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Babel Online   作者: 虹色橋
21/26

21 占領戦1

「二人とも、準備は大丈夫?」

「私は何の問題もないです。シスさんは大丈夫ですか?」

「わ、私も大丈夫です」


 時計を見ながらお姉様が私たちに確認を取る。日付が変わるまでは、あと数分程と言った所でしょうか。どうやら、日付が変わって占領戦が解放されると同時に飛び込みたいようなので、パーティリーダーはお姉様に任せています。


「あ、そうだ。突入前に聞いておきたいんですけど、作戦とか使いますか?」


 占領戦が始まってからだと、呑気に話している時間もないでしょうからこの辺りは突入前に決めておいた方がいいでしょう。まあ、実装当日ですし決めなくてもいいとは思いますが、どうせなら勝ちたいです。


「んー。ガンガンいこうぜ?」

「じゃあそれで行きましょう」

「えっ、そんな適当でいいんですか?」


 お姉様が口にした単純明快な返事にシスさんが困惑した表情を見せたような気がしました。いや、スケルトンの表情って読み辛いので声色から伺うしかないんですけど。


「全員と連携なんて取れないからね」

「野良でやるときは、身内以外信じられないですし」

「へぇ、そういうものなんですか」

「そういうものです」

「レイヴンちゃんはFPSで死ぬほど苦労してるしねえ?」

「あれは味方ではなく敵なので」


 FPSなんてそれこそ自分以外は信じられませんからね。ただ、今回のこの占領戦。ゲームのルールとしてはFPSのドミネーションに近いですし、協力を考えない方がいいかもしれません。


「とりあえず、取られている拠点にどんどん向かって行くということで。防衛は基本考えないようにしましょう。数で押し切られてしまうとどうしようもないですし」

「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応ってことで! それじゃあ、二人とも突入するねー!」

「はいっ!」

「回線落ちしないといいですけどね」

「レイヴンちゃん、そういうフラグを立てないの」


 日付が変わると同時に、お姉様が占領戦に申請する。周りにいた人たちも占領戦へと向かっているのでしょうか、次々にその場から居なくなっていました。


『パーティ準備中……マッチメイキング…………マッチに接続中』

『プレイヤーの人数が規定数に達したため、エリア移動を開始します』


 アナウンスの後、視界が暗転する。ふわり、と宙に浮かぶような感覚が身体を包み込んだかと思うと、目の前に見知らぬ街並みがいつの間にか広がっていた。


「ここが、占領戦のマップ……ってことで良いんでしょうか」


 辺りを見回していると、ぽつぽつと他のプレイヤーの方々の姿が辺りに現れてきました。意外と姿を見なかったスライム、空中に浮かんでいる大きな目玉に顔の部分が馬になっているケンタウロス。いや、あれはもう馬なのではないでしょうか?


「よう、嬢ちゃん奇遇だな」

「……パパラチアさん?」


 後ろから声をかけられ、反射的に振り返ると目の前にパパラチアさんの顔が。すぐ近くにはヴィイさんとイオの姿もありました。

 心なしか、パパラチアさんの毛並みが最後に見た時よりもふわふわしている気がしますが、気のせいでしょうか。


「レイヴンさん、お久しぶりです」

「元気にしてた?」

「ヴィイさん、それにイオもお久しぶりです。私はどうにか元気でしたよ。あんまりゲームには潜る時間がありませんでしたけど」


 少し遠くにいたヴィイさんやイオも、私に気が付いたのかこちらへと近づいてきた。


「僕たちも似たようなものだったし」

「この時期は皆忙しいんじゃねえの?」

「そういうパパラチアさんは結構レベルが上がってますね?」

「暇だったからな」


 パパラチアさんのステータスを確認すると、いつの間にかレベルが28まで上がっていました。ダンジョンを出た時には同じだったはずなのに……。たった数日間で一気に引き離されてしまいました。


「あ、レイヴンさん。せっかく会えたんだし、一人なら私たちと一緒に動かない?」


 ヴィイさんがそんな提案をしてきました。その申し出は本当に有難いですが……。


「ごめんなさい。誘って頂いて本当に嬉しいのですが、今日は別のフレンドと遊ぶ予定でして……すみません」

「いやいや、謝らないで。こっちこそ急なお誘いだったわけだし。また今度時間が合った時にでも遊びましょう?」

「ええ、その時を楽しみにしてますね」

「嬢ちゃんの方から誘ってくれてもいいんだぜ。基本的にこの時間帯なら暇してるからよ」

「わかりました、覚えておきます。すみません、フレンドが来たみたいなので」

「ばいばーい」


 パパラチアさん達に別れの挨拶をしてから、少し離れた場所でこちらの様子を伺っていたお姉様とシスさんの元へと駆け寄る。


「すみません、ちょっと知り合いがいたので話し込んでしまいました」

「この前一緒にダンジョン潜ってた人?」

「そうですね。たまたま一緒になったみたいで」

「へー、そんなこともあるんだねえ」


 お姉様とそんな会話をしながら、占領戦で使うマップの全体を表示する。

 挿絵(By みてみん)

 マップ自体は至って普通。北にA拠点、中央にB拠点、南にC拠点。街を囲むように一際太い線で描かれているのが、この街を取り囲んでいる城壁で、この外に出ることは出来なさそうです。

 城壁の南北にはそれぞれ初期リスポーン地点だと思われる入口。私たちは南側で待機しているので、相手は北側にいるのでしょう。

 マップに表示されている四角は建物で、建物の扉とマップの空白の部分が同じ位置にあるので、通り抜けることが出来るみたいです。

 チケット数は双方共に300で、減らす方法は二種類。

 相手を倒してリスポーンさせるか、取っている拠点の数だけ一定時間毎に減っていきます。


『プレイヤーが揃いました。開始まで残り60秒です』


 アナウンスと共にカウントダウンが始まりました。きちんと全員揃わないと始まらないのは好感が持てます。


「チケット数は300ですか。多いのか少ないのか分かりませんが、私は開幕Cに触れずにそのままBへ真っすぐ向かいますね」

「私はBに向かいながら途中の道に糸でもまき散らしておくね」

「わ、私はレイヴンさんと一緒にBに向かいます」


 これで初動は決定です。一番近い拠点はおそらく誰かしら触れるでしょうし、もし取られても初期のリスポーン地点が近いので取り返すのも容易です。

 もし、Cをガチガチに固めて防衛するつもりなら、それはそれで残りの拠点を制圧すればいいだけの話ですし。


『開始まで5・4・3・2・1・0!』


 カウントダウンが終わると同時に、B拠点へと向かって走り出す。視界の端ではパパラチアさんが、ヴィイさんとイオを背に乗せた状態で左側へと消えていくのが見えました。

 おそらく、大外を回ってBの側面を取るか、Aまで回り込むつもりなのでしょう。機動力に優れるパパラチアさんが裏取り部隊に回ってくれるのは助かります。相手にも同じような動きをする人たちがいるかも知れませんが。


「って、誰もCに入ってないじゃないですか」


 ミニマップに表示されている味方を表す青点が、誰一人としてCに残っていません。城壁に沿って西に向かったヴィイさん達三人と、東に向かって単独で動いている誰か一人を除いた残りの十二人が一斉にB拠点へと向かっている。


「戦略的には十分アリだとは思いますが……」


 大外は東西どちらも人が向かっていますし、最悪足止めにならなくても敵の発見は出来るでしょう。建物の中を通ってこられた場合は諦めて大人しく取り返しましょうか。

 C拠点のことは一旦忘れて、今はB拠点を取ることに集中しましょう。

 私たちのリスポーン地点と、相手側のリスポーン地点は一直線の道になっているので、最短距離でBに向かっている以上、正面から走ってくる敵の姿を早い段階で捉えることが出来た。


「大体同じくらいの数ですね……」


 侵入出来ない建物を挟んで右手側にも通れる道があるので、見えていない敵もいるでしょうが、大体初動は似たような動きと考えていいでしょう。

 真正面から走ってきている敵の武器を確認する。

 剣が三人、籠手のようなものを付けているのが二人、残りは人に隠れてしまって判断が付きません。見た目だけで判断しているので、もしかすると全然違う武器を使うかもしれませんけど。

 C拠点とB拠点を繋ぐ細い道を抜け、広場へ出ると同時に武器を取り出し勢いを落とさずに走っていく。

 背後の味方達も、種族によって多少の速度のばらつきはあるものの、ほとんどがすぐ後ろについてきてくれている。これなら、切りかかっても大人数に囲まれて即死することはないでしょう。


「敵を殲滅しろォ!」


 誰かが発した物騒な台詞を皮切りに、戦闘が始まった。


「だぁっ!」


 先頭を走っていた私は、B拠点内に入ると同時に一番近くにいた剣を握っている敵に向かって切りかかった。敵の頭上には大きく赤いマーカーが付いているおかげで、味方と間違える心配もない。


「ぐっ――このっ!」


 相手が剣を大きく振りかぶるのに合わせ、素早く胴体を切りつけながら相手の横を駆け抜けていく。あ、今の場所はもしかしなくてもクロスガードが輝く場所だったのでは?

 いや、でも失敗していたら拙いですし危ない橋は渡るべきじゃないですね。


「とりあえず、数を減らしていきましょう」


 既にB拠点内では至る所で戦闘が始まっている。こんな状況で一対一にこだわる必要はありません。

 味方と戦闘をしている敵の背後や側面に回り込み、二、三発程攻撃を仕掛け、敵の意識がこちらへと向いたのを見てからその場を離れ、他の味方の加勢をする。


「シスさん!」

「シスちゃん!」


 遠くで二人を相手取っていたシスさんの姿を見つけ、加勢のために急いで駆け寄っていく。たまたま隣で戦っていたお姉様もシスさんの状況を見たのか、走り出していた。


「シスちゃんから離れろー!」


 お姉様が叫びながら、蜘蛛の糸を相手に向かって吐き出した。


「うわっ!? なんだこれ、糸か!?」

「動きが遅くなって――くそっ!」

「隙だらけです!」


 お姉様が出した糸は、触れた相手にスロウの状態異常を付与する効果を持っている。効果時間は数秒しかないみたいですが、一瞬でも隙が出来れば私には十分です。

 がら空きになっている相手の背後から剣を振り下ろしてから、間髪入れずに≪ウィンディロート≫を使う。振り下ろした剣を切り返し、相手を上空に打ち上げると同時に地面を蹴り上げて、回転しながら空中にいる相手に突撃していく。


「二人とも、今のうちに――」


 残りの敵を叩いてください。と、言い終わる前に二人は動き始めていました。長年、お姉様と一緒にFPSやMOBAをプレイしていたので、私の動きからしてほしい行動を汲み取ってくれるのは有難いですね。


「――っ!?」


 追撃のために空中に飛んだ私の背中に、何かが突き刺さるような衝撃。回転している視界の隅で、弓を構えている敵の姿を捉えることが出来ました。

 くっ、弓兵ですか! 地上よりも高所から狙撃した方が効率は良いのは確かです、が。


「遠距離持ちは近寄られると何もできないでしょう!」


 ≪ウィンディロート≫の勢いを使ってB拠点西側にある屋根の縁を掴み屋上へとよじ登り、近くで弓を構えていた敵へ向かってジグザクに走りながら距離を詰める。


「く、くるなぁっ!」


 私に気付いた弓兵は、こちらに向かって弓矢を構える。けれど、慌てて放った矢は私の頭上を飛び越えていった。

 真正面から飛んでくる矢は≪ストックパイル≫を使ってどうにかしようと思っていましたが、一本も私の方に飛んでくることはありませんでした。


「ふっ!」


 逃がさないように距離を詰め、通常攻撃と≪ツインスラッシュ≫で畳みかける。

 あと、数発攻撃を食らってしまえば体力が無くなってしまうというのに。

 私が剣を振り下ろそうとしたその瞬間、視界に入った彼女は笑みを浮かべていた。


「なっ、これは――」


 その表情に戸惑いを見せたその瞬間、背中に衝撃を感じて振り下ろされるはずだった腕の動きが止まる。

 屋上で距離を詰めている間に、周りに敵の姿が見えないのは確認していた。こまめに確認していたミニマップにも、前にいるこいつ以外に敵の反応はない。

 それなのに――。


「どうして、後ろから矢が……」


 ヴィイさんとダンジョンに潜った時のように、味方から回復の矢を撃ち込まれたわけじゃありません。ダメージを受けている以上、敵の攻撃に間違いはない。

 ですが、一体何処から――いや、なるほどそういうことですか。


「意外と強かなんですね」

「僕にはなんのことか、さっぱりわかんないけど……ただではやられないよ」


 なんてことはない。攻撃の正体は目の前にいる相手が先程放った矢が戻ってきているだけの事。おそらく、ホーミング性能のあるスキルを使ったのでしょう。

 思い返してみれば、彼は最初から当てようとする素振りを見せていませんでした。通常、ジグザグに移動している敵を狙う場合、左右に移動するタイミングを計って狙いを定めるので、放たれた矢は私の左右どちらかを通っていくはず。だというのに、彼の放った矢はことごとく見当違いの場所へと飛んでいました。

 今にして思えば、怯えていたのもこのためのブラフだったということですか。


「せいっ!」


 背後から飛んでくる矢を背中で受けながら、弓兵にトドメを指す。ダメージを受けることを嫌って取り逃がしては話にならないので。

 確か、私が覚えている範囲だと確か近づくまでに放たれた矢は全部で五発。既に背中に二発刺さっているので、残りはあと三発。


「最初に食らった攻撃も含めると、流石に耐え切れないですね……」


 屋上から飛び降り、開け放たれていた扉を潜ると同時に閉め、建物の中に避難する。障害物を挟んで止まってくれればいいですけど……そんな上手くは行きませんよね。

 私を追って来た矢は、扉のガラスを破って建物内に侵入してきた。最初の一本は≪ストックパイル≫を使ってどうにかするとして……残りはお姉様を肉盾にしてやり過ごしましょう。


「トクヒメさん、B西側の建物に近づいて貰えますか。出来れば急いで欲しいんですけど」

『細長いほう? それとも三角形?』

「細長いほうです」

『了解。近いからすぐ行くわ』


 お姉様とシスさんが近くB付近から動いてないのはミニマップで確認していたので、四本目の矢を受けてからB方向へと走っていく。


「着いたけど、どうすればいい?」

「中に入ってきてください!」


 扉の外からお姉様の声が聞こえたので、扉を開けて中に入って来てもらう。それと入れ替わるように私は外へ出て、外側から扉を閉めた。


「あいたっ!」


 中からお姉様の呟くな声。どうやら、最後の一本を身体で受けてくれた様です。


「すみません、トクヒメさん。助かりました」

「えっ、もしかして私盾にされるためだけに呼ばれたの?」

「いやいや、そんなわけないじゃないですか。Bが優勢になったので、Cに戻りましょう。落ちかけてます」

「えっ、うそ、いつの間に抜かれたの?」


 拠点も取れかけてますし、人数の有利がついているBは放って置いても問題ないでしょう。Aも奪取出来ていますが、Bが取れないと判断した敵たちが戻り始めているので長くは持たないでしょう。

 B拠点にいる人たちはこの勢いのままAの方に突っ込んで行くでしょうし……。放って置いたら裏から壊滅しかねません。


「おそらく、遊撃部隊がいるので私たちでどうにかしましょう。シスさんも、ついてきてもらっていいですか?」

「もちろんです!」

「あ、私が巻いた糸に引っ掛かったみたい。リス地点を出てすぐ西側のところ!」

「大外から逃げるつもりですか……。拠点を取り返して……いや、先に叩いておくべきですね」


 こういう時は好戦的に生きましょう。Bにいた人数を考えると、そこまで数が多いわけでもないでしょうし、三、四人程度ならどうにかなるでしょう。いや、するしかないんですけど。


「一応、敵のシグナルだけ出して、急いで拠点から離脱しましょう」

「ルートはどうするの?」

「ここから西壁に向かって行きましょう。途中、南壁が確認出来る一本道があるので敵の姿が見えたらそのまま壁まで走った方が良いかと。敵の姿が見えなければ南下します」

「「了解(です)!」」


ブックマーク・評価のポイントと感想は筆者にとってガソリンみたいなものです故、


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