23 占領戦3
初期地点で復活した私たちは城壁沿いに進みながら、同じように裏取りをしようとしていた一人の敵を蹴散らし、北西にある建物でシスさんと合流を果たしました。
敵に見つからないように建物内を移動しながら、こっそりとA方面に接近していきます。
「建物の隅で隠れてましたが、こちら側の道を通って行ったのは先程の一人だけです」
「大外は確かに気づかれにくいですが、その分距離がありますからね。到達するまで時間がかかるので、選ぶ人が少ないのかも知れません」
このイベントに参加しているほとんどの人たちは対人戦闘の経験なんてないでしょうし、皆について行こうとする傾向が見られます。経験の少ない現段階では、単純に数の量がそのまま戦力に直結すると言っても過言ではないので、正しい動きと言えばそうなんですが。
「あれ?」
「どうしたの?」
「私たち以外にも、Aに入っている人たちがいるみたいです」
私たちがAの西にある建物の中に入った時点で、A拠点が揺れかけていました。マップを確認すると、味方を示すマーカーが三つも存在しています。
三つ、ということは――。
「やっぱりパパラチアさんたちでしたか……って、あれ?」
「お、嬢ちゃんたちも来たのか」
建物から飛び出し、Aの中に入るとそこにはパパラチアさんとヴィイさん、そして馬面のケンタウロスの姿。
「イオはどうしたんですか?」
てっきりイオを含めた三人で行動していると思ったのですが……。
「あいつはCで暴れてるはずだよ。つーか、最初にAに向かった時点であいつと別行動になったしな」
「あー、なんとなく戦闘狂っぽいですもんね」
「ぽい、じゃなくてまごうことなき戦闘狂だよイオの奴は」
「自分から人の多い所に突っ込んでいったしね」
ダンジョンでの発言から、なんとなく小細工が嫌いという雰囲気はありましたが……。開幕Aを手に入れてからしばらく落ちていなかったのは、イオが暴れていたからなのでしょうか。
「っと、嬢ちゃん話はあとだ。Bから敵が戻ってきやがった」
パパラチアさんが言った通り、AとBを繋ぐ通路から戻ってきていた。右の通路から二人、左の通路から一人、合計三人がこちらへと向かって走ってきている。
「パパラチアさん達は防衛するつもりですか?」
「いや、せっかく機動力があるからな。遊撃でもしようかと思ってた所だ」
「じゃあ、私たちがあれを持ちます。向かってくる敵を倒した流れでBに突撃するので、良かったら側面から援護貰えますか?」
「おう、任せとけ」
相手も三人、こちらも三人。数の上では同数ですが……。やっぱり、お姉様とシスさんを一組にして動いてもらった方が良いですかね。先程の室内戦闘の結果を見る限り、三人を相手にしても戦えていたようですし、問題は私が一対一で勝てるかどうかですが。
どう動くか悩んでいると、近くにいたケンタウロスがこちらへと近寄ってきて、
「ヒヒン。お嬢さん、こちらの一人は私に任せて頂こう」
大変良い声でそう言い残して、左の通路へ颯爽と駆け出して行きました。
私も加勢に行こうかと一瞬だけ迷いましたが、よく考えてみれば見知らぬ味方を優先して助ける理由もないですし、一人でも大丈夫ってことは自信があるのでしょう。
「私たちも行きましょうか」
「……ねぇ。今の人、めっっっっっちゃいい声してたよね!」
「ああ、確かにトクヒメさんが好きそうな声をしていましたね。顔は馬でしたけど」
どこかで聞いたことがある声をしていると思ったら、お姉様から勧められたCDの声優に確かに似ていましたね。
いや、今思い出すようなことでもないんですけど。
「目を瞑ればイケメンが目の前に現れるからセーフ!」
「わけのわからない理論を言ってないで早く行きますよ!」
すぐ近くまで敵が来てるんですって!
既に敵は通路の真ん中あたりまで来ている。途中で家の中に逃げ込まれても面倒なので、お姉様を放置して右側の通路へと向かう。
「あ、待って! 置いていかないで!」
移動を始めた私とシスさんを見て、お姉様が慌てて後ろをついてくる。
図らずも私とシスさんが前衛、お姉様が後衛という陣形になりましたが丁度良かったかも知れません。この通路はそこまで広いわけでもないので、私たちより大きなお姉様が前に出てしまうと、私たちが攻撃出来なくなってしまいますし。
「防御は任せましたよ、ロイ」
「おうよ!」
Bから戻ってきた二人のうち、ロイと呼ばれた少年が私たちの前に立ちはだかる。もう一人の少女は後ろで何かを詠唱している様子。
魔法を使うには詠唱が必用なのですが、詠唱中は隙だらけになりますし、途中で攻撃を食らうと詠唱が中断されて攻撃が失敗するらしいので、完全に前衛後衛を分けたパターンですね。
「シスさん!」
「はい!」
魔法が厄介なら、詠唱が完了する前に叩けばいいだけの話です。私とシスさんが左右に別れ、タイミングを見計らって同時に切りかかる。攻撃を避ける素振りはない。
振りぬいた剣は少年の身体を両断する。
一撃……?
私はスキルを使っていない。盾として出てきた割には柔らかすぎる。
「今のうちにっ!」
私が覚えた違和感で足を止めていた一瞬の間に、シスさんは詠唱中の少女の方へと駆け出し距離を詰めていた。
しかし、あと少しで攻撃が届くその直前でシスさんは急に真横に向かって吹き飛んでしまいました。
「……っ!?」
シスさん本人も、何が起こったのか分かっていない様子。詠唱中の少女が何かをしたような素振りはありませんでしたし、私の視点からでもシスさんが急に吹き飛んだようにしか見えませんでした。
「んん……あれ、なんか歪んでない?」
シスさんの周囲を注意深く観察してみると、確かに周囲の風景が少しだけ歪になっているような気がしました。
「もしかして……」
その歪みは、どんどんとシスさんの方へと近づいていく。私はそれを防ぐように間に割って入り、歪んだ空間けど剣を振り下ろした。
キィン、と金属同士がぶつかる音と共に、歪んでいた景色の中から少年が現れる。
「くっ……」
やはり、最初に倒したのは囮でしたか。囮に視線を集めて置いて、自分は姿を消して機を伺う。囮を警戒すればそれで問題ないですし、私たちのように速攻で倒された場合でも不意を突くことが出来る。
確かに、時間稼ぎとしては有効かも知れませんが、ネタが割れてしまえばどうってことはありません。
「はあっ!」
私の攻撃を防いでるせいでガラ空きになった胴体に、シスさんの骨が叩き込まれる。
「ごめん、待たせたわね」
しかし、シスさんの攻撃は間に割り込んできた少女の杖に防がれた。流れるように私の胴体に対して杖を振りぬいた後、フリーになった少年の剣がシスさんを襲う。
攻撃された勢いで後ろに吹き飛ばされるようにして距離を作る。
「逃がしません」
それを読んでいたかのように、少女は一瞬で距離を詰めて追撃をしてくる。
「イヴちゃん! こっち!」
お姉様の声と共に、私と少女の間に蜘蛛糸が展開される。一瞬だけ、少女の動きが遅くなったのを確認して、お姉様の方へと逃げ出そうとしましたが、
「助かりまし――っ!?」
「なんで!?」
少女は糸を意に介することなく杖を振りぬき、油断していた私の脇腹に直撃した。そのまま、角度を変えながら杖で殴り続けてくる。
一撃一撃は軽いですが、動きが早くこちらがカウンターで攻撃を合わせようとしても距離を取られて空を切る。
「どうやら、私たちは見誤っていたようですね……」
後ろで詠唱を始めた時点で、背後から攻撃をするウィザードか、回復のヒーラー系統だと思っていましたが……。
「自己エンチャントとは予想外です」
杖で殴り掛かってきた時点では殴りアコかと思いましたが、それだと詠唱をする必要がありません。
「気づいた所で意味ないけどね」
おそらく、攻撃上昇に速度上昇、それに存在しているかどうかわかりませんが状態異常無効あたりでしょうか。属性追加も付与されているかもしれませんが、判断材料が少ないのでなんとも言えません。
お姉様の前に立ち、防御に専念する。エンチャントが魔法である以上、効果時間に制限はあるはず……。だったら、エンチャントが切れるまで粘ることが出来れば勝機はまだあります。
「ぐっ……くぅ、トクヒメさん、糸をもう一回お願いします!」
「……っ! でも、効かなかったよ!?」
「無効化出来る回数には制限があるはずです」
リリース開始からそこまで時間も経っていませんし、何よりレベル制限も低い。だとするなら、使用出来るスキルはそれほど万能ではありません。
先程、糸に触れた瞬間だけ動きが遅くなったことから状態異常を無効化するのではなく、自分に付与された状態異常を解除するスキルのはず。
案の定、眼前に敷かれた糸の結界に踏み込んでくるようなことはありませんでした。
「ここからどうする?」
「エンチャントが切れるまで待つしかないのですが……」
距離を取りすぎてもエンチャントを再詠唱されたり、シスさんの方へと戻られたりする可能性があるので、適度な間合いを保つ。
「難点は、こちら側にロクな攻撃方法がないことですかね。トクヒメさん、遠距離スキル持ってたりしますか?」
「いや、ないかな」
「そうですか……」
後は相手に遠距離魔法がないことを祈るだけなんですが……。まあ、そう上手くは行きませんよね。
こちらに向けられた杖の先端から、小さな火球がこちらへと向かって飛んできました。≪ストックパイル≫を使っても良かったですが、様子見のためにここは躱しておきましょう。
火球自体は大きくないですし、速度はそれなりにありますが杖の先端から一直線に飛んでくるので避けられないことはありません。
「あ、っぶな!」
回避することを読んでいたのか、移動先にも火球が飛んできていました。これは避けられないので≪ストックパイル≫を使用して飛んできた火球飲み込む。
≪ストックパイル≫の検証中に気が付いたのですが、どうやらこのスキルを使った場合にも≪捕食≫の効果が発動するようで、火球を食べた今の私には≪火属性≫が付与されています。
効果は単純。私の通常攻撃に火属性が追加されるというものです。別に、今必要なものじゃないですね。
「トクヒメさん、合図と一緒に突撃してもらえますか?」
「ん、了解」
このままでは埒があきません。
「今です!」
相手が火球を放ったタイミングと同時に≪スピットアップ≫を使う。口から吐き出された輝く光線は、火球を打ち消しながら少女の方へと向かっていく。
「うわ、汚っ!」
少女はそんな言葉を吐きながら、身を捩って光線を回避する。いや、汚くないですって。口から吐き出してるだけで吐瀉物じゃないんですから、そんな必死になって避けなくてもいいじゃないですか。
「逃がさないよ!」
≪スピットアップ≫と並んで駆け出していたお姉様が少女に向かって攻撃を行う。無理な態勢で避けたせいか、お姉様の爪が少女に襲い掛かる。
少女に追撃をしようとしたお姉様の背後から忍び寄る人影を見つけ、慌てて間に入る。
「カンナ!」
「っ、危ない!」
シスさんと戦っていたはずの少年が、いつの間にかこちらへと戻って来ていた。
『すみません、やられてしまいました……』
シスさんから連絡が入る。
「いえ、こちらこそ助けに行けずに申し訳ありません」
不意打ちで一発大きいのを貰っていたにも関わらず、一人でここまで耐えてくれたというのに。こちらは二対一で倒すことも出来てないなんて……。
少女が自爆覚悟で放った近距離の火球が爆ぜ、お互い距離を取る。
これで状況は二対二の振り出しに戻ってしまった。体力が削られている分、こちらの方がやや劣勢と言った所でしょうか。
いや……少女が下がったということは、エンチャントが切れたのでしょうか。だとすると、こちらの方が優勢です。
「その手は先程見ましたよ!」
私たちから少し離れて詠唱を始める少女。目の前には先程と同じように少年が立ちはだかっている、が。これは囮なのは分かっている。不意を突いて攻撃するつもりでしょうが、空間が歪んでいる所に潜んでいるのはわかっています。
「……?」
しかし、周囲を見渡しても歪んでいる空間などなかった。立っている少年が本人なのだろうか? いや、違う。手応えはありません。
罠……?
「ええい、仕方ない!」
悩んでいても、少女の詠唱が完了するだけだ。隠れているというのならば、今のうちに少女を攻撃するしかないでしょう。
隠れているのならそれで構いません。私に攻撃をしかけるのなら、それでもいいです。背後にはお姉様もいますし、最悪一人だけでも持っていけることでしょう。
けれど、そんな私の心配は杞憂に終わる。どれだけ距離を詰めても攻撃が来ることはなく、少女に接近することが出来た。
「間に合っ……た!」
詠唱が終わる前に、攻撃を終わらせておきたかったが寸での所で少女の詠唱が完了し、杖で攻撃を受け止められた。
先程よりも詠唱時間が短いので、使う魔法を限定したのでしょう。動きからして速度上昇はついているみたいですが……耐えられるでしょうか?
相手からの攻撃に備え、防御態勢を取る。しかし、攻撃が来ることはなくそれどころか少女は背を向けてBの方へと逃げ出してしまった。
「やられたっ!」
突然のことで思わず身体が止まり、追いかけることが出来ない。否、もし仮に私が追いかけていたとしても、あの速度の少女には追いつくことが出来ないでしょう。
エンチャントが切れた時点で、逃げ出すことを決めていたのでしょう。最初の奇襲が頭に残っていたせいで、隠れていると思っていましたが少年も今頃は拠点に戻っていることでしょう。
くっ、まんまと一杯食わされてしまいました。急いで追いかけないと!




