24 占領戦4
「何処に、消え……あ」
逃げた敵を追いかけてひたすら走っていると、いつの間にかB拠点内へと足を踏み入れてしまっていることに気が付いた。
「やばっ……」
私が拠点に入っているというのに、Bの旗は全く動いていない。近くに味方の反応なし。
つまり、拠点内に最低でも二人の敵が居るということになる。お姉様は通路から動いていない。
「一時撤退!」
幸いな事に、私から見える範囲に敵影はない。だったら見つかる前に逃げるのがベストです。自分自身の実力がどれくらいなのかもわかりませんし、相手が使ってくるスキルの詳細も不明。そうなると、やはり相手よりも多い人数で囲んで叩くという戦法が正義です。
「お姉様は……もう移動してますね」
いつの間にかAも取られていますし、戻るのは得策じゃありません。シスさんは……Cで湧きなおしたみたいですし、西側を迂回してCの側面に回り込みましょう。
「うげ、Aから増援ですか」
外側に回ろうとして少しだけ引き返すと、A方向からこちらに向かって走ってくる人影が二つほど見える。
走りながら目を凝らしてみると、先程逃げた二人の姿だった。
「さっきの……!」
そちら側から帰ってくるということは、私たちの前から消えてすぐに反対側の通路を通ってAに戻った感じですか。
逆側はケンタウロスの彼があれだけ格好つけていたので、大丈夫かと踏んでましたが……早々にやられてしまったのか、敵を倒して他の場所へ行ったのか……背後から敵が来なかったことを考えるとおそらく後者なのでしょうが。
「イヴちゃん!?」
道すがら入った家の中で大きな足音と共に先程私が入ってきた方の扉からお姉様の声がする。
良かった、お姉様も無事に逃げ切れたんですね。一人で特攻をかけるのは少しだけ不安でしたが……二人、シスさんとも連携が取れれば三人で囲むことが出来ますし、上手く行けば劣勢状態をひっくり返せるかも知れません。
「トクヒメさん――」
「助けてー!」
私の言葉を遮るようにお姉様が叫ぶ。同時に振り返った私の視界に入った来たのは、慌てふためいた様子のお姉様と、それを追いかけてくるかのように次々と建物の中に入ってくる四人の男女。
無事に逃げてきたのかと思いきや、わんさか敵を引き連れて来ていました。
いやいや、流石にあの数は無理でしょう。パッと見ただけでも、木刀にメリケンサック、槍とヌンチャクという組み合わせ……っていうか、またこの人たちですか! いい加減にしつこいですよ!
この状況で一番やってはいけないのは、二人ともやられてしまうことです。
「よし、ここはトクヒメさんに任せて私は先を急ぎます!!」
「えっ、普通逆じゃない!?」
「私は先を急ぐので、ここはトクヒメさんに任せました!」
「いや、そういう意味じゃないから!」
「逃がすかよ!」
助けを求めるお姉様に背を向け、急いで建物の外へと駆け出す。同時にお姉様の周囲に蜘蛛の糸が展開するのが見えた。
「いーやー!」
中からお姉様の叫び声が聞こえてくる。進化して当たり判定が大きくなっていたお陰か、敵が間をすり抜けて来ることはありませんでした。
お姉様を犠牲にして、無事Cまで逃げ切ることが出来ました。お姉様を倒した敵たちが途中まで追ってきていましたが、私が味方と合流したのを見て諦めた様子。
「もー! イヴちゃん見捨てないでよ!」
「いやいや、流石にあの状況は無理ですって。二人とも無残に殺されるより全然マシでしょう?」
「それはそうだけど……」
私がCに戻った時点で、Bから詰めて来ていた敵の殆どが味方に倒されていました。その残党狩りの途中でお姉様が復活。シスさんとも合流を果たしました。
それから流れに乗ってB方向へと攻め込んでいく。
残チケット数は人類側102人外側86。チケット差が縮まるどころか、いつの間にか逆転までされている始末。
中盤から常にBを取られ続けているのが地味に効いていますね。
拠点を占拠するにも移動に時間がかかるせいで、無理に人員を割けませんし。
パパラチアさんを筆頭にした裏取り部隊がAを取ってはいますが……すぐに取り返されていますし、それどころかCが押される始末。
「かと言って、このままCに籠って防衛を続けてもジリ貧ですしねえ……」
「どうするの? Bに向かう?」
「Bが取れたら一番良いんですけど……。相手もそれをされると嫌なのは承知の上でしょう。Bに防衛も居ましたし……」
たまたま復活したタイミングと、私が足を踏み入れたタイミングが被っていただけかもしれませんけどね。ですが、この状況で楽観的な憶測は必要ありません。
常に最悪をイメージしておけば、ある程度どの状況にも対処できますし。
「いや、でもやっぱりこれはBを取らないと巻き返せないですね」
「おう、嬢ちゃん。俺も混ぜろよ」
「えっ……? どうしてここに?」
背後から声を掛けられ、振り返るといつからそこにいたのかパパラチアさんとヴィイさんが立っていた。
「嬢ちゃんを信じてBに突っ込んだら、敵に囲まれて叩かれたんだが?」
「あっ……あぁ! すみません……本当にすみません……」
Aで別れる時に交わした言葉を思い出し、ぺこぺこと頭を下げながら謝る。想像以上にあの二人組に手古摺ってしまったせいで、パパラチアさん達に援護を頼んだことを完全に忘れていました。
「ま、もう過ぎたことだし構わねえよ。それより、B取るんだろ?」
「はい。というか、取らないとこのまま押し切られかねないです」
「だよな。嬢ちゃんトコはフルで組んでんのか?」
「いえ、私を含めて三人ですね」
「じゃあ、全員で六人だな。半分とはいかないまでも、それだけいりゃ十分だろ」
「ねぇ、パパラチア。勝手に進めてるけどさ、レイヴンさんのお友達の意見をまだ聞いてないからね?」
話を進めるパパラチアさんをヴィイさんが静止する。
とはいえ、わざわざ聞くまでもないと思いますけどね。
「それもそうだな。既にイオには話を通してあるが……そもそも作戦っつー程のもんでもねえ。連携の取れる六人で一気にBに突っ込んで数の暴力で取り返そうって話だ。どうだい?」
「私は構わないよ!」
パパラチアさんの言葉に真っ先に反応したのは、お姉様でした。
「わ、私もどうせなら勝ちたいですし……」
続いてシスさんも同意する。
「ヴィイ、これで文句はねえな?」
「元々文句なんてないよ」
「突入タイミングはどうしますか?」
残党狩りが終わったタイミングなので、すぐに突っ込むと復帰した敵たちと遭遇することになります。
あくまで敵が全拠点制圧を目的にしてCに突っ込んできてくれるのであれば、大した問題にはならないのですが……。
「あ? そんなん、機を伺って……と、言いたい所なんだが。スマン、もうイオが走っていっちまった」
「えぇ……」
「ちゃんと説明したんだけどな……」
「わかってるってば、突撃すればいいんでしょ? って言ってたし、絶対わかってないよ」
ヴィイさんがイオの口調を真似て発言する。着ているワンピースの色が変われば見分けがつかなくなりそうです。
いや、今はそんな場合じゃなくて。
「イオを放って置いてもいいんですか?」
「いや、出来れば助けたい。あいつの突破力は貴重だからな」
「じゃあ、早く追いかけないと!」
「そうだな」
イオの後を追うように、CからBへと最短ルートで突撃する私たち。
一番素早さの高いパパラチアさんを先頭に、私とヴィイさん、シスさんが後ろにぴったりと付き、少し離れてお姉様という隊列になっています。
「ああ、嬢ちゃんたち。Bに入ってからだが、攻撃を食らってもいいからとにかく攻撃しまくってくれ。ヴィイ……あっちのちっこい奴が回復に回るから」
「え”っ」
ヴィイさんのものとは思えない程の低音が、ヴィイさんの口から漏れ出ていた。
「えっ、それって私の負担めちゃくちゃ多くない? ねぇ、レイヴンさん回復とかって持ってたり――」
「ないですね」
若干食い気味に返事をする。
その言葉を聞いたヴィイさんの顔に、絶望したような表情が浮かぶ。
「トクヒメさんとシスさんも……」
使った様子もありませんでしたし、取ってないんだろうなあ。とは思っていましたが、一応二人にも確認を。
しかし、予想通り二人とも首を横に振っていました。
「ありがとう、レイヴンさん。でも大丈夫。任せて、絶対に死なせないから――パパラチア以外は」
「あ? なんか言ったか?」
「いいえ、なーんにも? ねぇ? レイヴンさん」
「ええ、何も言ってませんよ」
そうか、とパパラチアさんは小さく呟いて前を向きなおす。
前方には複数人の敵を相手取り、巨大な斧を振り回すイオの姿がありました。
次辺りで占領戦も終わりです。




