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Babel Online   作者: 虹色橋
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04

 お昼までの授業を終えて、昼食の準備を始めようとした瞬間。死んだような顔をしたお姉様がふらふらとした足取りでやってきました。


「お姉様? 大丈夫ですか? まさか今までずっとやってたんですか?」

「お……おかえり麻央。ちょっと緊急の案件で朝から会社に行っててね……。元々今週は有給貰ってたから、朝までゲームしてたんだけど。正直眠い」

「あっ、ちょっと! 床で寝るのは汚いですから! ちゃんと布団で寝てください。そうしないと、身体の疲れも取れませんよ」


 床に伏せてしまったお姉様の腕を引っ張って起こそうとしますが、ぴくりとも動きません。


「もぉ……お姉様ってば……。晩ご飯に好きなおかずを一品追加して差し上げますから、ちゃんと布団で寝てください」

「……わかったぁ。ハンバーグがいい」

「照り焼きとデミグラスと和風、どれになさいますか?」

「和風が良いです……」


 と、お姉様は小さく呟いてから、自分の部家へと戻っていきました。一応、ベッドに潜り込むのを確認してからキッチンへ。ちゃんと見ておかないと、自分の部家の床で寝かねないですからね……。

 夕食にハンバーグを作るとなると、この挽肉は使えませんね。ドライカレーを食べたかったのですが、約束してしまった以上作らないわけにはいきませんし。

 仕方がないので、賞味期限間近の食パンでハニートーストでも作ってしまいましょう。



 昼食を終え、夕食の下ごしらえをしてからログイン。


 昨日のうちに見て回れなかった部分のマッピングをしながら、徘徊するイーターを倒しつつレベリングです。

 途中、試しにレベル10のイーターの食事開始と共に殴り始めて見ましたが、無傷で倒す事は出来ずに、一発頂いてしまいました。とはいえ、レベルが上がったおかげか、一撃で半分削られずに済んでいます。タイミングが悪かったら、もしかすると倒される可能性があるので、もう少しレベルを挙げてからの方が安定しそうですね。

 おや……? 新しいドロップですか。


【食材】

 筋張ったイーターの肉 レア:N 品質:E

 これを食べるくらいならゴムを食べた方がマシ。


 大体予想通りですけれど、フレーバーテキストに悪意を感じます。

 食材のままじゃなくて、調理をすればある程度食べられるようになるのでしょうか……?

 まあ、考えるのは後にしましょう。

 初めて魔物の肉が手に入ったわけですし、試しに食べてみましょう。配布の携帯食料を使うのは勿体ないですからね。


 インベントリから筋張った肉を取り出して……。おそるおそる口元へと近づけて行く。


「いただきます」


 覚悟を決めて、一気に口の中へ放り込んだ。

 うっ――こ、これは……。

 いや、不味い。不味すぎます。そもそも、生肉をそのまま食べるという時点からまず間違っているんですけれど。ゴムのような弾力で、いくら噛んでも噛みきれない挙句、一噛みするたびに血生臭い液体が口の中を満たしていきます。

 苦戦しつつも、どうにか口の中へと含んだ肉を飲み込む。

 ノータイムで、スキルタブを開き、初期スキルの中から《料理》を取得。


 少なくとも、生のままで食べる事が愚策であると分かっただけでも成果がありました。この口の中に充満する不快感は勉強代として受け入れましょう。

 ええっと、それで《捕食》で付与されたステータスは……『飢え』? え? なんですかこの状態異常は。空腹ゲージの速度増加!? え、待ってください。付与される性質ってデバフもなんですか!?


 ええ……? 生のまま食べたのがいけなかったんですかね……?

 それとも、イーターの肉だから……? 性質を付与するしか書いていませんでしたし。イーターの性質が《空腹》であるなら、納得出来ます。

 けれど、他に食材がないので確認する手段がないですね。

 

 料理スキルを試してみたいのでもう一つくらい肉が欲しいですね。まだ若干レベルも低いですし……。

 そういえば、他のモンスターは居ないのでしょうか? いまだにイーター以外の魔物を見かけて居ません。

 仕方がないので、レベリングを兼ねてイーターを乱獲してしまいましょう。




 それから、ひたすらにイーターを狩り続け、レベルが5になった所で夕食の準備のために仕掛けておいたアラームが鳴り響いたので一時中断。初期地点まで戻ってログアウトです。

 結構な数狩ったつもりでしたが、肉のドロップ数はたったの5個です。いやあ、渋いですねえ。

 あの見た目だと、確かにそんなぽろぽろと肉をドロップするようなイメージはないですけど。


 コフィンから出て、背伸びをしてからキッチンへ。


「あれ? お姉様?」


 キッチンの中で、お姉様が冷蔵庫の中を物色していました。


「あ、おはよう、麻央」

「ちゃんと寝られましたか?」

「ん、少しだけどね。一時間くらいしたら目が覚めちゃって。結局、BOやってたよ」

「倒れても知りませんよ?」

「大丈夫、明日休みだし。今日は多分早めに寝るから」

「晩ご飯の用意が出来るまで時間がかかりますし、もう少し仮眠をしてても大丈夫ですよ?」

「あー……ここで変に寝ちゃうと、夜寝られなくなりそうだからやめとく。なんか手伝う事あったりしない?」

「ええっと……それならお皿を出した後に干してある洗濯物を取り込んで貰ってもいいですか?」

「畳んでおく?」

「いえ、そのままで結構です。後で私が全部畳みますので」

「はーい」



 さて、お姉様がキッチンにいない間に終わらせてしまいましょう。

 既に下ごしらえは済ませてありますし、後は焼くだけです。


 冷蔵庫の中からハンバーグのタネを取り出し、フライパンに引いた油が温まってからタネを投入。初めに中火で三分程度。

 ああ、良い匂いがしてきました。

 焼き目がついたら火の勢いを弱めてからひっくり返して、お酒を少しだけ足してから蒸し焼きにするために蓋を。その後は強火で一気に焼き上げて……。

 んー……こんな所でしょうか。うん、肉汁も透明ですし、十分でしょう。

 後は、作っておいたポテトサラダとナポリタン……せっかくですし、どうせならチキンライスを作ってお子様ランチにしちゃいましょう。見栄えも良いですし。エビフライがないのは少々いただけないですが……。揚げ物をする気力が私にはもうありません。

 お姉様もお腹を空かせているでしょうし、さっさと作らないといけません。料理はスピード勝負です。

 チキンライスを作り終え、盛り付けをしているとお姉様が戻ってきました。


「わぁ! お子様ランチだあ!」

「そんなに喜んで貰えると私も作ったかいがあるというものです」

 

 ちゃんと、仕上げの旗も欠かせてはいけません。あれは大事です。むしろ、あの旗がついていないお子様ランチは最早お子様ランチとは呼びません。


「「いただきます」」


 二人でご飯を食べながら、会話を交わす。


「あ、そういえば、麻央とフレンド登録するの忘れてたよね?」

「なんで疑問系なんですか、してませんよ」

「後でこっちから申請送るから承認してね!」

「わかりました。一応日付が変わる直前まではやるつもりなので」

「麻央も結構やってるねえ?」

「ええ、丁度夏休みですし。一応、週1で登校日がありますがそれもお昼までですからね。生徒会の仕事は生徒会長が暑い中登校する意味がわからない、との事で夏休みの間に基本的にないですから」

「え。麻央、生徒会とか入ってたの?」

「一応、副会長を……。まあ、会長が優秀ですのでほとんど何もすることがないですが」

「へーえ、真面目だねえ」




 夕食を食べ終わって洗い物に取りかかろうとすると、お姉様に止められてしまいました。今日は私が洗い物をするから、と。最初は遠慮していましたが、結局押し切られる形になって、自分の部家へと戻ってきてしまいました。

 お風呂は……寝る直前でいいので、ログインを。


 ただいま、イーターたち。

 私は帰って来ましたよ。

 じゃあ、早速レベリングの続き――ではなく。

 お肉がある程度の数ドロップしたので、スキルを使って料理をしてみましょうか。ものは試しです。

 えっと、先程取った料理スキルを使って――。


『調理器具を所持していないため料理を制作することが出来ません』


 …………。

 気のせいですかね?

 もう一度、料理スキルを使って……。


『調理器具を所持していないため料理を制作することが出来ません』


 嘘でしょ……?

 嘘だと言ってくださいよ……。

 生肉は美味しくない。料理も出来ない。

 あの肉を食べ続けるしかない……ですか。


 あれ? よく見るとイーターの肉が二つある?


【食材】腐った肉 レア:N 品質:E-

 腐った肉。


 え。

 待ってください。

 もしかして……食材は時間経過で腐る……?

 どうしましょう。かなり手詰まり感があります。とりあえず、インベントリから腐った肉を選択して、捨て――え、何? 何ですか!?

 腐った肉を捨てた瞬間、突如背後から四肢を拘束されて、思いっきり引っ張られてしまい、思わず目を瞑ってしまいました。

 

 止まり……ました?


 おそるおそる目を開いて辺りを確認すると、目の前に広がる光景は先程までの森では有りませんでした。円形に切り取られた空間と、木製の螺旋階段。そして、その部家の中央に立っている私。上を見上げても、暗くて先がよく見えないですが、かなり上までこの階段は続いているようです。


『フレンド申請を受信しました』


「ひあっ!?」


 突然のシステムメッセージに驚いて、情けない悲鳴を上げてしまいました。

 フレンド……? お姉様でしょうか?


 承認。


 すると、即座にお姉様から連絡が飛んで来ました。


『やっほー! 麻央? 今どこに居るの?』

「えっと、現在地は……これ、現在地の確認ってどこでするんですか?」

『ミニマップに地名書いてない? 下の方』

「ああ、ありますね。これですか……今、空腹樹くうふくじゅ内部……って書いてありますね」

『待って、空腹樹……? 何処なのそれ?』

「私が聞きたいくらいです……」

『えー? 一番最初の街からどうやってそこまで辿り着いたの?』

「そもそも、私は街に行ってなくてですね・・・・・・。たった今さっきまで初期スポーン位置でスキルの確認をしていたのですけど、いつの間にか、ここに」

『え……? 麻央……種族は?』

「イーターですよ?」

『あー……イーターか……。だったら空腹の森スタートかぁ。結構厳しいって話だけど、大丈夫なの?』

「レベル上げは割と簡単ですね。ハメ殺せるので無傷で倒す事が出来ますし、ただ、現状イーターの種族スキルが腐りかけてるのはちょっと勘弁して欲しいですね。お姉様は街にいるんですか?」

『いや、実は私も人外スタートでさ、今は廃坑探索中』

「廃坑? ゾンビかスケルトンですか?」

『んーん。私が選択したのは蜘蛛』

「あー……」

『うん、だから、人型になってから合おうね。どっちみちしばらく合流出来そうにもないけど。あっ、ごめん。近くに敵が寄ってきたからまた後で!』


 ぷつり、と。通信が途絶え、辺りに静寂が戻ってきた。

 ミニマップの情報からするに此所は木の中ということらしいのですが……。そういえば、私がスポーンした地点の背後にあった木は、他のに比べて一本だけ大きかったような気が……。

 だとすると、私はその木に取り込まれた……? でも、どうしてでしょう。前回のあの場でログインとログアウトをしてるはずですし。

 うーん?

 前回と違うことと言えば……あ、もしかして食材を捨てた事がキーになってる可能性?

ありえない事ではないですね。腐った肉を食材と呼ぶかは別としても。

 

一応、上に登る前にこの部家の探索をしておきましょうか、多分何もないでしょうけど。

 壁と床、一応階段の裏を確認してみましたけれど、何もないので上へと向かいましょう。暗いですが、視認出来ない程ではないですね。普通に階段を登っているだけでは中央の空白部分のマッピングが出来ないので、なるべく穴の方に寄りながら、上を目指していく。


 しばらく登り続けていましたが、この螺旋階段の終わりが見えてきました。少し上の方から光が漏れ出しています。

 若干、駆け足気味になりながらも扉を潜ると、先程と同じような円形の部屋が私を待っていたました。正面にはまた、上へと続く螺旋階段が見えています。

 

 はぁ……。まだ登らないといけないのですか……。

 

 その私の行動は、不用意だったとした言いようがありませんでした。

 なぜ、わざわざ部屋を区切ってまでこんな部屋を用意しているのか。

 少しでも、罠の可能性を考えるべきでした。


 私は最短距離で階段の方へと向かい、部屋の中央に差し掛かった辺りで、突如床が抜け落ち、重力に従いそのまま落下していく。

 十数秒間程の落下の後、私の身体は一番最初の部屋の地面へと叩きつけられ、そのまま視界がブラックアウトしていく。


 気づいた時には、見慣れた景色が目の前に広がっています。

 あんな典型的な罠に引っかかるなんて……。

 背後を確認すると、他の木よりも一際大きな木が天高く聳え立っていました。

 これが空腹樹ですか……。あの部屋はどこら辺の高さにあるんでしょうか。半分……行ってたらいいですけど。


 ここから再チャレンジするには微妙な時間ですし、今日は此処までにしておきましょう。お風呂にも入らないといけませんし。

 

 空腹樹を背にして、そのままログアウト。

 

 お風呂に入って、掃除を済ませてから自分の部屋へ。

 明日は空腹樹の攻略になりそうですね。


週末は日曜日の24:00更新予定です。

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