が。


 ……こういうのって大体後で来ないとダメなタイプの奴ですよね? 鍵なんて拾ってないですし……。


 あっ。

 もしかして、先程のイーター……。

 倒したら鍵をドロップするとかですか……?

 引き返せ……ないですね。私が入ってきたはず入口は枝で塞がれてしまっています。


 だったら上に登るしかないですね。

 一応、ミニマップで現在地の確認をしておきましょう。……空腹樹上層部ですか。

 ただひたすらに階段を登っていただけのような気がしますけど。


 この階段。落ちたりしませんよね? 下の階での経験を生かして、おそるおそる一歩踏み出してみます。


 大丈夫そうですかね……?

 幸い、この階段は先程と比べて長くないようですから、早めに登ってしまいましょう。一応、いつ落ちてもいいように心の準備をしてから一気に階段を登り始める。

 出口から漏れ出す眩い光に目を細めながら、一段飛ばしで階段をかけ上がっていく。最後の一段を登り終えると、そこは、空腹樹の枝の上でした。

 ミニマップで位置を確認すると、どうやらここが空腹樹の頂上で間違いがないようです。

 

 一本道になっている枝の先へと進むと、細い枝が無数に絡まり道を阻んでいました。

 マップを見る限りでは、奥に続いているはずなのですが……。

 ……壊せば問題ないですよね。


 目の前にある枝と片っ端からポキポキと折って捨てていく。ひたすら折って、折って、折って、また折って……ひたすら繰り返して、道をこじ開けていく。


 どうにか、人が通れそうな程の隙間が出来たので向こう側へと侵入です。

 ここが最奥のはずですが……。円形に切り取られた空間には壁もなく、辺りを見回してみれば、遠くに素晴らしい景色が広がっています。中央に鎮座している台座以外には何もないようですね。

 台座の上には、金色に光っている杯。杯の中からは赤黒い液体が溢れ出していて、台座へと零れ落ちています。

 一応、周りを漁ってみましたが、漁ってみましたが……。特段何もなかったので、中央のへと向かいましょうか。

 台座の方へと一歩踏み出した所で。ふわり、と。突然何処からか優しい風が吹いて――身体が浮き上がってしまいました。


 何かに掴まろうと、手足をばたばたと動かしてみましたが、私の手は空を切るばかりで身体は風に流され、次第に枝の外側へと。


 あ、これ……だめですね?


 ふわふわと漂いながら、足元に枝が無くなった所で。

 吹いていた風が突如無くなって――私の身体はそのまま下に落ちていきます。


 落下してから数十秒ほど経った所で視界がブラックアウトして、すぐに見慣れた光景が目の前に広がっています。


 うへぇ……上手くいったと思ったんですけど。流石に、急に吹いてくる風は予想外です。でも、あの風さえどうにかすればなんとかなりそうですね。

 杯に触れる前に台座をしっかりと握っていれば、耐えられそうな感じがしましたが……。

 

 とにかく、再チャレンジです。

 インベントリからイーターの肉を捨て、空腹樹の内部へと再度突入。今回はある程度ギミックを理解出来たので、上層部まで一気に駆け上がる。途中で降りてきたイーターに攻撃を仕掛けてみましたが、体力が微妙に残ってしまいそのまま枝に吸収されてしまったので、放置して上層部へ到達。

 一応、念入りにこの部屋を調べてみましたが、やっぱり鍵などは落ちていたりしませんでした。


 階段を登って枝の先へと向かうと、作ったはずの隙間が修復されていたので、同じように通る事の出来るスペースを作って……。先程の部屋へと戻ってきました。

 

 風が吹いてこない限界の範囲まで近づいて……。

 ここから台座まであと五歩といったところでしょうか。試しに片足を一歩前へと出して見ると、左方向から風がやんわりと吹き始めて来たので慌てて足を引っ込める。


 風の吹き始めの位置から全力で走ればいい感じに流されるのではないでしょうか? 何度も落ちたら痛いので、痛覚設定を0にしてから、左の方向へ。

 深呼吸をしてから真っすぐ走りだすと、ふわりと風が右側から吹いて。そのまま下へと落下してしまいました。


 なるほど、端っこもダメと。

 ……一度休憩しましょうか。お昼ご飯も食べないといけませんし。


 キッチンへ向かおうと廊下に出ると、お姉様も丁度部屋から降りてきたようです。

 二人でお母様の作ってくれた昼食を食べながら自然とゲームの話に。


「お姉様は今どんな感じですか?」

「んー。今は糸を大量に制作してる」

「糸……ですか?」

「うん、糸。スパイダーの種族スキルで糸が出せるんだけど、素材として売れるし、スキルレベルも上がるから暇な時に作ってるの。あとは……廃坑で知り合った骨と一緒にレベリングしたりだね」

「えっ、骨ですか?」

「自分の初期地点に魔物が入ってこないように、糸で防御円みたいなのを複数層に分けて設置してたんだけどさ。狩りから帰ってくるとなんか糸に絡まってるスケルトンがいてね。新しい敵かと思って攻撃してみたら実はプレイヤーだったみたいで、なんやかんやあって仲良くなった」

「私の場所、全然他のプレイヤー見かけないんですけど……」

「まあ、そもそも魔物スタートのプレイヤー自体が少ないからね。全体でも二割……いや、一割半くらいだと思うし、種族スタートは滅多にプレイヤーと出会わないと思うよ。麻央の方は攻略進んでる?」

「微妙に行き詰ってます。昨日話した空腹樹の頂上まで登ることは出来たんですけど……。ただその頂上の部屋に即死トラップがあって……」

「即死トラップ? そんなのあるんだ」

「アイテムに近づいたら風が吹いてきて、木の外側に放り出されたあと数十秒程度落下し続けて、地面に叩きつけられます」

「うわぁ……」

「せめて……せめて落ちる時間がもう少し短くなればいいんですが。一分近く何も出来ないまま落ち続けるだけですからね」

「いっその事地面を這ってみたら? 足だけで踏ん張れないなら、手を使えばいいんじゃない?」

「その方法は考え付きませんでしたが……。食べ終わったら試してみます」


 洗い物を済ませてから、再度空腹樹へとリベンジです。

 インベントリから肉を捨て、空腹樹の内部へと侵入。途中で階段を下ってくるイーターは現状倒すことも出来ないので、そのまま無視して一気に階段を駆け上って頂上へと向かいます。

 中央と左はダメ、たぶんこの感じでしたらおそらく右側も左と同様の結果でしょう。風が吹き始めるギリギリのラインまで近づいてから……。その場に寝転んで、匍匐前進をしながらジリジリと前へ。


 どうでしょうか……? このラインを越えたら風が吹き始めてくるはずですが……。地面に近いせいで、多少の風なら踏ん張ることが出来ます。

 非常にゆっくりなペースではありますが、ちょっとずつ前に進めてますね。これはもしかしていけたのではないでしょうか?

 台座に近づくにつれて、どんどんと風の勢いが強くなってきました。というか、風に抵抗することが精一杯で、時間はかかりますが着実に前に進んでいます。


 どれくらい時間が掛かったかわかりませんが、どうにか台座の下まで辿り着く事が出来ました。油断をすれば風で吹き飛ばされそうなので、台座の根本をしっかりと掴んでから……両手両足でがっちりホールドして飛ばされように気を付けます。


 ……。

 …………。

 ………………。


 風が止みませんね? むしろ風の勢いが強くなってきていませんか? 台座ごと吹っ飛んでしまいそうな勢いです。この感じ……。台風の中、コンビニに行ったときを思い出しますね?


 台座の上に手は……届かないですね。

 立て……立て……立てなくないですか? 握る力を緩めたら吹き飛ばされてしまいそうです。ただ、 徐々に風が強くなって来ているような気がするので、これ以上強くなってしまったらそれこそ、このまま吹き飛ばされる……。

 だったら、まだ余裕があるうちに動き始めるべきですね。


 両腕で台座をがっちりと掴みなおして、足を地面にしっかりと固定。そのまま、ゆっくりと立ち上がる。風に煽られる面積が増えたことで、吹き飛ばされそうになりましたが……どうにか耐えることが出来そうです。台座の支柱部分を掴んでいた右腕を離し、台座の端を掴みなおす。


 ここにきて、一段と風が強くなりましたが……此処までくれば私のモノですっ!

 支柱を掴んでいた左腕を離して、杯へと手を伸ばし――杯へと触れた瞬間。吹き荒れていた風がピタリと止みました。


 これで……大丈夫……?

 

 安心したのも束の間、動かそうとした身体が勝手に動き始め、台座の上に置いてあった杯を手に取って――そのまま中身の飲み始めてしまいました。


 ごくん、と。

 杯の中身を飲み干した時点で、身体の自由が帰ってきました。

 手の中には空になった杯を握りしめています。


【イベント】空腹の杯 レア:EX

 煌びやかな装飾が施された空の杯。

 この杯を手にしたものは全てを喰らいつくすと言われている。

 エクストラ種族解放アイテム。


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