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「いやぁ、みっともない所を見せちまったな。すまねえすまねえ、俺の名前はパパラチア。種族は見てわかる通りウルフだ」
「えっと、私はレイヴンと申します。よろしくお願いしますパパラチアさん」
「悪いが、どうも堅苦しいのは苦手でなあ、お嬢ちゃんさえよければもう少しフランクに話してくんねぇか?」
「もう、パパラチア! 私、レイヴンさんに迷惑かけないでって言ったよね?」
「私は別に迷惑だなんて……」
「ほら、お嬢ちゃんもこう言ってるじゃねえか」
パパラチアさんと合流した私たちは、当初の目的地であったダンジョン『茨の園』内部へと侵入していました。
ダンジョンの名前から滲み出ている通り、ダンジョンの内部構造は茨に覆われていて。不用意に触れようものなら、体力を削っていってしまいます。
そんな茨の道をパパラチアさんは、豪快に笑いながら四足歩行で先陣を切っている。
初めて見た時は普通に立っていたので獣人かと思っていたのですが、どうやら余りにも早く着き過ぎたせいで時間を持て余した挙句、バグを起こせないかと二足歩行に挑戦していたらしいです。
そして、たまたま立つことに成功した瞬間に私たちが待ち合わせ場所に到着した、と。
「ほんっと、パパラチアは全然約束を守らないよね。僕もヴィイも一時間近く待ってたっていうのに」
「時間に拘束されるのは嫌いだからな」
「なんで自慢気なの? 私、いつも言ってるよね……? 遅れるのは仕方がないけど、せめて一言連絡を入れてって」
「でもよぉ? 俺が遅れたお陰でお前らはこうやってお嬢ちゃんと知り合えたわけなんだし――」
「はぁ……? 今日だって元々パパラチアがレベリングに付き合ってくれって言って来たのに、そんなこと言うの?」
ヴィイさんの口から漏れ出た言葉はあまりにもドスが聞いていました。一瞬、本当に彼女の口から出たものなのかと疑ってしまう程に。
ちらり、とイオの方を振り返ってみると、顔面蒼白の状態でヴィイさんから距離を取ろうとしています。
その様子に気づいたパパラチアさんも、しまった、というような表情をしてから慌てて謝罪の言葉を取り繕うとしていました。
「う……その……はい、ごめんなさい。俺が悪かったです」
「わかればいいの。私だって別にパパラチアを責めたいわけじゃないんだから」
ヴィイさんは肩を竦めながら、軽い溜め息をつく。
「ごめんなさい、レイヴンさん。パパラチアにはちゃんと言っておくから……迷惑だと思ったらすぐに言ってくださいね?」
「いえ、迷惑だなんてそんな……私の方こそ皆さんの邪魔なったり……なんて」
「そんな風に思うんだったら最初から誘ってなんていませんよ」
「あー、二人とも楽しいお喋り中、申し訳ないんだが敵さんのおでましだぜ。イオ、釣ってきてくれ」
「はいはーい、全釣りする?」
「いや、1グループ進行で」
「了解」
イオは、背中に担いでいた斧を構えながら、少し開けた部屋を徘徊している魔物の方へと歩み寄っていく。
今のうちに鑑定もしておきましょう。この距離からでも届き……ましたね。
ローズバトラー Lv.13
ふむ……薔薇の魔物ですか。確かに、花弁に混じって白い歯が見え隠れしていますね。無数の蔦を手足の様にして歩いているようですが……。
「お嬢ちゃん、戦闘距離は近接……でいいんだよな?」
「ええ、今は双剣なので近距離にしか対応できません」
「おっけーおっけー。じゃあ、お嬢ちゃんは好き放題やってくれ。それに合わせてこっちも臨機応変にやるから。ヴィイもそれでいいな?」
「了解。って言っても道中の雑魚だから何も考える事なんてないと思うけど」
「ばーか。こんなんはなあ、気分だっつーの。ほら、初めてパーティ組むんだから、なんつーかその場のノリっていうもんがあるだろ?」
「そういうものなのかな……?」
「ヴィイとイオはもう少し別の奴らとパーティを組んだ方が良いんじゃないか? まあ、気の知れた身内で固まるのも悪かねえけど、せっかく知らない人とプレイ出来るっていうのに」
「ちょっと! 敵を釣ってこいって言ったくせに、なんで自分たちはお喋りしてるわけ? 僕、一方的に殴られてるんだけど?」
気が付けば、イオはいつの間にか植物型の魔物を連れてきていたようで、遠くから若干不機嫌なイオの声が届いていた。
「あー、はいはいわかったよ! 今から行くから!」
パパラチアさんはそう叫んでから、勢いよくイオさんの方へ。私もそれに続くように、抜刀しながら、魔物の背後を取り攻撃を重ねていく。
魔物のヘイトは全てイオが取っていくれているので、時々くる魔物中心の円範囲攻撃だけ避ければ後は攻撃するだけでいいなんて……。
ああ、なんて楽なんでしょうか。
ただ一つだけ言いたい事があるとすれば、低レベルなせいでスキルが全然なくて単調な攻撃を続けるだけなのが暇かなーとは思いますが。
まあ、これに関しては正直な話どのゲームでも同じことですからね。
MMOでの一番苦痛な時間はそれこそレベリングだという人も一杯いるくらいですし。かくいう私のその一人ですけれどね。
レベリングが苦痛か、よくある広大なマップで同じ所を行き来するお使いが苦痛か……。あるいはそのどちらも苦痛と感じるか。後者に関しては、特別そのようなクエストがあるわけではないですし、今の所、レベルも結構すんなりと上がっているので問題ありませんが。
そんな事を考えていると、既に最初にイオが引っ張って来た魔物たちは全滅していて……イオたちは既に二グループ目の方へと突っ込んでいました。急いでイオの元へと駆け寄っていると、遠くから弓で魔物を狙うヴィイの姿が視界に入る。
なるほど、ヴィイの武器は弓だったんですね。天使と言えば、レイピアとかモーニングスターとかを想像していましたけど、キューピッドなら確かに弓ですよね。
流石に矢の先端に可愛らしいハートマークが付いている、なんて可愛らしい武器ではなさそうですけど。
ヴィイさんが放った矢は、一直線に進み敵を貫いていく。
何より、矢が自ら意識を持っているかのようにイオやパパラチアさんの間を縫って敵へと命中しているようにも見えました。
って、関心してる場合じゃないっ!
ぼーっとしてて経験値泥棒とか思われるのも嫌ですし……。
一気に距離を詰めて攻撃へと移る。残っている敵はあと二体。片方はパパラチアさんが攻撃中――だったら先に数を減らす方が先決ですっ。
既に体力が半分程減っている魔物に対して袈裟懸けに切る。振り下ろした刀の勢いを利用して、一回転をしながらもう一度袈裟切りを。
「ははっ! お嬢ちゃん以外とアクロバティックな動きをするじゃねえか!」
この敵はもう既にほとんど残りのライフが無くなったので、残っていた魔物に攻撃を移そうとして、思わず足を止めてしまった。
残っていたはずの魔物は、既に大量の矢が刺さり地に伏せていて。
後ろの方では、ヴィイさんがこちらに向かって可愛らしくピースを繰り出していました。
「やっぱそこまで強くねえな。次から全釣りでもいいかもしれねえ」
「簡単に言ってるけどさ、僕の体力の事も考えて欲しいんだけどなあ?」
「それにしても、敵を倒すスピードが格段に速かったですね」
「あー……それは、たぶんヴィイとイオのせいだろうな?」
「私(僕)たち?」
名前を呼ばれた本人たちはきょとんとしていますが。
私とパパラチアさん。ヴィイさんとイオに差があるとするならば……。
「もしかしてレベルですか?」
「大体正解。レベルはダンジョンに入った時点でシンクされてるんだが、レベルシンクされたキャラは本来より少しだけステータスが強化される。それに、アイテム自体の性能の高さは変わらないんだこれが。元のキャラ性能が落ちた分を、武器で補っている形だな」
「へぇ、だから火力の差がこんなにもあるんですか……」
だとすれば、先程の魔物が倒れていたことにも納得がいきます。
レベル差に加えて、装備のレアリティでも差がつけられているとなれば倒す速度も速いですよね。
なにより、一人で一体ずつ相手にしなければならない時と違って、イオが魔物のヘイトを全部取ってくれているお陰で複数体を同時に相手取る事が楽で仕方ありません。
誘ってくれたヴィイさんに感謝しなければなりませんね。
「んー。やっぱり一階層の敵だと手応えもねえけど、経験値もやっぱしょっぱいな」
「やっぱり深い層の方が美味しいかも。本来なら一階層全部調べ終えてから次の階層に行く予定だったけど……イオとレイヴンさんはどう?」
「僕は別にどっちでも」
「私も、お二人の決定に従います」
流石に、誘って頂いている上に私の我儘でマッピングに付き合わせるわけにも行きませんし……。それに、ダンジョンの場所もわかったので、後日お姉様のレベリングに付きあう時にでも埋めれればいいですし。
最悪一人で潜りましょう。
「じゃあ、次の階に潜りましょうか。パパラチア、途中で次の階層への入り口を見つけたりは?」
「いや、ぱっと見た感じ茨で隠されてそうな小部屋はいくつかあったが……。正規ダンジョンの次層への入口を隠すとは思えないしたぶん、まだ見てない部屋にあるんだろう」
「えーっと、まだ埋まってない場所は……いくつかあるけど、候補になりそうなのはここと……ここね」
ヴィイさんはマップを開いて、まだ埋まっていない未確認の場所を指差す。
場所は丁度、現在の位置から東西に分かれてしまっていた。
「そこまで遠くないですし、固まって動きますか?」
「いや、四人で固まって動くより手分けした方が早いだろ。すぐ近くにいないと経験値が溜まらないわけでもねぇし。敵もそこまで強くねぇから二人でも大丈夫だろ」
「組分けはどうしましょう?」
「ヴィイとイオ、俺と嬢ちゃんでいいんじゃねえか? 下手に火力を分けるよりも、二人でザクザク突破出来た方が楽だろ。それに、俺はいざとなったら戦闘振り切って逃げれるし」
「そう……ですね。そちらの方が、都合がいいでしょう。それでは、レイヴンさん、また後で」
「また後でね。レイヴン」
「ええ、また後ほど」
「え。俺にはないの?」
ヴィイさんは少しだけ何かを考えていたようでしたが、何事もなかったかのように私たちが進む方向とは逆の方向に消えていきました。
ぽつん、と。パパラチアさんと二人でその場に立ち尽くす。
えー……っと、こういう時ってどういう会話をすればいいんでしょうか。私の直接の友人ってわけでもないですし、気安く話しかけるのも慣れ慣れしいって思われたら嫌ですし……。
その場に気まずい場の空気が形成されていくのが肌で感じ取れます。
ちらりとパパラチアさんの方を見ても、何を考えているのか分かりませんし。
流石に、お互い無言で進むわけにもいきませんよね。ここは勇気を振り絞って……!
「えっと、その――」
「嬢ちゃん、悪かったな」
私のなけなしの勇気を振り絞った言葉はパパラチアさんに言葉に遮られる形になってしまいました。
それにしても、パパラチアさんに謝られる理由が全く思い当たらないのですが。
「ヴィイ達から誘われたのに、俺みたいな奴と一緒に行動しなきゃいけないなんてよ」
「別に、そんな事ちっとも思っていませんよ。ヴィイさんもイオもいい人ですし、そんな人たちの友達なら、パパラチアさんもいい人でしょう?」
「お嬢ちゃん、実はいい人だな?」
パパラチアさんはこっちを向いて、にやりと笑顔を見せてくれた。
「もし、良かったらよ。これからもヴィイとイオの二人と仲良くしてやってくれねえか? いや、俺から言うのもなんだかおかしい話ではあるんだけどよ」
「いいですよ」
「頼む。そこをなんとか――は?」
「だから、別に頼まれなくても仲良くしますってば。むしろ、こっちの方が仲良くして下さいって頼み込もうと思ってたくらいですし。それにしても、パパラチアさんは随分とお二人の事を気に掛けていらっしゃるんですね?」
「あー……一応あいつらとは結構長い付き合いだからな。イオの方はなんつーか、取っ付きづらいだろ? あいつ、素っ気ねえ態度を取るからよ。ヴィイもそんなイオにベタ甘なせいで、一回一緒に行ったら大体相手方から誘われなくなるんだわ」
「確かに、イオは恥ずかしがり屋っぽいですもんね」
「せっかく新しいゲームも始まったからよ。新しいフレンドでも作るかと思ったら、二人でレベリングしてるし、挙句の果てには俺のレベリングを手伝うーなんて言い出す始末で困った奴らだぜ全く」
「……困った、と言う割には嬉しそうな顔をしていらっしゃるように見えますが?」
「そんなことねえよ。ほら、行こうぜ。経験値が入りはじめたって事は、あいつらはもう接敵してるらしい。いつまでもここで呆けてるわけにはいかねえ。ほれ早く乗れ」
と、パパラチアさんは急かしてくる割に動き出すどころか、その場に伏せてしまいました。
「えっと……? もしかして、パパラチアさんってそういうご趣味がおありで?」
「ん? は……? あ……! いや、違う! 待て! 俺から距離を取っていこうとするんじゃない!」
「でも……確かに安易に人の性癖は否定したくはないですけど、女の子に跨がられたいって欲望をあんまり晒すのは如何なものかと」
「いや、確かに俺の不注意だな。悪かった。そういえば他のゲームと違って、感覚共有があるんだったな……。ただ、一つだけ誤解を解いて置くが、別に乗られて喜ぶ趣味はない」
「えぇ、本当ですかぁ? なんか狼みたいなやらしー目つきしてますよ?」
「そりゃ狼だしな!」
そんなやり取りをしてから、ヴィイさんたちより大分遅れて私たちも出発です。
まあ、大層な言い方しましたけど、所詮歩いてすぐの距離ですからね。別に、何の苦労もなく目的の小部屋に着くことが出来ました。
道中、特に会話もなく、敵と出会うこともありませんでしたし、次の層への入り口もありません。私的にはマッピングの手間が少し省けたので、ありがたい所ではありますが。
「ん、やっぱりヴィイたちの方が正解だったみたいだ。さっさと戻ろうぜ」
「そうですね」
一応、隠し部屋の有無を確認するために部屋を探索していましたが、パパラチアさんの方に連絡が入ったようです。
そうなれば、早急に合流して次の階を目指すのが先決でしょう。
と、来た道を戻ろうとパパラチアさんの後ろをついていこうとした所で……何かを踏んだような感触と共にカチリ、という音が聞こえてきました。
「え……? なんですか?」
「やべぇ! この部屋モンスターハウスじゃねぇか――」
パパラチアさんの言葉をかき消すかの様に、みるみるうちに部屋の中が植物型の魔物で埋め尽くされようとしています。
「こっちだ! 早く乗れ!」
いつの間にかこちら側へと近寄って来ていたパパラチアさんの声を聴いて、何の躊躇もなく背中へと飛び乗る。
だけれど、私の初動が遅かったせいで既に部屋の中は魔物で埋め尽くされていて、通路へと繋がる道も塞がりかけようとしています。
入って来た道とは逆の道へと逃げるのかと思いきや、敵が密集している方向……つまり、私たちが入って来た方へと、一直線に駆け出していきます。
いやいやいやいや、無理ですってこれ!
敵で埋め尽くされてるっていうか、敵が壁になっているようなものですよ!?
どう考えても自ら死にに行くような――え?
敵へとぶつかるかのように見えたその瞬間。ふわり、と私の身体を浮遊感が包んだかと思うと、目の前から敵の姿消え去っていました。
数秒の後、身体全体を衝撃が通り抜けたかと思うと、既に敵の群れを突破出来ています。
しかし――。
「パパラチアさん! めちゃくちゃ追って来てますよ!」
「わかってんよ! このままヴィイと合流してそこで倒す!」
背後を確認してみれば、通路だったはずの道は既に魔物の姿で埋め尽くされ背後から壁が迫ってきているかのようでした。
壁……?
あ、そうだ! こんな時こそミニトリスの肉を使えば……!
インベントリからミニトリスの肉を取り出しそのままがぶりと食らいつく。なるべく多くを巻き込めるように……。
「えいっ!」
私のお尻に生えた蛇の口から灰色の霧が辺りを覆い、それに触れた魔物たち数匹の動きが徐々に鈍くなり、その場で動かなくなるのが遠めに見える。しかし、数匹が石化した程度でこの魔物の波が収まる事はなく石化した魔物を飲み込んでこちらへと押し寄せて来ていた。
数匹程度なら運よく固まりましたが、それも永続的に固まるわけではないですし……。焼け石に水……程度くらいにはなっていればいいですけど。
「これだけの数、本当に倒しきれるんですか!?」
「広い場所で一斉に相手しなけりゃどうにかなるんじゃねぇか? まあ、駄目だったらそん時に考えようぜ」
「なっ――」
なんて無責任な――という言葉を口にしそうになって、慌てて飲み込む。元々、こうなったのは私に原因があるのだ。それを助けて貰っているにも関わらず、その言い草は無礼すぎるにも程があるでしょう。
結果としてこうなってしまった以上、敵を倒すしか――。
あれ? 別に倒さなくてもいいんじゃ……?
「パパラチアさん。この敵を無視してそのまま次の階層に行くことは出来ないのですか?」
「残念だがそりゃ無理だ。モンスターハウスの敵は所謂お仕置きみたいなもんでな。どうやら逃げられないらしい」
「それは、パパラチアが私とパーティを組んでいるからですよね?」
「あ?」
「ですから、私がこのままパーティを離脱すればパパラチアさんたちは次の階層へと進めるんじゃないですか? モンスターハウスのトラップを踏んだのは私ですし、敵のヘイトは全部私に集中しているはずでしょう?」
「その選択肢は絶対にないな。そんなことしたら、ヴィイとイオに殺されかねないし……。それに、このくらいの数なら四人でかかればどうにかなりそうな気がしないでもないか?」
既にモンスターハウスから現れた魔物だけでなく、本来配置されている魔物も引き連れて逃げているせいで、結構な数になっているんですけど……。
「そろそろヴィイ達と合流するからしっかり捕まってろよ!」
パパラチアさんはそう言ってから一段と速度を上げたので、振り落とされないようにぎゅっとしがみついて――うわぁ、すっごい……とってももふもふしています……。
なんでしょうこの安心感。まるで綿毛に包まれているような感覚は……。思わず顔を埋めてお昼寝したい気分です。
例えるならば、そうお日様の元に干していたお布団を取り込んだ時に思わず顔を埋めて寝っ転がってしまうような……。
「嬢ちゃんよぉ……その、くすぐったいんだが……」
「あっ、そ、その……すみません」
「いや、別に怒ってるわけじゃないからいいけどよ。それより、ヴィイの姿が見えて来たぜ」
顔を上げると、弓を構えた状態のヴィイさんの姿が視界へと入って来た。このままでは、ヴィイさんに突撃してしまいそうな勢いでしたけれど、パパラチアさんはヴィイさんの頭上の軽々と飛び越えるように、跳んだ。
パパラチアさんの跳躍とほぼ同じタイミングで、ヴィイさんが引き絞っていた一本の矢が、一直線に放たれました。ともすれば、パパラチアさんに当たってしまいかねないほど、ギリギリのタイミングで、です。
「あっっぶねぇな! おい!」
着地と同時に、パパラチアさんの背中から飛び降りて二人の元へと駆け寄ろうとした私の視界に入って来た光景は、魔物の群れの中に飛び込んで笑いながら巨大な斧を振り回すイオの姿でした。
え……いや、えっ……?
「レイヴンさん、大丈夫? どうせまたパパラチアがやらかしたんでしょう……?」
「うぉーい、そこ、勝手に俺のせいにしないでくれねえかな?」
「わ、私は大丈夫です。それよりも、イオを助けないと……」
「イオなら大丈夫。あの子、殴られたら殴られる程強化されるから。一応、リジェネも掛けてるからよっぽどのことがないと死なないと思うけど……うん、流石に数が多いからちょっと加勢しないといけないかな?」
「わ、私も手伝います!」
「ヴィイと嬢ちゃんはイオが漏らした雑魚の掃討。俺はあン中に入ってイオの援護をするから危なくなったら援護を頼む!」
「「了解」」
敵の群れの中心部でぐるぐると円を描くように斧を振り回しているイオですが、その攻撃を抜けてこちらへとい近づいてくる魔物も少なくありません。
イオさんが狭い通路で戦ってくれているおかげで、数自体は少なくなりましたが……。しかし、私たちが広場に陣取っているせいで魔物が広がってしまい相手取るのに面倒です。
イオとパパラチアさんの攻撃を抜けて来た敵へと近づき、なるべく急いで倒してから次の敵へと移動する。私が一体倒している間にヴィイさんは複数体の魔物を倒していて、それどころか、通路付近の敵……つまり、イオの手助けをしていました。
かれこ二十分程戦い続けたでしょうか。通路一面を覆いつくしていたはずの魔物の姿は何処にも見えません。
その代わり、抜かれた後の雑草のようにしなびて散らばっている魔物の成れの果てが辺り一面に広がっていました。
いやぁ、これ、かなり経験値入って来てますね?
最初から数を数える事なんて諦めていましたけど、結構な数が居たはずですし……。ただ、労力と時間の効率を考えると、手放しで美味しい……とは言い難いですね。
モンスターハウスが確定であるとは限りませんし、なによりあの数を捌き切るのはかなり困難です。今回は、運よくパパラチアさんが居て逃げる事が出来ましたが、本来であればあの部屋で四方八方から攻撃されて死んでいたでしょうし。
うん、やっぱりモンスターハウスレベリングはやるべきではありませんね!
「うぅ……疲れた……目が回る……」
「ふぃー、流石にこの数捌くのは疲れたぜ……」
「削ったのほとんど僕だったじゃん。そもそもパパラチアが連れて来たくせに」
「なんでお前ら姉妹はまず最初に俺を疑うかなぁ!?」
「日々の行動からでしょ、イオもパパラチアも回復するからこっちに来て」
「あー、別に自然回復でどうにかなりそうなもんだが」
「どうせ私のMPも余ってるんだし、使わないと損でしょ。あんまり魔法を使わなかったから」
「皆さん、私のせいでご迷惑をおかけして本当にごめんなさい」
「いいのいいの、レイヴンさんが気にする事ないわ。私たちのレベリングって大体こんな感じだし、ねぇ? イオ」
「ん、そうだねー。大体見えてる敵を全部纏めて一気に倒すことが多いからねぇ。流石にこの数くらいになると初めてのことだけど、どうにかなったし平気平気」
ヴィイさんがお二人の回復をしているうちに、素材の回収をしておきましょうか。植物系の魔物なので、割とどこの部位でも食べられると思うんですけどね。
身近で割と食べている植物と言えば……個人的にはアロエですかね。美肌目的にも使えますし、アロエのお刺身も本当に美味しいんですよねえ。
こっちに引っ越してくる前は、裏山で野草や山菜を取って来てはお婆様に揚げてもらっていたものですが……。こっちに来てからはそんな機会もめっきり無くなってしまいましたし。
七草がゆもしばらく食べていませんねえ……。久しぶりにお婆様のタラの芽の天麩羅が食べたくなってしまいました。今年のお盆にはどうやら帰省しないみたいなので、年末か年明け……タラの芽の食べ頃っていつでしたっけ?
いやいやいや、違います違います。タラの芽の食べ頃じゃなくて、魔物から食べられる素材が取れないかどうかって事が重要なんですってば。
さてさて、なっにっがでるかなー?
【素材】綺麗な蔦 レア:N 品質:D-
丈夫で綺麗な蔦。
【素材】綺麗な葉 レア:N 品質:D-
葉脈の透けた綺麗な葉。
【素材】汚れた根 レア:N 品質:E-
土で汚れた根っこ。
【食材】薔薇の花びら レア:N 品質:D
甘い香りの漂う花弁。
うーん……素材……素材ですか。
出来れば食材で来てくれた方が助かったんですけど……まあ、一応素材でも料理には使えるんですけど……失敗作が出来る確率が上がっちゃうんですよねえ。
試しに作ってインベントリの片隅で眠っている失敗作の山もいつか処理をしないといけないんですけど……家畜の餌とか?
一応食材も出て……食材? 薔薇の花弁なんて香りつけ以外に使用用途ありますかね……?
付け合わせ……いや、お皿の色どりにも使えますか。そんな小洒落た料理を一度も作ったことがないので、本やテレビで見たような料理の見様見真似になってしまいますけどね。
「おーい、嬢ちゃん。死体漁りは終わったかー?」
「言い方悪すぎません!? いや、確かに私の種族を考えたら正しいですけど!」
「悪気があったわけじゃないんだが……そっちで散らばってるのよりイオが散らかした所を漁った方が楽でいいんじゃねぇかと思ってよ」
「流石に私が倒したわけではないですからね。それに、ドロップ品だけで十分入って来ていますよ。これは解体のスキルレベルを上げたいだけなので。そろそろ次の階層に移動しますか?」
「ん、それが予想以上に戦闘が長引いたせいでな……。俺もあいつらも一旦飯を食わねえと、空腹ゲージが不味いんだが……」
「あ、それならせっかくですし、私が料理を作りましょうか? インベントリの中に食材はありますし、多少お時間は頂く事になりますけど」
「……いいのか?」
「皆さんに手伝ってもらっていますしね、これくらいは。それに、私の種族は後々料理に依存したスキルとか出てきかねないので、今のうちに料理スキルをあげておきたいですし、是非私に作らせて頂けると助かります」
「それじゃあ、嬢ちゃんに頼むとするか。ヴィイとイオには伝えとくぜ。もう此処で作っちまうか?」
「そう、ですね。別にどこでも構いませんが。次の階層で敵と出会う確率を考えたら此処で作るのが得策でしょう」
「わかったぜ」
そういって、パパラチアさんはヴィイさんとイオの二人と合流した後、魔物の残骸の方へと。おそらく解体やらなんやらをするつもりなのでしょう。
それでは、今のうちに私の方も料理を作り始めましょう。
自分で食べる分には別段問題ない味をしていると思うのですが……他の人に食べてもらうのは初めての事なので、上手に作らないと……!
pcが壊れてiPhoneで書いているので、段落頭の空白がおかしいかもしれないので、誤字などがあれば報告よろしくお願いします。




