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Babel Online   作者: 虹色橋
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「あぁ、疲れました……」


 帰省から帰ってきたと同時に、持っていた荷物を部屋の片隅へと置いてベッドへと飛び込む。おばあちゃんの家は昔ながらの日本家屋なので、畳に布団という和風なスタイルでしたが、慣れているベッドのほうがやはり落ち着きます。

 

 子供たちの面倒を見ながらの肝試しとかは楽しかったですけれど。それでも顔も名前もよく知らない親戚の人に愛想笑いを浮かべ続けていたので、表情筋が凝り固まってしまいそうでした。特に、とてもつまらない洒落を連発してくる叔父さんとか……思い出しただけでも背筋がぞくりとしますね。


 ベッドから起き上がって、コフィンの電源をつけて中へと潜り込む。メンテナンスが明けるまではまだ少し時間がありますが、もしかすると更新ファイルのダウンロードが出来るかもしれませんしね。

 

 バベルオンラインを起動して、っと。ん、やっぱり事前ダウンロードが出来るみたいですね。容量は500MB程度ですか。ふむふむ、これならすぐに終わりそうですね。メンテナンスが明けるまでざっと一時間弱といったところでしょうか。

 これならゆっくりお風呂に入っても十分間に合いますね。



 ちょっと待ってください。お風呂から上がってきたら既にメンテ明けてるじゃないですか!? ページに記載されていたメンテナンスの終了時刻までまだあと十分程度残っているはずなのに……!

 バベルオンラインのスタート画面には運営からのお知らせとして一通のメールが届いていました。


『メンテナンス作業 終了時間変更のお知らせ』

現在実施しておりますメンテナンス作業について、終了時刻を18:30頃までに変更させていただきます。

お客様にはご迷惑をおかけいたしますが、ご了承いただけますようにお願いいたします。


 メンテナンス時間が早くなること自体は悪いことではないです。正直な話、リリースしてから初めての長時間メンテナンスでしたし、延長する可能性もありましたから、その点だけ見ると有能な運営のようですね。


 メンテナンスのお知らせの部分にも『メンテナンスの終了時刻に関しては、状況により変更する場合があります』ときちんと記載されていましたし、今回はそんなことないだろうを高を括っていた私のミスです。多少出遅れた感じは否めませんが、私も早くログインしてしまいましょう。


 まあ、ログイン時の混雑を避けたと考えれば悪くはないでしょう。そもそも混雑が起きていない可能性もありますけど。

 ログイン処理を終えて、鬱蒼とした森の中へと単身投げ出される。


「あれ、どこでしたっけここ」


 ええと、最後にログアウトしたのは……ああ、そうだ。ヴィイさん達と一緒にダンジョン攻略を済ませた後、脱出してそのままログアウトしたんでしたっけ。

 うーん、日付が変わるまであと数時間ありますし、どうしましょう?

その場で悩んでいると、チャットが飛んできました。


『あ、麻央―。今大丈夫―?』


 チャットの送り主はお姉様です。既にお姉様もログインを済ませていたみたいですね。キャラクター情報のレベル欄が26になっていますが、あえて触れません。


「大丈夫ですけど、どうかしましたか?」

『ん、時間があるなら始まりの街に行かないかなって思って』

「何か用事があるんですか?」

『占領戦のクエスト開放があそこだからさー、今のうちに行っておきたいなーって。麻央も時間があるならどう?』

「いいですよ。私も日付が変わるまでは暇でしたし。どこで合流しましょうか?」

『あ、麻央は南に向かってくれる? 近くにいるからすぐに向かうよ』

「了解です」


 お姉様とのチャットを閉じて、ミニマップで現在の位置を確認する。キャラマーカーが配置されているのは、中央よりやや北よりといったところですか。周辺の敵のレベルがそれなりに高いので多少遠回りをしながら南下していきましょう。


「虫系の魔物を食べるのは、またの機会ですね」


 しかし、虫の調理法というのは限られますよねえ。

 簡単なのは、単純に素揚げや佃煮でしょうか。食べやすさで言えばチョコレートでコーティングしたりするのがいいんですが、チョコレートってどうやって作ればいいんでしょう。凝るならやっぱり、カカオから育てた方がいいんでしょうか? カカオの苗木を見ることがあれば、一応買っておいてみましょう。


「それにしても、この周辺は視界が狭いですね……」


 草木が絡み合うように道を塞いでしまって、必然的に遠回りする羽目になってしまいます。ヴィイさんの一緒に歩いていた時はそんな風に思わなかったので、気を付けて道を選んでくれていたのかもしれません。

 

 障害物と敵を避けながら、十五分ほどかけてようやく絡の森の南部に到着。フレンドからお姉様の居場所を確認してみましたが、既に絡の森へと到着している様子。辺りを見回してみますが、お姉様の姿はまだ見えないですね。お姉様の身体の色はやや緑がかっていたので、草木と同化して見えないだけかもしれません。

 

 あぁ、そういえばお姉様は確か進化したって言ってましたっけ? そうなると、色も変わっているかもしれませんね。


「あ、いたいた。麻央ー、こっちこっち」


 背後からお姉様の声が聞こえて、振り返る。


「お待たせしてすみません、お姉……さ、ま?」

「なんで疑問形なのさ」


 目の前に現れたお姉様は、以前見た蜘蛛の姿ではありませんでした。前に見た時よりも二回りほど大きくなっていて、何より、頭が存在していた部分から人間の身体が生えてきています。


「いや、その……そんなに肩を出すのはいかがなものかと」

「そう? セクシーじゃない? なんか花魁みたいでいいかなって。というか、麻央も結構ふりふりして可愛くなったね」

「その、変じゃないですか? こういう感じの服は着慣れてないので……」

「うん? 別に、可愛いと思うけど。原宿とかによく居そうな感じ」

「え? それって褒めてます?」


 というか、お姉様原宿とか行かないですよね? かくいう私も行ったことはないんですけど。


「褒めてる褒めてる。ほら、現実でも着てみればいいじゃん」

「いや、流石に一人で着るのはちょっと……お姉様が着てくれるのであれば、一考してみます」

「んー? 別にいいよ?」

「お姉様がそれでいいなら別に構わないですが……。それより、お姉様の進化先って女郎蜘蛛じょろうぐもだったんですね」

「んや? 普通のアラクネだよ。着物とか簪とかは作ってもらったの」

「あ、アラクネなんですか。なんというか、その、着物の着崩れが激しかったので、そっち系に進んだのかと思いました」

「女郎蜘蛛も確かに捨てがたかったんだけどねえ。土蜘蛛に進化するには多分そっちルートに入んないといけないんだけど、土蜘蛛はどうもパワーでごり押し系になるみたいだからやめちゃった」

「でも、お姉様ってごり押し好きですよね?」

「αとβの時にパワー系だったからねえ。飽きた」

「飽きた」

「うん」


 お姉様の性格的に、どうせパワー系になるとは思いますが、下手な事を言うと機嫌を悪くしてしまうので、何も言わないでおきましょう。虫の居所が悪いお姉様は人のデザートを勝手に食べてしまうので、せっかく買ってきた桃のケーキを食べられるわけにはいきませんし。


「それじゃ、始まりの街にさっさと向かっちゃおうか」

「そうですね。お姉様、街の場所はわかるんですか?」

「もちろん。えーっと……ここからだと、最短で四区画移動すれば街につくよ」

「結構近いんですね」

「何事もないまま近づければいいけど」

「……何かあるんですか?」

「んー……もしかしたら、襲撃があるかもしれないってだけなんだけど」


 襲撃? って、もしかして……。


「他プレイヤーからのですか?」

「そうそう。始まりの街を中心に周囲二区画は、初心者狩りを防ぐためにプレイヤー同士の戦闘は禁止されてるんだけど、その外に出たらもう無法地帯よ」

「なるほど、でも、それって別に倒してしまっても構わないのでしょう?」

「確かにそうなんだけど……レベルが、ね? 一応、一定以上レベルが離れていると戦闘を仕掛けられない仕様にはなってるんだけど……」


 現状、私のレベルが低いせいで足を引っ張ってしまっていますが……そもそもパーティ相手に喧嘩を売ってくるような、相手っているのでしょうか?


「ま、そんなこと考えても仕方がないし。とりあえず、行ってみよっか」

「そうですね。もし接敵したら、その時は柔軟に対処していきましょう」


 お姉様からのパーティ申請を了承し、先行するお姉様の後ろをついていく。絡の森をそのまま南下し、マップが山の峡谷へと切り替わりました。

 ミニマップを縦に割くように切り立った崖が目の前へと現れる。


「この谷、渡るんですか?」

「んーん、今回はそっち側には用はないかなー。ここから南西に向かって進んでいくよ」

「南西……? 南ですか? 西ですか?」

「ん? いや、だから南西だって」

「え、南西って通れなくないですか?」

「いや? ちょっとわかりにくいけど通れるよ? マップの移動方向は東西南北と、北西、北東、南西、南東の八方向だし」

「本当ですか? 嘘ついてないですか?」

「いや、嘘なんかつかないでしょ。あ、でも中には岩とかで塞がれていたりする所もあるよ」


 確かに、空腹の森も幻惑の沼地もあくまでマップの端を視認しただけでしたね。それこそ、幻惑の沼地なんて、見えない敵や判定のない壁があったのですから、壁で道が塞がれていても何もおかしくありません。

 くっ……やはり、隅々まできちんと探索しなければならないということですか。


「そんな初見殺し必要ですかね?」

「αの頃はわかりやすく矢印表示があったんだけどねえ。βでなぜか消えたのよ」

「なんで消したんですか……」

「さあ? でも、変わらず通ることは出来るし、小技として残してくれたんじゃない?」

「お姉様から聞くまで、私も東西南北の四方向にしか移動できないと思ってましたもん」


 だって、マップにもわかりやすく矢印が書いていますし、中心から十字方向にはある程度整地された道が通っているので、普通に考えたらこの方向にしかマップ移動出来ないと思うじゃないですか。


「麻央の事だから既に気づいてると思ってたんだけどねえ。だって、ほら麻央ってマップ全部埋めるタイプじゃん?」

「うっ……」

「隠されてる通路とか部屋とか見つけるの得意だったはずだから、見つけてるかなって思ってたんだけど」

「ダンジョン内とか、全体マップの表示に不自然な所とかがあれば探すんですけど……フィールドマップだと目視しただけでマップが埋まっちゃうので」

「あー、それでもマップを埋めようとするだけすごいと思うけどねえ。私は、ほら。適当に散策して満足しちゃうから」

「マップに表示されないエリアがあると、なんかもやっとしません?」

「全然? 普段行かない所には、特段用事がないから行くこともないし、必要最低限の素材の採集ポイントさえ分かってればいいやって感じ」


 この辺りは、私とお姉様の性格の差というか、プレイスタイルの差が出てきてしまいますね。MMOなので、多種多様なプレイスタイルがあるのが当然なのですが。

 私の場合、ゲーム内のフレーバーテキストや、NPCの会話の変化なども気になってしまうので、シナリオが進んでは前の街に戻って会話が変わったりしていないかを調べたりしてしまいます。そのせいで、一つのゲームにかかる時間が莫大なものになってしまうのですが。


「んー、襲ってくるとしたらここら辺からなんだけど……それっぽいのは見えない、かな?」


 マップの三分の二ほど進んだ所で、お姉様が立ち止まりました。蜘蛛の巣を階段状に張り、上空からクリアリングをしているようですが、敵の姿は見えないようです。

 最悪、戦闘も覚悟していましたがしないで済むのであれば、それに済んだことはありません。これからの占領戦の事を考えれば、一度くらい対人戦をしておいた方がいいのかもしれませんが、ここで倒されてしまっては元も子もありませんし。


「うん、大丈夫っぽい。メンテ明けだし、もしかしたら街の方に戻ってるのかも」

「待ち伏せって、そこまで利益が出るんですか?」


 歩きながら、気になっていた事をお姉様へと質問してみる。待ち伏せをして、確実に狩れるのであればいいかもしれませんが、それでも無駄に時間を消費することになるでしょうし。それなら、普通に魔物を狩ったり能動的に動いた方がいいと思うんですが。


「経験値よりも、採集してきた素材のために狩る方が多いかもね。麻央もやったと思うけど、クエストの採集品って結構面倒くさいでしょ?」

「ええ、まあ、多少は。私の場合は、料理で使える素材を一緒に探していたので、苦にはなりませんでしたが」

「好きな人は好きでしょうけど、面倒な人はしたがらないのよねー。だから、自分で採取するよりも、採取してきたプレイヤーを襲った方が早いってわけ。あと、単純に経験値が美味しいし、所謂山賊プレイって所かな」

「山賊、ですか」

「もちろん、絶対に勝てるわけじゃないから、負けた時は損をするだけだけどね。ま、麻央はその心配しなくていいんじゃない? ぱっと見、人間っぽいし。同族を襲うことはあんまり勧められてないから、ね」


 私はまだ人類側のプレイヤーに出会った事がないので、なんとも言えませんが……確かに、私の見た目は確実に人間よりですからね。出会って数秒で即バトル、なんてことにはならないと願っておきましょう。


「さて、と。ここから先はもうプレイヤー同士の戦闘禁止エリアだからそう身構えなくてもいいよ」


 お姉様と話していると、いつの間にか山の峡谷を抜け遊牧民の野営地へとマップ移動をしていました。見渡す限り草原が広がっていて、辺りにはテントのようなものが点在している。


「思ってたよりも、人がいますね」

「最初の街に近いからねー。よっぽど自信がある人以外はここら辺でレベリングするだろうし」


 辺りには素材採集をする人や、魔物を狩るスライム……いや、あれはスライムにやられている魔物でしょうか。辺りには似たような光景が広がっています。


「さー。ささっと街まで行っちゃおうか。ここら辺は魔物のレベルとか採集品のランクはそこまで高くないから、突っ切っちゃおう」

「了解です」


 お姉様と共に遊牧民の野営地を南西へと真っすぐ進み、区画を移動する。次の区画の草原へと辿り着くと、南の方角に、遠くからでも城壁に囲まれた街が見えた。


「あれが始まりの街ですか?」

「そうだよ。とはいえ、別に他の街と大して変わらないけどね。しいていうなら、色んな種族とか、人類側の装備とかが見れるくらい?」


 そんなことを話しながら、草原を南下していく。街へと近づくにつれて、周辺にいるプレイヤーの数がどんどんと増えていく。中にはゴリラのような姿をしたプレイヤーもいました。っていうか、まんまゴリラですよね、あれ。


「おぉ……!」


 大きな城門を潜り、街の中へと足を踏み入れる。街の構造はいたって単純で、街の中央の広場から東西南北の門へと大通りが続いていて、大通りにはプレイヤーが出している露店が立ち並んでいます。


『始まりの街のバベルが解放出来るようになりました』


「バベル?」


 聞きなれない単語ですね?


「お姉様、バベルってなんですか?」

「ん? ああ、バベルっていうのはね、ファストトラベルが出来るようになる門のようなものよ。このマップだと、確か……街の中央にあったはず」

「わかりました。ちょっと行ってきてみます」

「んー」


 北の門でお姉様と別れて、大通りを真っすぐ進んでいく。すれ違う人たちの視線がかなりこっちに集中しているような気がしますが、真っ赤なゴスロリドレスを着た奴が歩いてたら目立ちますよね……。だからといって、あの奴隷服のようなボロボロの衣服は嫌ですし……。この際、好奇の視線で見られるのは諦めてましょう。どうこう出来るものでもありませんし。

 それにしても、なんか似たような防具の人ばかりですね。服の色も、無難な茶色だとかそんなものばかりです。皮装備だと確かに、そんな色ばかりになるのも仕方ありませんか。私もヴィイさんに装備を作ってもらわなければ、薄汚れた布の服でしたし。


 ええっと、中央広場にある門っていうのは……あれ、かな?


 広場の中央には、大きな空洞が開いていた。その空洞を取り囲むように扉が設置されている。その中から、適当な扉を選んで開いてみる。


『始まりの街のバベルが解放されました』

『この場所を復活地点に設定することが出来ます』


 復活地点……はどうしましょう。空腹の森の探索の事を考えると、魔物の街の方が近いですし、とりあえず今は保留で。


『初めてバベルを解放したため報酬として、バベルの書を入手しました』

『バベルについてのヘルプを追加しました』


 ヘルプの追加ですか。


※バベルについて

バベルを解放することで、各街のバベルへと転移が可能になります。

ただし、移動が可能なのはバベルからバベルのみになっています。

街に存在している門を開くことによって、既に解放されているバベルへの転移が可能になります。

また、専用のアイテムを消費することによって、フィールド上から任意のバベルへと転移することも可能です。



 なるほど、これで街と街の移動が大分楽になりましたね。ただ、この門の存在をしらなかったせいで、魔物の街へはまだ飛べませんが。

 

【イベント】バベルの書 レア:EX

 解放しているバベルの門へと転移することが出来る。


 で、専用のアイテムというのはこのバベルの書ですか。

 これを使うことで、任意の門へと飛ぶことが出来る、と。ダンジョン内で使ったりしたら天井で頭を打ったりするのでしょうか?


 なんにせよ、これで門の解放は済んだので、当初の目的通り占領戦の解放をしてしまいましょう。


 ミニマップから新規クエストのアイコンを探してっと、えっと……占領戦の解放は、東側の建物内ですか。

 中央広場から東の大通りの方向を見ると、そこにはずらりと並んだ行列の姿が。どうやら、人類と人外で二列ずつの計四列で並んでいる様子。


「えぇ……これに並ぶんですか……?」


質問や疑問点があれば感想に書いて頂けると、説明できるものは掲示板回で取り扱いたいと思います。

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