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「「「「ごちそうさまでした」」」」
全員のお皿が綺麗になった所で、楽しい食事の時間は終了です。
やっぱり、時間経過しないアイテムボックスを買うべきですね。腐らせるのが怖くて、生物や肉は宿屋のアイテムボックスに収納していますが、またこういう場面に出くわした時に困りますし。
「いやー、ゲーム内でも美味い飯って食えるんだな」
「パパラチアさんも料理スキルを取得してみたらどうですか?」
「いやぁ、この身体で料理は出来ねえだろ……」
「進化先次第だと思うんですけど……人型にはならないんですか?」
「狼人やるんだったら、そもそも獣人ルートから始めろよって話だと思うんだが……いや、狼はいないんだっけか?」
「んや、普通にいるよ。僕、βの時は狼人でやってたし」
「あー……そうだっけか? 全然覚えてねえ……っていうか、よくよく考えたら俺βやってねえな。αしかやってねえ」
「私はβすらやってません」
皆さん、ちゃんとαとかβとかやってるんですね。
私はそもそも、VR機器を持っていなかったので、やりたくても出来なかったんですけど。
「レイヴンさん、よく初めてのキャラクリで魔物側を選んだね」
「別に、自分では特段そう思ってないんですけど……友人からはキワモノ好きだって言われるんですよねえ」
「「「あー……」」」
「なんでそんな顔するんですか!?」
まだ知り合って数時間しか経っていないのに、心外なんですけど!?
「いや、だってよぉ……キャラクリ画面って結構な魔物の種類いただろ? なんつーか、可愛い系の魔物とか、もう少し普通のとか」
「あー……? そんなの居ましたっけ……? 私、途中で面倒になっちゃって全部を確認してないんですよ」
「スライム系とか、精霊系とか、動物系とか」
「スライムが可愛いかはこの際置いておきますが、精霊とか動物系って人口多いイメージないですか? 人と被るのがあまり好きではないんですよ」
取得するスキルによって独創性は出せるのでしょうけど、他人がやっていない種族や職業の方が初見殺しも捗りますからね。
「そろそろ、探索を再開しますか? あまり長時間話していると、また空腹状態になりかねませんし」
「あ、探索の前にレイヴンさんにプレゼントがあるんだけど、トレード画面を開いてもらってもいい?」
「プレゼント?」
トレード画面……トレード画面……ああ、これですか。『スピネルヴィイさんからトレードの申請が来ています』承認、っと。
「レイヴンさんはそのまま完了してもらってもいいですか?」
「流石に貰うだけっていうのは悪いですよ」
「私はちゃんとレイヴンさんにご飯を作って頂きましたよ? おあいこです」
そう言われてしまっては返す言葉もありません。行為を無下にするわけにはいきませんし……。
何を頂けるのかはわかりませんが、ここは有難く貰っておきましょう。
『トレードが完了しました』
トレードで送られてきた品は合計五つ。
【防具・頭】ローズ・ミニハット レア:R 品質:A
大きな薔薇をあしらった小さな帽子。
【防具・胴】ローズ・ドレス レア:R 品質:A
薔薇の意識した深紅のドレス。
【防具・腕】ローズ・グローブ レア:R 品質:A
薔薇の刺繍が施されたグローブ。
【防具・脚】ローズ・ラッフルスカート レア:R 品質:A
薔薇の花びらが敷き詰められた深紅のスカート。
【防具・足】ローズ・ドレスシューズ レア:R 品質:A
少しだけ底の厚い深紅の靴。
「いやいやいや! こんなに受け取れませんって!」
「いいのいいの。素材はほとんどここで拾ったものばっかりだし、私のスキルレベル上げついでだから」
「でも……」
「いいじゃねえか嬢ちゃん、くれるっつってるんだから貰っとけよ。その初期装備の布の服よりぜってえいいと思うぞ?」
「お二人がそこまで言うなら……ありがとうございます」
「もう着替えちゃえばいいんじゃないですか? 装備の性能が上がれば敵を倒すのも楽になると思いますし」
確かに、いつまでも布の服では見た目も悪いですし……。装備画面を開いて自分の姿を確認する。
……公園に捨てられた着せ替え人形のようなみずぼらしい見た目をしています。
早急に着替えてしまうべきですね。
インベントリから先程頂いた装備をそれぞれの装備欄に移動させていく。
おぉ……。マジック番組も驚きの早着替えです。着替えたというよりも、上書きに近いような感じですか。
流石全年齢対象。
「ど、どうですか……? ちょっとふりふりしすぎてる感じがするんですけど……」
一言でいうなら薔薇コーデ。
頭からつま先まで深紅に染まっています。至る所に誂えられた薔薇の花。被るのではなく、乗せる事がメインの小さな帽子に縫い付けられた小さな薔薇。ドレスの胸の部分に大きなものが一輪。グローブは手の甲部分に彫られた薔薇の刺繍。靴は留め具の部分が小さな薔薇で出来ています。
スカートは薔薇のフリルと、をイメージしたような黒のフリルが交差するように出来ています。同じようにドレスの上に来た飾りのコルセットも黒を基調にしたもので、背後では茨の紐できつく縛っているみたいです。
……これゴスロリですよね?
いや、いや、可愛いんですけど、可愛いんですけどね!? 確かに、たまーにゴスロリショップを見かけた時、可愛いなー……なんて思ったりもしますけど!
でも、実際にお店に入ってみる勇気はないんですよね。それに、結構いいお値段しますし。スカートだけで数万円とか普通にしますからね。ゲームに費やすお金をそちらに回せば買えなくもないのですが……あんまり着ていく機会もないですから。
「似合ってますよ、レイヴンさん。パパラチアもそう思うでしょう?」
「そらさっきのボロ布纏ってるよか断然綺麗になってんぜ。ちょっとふりふりしすぎてる感じもなくはないが……」
「レイヴンさんの種族的にもやっぱりドレスかなって思ったんだけど、可愛いし良いんじゃない?」
「あ……ありがとうございます?」
お腹を空かせたお嬢様がボロ布を身にまとっているって、どう考えても没落してますもんね。
なんとなく、気分が乗ってその場で回ってみる。回転に合わせて、スカートがふわりと広がり、薔薇の香りが辺りに漂う……気がします。
「さて、嬢ちゃんの着替えも済んだ事だし、探索再開といくかねえ。昼飯時には踏破しときてえ」
「ご飯食べたばっかりなのに!? って思ったけど、確かにゲーム内でどれだけ食べた所で現実世界でお腹が膨れるわけじゃないもんね」
「VR機器と一緒に点滴を繋いで、ゲーム内の食事と点滴の流れるスピードをリンクさせたら現実世界で食べなくても良くなるよ?」
「イオ、お前のその発想は絶対に実現されねえよ」
話をしながらも、次の階層へと向かう階段を下っていく。
「そういえば、ダンジョンって全部地下に向かっていくんですか?」
空腹樹の時は登っていきましたが……あれはダンジョンではないですけど。
「そんな事はないですよ。ダンジョン次第だと思います」
「僕たちも、そこまでダンジョンに潜ってるわけじゃないし、そもそも結構隠されてる事が多いから……。僕が知ってるのは結晶みたいなものに触れると次のフロアに行くギミックくらいかな」
「知り合いが流砂に飲み込まれながら進むダンジョンがあるっつってたぜ。真偽は知らんけど」
「中にはダンジョンに侵入するのに、アイテムが必要な場所もあるらしいですし……しばらくはやることが一杯です」
なるほど、フィールドギミックもあるんですか。
……やはり、空腹樹内部のダンジョンが隠されているのでは? ホームの設定を変えてしまったので、すぐにはいけませんが……今度、時間が空いた時にでも調べに行ってみましょうか。
しばらく階段を下った所で、次の階層へと到着。
フロアの雰囲気自体は、特に一階層と変わっていません。
全員で固まって移動しながら、敵を倒しつつ次の階層へと繋がる階段を探す。
出てくる敵もローズバトラーを筆頭に、羽を生やして飛び回るクレイジーレモン、マイコニドと言ったキノコ系モンスター等、植物系モンスターが多くなっています。
ただ、四人で囲むと一瞬で相手が溶けるせいで、相手の攻撃方法とか全然見れてないんですよね。レモンがカウンター系で、ローズバトラーが噛みつきを使ってくることだけわかっていますが……マイコニドなんて、何も出来ないまま死んでいますし。
特に何事もないまま、フロアの探索が終了。そのまま次の階層へと下っていきます。
ミニマップを確認すると、茨の園B3Fと書いていました。先程までの二層とは、少しだけ雰囲気が違います。
ダンジョン全体が薄暗く、先程までの入り組んだ構造とは違い一本道になっていて、左右の壁には一定間隔で松明が設置されています。
「おー、もうボス部屋かよ。はえーな」
「低レベル帯ならこんなものじゃない? 私なんて、入って二層で即ボス部屋だったし」
「まー、それもそうか。手に入る素材のランクもあんまり高くねえし、品質も悪いしな。低レべの時にレベリングダンジョンとして使えってことだろ」
「普通に現れる敵を倒しているだけでも、結構経験値が入って来ていますもんね」
「今回はモンスターハウスの敵も全部倒したから、普通より多い、かも」
「なんなら、もっかいモンスターハウスに突入すっか?」
「ちょっとご遠慮願いたいですね……」
突入時は14だったレベルは15になり、既に経験値バーが半分程溜っています。クエストの報酬経験値より効率は良いですが、クエストには報酬もあるので、それを考えるとどちらがいい、とは断言しにくいですね。
導かれるように一本道を真っ直ぐ進んでいると、石で出来た重厚な扉が目の前に現れてきました。扉は堅く閉ざされていて、鍵穴のようなものも見当たりません。扉の近くには、燭台が一つ。置かれている蝋燭に火は灯っていません。
これ、どうやって開けるんでしょうか? なんてことを考えていると、背後から松明を持ったヴィイさんがこちらへと近づいて、蝋燭に火を灯してしまいました。
次の瞬間、ゴゴゴ……と、音を立てながらゆっくりと開き始めました。
「面倒な仕掛けですね」
「だよなあ……このギミック、ボス直対策らしいぜ。これまでのフロアで一定数敵を倒してねえと松明に火がつかねえんだと」
「火属性の魔法で着火出来ないか試した人もいるらしいけど、駄目だったみたいだよ?」
「それ、イオのことでしょ」
「脱出ゲームとかRPGならこのギミックで開くし……」
その気持ちは分かります。私が火魔法を使えたら絶対やっていた自信があります。
「おい、ぼやっとしていると閉め出されんぞ、嬢ちゃん」
いつの間にか扉の向こう側へと移動していたパパラチアさんに声をかけられ、慌てて扉を潜る。
私が扉を潜り終えると同時に、石の扉が閉まり身体が動かなくなりました。何処かを動かそうとすると、『現在操作を受け付けて受け付けておりません』という注意メッセージが表示されます。これは、ボス前のムービーですかね。
部屋自体はそこそこの大きさがありますが、特段何かが置いてあるわけでもありません。他のフロアと同じように壁や天井が棘の付いた蔓のようなもので覆われているだけで、地面は普通に土が敷き詰められているようです。
あれ?
どれだけ周りを見渡しても、本来この部屋の主として君臨すべきボスの姿が全く見当たりません。何処かに隠れている……といっても、この部屋に隠れられるような場所はありません。
隠れられそうな場所を探していると、ある一点から目が離せなくなる。
何の変哲もない、ただの茨の壁――いや、目を凝らしてみれば、茨はまるで泳いでいるかのように流動し、やがて一カ所に集まった茨が花のように開いたかと思うと、その中心には人の姿が。
人の姿、というのは少し正しくありませんね。目の前にいる敵の下半身に当たる部分は、茨の中に埋まっていて私たちからは、上半身しか見えていません。見えている部分も、緑色の肌で人間からは程遠い。
彼女が手を挙げ、地中から七本の茨が現れた所で身体が動くようになりました。
えーっと、鑑定鑑定っと。
ソーン・アルラウネ Lv.?
ソーン・アイヴィ Lv.14
少女の方は見た目通りアルラウネですよね。ソーンは確か棘とか茨って意味でしたし。
なんか一杯いる方の名前はアイヴィですか、ちょっと聞いた事がない魔物です。
「なるほどなぁ、雑魚を倒さねえと本体を殴れねえってことか」
「どうする? 全員で一本ずつ殴ってもいいけど」
「僕は各個撃破の方がいいと思うけどなー。なんか、時間経過で復活してきそうな気がするし」
「全員が別の敵を狙うってことで」
「了解です」
「それじゃあカウントすっぞ。俺は左端から狙うわ」
「じゃあ私は右端を」
「僕は中央に突撃するね」
「え、待って。私、余ったんだけど!? えっと、えーっと! 弓だから遠くから皆が狙ってないの狙うね! 一体倒したら、状況を見て援護射撃するから」
カウントダウンが0になると同時に、右端の標的へと攻撃を始める。カウントダウンの終了と同時に攻撃を開始するか、カウントダウンが終了してから攻撃を開始するかで派閥が分れますが、皆さん前者のようで安心しました。
相手の根元に潜り込みながら斬りかかる。レモンのようなカウンターもなく、反撃をしてくる様子もありません。遠巻きに他の茨を確認しても、その場でゆらゆらと揺れているだけです。
まるでチンアナゴみたいですね――痛っ、って……え? 特に攻撃モーションなかったはずなのに……?
頭部に痛みを感じて、上を見上げると――今にもこちらに降りかかろうとしている無数の棘。
気合いで避け――られるわけないでしょうが! こんなの知ってないと対処出来るわけがないじゃないですか! そもそも、初撃を食らった段階で既に避けられない事が確定していたようなものですが。一応、全弾被弾は避けられたので、よしとしましょう。
上に注意しつつ、攻撃を再開する。しばらく蔦部分を切りつけながら、棘が肥大化して来たら距離を取る。棘の雨が降っている間はエアスラッシュで遠距離からちまちま攻撃しながら、相手の攻撃が終わったら根元まで近づいてツインスラッシュを交えながら通常攻撃を。
これを繰り返していると、不意に茨が背後へとしなりはじめ……まるで、私を叩き潰すかのように、勢いよく振り下ろして来ました。ですが、その大雑把なモーションでは攻撃方法を教えてくれているようなモノですよ!
ギリギリまで攻撃を続け、当たる寸前に横へと移動をすることで最小限の動きで回避する――というのが当初の予定だったのですが、ツインスラッシュのリキャストタイムが丁度良く回ってきたので欲張ってしまいました。スキル使用時のモーション硬直のせいで回避が遅れてしまい、振り下ろされた茨が直撃して後方へと勢いよく吹き飛ばされていく。
バットで思い切り殴られたような衝撃が、頭を駆け抜ける。咄嗟に握っていた武器を地面に突き刺して、これ以上吹き飛ばされるのを回避しながら蔦の元へと走って戻っていく。
今のは完全に私が悪いですね。ツインスラッシュから派生するコンボもないのに欲張るべきではありませんでした。基本的にスキルはリキャスト毎に撃つ癖がついてしまっていますが、やはり攻撃モーション中は大人しく回避に専念しましょう。
先程の攻撃で、私の体力もかなり削れてしまいました。具体的にいうならば、もう一度あの攻撃を貰ってしまうと死にかねないレベルです。攻撃方法が二つ、というのは流石にボス的に少なすぎる気がするので、最低でもあと一つ・・・・・・多くて三つくらいは見積もっておいた方が良いでしょう。全部が全部、先程の叩きつけのような威力を持っているわけではないでしょうけれど。
「レイヴンさん、どんどん攻撃しちゃって! 回復は私がするから!」
背後から、ヴィイさんの声と一緒に飛んで来る一本の矢。真っ直ぐ飛んできた矢は、敵ではなく、間にいた私へと突き刺さる。
私の身体を貫通した矢は仄かに光っていて、刺さった部分からじんわりと温かさが身体全体へと広がっていく。
ステータスを確認すると、どうやら先程の矢には回復とリジェネの効果があるようです。
「ありがとうございます!」
ヴィイさんの矢ってそんな使い方も出来るんですね。普通にヴィイさんの射線を塞いでしまったかと思って焦りました。
ですが、これで相手の攻撃に臆することなく攻撃を続ける事が出来ます。いや、そもそも被弾するなよって話なんですけど。
棘の雨と振り下ろし攻撃に注意を払いながら、欲張らずに適度に攻撃をしていると一匹目の茨が力を無くしながら倒れていった。
ターゲット出来なくなった事を確認してから、隣接する茨へと移動する。既にパパラチアさんとイオは二本目の茨へと攻撃を始めていて、ヴィイさんは攻撃をしつつ三人に回復の矢を撃っているようです。特に、イオに向かって矢を撃つ回数が多いようです。
確かに、イオの戦闘スタイルは大味というか、防御や回避をほとんどせずにただただあの巨大な斧で相手に斬りかかるというゴリ押しスタイルなので、回復が大変そうです。
対してパパラチアさんは、狼という種族の特性を生かしたスピードファイターのようです。私が避けるために、早い段階から範囲外へと逃げていた茨の雨も降り始めてから回避を初めても間に合うみたいです。
って、みとれてる場合じゃありません! 私も急いで二体目へと取りかかりましょう。
遠距離からエアスラッシュでちくちく攻撃をしつつ、近づいてツインスラッシュを入れてから通常攻撃に移ろうとした所で、蔦が真っ直ぐ伸びていない事に気がつきました。
根元から、九十度に折れ曲がって……薙ぎ払うかのようにこちらへと向かって勢いよく突っ込んで来ました。
縄跳びのような要領で飛び跳ねて空中へと回避する。流石に、この攻撃は痛そうなので、きちんと回避をしないと……って連続ですか! こんなのただの大縄飛び――ってタイミング間違えた!?
「どどど、どうしましょう!?」
や、やばいです。このままだと直撃する羽目にっ――いや、エアスラッシュのスキルが帰って来てるので、これを空中で撃ってすかせばっ……よしっ!
スキル使用時の硬直を空中で発生させて、無理矢理滞空時間を延ばす事には成功しましたが……やはり、一秒弱の硬直では完全に避けることは出来ませんか。ですが、直撃は避けることが出来たので、よしとしましょう。
あれ?
随分と早く着地しましたね? 攻撃も食らってないですし。
って、これ、蔦の上に乗ってる!? 周りの風景がぐるんぐるん回っているせいで若干気持ち悪くなって来ましたが、ここから一方的に攻撃出来そうです。
は、初めからこれを狙っていたんですよ私は。流石私です。
どうやら、ヴィイさんもこの茨を攻撃してくれている様子。一気に畳みかけてしまいましょう。剣を突き刺して、抉るように切りつける。
「だぁっ!」
刺して、抜いて、刺して、抜いてを繰り返していると、折れ曲がっていた根元がピンと伸び、私は地面へと振り落とされる。
それと同時に上空から振ってくる棘の雨。地面を這うようにして、どうにかこれを回避したあと、攻撃に転じようとすると既に茨は息絶えていました。
近くにはパパラチアさんとイオの姿が。
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……」
貴方たちさっきまで自分の茨と戦っていませんでした?
「ほらほら、三人とも回復するから」
「さんきゅ」
「ありがと」
「ありがとうございます」
ヴィイさんの矢が私たちの身体に突き刺さる。このリジェネの矢は回復効果が無くなったら勝手に消失してくれますし、服に穴が空いたりもしないようです。
「それで、まだあいつはターゲット出来ねえんだが、まだなんか出てくんのか?」
「出てきていた蔦は全部倒したはずですが」
「いや、待って。倒しても消えなかった蔦が全部居なくなって……」
「危ねぇ! 下だ!」
パパラチアさんの声に反応して、全員がその場から飛び退いた。
間一髪、といったところでしょうか。先程まで、私たちが立っていたその場所には、地中から飛び出してきた蔦が鎮座していました。
既に倒した蔦よりも、ひとまわりもふたまわりも大きい……いや、蔦が複雑に絡まってまるで一本の大きな植物であるかのように振る舞っています。その頂では、ソーン・アルラウネが無邪気に笑っています。
「気ぃつけろ! 壁の茨も攻撃してくるぞ!」
「わわっ、危なっ!?」
「……面倒だし、雑魚は放って置いても良いんじゃない?」
「いや、この数は放っておけるようなレベルじゃねえだろ!?」
パパラチアさんの言うとおり、壁と天井で蠢いていた茨がちまちまと攻撃を繰り出してきています。一発一発は大した威力ではないのですが、攻撃をされるたびにこちらの動きが少し止まるせいでストレスがマッハです。
「私がどうにかするから、みんなはあの本体を狙って」
「了解。まかせたぜヴィイ。嬢ちゃん! 乗れ!」
言われるがままに、パパラチアさんの背中へと飛び乗る。イオは既にアルラウネが乗っている巨大な茨に向かって攻撃を初めていました。まるで木こりのように、両手で斧を持ってフルスイングです。
「大体はヴィイがどうにかしてくれるけど、茨に当たって落ちたりしてくれるなよ!」
「パパラチアさんこそ、茨に突撃とかやめて下さいね!」
「大丈夫だ! ……多分」
「ちょっと! 不安になるような言葉を呟いてから動くのやめてくださいよ!」
茨の隙間を縫うように、パパラチアさんが狭い部屋の中を駆け抜けていく。こちらへと向かってくる茨は、ヴィイさんが狙撃をしてくださっているおかげで、私たちに届くことなく地面へと落ちていいきます。
アルラウネの下半身部分、もとい集合したソーン・アイヴィを一気に駆け上っていく。
「嬢ちゃん。このまま一気にてっぺんまで登って、俺がそのままアルラウネに噛みつくために飛び掛かるから、その隙に俺から飛び降りてくれ」
「私が囮役をしてもいいですけど」
「いや、俺だと身体がデカいせいで茨を避けてると滑り落ちる可能性もあるし、何より機動力が潰されるのが辛ぇ」
「わかりました」
「後、五秒で到着するぜ。四、三、二、一……今だっ!」
パパラチアさんは叫ぶと同時に勢いよく茨を蹴って、アルラウネの頭上へと飛び跳ねる。
「喰らいなっ!」
回転しながら突撃するパパラチアさん。しかし、その攻撃は届きません。こちらの動きに気づいたアルラウネが両手を上に掲げると、その動きに呼応するかのように茨の壁が立ち塞がりました。
「胴体がガラ空きですよ!」
パパラチアさんの攻撃が防がれた瞬間、背中から飛び降りて隙だらけのアルラウネに切りかかる。
頭上に展開されていた茨が、私を迎撃するためにこちらへと向かってくる。ですが、ここまで接近してしまえば、私の攻撃の方が速い!
アルラウネを数度切りつけ、頭上から迫る茨を避けるためにバックステップで距離を取る。茨は私を追いかけてきますが……。
「パパラチアさん!」
「おうよ!」
上空の茨が私に向かって来ているという事は、パパラチアさんの攻撃を防ぐものがなくなったということです。
アルラウネの背後から現れたパパラチアさんは、その大きな口で肩口に思い切り噛みつきました。アルラウネは振りほどこうとして暴れていますが、食い込んだ牙は易々と抜けません。というか、近くで見てみるとこのアルラウネのキャラデザめちゃくちゃ可愛いですね。正直結構好きです。
遠目からではわかりませんでしたが、三白眼じゃないですかこのアルラウネ。
最近、ゲームキャラで三白眼のキャラってあんまり見ないので新鮮です。
っとと、私に向かって来ていた茨がパパラチアさんの方へと向かったので、次は私が攻撃する番ですね。パパラチアさんがギリギリまで引き付けてくれているので、茨を気にすることなく、攻撃に集中できます。
「このまま一気に畳みかけて――ッ!?」
こちらへと迫りくる茨を潜り抜け、剣を振り上げたその瞬間。身体の自由が利かなくなり、その場で動けなくなってしまう。背後から飛び掛かろうとしていた、パパラチアさんも同じように飛び掛かる寸前で止まっています。
「なんで動けなくなって……?」
「麻痺だと……?」
麻痺……? いつの間に? カウンター……いや、それなら最初の時点で発動していないとおかしいはずです。それに、アルラウネは攻撃に茨しか使っていないはず……。
……いや。そもそもそれが間違いだとしたら? 最初の茨も、私を追って来た茨も、能動的に攻撃してきたわけじゃありません。あくまで、私たちの攻撃を防御ないし反撃を繰り出してきているだけだとしたら?
「……雪?」
先程まで、攻撃に夢中で気が付きませんでしたが、私たちの周辺に雪のようなものが降ってきています。いや、植物系のモンスターが雪を降らせるわけがありません。
だとするとこれは……胞子? 目を凝らして見れば、アルラウネから胞子のようなものが常に展開されています。
「って、やば――ぐぅっ!?」
痺れて動けない所に、横なぎに払われた茨が直撃する。
え、待ってください。このゲームって落下ダメージありましたっけ?
確か、空腹樹から落ちた時はそのまま死んだような気がしましたが……。でもでも、あの時は地面に叩きつけられましたっけ? いつの間にかブラックアウトしたような気がしますが……身体が痺れているせいで、受け身もロクに取れそうにないですし、落下したタイミングでポーションが使えるように準備をしておきましょう。
「かはっ――」
背中から地面へと叩きつけられ、水泳の飛び込みで腹打ちをした時のような痛みが背中を襲うう。麻痺は……既に解除されていますね。落下ダメージもそこまで大したことはない……手に持っておいたポーションを一気に飲み干して、追撃の茨を転がりながら躱していく。
スカートのまま転がっていますけど、スカートの中身とか見えていませんよね? 大丈夫ですよね?
そういえば、下着ってどうなっているんでしょうか。見えないように黒塗りになったりしているんですかね? 後で確認しておきましょう。場合よっては動き方を考えないといけません。
「すまんヴィイ! 回復頼む!」
「リジェネで足りる?」
「それで十分!」
「おっけー! 私もそっちの援護に回るわ」
パパラチアさんも無事なようですね。猛威を振るっていた壁の茨たちがほとんど駆逐されていますし……。
私たちが上でアルラウネと格闘している間にヴィイさんが頑張ってくれたようです。イオは相変わらず集合したアイヴィの根本を攻撃しているようですが……。というか、あれってターゲット出来るんですね。
っていうか、あの茨既に死にかけじゃないですか。茨からも棘の雨や、短い茨が出てイオを攻撃していますが、それを気にするような素振りを見せず、斧を振り回しています。
イオの背中に物凄い数の矢が刺さっていますが……見なかったことにしましょう。
「パパラチアさん、もう一度行きますか?」
「いや、そろそろヴィイが下のでけえのを倒しそうだから、先にそっちだな」
「あの感じだと、下の茨を倒したらアルラウネが分離しそうだし……」
「わかりました」
イオの頭上に迫っている茨を切ってから、アイヴィの集合体へと剣を突きさす。私がちまちまと攻撃するよりも、おそらく私よりも一撃が重いイオに攻撃をしてもらった方が効率がいいでしょう。
本体への攻撃を適度にしつつ、イオに向かっていく茨を全て切り伏せる。
「これで……トドメ!」
イオが叫びながら握っていた斧を天高く振り上げ、思い切り振り下ろした。
複雑に絡み合っていた茨など関係ない、と言ったような風にぶちぶちという音を響かせながら茨を両断していく。
根本に入った亀裂は、やがて茨全体へと広がっていき……ボロボロと崩れ落ちていく。
崩れ落ちていく茨の残骸に紛れてアルラウネが地上へと落ちてくる。
「後はこいつだけだね」
「一応気を付けとけよ、胞子で痺れさせてくるぞ」
「遠距離だから私は関係ないし」
「四人で掛かれば大丈夫でしょう。あの大きな茨もなくなりましたし……え?」
地上に降りてきたアルラウネへと目をやると、地面に堕ちた茨の残骸が、アルラウネの両手に集まり巨大な掌へと変貌していました。
「おいおい、そんなのありかよ……」
そして、その巨大な拳を大きく振りかぶりながらこちらへと突撃してきました。
「受け止める!」
茨で出来た拳の右ストレートを、イオは真正面から斧で受け止めようとした。しかし、振りぬかれた拳にイオは大きく吹き飛ばされてしまう。
拳の辺り判定が大きいせいで、どうしても回避動作が大きくなってしまう。これでは避けてからの反撃も出来ません。
「嬢ちゃん! 少しだけ時間を稼いでくれ!」
「わかりました!」
ヴィイさんはパパラチアさんの背中に乗ってアルラウネに狙を始めた。茨の残骸を全て掌に集めているせいで、先程の茨による自動防御もなくなり、背面はガラ空きになっています
その代わり、正面の圧力が物凄い事になっていますけど。
アルラウネは、狙撃されていることも気にせず正面にいる私へと飛び掛かって拳を振り抜いてくる。ただ、予備動作も攻撃モーションも大分大味になっているので、避ける事自体は簡単になっています。
しばらく逃げ続けていれば、あとはヴィイさんの攻撃で倒すことが出来るでしょう。
大きく横に跳んで、アルラウネの位置を確認しようと振り返った瞬間、身体が動かせなくなる。
「――っ!?」
しまった……! パパラチアさんが気を付けろと言っていたのに……!
先程のように、アルラウネに接近していないので大丈夫だと高を括っていましたが、向こうからこちらに接近して殴ってくるせいで、回避をしているあの一瞬に胞子を吸い込んでしまったみたいです……。
数回くらいなら痺れたりはしないのでしょうが、時間を稼ぐために私が標的になり続けていたせいで、蓄積していた胞子が容量を超えてしまったようです。
「嬢ちゃん!」
「レイヴンさん!」
動けなくなった私の元に、邪悪な笑みを浮かべたアルラウネが拳を振りかぶりながらこちらへと接近してくる。
ああ……これ、直撃ですね。身体も動きませんし……死なないといいなあ……。
………………あれ?
衝撃に備えて思わず目を瞑っていたのですが、いつまで経っても私に攻撃が来る気配がありません。
「一体どうなって……イオ!?」
目を開くと、そこにはイオの姿が。巨大な斧で、茨の拳を根本から切り落としていました。イオのお腹の部分には、ヴィイさんの矢が刺さっています。なるほど、パパラチアさんに乗る前に、イオにリジェネを掛けていたんですか。
「もう少しでやれるよ!」
ヴィイさんの声が響く。
私もイオも今が好機と言わんばかりにアルラウネに近づいていく。
アルラウネは残った方の拳を地面へと叩きつけるが、既に懐まで潜り込んだ私たちには届かない。
「ふっ!」
「せいっ!」
私とイオが同時に繰り出した攻撃は、アルラウネの身体を四分割にする。
とさり、とばらばらになったアルラウネの身体が地面へと触れると、瞬く間に茨と共に枯れ果てていった。
「イオ、お疲れ様」
「ん、レイヴンも。お疲れ」
アルラウネを倒したことを確認してから、イオと小さくハイタッチ。
なんとか死なずに倒せて良かったです。
後はお楽しみのドロップアイテムですね。いいものが落ちてるといいですけど。
モンスター娘可愛いですよね。




