26 占領戦6
ここは任せて先に行け! という全人類が憧れる(多分)ニュアンスの台詞をパパラチアさんに言い残した私は囲まれ叩かれ、リスポーン地点に戻って来ていました。周囲には私と同じように倒された人外たちがちらほらと。
「うん、無理でしたね」
イオからの援護を期待していましたが、彼女も彼女で戦っていたので仕方ありません。私がパパラチアさんの近くに居たからではないと信じましょう。
一定時間が経過するまでこの場所から出られないので待機していると、パパラチアさんも初期地点に戻ってきました。
「パパラチアさんも駄目だったんですね」
「ありゃ無理だろ。数が多すぎる。というか鞭の奴が想像以上に強かったんだわ」
「そうなんですか」
「軌道が良く見えないから躱しづらいし、移動の出鼻を挫かれてな」
「仕方ないですよ。私もあれだけ格好つけたのに、速攻で倒されましたからね」
恥ずかしすぎて死にたいです。
もう少し持つと思っていたんですけれど。
「ああ、確かにいつの間にか居なくなってたからな。さて、そろそろ待機時間も切れるな。嬢ちゃん、乗っていくんだろ?」
「ええ。もちろん」
私の方は少し前に待機時間が終わって出撃できるようになっていましたが、どう考えてもパパラチアさんの背中に跨って向かった方が速いのでパパラチアさんを待っていたのです。既に残チケット数は人類側76人外側50と、このままでは負けてしまいます。
「それでは失礼します」
「おう」
飛び乗るようにしてパパラチアさんの背中に跨ると、前回乗った時より毛並みがふわっふわになっているような気がしますね。
「パパラチアさん、毛の生え変わりでも迎えました? 毛がもふもふしていますけど」
両手足を使ってパパラチアさんにしがみつき、毛並みを堪能するかのように頬擦りをする。やっぱりもふもふっていいですよね。すぅーはぁーすぅーはぁー。
「毛は生え変わってないし、嬢ちゃんはすぐに吸うのを止めろ! やばい奴として見られてるだろうが!」
「え? そんなまさか。もふ吸いをしているだけでやばい奴認定されるわけないじゃないですか」
「俺が見られてんだよ! さっさと行くぞ!」
パパラチアさんはそう言って一気に走り出しました。立ち上がるタイミングを見失ってしまったので、もう一吸い二吸いくらいしておきましょう。
すぅーはぁー。
「ふぅ」
「満足げな表情を浮かべてんじゃねーよ」
B拠点を目前にしてパパラチアさんが止まったので、ぴょん、と跳ねるように飛び降りる。拠点内の勢力は五分五分……いえ、よく見積もって六四くらいですか。もちろん、私たちが四です。
戦況は劣勢。とりあえず、見える範囲で助けられそうな場所にいたヴィイの方へ。
「パパラチア! レイヴンさんも!」
拠点内ギリギリで戦っていたヴィイは敵からの攻撃も少なく、どうにか生き残っていました。合流して、私たちが落ちた後の状況を簡単に説明してもらう。体的に人が少ないせいで後手に回っていますが、そんな状況でも優位に戦闘を進めている二人の姿。いえ、一人と一匹、と言うべきでしょうか。
一人はもちろんイオです。巨大な斧を振り回しては敵を近づけないようにして数的不利を取られないように立ち回っていました。
一匹は馬面のケンタウロス。いい声でヒヒィンと嘶きながら、一撃殴っては離脱するヒット&アウェイを徹底していました。
お姉様? 囲まれてボコボコにされてましたけど?
「イオとケンタウロスは放置していいな。他の味方の加勢に回ってBを取るしか多分勝てん」
「「了解」」
ヴィイさんを私たちの背後に配置。パパラチアさんと二人で前に出ます。
近くにいる有利な味方に加勢し、徐々に戦力が均衡していく。
「次ですっ! パパラチアさん!」
「任せろ! オラァ!」
「すまない、助かった!」
倒されそうになっていた仲間の前に飛び出し、パパラチアさんと交互に敵を攻撃していく。味方も一度後ろに下がって態勢を立て直してもらい、他の仲間の場所に加勢をしてもらう。
「埒があかねえな! 次から次へと来やがる!」
パパラチアさんが叫ぶ。どれだけ敵を倒しても、A方面から人が流れ続けて来ていました。
「大丈夫です! こっちからも加勢が来ました!」
「お待たせ! 待った?」
「遅いですよトクヒメさん!」
呑気に挨拶をするお姉様に文句を言いつつ、常に人数有利を取って敵を相手取っていく。
大丈夫です。このままいけばBは取れるはず。後はどれだけ拠点を持ちこたえることが出来るか、ですね。A拠点は諦めてB拠点とC拠点を取っていくべきでしょう。
「くっ……またあなた達ですか!?」
「「そりゃあこっちの台詞だ!」」
マップを確認しながら拠点の占拠に入っていると、私の前に現れた木製バットと金属バットを持った二人組。これで何度目の立ち合いでしょうか。
「私の邪魔をしないでください!」
先手必勝。相手との距離を一気に詰めて、右手に握った剣を振り下ろす。
金属バットで受け止められ、私の胴体を狙う木製バットを左手の剣で受け止めた。
「嬢ちゃん!」
「レイヴンさん!」
一瞬の膠着状態が起きましたが、直後パパラチアさんとヴィイさんの援護を受けて木琴コンビは沈み、人類勢がB拠点から居なくなりました。
「二人とも、助かりました。ありがとうございます。後は拠点を防衛するだけ、ですね」
「このまま上手く行けばいいけどな」
「チケット数は未だ不利だからね。深追いせずに防御に専念すれば、まだ勝ちの芽はあるよ」
「問題は味方がAに流れ込んでいることですかね……」
B拠点を取った味方がAの方へと駆け込んでいきました。拠点を取って気分が高揚したのでしょうか。いや、そもそも受けに回るという選択肢がないのでしょう。
受け手に回るよりも、攻めた方が楽しいですからね。
私は勝ちを求めるために行動するのが身に染みてしまっていますが。
残チケットは人類側42人外側23。
ギリギリダブルスコアにはなっていませんが、徹底的に粘ってリスポーン回数を少なくして拠点を取られなければどうにか、なりそうですか?
「あ、Aに向かった何人か死んだな」
マップを確認すると、味方の反応が無くなっていました。
どうにもならないような気がしてきましたね?
拠点占拠でチケットが減るタイミングは同時。私たちは今二つの拠点を確保していて、先程までのチケット数ならギリギリ勝てたんですけど……。これで私たちは防御を捨ててAを取りに行くか、敵を数人倒さねばならない状況になってしまいました。
相手は私たちを倒さずとも、倒されないように距離を取ってAを守っていれば勝ててしまいますからね。
「こうなると、私たちもAに向かった方がいいね」
「そうだが……」
ヴィイさんの提案に、パパラチアさんが難しい表情を浮かべる。
既にAに向かった味方が排除されている以上、待ち伏せなり警戒なりされているはずですからね。でも、此処で防衛していた所で敵が来るとは思えないんですよね。
「パパラチアさん、行くしかないんじゃないですか? 待っていた所で敵が来るとは限りませんし」
「そうか、そうだな。そうだよな。こうなったら攻めるしかねえか。ヴィイ、嬢ちゃん。背中に乗ってくれ。すぐにAに向かう」
「私も手伝いましょう。ヒヒィン」
パパラチアさんの背中に飛び乗ると、背後から声を掛けられました。蹄が地面を蹴ってぱかぱかと音を出しながら、馬面のケンタウロスが私たちの方へと近づいてきています。
「アンタも居たのか、トレイン。今日は随分と助けに入って来てくれるな」
「ヒヒィン。私も勝ちを求めていますので。重要な動きをする味方の手助けをするのは当然の事です」
「お知り合いですか?」
「ああ。ちょっと前にダンジョン前で出会ってな」
「トレインと申します。以後お見知りおきを」
これまでに何度か助けてくれたケンタウロスは私に向かって小さく頭を下げる。顔は馬なのに、お姉様の言う通り声は良いんですよね。
「ヴィイ、です」
「レイヴンです」
どうやら知り合いなのはパパラチアさんだけのようで、ヴィイさんに続いて私も名前を名乗る。
「時間がねえ。早く行くぞ」
「ええ、勿論ですとも。ですが、パパラチアの背中に二人とも乗っていくよりも一人は私の背中に乗った方が速いかと」
「そうなんですか?」
「背中に他プレイヤーを乗せる人数が増えると、乗せた本人の速度が下がりますからね」
へえ、そんな仕様があるんですね。他の人を乗せることがないので知りませんでした。
「そういうことなら、私がトレインさんの後ろに乗ってもいいですか?」
パパラチアさんとヴィイさんはパーティを組んでいるんですし、パパラチアさんの背中はヴィイさんに譲っておくべきでしょう。
「ヒヒン。構いませんよ。提案した私が聞くのもなんですが、本当によろしいので?」
「ええ、勝ちたいですから」
それだけ言って、トレインさんの背中に飛び乗るように座る。
「ヒヒン、では向かいましょう」
トレインさんはそう言って、Aの方へと走り始めました。
九州の人は台風にお気を付けください。




