22 占領戦2
「敵影が見えないので予定通り行きます!」
Bから西方面に進み、途中で南壁の方を確認。数秒程待ってみても、敵の姿が見えなかったので、南下を始める。
お姉様の糸に引っ掛かっている以上、数秒程度はスロウの状態異常が掛かっているはずですので、速度特化の獣人系統でも私たちより先には進めないはず。
「C西側の家に逃げたか引き返したか……」
糸に引っ掛かった敵を残して離脱した可能性もありますが、その場合は三人で囲むことが出来るのであまり問題ありません。
「ん、ちゃんとBは取れたみたいだね」
「あれだけ人数が居て取れないほうがおかしいですからね」
「その代わりAが落ちかけているみたいですけど……」
シスさんの言葉を聞いてマップを確認。確かに、Bで戦っていた敵がAに戻り始めたり、死んだ敵がリスポーンしたせいでAに敵が集まってきています。
「大丈夫です。Bにいた人たちがAに向かっているので、すぐには落ちないかと」
ですが、それはこちらも同じこと。Bで戦っていた味方方が次々とAの方面へ向かって行くのが見えています。
「いやぁ? どうだろう、回遊魚みたいな動き方してるから微妙じゃない?」
「芋られるよりマシです」
お姉様の言う通り、自拠点側が取られていて、敵のシグナルも出しているのに誰一人として戻ってくる気配がありません。
私たちが向かっているので、放置しているという可能性もありますが……。
「建物から足音です!」
「左から足音!」
南壁の方へと走っていると、左手側にある建物の中から足音が聞こえてきました。お姉様も足音が聞こえたみたいで、叫びながら扉を開けて建物の中へと飛び込んでいました。
「シスさん、トクヒメさん――」
「援護入ります!」
私が言い終わる前に、シスさんがお姉様の後に続く。お姉様は、何も考えずに突っ込む癖があるので、私が援護に入ろうと思っていたのですが……シスさんも、お姉様に大概振り回されていそうですね。
お姉様の援護はシスさんに任せて、私は来た道を少し引き返す。
建物の中にいた敵の足音が私たちに聞こえたということは、相手にも私たちの足音が聞こえているということ。全員が同じ場所から入るのは愚策ですし、私は裏から回り込みましょう。
「一番面倒なのは、逃げられてBへ向かわれること……」
この建物には、東西南北それぞれに出入口があります。お姉様たちが入ったのは西側の扉。南側、東側に逃げられる分には問題がありませんが北側から直接Bに向かわれると少々面倒です。
「味方は……誰もいませんよね。知ってます」
マップを確認しても、B周辺に味方の姿はない。現状、Aは相手に取られた状態のままですし、今Bを取られるのは良くないです。
ほとんど有り得ないでしょうが、Aでたたっている味方が戦死したらこっちの加勢に来てくれるかも知れませんし。
「麻央! 一人そっち逃げてる!」
お姉様からの連絡。有難い情報ですが、本名で呼ぶのは勘弁してください……。何のためにハンドルネームを付けてると思っているんですか。
とはいえ、やっぱりこちら側に来る敵がいましたか。回っておいて正解でしたね。
「了解です!」
私と並走するように、建物の中から足音が聞こえてくる。
「逃がしませんよ!」
「なっ――」
武器を取り出しながら、扉を蹴り開ける。目の前には、いままさに扉を開けようとしていた敵の姿。手に武器は持っていない。
「遅い!」
敵が武器を取り出すよりも早く、私の薙いだ剣が敵の身体を三枚に下ろす。
まずは一人。
ぐるりと部屋の中を見渡すと、お姉様とシスさんに囲まれて殴られている敵と、少し離れた場所に足を糸でぐるぐる巻きにされて立っている敵が一人。
「こっちですね」
おそらく、お姉様のスキルで身動きが取れなくなっている敵の方へと駆け寄る。二人で突入したのに、一人は行動不能、一人は瀕死で最後の一人を二人で囲んでいるのなら、私も一緒に突撃した方が早く片付いたのではないでしょうか?
しかも、逃げられないように南側の扉に糸を設置するなんて中々にエグいことしますね。
「これで終わりですか?」
「そうみたい? 少なくとも他には居なかったと思うけど」
「私だけCに入って釣ってみるので、トクヒメさんとシスさんは敵が出てきたら援護をお願いします」
「私がおとりになりましょうか?」
「いえ、私はほとんど体力が削れてないので」
既に背中に受けた矢のダメージは自動回復でほとんど回復していますし、体力が残っている私が行くのが適任でしょう。
「まあ、多分居ないと思いますけど」
一応、周囲の警戒はしておきましょう。クリアリングも兼ねて南側の扉を出て、Cへと向かいましたが、特に何事もなくCを占領することが出来ました。
やはり、裏取りに来ていたのは先程の一パーティだけのようですね。最大四人パーティのはずですが、残っているのは一人だけ。最初のリス地点か占領している拠点でしか復活出来ないことを考えるならば今は隠れるか逃げるかの二択でしょう。
「次は何処に行きましょう?」
残りチケット数は人外側256、人類側235で状況はこちらがやや優勢といった所。拠点状況もBとCは私たちが取っていて、Aも取れてはいませんが大勢で攻めています。
先程倒した敵の仲間が潜伏しているの可能性を考えるなら、防衛をした方がいいのかも知れません。とか、考えているうちにBが揺れ始めたので大人しくBに向かいましょう。
「真っすぐBに向かうのはバレる可能性があるので、少し迂回しましょうか」
「私たちが来た道を戻ってみる?」
「そうですね、建物の中を通れば敵に見つかる可能性も減りますし、シスさんもそれで大丈夫ですか?」
「はい、私は大丈夫です。もしBに来てる敵が多かったらそのままAの方にも流れることが出来るので、いい案だと思います」
「敵の人数が私たちより多かったら各自Aに流れるということで」
ふわっとした取り決めをして、先程通ってきた道を戻っていく。途中、通路から少しだけBの拠点内が見えましたが、敵の姿は見えませんでした。
まあ、遠距離持ちの射線が通っているような場所で占領はしませんよね。
「さて」
B西側の通路まで戻ってきたわけですが、敵の姿は依然見えませんね……。しかし、占領されている最中なので、拠点内に敵が居ることは確定していると。
「北の家に入って側面を取りませんか?」
「やっぱり、それが一番良いですよね」
通路から飛び出しても良いですが、ここから拠点まで身を隠せるような障害物が何一つとしてありません。距離自体は短いですが、一本道なので、遠距離持ちに見つかった時に避けられないんですよね。
「止まってても自体は動かないし、北にある家に移動しよっか」
「わかりました」
「一応、追手が来た時のために糸を設置しとくね」
「じゃあ、私とシスさんで先行します」
Bの方向に敵が見えないのを確認してから、北にある家の扉方向へと向かう。
もしかしたら敵が中に隠れているかも知れないので、扉越しに中の様子を伺う。目視した限りでは敵は居ませんし、耳を澄ませてもカタカタと骨が揺れる音しかしません。
「クリアです」
私の後ろについてきていたシスさんにそう伝えてから、建物の中へと侵入。足音を殺しながらB側の扉方面へと近づいていく。
「あ」
扉越しに敵の数を確認しようとして、扉の前に移動した次の瞬間。目の前にあったはずの扉が勢いよく開き、同時に私のお腹に勢いよく拳が叩き込まれた。
「ぐ、ふっ――」
どうして敵が此処に? もしかして移動する瞬間を見られて……いや、確かに移動中も敵の姿は見えなかったはず。
「シスさん、逃げてください!」
「でも……」
「いいから早く!」
「っ、わかりました!」
私の姿が見つかっているということは、他の敵も寄ってくるはず。抵抗して二人が倒されるよりも、一人が犠牲になった方が損害は少ない。それに、外ではお姉様がこちらに向かって来ているはず。わざわざ敵がたくさんいる場所に飛び込んでくる必要もないでしょう。
私に攻撃を仕掛けてきた相手から距離を取り、仕舞っていた武器を取り出す。
「さて、この状況……」
どれだけ長生き出来るでしょうか。B方面から入ってきたのは三人。武器はそれぞれメリケンサック、木刀、槍の三種類。
あれ? というか、この三人ってもしかして先程私たちが倒した人では? メリケンサックは定かではありませんが、槍を構えていたのは私が三枚に下ろした人に似ているような気がします。
「ということは……ああ、なるほど」
B拠点の方にしか気にしてませんでしたが、マップを確認するとお姉様の近くに敵のアイコンが表示されていました。
つまり、この人たちは四人パーティを組んでいて、隠れていた一人が私たちの動きを伝えていたということですか。シスさんは……ああ、Aの方に向かっていますね。各自Aにという指示が裏目に出てしまいました。
「せいっ!」
「どりゃぁ!」
脳内を整理していると、メリケンサックと木刀(暫定的にそう呼んでおきましょう)が二人同時に左右から飛びかかってきた。くっ、流石に一人ずつ来てくれたりはしませんか。いっそ三人同時に攻撃してきてくれたら、自分から攻撃に当たって反対側に逃げることが出来たのに、一番リーチのある槍兵が睨みを聞かせているせいでそれも出来そうにありません。
「ぐぅっ!」
流石に両方の攻撃を食らうわけには行かないので、メリケンサックの攻撃を避けるために木刀の側面へと回り込む。メリケンサックの拳は空を切りましたが、木刀は私の肩へとクリーンヒットしました。
ですが、こちらもやられっ放しというわけには行きません。攻撃を受けた瞬間に≪ツインスラッシュ≫を使って反撃をする。
今の攻撃を食らったせいで、私の残り体力は半分を切りました。木刀の攻撃はそこまで痛くありませんでしたが、最初に食らったメリケンサックの一撃が思ってたよりも痛いです。
出来るだけ時間を稼ぎたい所ですが……。
「いや、失敗しましたね……」
攻撃を避けるためとはいえ、木刀の側面に回ったせいで壁際に追い込まれてしまいました。二人からの被弾覚悟で後ろに避けていれば、まだ退路が残っていたというのに……。
相手は私を取り囲むように移動して、ジリジリと距離を詰めてくる。もう少し近づいてきてくれれば全員が≪スピニングホールド≫の射程圏内に入るのですが……。
こうなったら仕方がありません。相手から距離を詰めてもらいましょう。
「せいっ!」
一番リーチの長い槍兵に向かって≪エアスラッシュ≫を放つ。スキルの使用直後は少しだけ硬直時間があるので、このタイミングで使えば残った二人が距離を詰めてくるはず……。
「だあっ!」
「くらえっ!」
私の目論見通り、メリケンサックと木刀が私の隙を狙って一歩踏み出してきた。勢いよく振り下ろされる木刀を≪クロスガード≫で受け止める。メリケンサックの攻撃は私の脇腹に刺さりましたが、攻撃が直線的なメリケンサックは失敗する可能性があったので必要経費です。
「隙ありっ!」
私の≪エアスラッシュ≫で怯んでいた槍兵も、止めを刺せると踏んだのか一気に距離を詰めて槍を突き出して来る。
「待ってましたっ!」
「な……っ!」
槍が私の身体を貫くその寸前に≪スピニングホールド≫を使ってその場で剣を握って回転する。先程までは警戒していつでも下がれるようにしていましたが、トドメを刺すために一歩踏み出したタイミングなら避けられないでしょう!
「まだまだ行きますよ!」
私を囲んでいた三人が≪スピニングホールド≫で怯んだその隙に、木刀に向かって≪ウィンディロート≫を続けざまに繰り出す。あわよくばこれで倒れてくれたら……なんて、思っていましたけどやっぱり足りませんでしたか。
木刀を空中に切り上げ、追撃の回転切りでも倒しきれず……着地を槍兵に狩られて体力が0になってしまいました。
同時に視界が暗転し、視界には全体マップが表示されています。
『再出撃まで残り10秒』
マップに表示されている、出撃可能地点は初期リスポーン地点とCのみ。どうやらAは取れなかったようで、A付近にいる味方の反応が次々と無くなっています。
「あ、お姉様も死んだ」
というか、結構粘ってましたね。シスさんは……北西の建物の中に隠れているのかな?
んー……Bから大量に敵が来るのでCを防衛してもいいんですが、シスさんを一人で行動させるわけにも行きませんし、次はAの裏取りでもしましょうかね。
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