02 キャラクタークリエイト
キャラクタークリエイトで細かい部分が弄れるゲームは良いゲーム。
個人的には蚕娘が死ぬほど好きです。
翌日、すやすやと気持ちよく惰眠を貪っていると、お姉様に叩き起こされました。
ゲームの開始時間が正午ぴったりなようで。私は別に最速でプレイする気はなかったのですが、お姉様はどうやら違ったみたいです。
「食後の飲み物はコーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」
「紅茶でお願い」
お姉様の前にカップを置いてから、空いている席に腰を下ろし一息ついた。
せっかくリリースと同時にゲームを開始するのですから、途中で中断をするのもなんだかなあ、という事で晩ご飯の用意まで終らせたのがいけませんでした。
やっぱり、夏に長い間コンロの前に立っているのは辛いです。
「ねぇ、麻央は職業何にするか決めた?」
お姉様がカップの中身を一気に飲み干してから、唐突に話しかけて来ました。
「一応、公式サイトで少しは確認して見ましたけど、特にピンと来るのがありませんでしたね。お姉様はβの時、何になってたんですか?」
「私は殴りヒラ」
「いや、回復してくださいよ」
「正直色んなジョブがあってて絞り切れなくてさあ? 戦闘職だけじゃなくて生産職の分岐もすごく多くて。オープンβ時点でも全ジョブが解放されてたわけじゃなかったし、基本的にヒーラーしか触ってないからよく知らないけど。あ、でも料理長はあったよ?」
「ゲームの中でも料理ですか」
「システム的にも結構凝っててさ、料理がっていうより生産職全体に言えることなんだけど、実際の手順と同じような感じで作れたりもするのよ。もちろん、手順踏まなくても出来るよ? ただ、実際と同じように手間を掛けて作ったら品質が上がったり、付与される能力にボーナスがついたりして。なんか、元々ゲームの中で専門的な知識を得よう! みたいなコンセプトだったらしく、実際に就職した人も居るとか居ないとか」
「βの時点で就職うんぬんは絶対に嘘だと思いますけど」
「私もそう思うけどね。あ、もうこんな時間か。もうすぐ始まっちゃうね。ごちそうさま。ご飯作ってもらったし、洗い物くらい私がやろうか?」
時計の方をちらりと見ると、既に正午まで十分前になっています。
「この程度ならすぐに終わるので大丈夫です。お姉様もログイン戦争には負けられないでしょう?」
「いつもごめんね。甘いもの食べに連れて行ってあげるから!」
「ふふ、楽しみにしてますね」
若干急ぎ足で部屋へと戻るお姉様を見送ってから、洗い物を済ませて自室へ。
コフィンを起動してから、中へと潜り込みます。
バベルオンラインの起動をお願いします。
『システム起動。バベルオンライン起動前チェック――完了。バベルオンラインの起動を開始致します』
何の問題もなく、ゲームが起動。コフィン内部は、ディスプレイになっているようで視界にはタイトルと読み込み中の文字。程なくして、読み込みも終わりタイトル画面から勝手に先へと進んでいってしまいます。
どんどんと先へ進んでいき、いつの間にか背景が森の中へと切り替わっていました。木々に囲まれていて、中心には大きな切り株。それを取り囲むように様々な花が辺り一面に咲き誇っています。なんというか、オカリナでも吹きたい気分です。
『Babel Onlineの世界へようこそ。まず始めに、この世界での貴方の分身、キャラクターを作成してみましょう』
頭に直接声が響いてきました。
さて、いつの間にか切り株の上に立っている自分が居ました。昨日、確認したモデルとほぼ変わりのない状態で表示されていますが、若干色調が変わってますかね?
キャラモデルの隣には大量のプレート。どうやら弄ることの出来る項目が表示されているみたいです。
瞳のハイライトや、眉の傾きに細かい部分の肉付きまで……とはいえ、弄れる数値の振れ幅はほぼ誤差の範囲内みたいなものですね。
肌の色は別にこのままでもいいですね。少し色調を弄ってみましたが、どうやら私ではうまく調節出来ずに雪女みたく真っ白になったり、犯人みたいに真っ黒になってしまうのでリセットしてデフォルトの状態にしてしまいましょう。出不精なので、肌の色が少し白いですが、まあいいでしょう。
髪型は……少し悩みますね。流石に、ツインテールは少し子供っぽいですし、順当にポニーテールとか? 走ってるときとかフリフリして可愛らしいのではないでしょうか? ですが、ツインテールもポニーテールも現実世界で出来ますし、せっかくなら普段しないような髪型が良いですね。ツインドリルはちょっとないですし、焦点ペガサスMIX盛りなんて論外です。
一発ネタとしてアフロとか? うん、ないですね。試しに試着してみましたが、直ぐに思い直します。その横にモヒカンや落ち武者という文字も見えたような気がしましたが、見なかったことにしましょう。
普段から、髪の毛のお手入に必要以上に時間を掛けないために出来るだけ短くするように心がけてはいるのですが、本音を言えば、地面スレスレになるくらいまで伸ばしてみたかったりもするのです。現実世界では、色々な問題がありますが、ゲーム内でなら大丈夫でしょうか?
試しに、徐々に髪を伸ばしてみます。肩甲骨辺りから腰……更に膝下を越え、留まる所を知らずに地面にまでついてしまいました。流石に髪の毛を引きずって歩くのは遠慮したいので、髪は腰ほどまでの長さに抑えて、ハーフアップにでもしてみますか。
うん、うん。いい感じじゃないですか? 前髪はパッツンやおでこを出すのは恥ずかしいので、目元が隠れるくらいで。もみあげは、少しあればいいです。オプションで照りとつやを少し出して、髪の色は黒にして目の色は淡いブルーにしましょう。
不自然に見えないように調節してから一度プリセットに登録しておきましょう。
見た目はこの程度でとりあえず良しとしましょうか。
『次に種族を選択してください。種族によってパラメーターに補正が掛かります』
事前に公式サイトで確認はしておきましたが、ええっと?
人間
平均種族。全パラメーターに微小の上昇補正。
エルフ
知力、器用に上昇補正。
体力、筋力に下降補正。
ドワーフ
筋力、器用に上昇修正。
敏捷、魔力に下降補正。
機工種
全パラメーターに中の上昇修正。
魔力に特大の下降補正。
ギガント
体力、筋力に上昇修正。
敏捷、器用に下降修正。
獣人
敏捷に上昇修正。
その他、種類毎に対応するパラメータが上昇修正。
おおよそ人型はこんなものですね。
人間やエルフは言わずもがなですし、ドワーフは生産職メイン……といったわけではなさそうですね。一応戦闘も出来るみたいです。
ギガントは巨人種ですか……名前の馴染み的にはジャイアントの方が親しまれている印象があります。HPが多く打たれ強い代わりに、足が遅く精密作業に難アリと。巨人種を選択すると、どうやら強制的に身長が大きくなってしまうみたいですね。
機工種は……初期ステータスが他種族に比べ高く、パラメータのボーナスも大きいみたいですが、魔法を使うことが出来ない……と。まあ、機械ですし……妥当な所なのでしょうか?
獣人は、ケモ耳や尻尾が生えただけ……ではなく、完全二足歩行の動物にまで選択の幅が広がっているみたいです。ここだけ、特定層に向けてるような気がしないでもないですね……。選べる動物の種類も、定番の猫、兎、狐、狼、熊、狸、犬、虎、豹などまでいるらしいです。分類的に鳥人や、竜人も此処に入っていると思っていたのですが……どうやら、違うみたいですね。
ここまでが、公式サイトで一般人や初心者の人にお勧めされている基本種族で、ここから先は特殊な人たちに向けられて作られた種族のようです。
このゲームは普通のMMOと違い、人外を選ぶことが可能のようで、種類が無駄に多い。
人外。人でないモノ。魔物や魔族、人とかけ離れた姿をした異形のモノたちになりきることが出来る、と。
極端ではあるものの、非常に高いステータスを持っているみたいです。
獣人や、機工種たちはこっちに分類されないのか? という疑問もありますけれど。おそらく、人でないけれど人に近く、かつ、人との意思疎通がある程度可能な種族として扱われているものは人型として扱われているのでしょう。
とはいえ、人外にもデメリットというモノがあります。人型でない、という事は移動をするのにも大変な苦労を伴ってしまうという事です。
先に挙げられていた六種族は、比較的フォルムが人型に近いので簡単らしいのですが、スライム等の流動体、ウルフなどの四足歩行系の生物たちは、満足に移動をすることが出来ないらしいのです。
人型には多種多様の職業が用意されている代わりに、人外には進化の概念があるらしいのですし、ほぼ大本から種族が変わってしまった場合は、スキルリセットすら可能である……と。
多種多様の種族な数だけ、デメリットも産まれているらしいですが。
モンスターの固有スキルが取得できるため、強い奴は本当に強いというロマンたっぷりの種族です。
ただ、昨日のうちに、少しだけβアクセス時点の掲示板を除いてみましたが、どれもこれも阿鼻叫喚といった様子でした。
しかし、他人の評価は他人の評価。それはそれ、これはこれです。
茨の道であればあるほど、やる気が満ち溢れてくるのは私だけじゃないはずです。
あ、でも別にドMってわけじゃないですよ? 低確率のレアドロップ粘るのとかは嫌いですし。
一つ一つ、プレートをスライドしながら選択出来る種族を眺めてみます。
さて、何にしましょうか?
定番のスライムはちょっと。スケルトンも、せっかくキャラクターエディットをこなしたのに、骨だけになるなんて論外です。出来れば、後々の進化で人の部分があるものにしたいのですけれど。
そうなると、アラクネやケンタウロスで蜘蛛や馬とか? エキドナとかは確か蛇でしたっけ。ゴブリンは人型とは言え少し遠慮したいですね。
むむ、そうなってくると結構選択肢が狭まってきます。
天使や悪魔はβテストでも結構人気だったようで。人外で選ぶならこの種族! といったスレッドを見てみれば確実に名前が挙がっている種族です。別に、捻くれているわけではないのですが、たくさんの人が使っている種族を使う気にはなれません。
フロッグは紅い剣を使う事が出来るなら使いたいですが、どうにも舌を振り回したり、毒を出したりするイメージが強いですものね。
ううむ、困りました。どうしましょうか。
と、高速でスライドしながら種族を確認していると、一つだけ目に留まったものがありました。
『種族:イーターが選択されました』
種族スキル
≪捕食≫ ≪悪食≫ ≪鋼鉄の胃≫ ≪空腹≫
≪捕食≫
自分の食べたモノの性質を、自身に付与することが出来る。
スキルレベルに応じて、効果時間及び効果量が増加する。
≪悪食≫
料理以外のモノを食べることが出来るようになる。
≪鋼鉄の胃≫
スキルレベルに応じて、食事の際に付与されるデバフを確立で無効にする。
≪空腹≫
空腹ゲージの増加速度が上昇する。
≪悪食≫≪空腹≫は効果通りですね。
≪鋼鉄の胃≫は確率次第ですが、まあ問題ないと思います。
≪捕食≫というスキル。これは、もし私がモンスターを食べればそのモンスターになることが出来るのではないでしょうか?
≪悪食≫と組み合わせると、アイテムを使ってエンチャントも可能。もしかして、これ以外と強いのではないでしょうか?
性質を付与としか書いていないので、どうなるかわかりませんが、もし変身出来たりするのであれば面白いですね。
空腹状態になると、ステータスは下がらないけれど、スキルのリチャージ時間の増加でしたっけ? まあ、これは特に問題はないでしょう。料理以外も食べられるということは、その分空腹になりにくいってことですし。
んん、結構良さそうな雰囲気を出してますね。
狼や蛇などの動物系も結構楽しそうですが、どれか一つを選ぶことに苦労しそうですし……。その点これなら、一部分とはいえ他の種族のスキルを使ったりも出来るかもしれません。
ええ、決めました。これにしてしまいましょう。
延々と決まらないで始められないよりか、直感でも目に留まったものを選ぶべきでしょう。
もし、だめそうなら最悪キャラクタークリエイトからやり直せばいいですし。確か出来ましたよね? 出来なかったらどうしよう。まあ、その時はその時ですか。
どうやら、『イーター』は見た目がほぼ人間のようですね。キャラクタークリエイトが無駄にならなくて済みました。
『初期スキルを選択してください。初期スキルの取得上限は十個以内となっております。なお、初期スキルの取得はゲーム内でも可能です』
えっと、とりあえず、一覧を確認して必要そうなものを選んでおきましょう。
ふむ、初期スキルは全プレイヤー共通ですか。
≪体力増加≫≪鑑定≫
パッシブスキルは取っておいて損はないでしょう。≪鑑定≫はおそらくゲーム内でNPCにやってもらうことも可能でしょうが、取っておいて損はありません。というか、人外なのでNPCと交流が出来るかも怪しいですし。個人的には≪値引き≫とかも取っておきたいのですけど。
『初期スキルが規定の数に達していないため、スキルタブ内に初期スキルが追加されました。初期スキルの項目に存在しているスキルは取得時のコストが0になります』
やっぱり、初期スキルは別枠で用意されてるんですね。
ゲーム内で取得条件を満たした強いスキルを無条件で取ることは許さない、と。
あとはプレイをしながら足りないものを補えば。もしいらないようでしたらスキルリセットの時に変えてしまえば問題ないでしょう。
『名前を入力してください』
どうしましょう。ファンタジーゲームですし、やっぱり横文字の方が見栄えがいいですよね? いえ、別に漢字勢とかを否定しているわけではないのですが。
とはいえ、普通に本名を入れるのは流石に気が引けますね。んー、あっ、そうだ。
『レイヴン――重複チェック中です――チェック完了。使用可能です』
ん、ちゃんと通りましたね。ありきたりなのでもしかしたらとは思いましたが。
苗字に鴉が入っていますし、ちょうどいい感じにアバターも真っ黒な髪ですし、ちょっとカラスっぽい雰囲気出てたりしませんかね?
『最終確認です。以下の項目に問題が無ければOKを選択してください』
名前:レイヴン
性別:女
種族:イーター
属性:無
種族スキル
≪捕食Lv.1≫ ≪悪食≫ ≪鋼鉄の胃Lv.1≫ ≪空腹≫
スキル
≪体力増加Lv.1≫ ≪鑑定Lv.1≫
問題はなし。OKです。
『人外が選択されています。初期地点をお選びください』
始まりの街
通常のリスポーン地点。
種族スタート
種族に対応したリスポーン地点。
どうやら、基本の基本種族の初期地点とは別に、人外のためのリスポーン地点を用意してくれているようですね。説明の雑さが些か気になりますが。
確かに、いきなりモンスターが人の街中に現れたら殺されても文句は言えませんものね。うーん、でもどうしましょう。見た目だけで言えば、それこそ本当に人間なのですよね。この見た目であれば、別に気にする必要もないかもしれませんが。
せっかく用意してくださっている事ですし、人外用の初期地点を使わせていただきましょうか。
『種族スタートが選択されました。キャラクタークリエイトを終了、サーバーへの接続を開始致します』
システムの音声が途切れると同時に、直ぐに変化は起こりました。
頬を撫でる穏やかな風に混じって鼻に突く、鉄錆びの臭い。
辺りを見回してみれば、そこかしこに散乱している動物の死体と、その傍らにしゃがみ込んでいる人の姿。
目を凝らして見れば、動物の死体に直接かぶりついているみたいです。
え? 思っていたよりも、野性味に溢れすぎていませんか?