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Babel Online   作者: 虹色橋
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 翌日、目を覚まして壁を見る。

 時計の針は五時を回ったあたりだったせいで、早く目が覚めてしまった……なんて思っていましたけれど、カーテン越しに差し込む紅い光が、私に夕暮れ時だということを知らせてくれました。

 布団を脱ぎ捨てて、ぼさぼさに荒れ狂った髪の毛を軽く梳いてから顔を洗う。

 とぼとぼとした足取りで台所へ向かうと、おそらく私の昼食であったはずのおうどんにラップが掛けられていた。

 おかしいですね……いつもなら夕食の準備をしているはずのお母様の姿がありません。

 ま、いっか。


 朝から寝続けていたせいでお腹が空いて来ているのですが、夕食の時間が近い事を考えると、このおうどんに手を出すのは悪手だと言えるでしょう。

 冷蔵庫の中には……すぐに食べられそうなものがありませんね。常備しているはずの白桃ゼリーがないのは死活問題です。後で買い足しに行っておかないと……。

 ふむ。

「いただきます」

 少しだけ迷った挙句、おうどんを美味しく頂く事にしました。冷蔵庫の中やダイニングを確認しても、料理を作った形跡がなかったので夕食を作り終わるまでまだ時間がかかる事でしょうし、食べても大丈夫……ですよね?

「ごちそうさまでした」

 食べ終わったお皿を流しへ移動した後、食器棚から取り出したマグカップに紅茶を注いでいく。熱々の紅茶をぐい、と飲み干してからお皿洗いを済ませて自室へと戻る。


 そそくさとコフィンの中へと潜り込んで流れるようにバベルオンラインを起動。


 目を開けると見慣れない天井が視界に飛び込んできて、辺りをきょろきょろと見回した所で、昨日宿屋でログアウトしたことを思い出した。

 とりあえず、部屋から出て一階にあるクエストボードを確認する。

 今の私でも出来そうなクエストは……っと。

 クエストボードの中から選択出来るクエストを適当に選んでギルドを後にする。


 後は、露店で料理スキルのレベリング用素材を買っておかないといけませんね。所持金に関してはある程度あるので、そこまで心配することもないでしょう。

 ナマモノは腐るのでそこまで量を買う事は出来ませんし……。やっぱり卵を大量に買ってゆで卵を量産してしまいましょう。


 まずは、プレイヤーの露店ではなくNPCのお店に向かいましょう。

 確か、ギルドへ続く大きな道にたくさんお店が並んでいたはずです。

 

「すみません、卵ありますか?」

「あいよー。卵だけでいいのかい? 他にもおすすめの商品があるんだが」

「いえ、卵だけで十分です。んー……そうですね、とりあえずあるだけください」

「毎度ありー。売り切れちまった商品は毎週火曜日に入荷予定だからまた来てくれよな」


 大通りで見つけた食材店でとりあえず、卵を十個購入。というか、制限があって十個までしか買えませんでした。

 そして入荷は毎週火曜日……今日何曜日でしたっけ?  

 夏休みに入ったせいで曜日感覚が麻痺していますが、確か……えっと、日曜日?

 それにしても、一週間に十個の購入制限って結構面倒ですね。素材や調味料を無限に買って簡単なモノでレベリングをするつもりだったのですが……。とはいえ、他のプレイヤーから買うのもなんだか勿体ない気もしますし。


 確か、受注したクエストの中に鳥系モンスターの討伐があったはずなので、クエストの消化ついでに卵堀りでもしますか。


 とりあえず、今は買ったぶんの卵を調理してしまいましょう。

 大通りのど真ん中で《料理》を使用。カセットコンロに火をつけて、水を張ったスキレットの中に塩を振ってから卵を投入する。

 基本的な調味料は料理メニューのタブにありました。品質はあまりよくないようですけれどね。

 作るのは簡単なゆで卵・・・・・・なのですが。ゆでる時間って何分がベストなのでしょうか。

 個人的なゆで卵の黄身の固さはとろっとろの半熟が好みなのですが……時間は現実時間と同じで良いんでしょうか? それともゲーム内時間・・・・・・? 

 ゲーム内の一日は現実世界の二時間だったはずですから、とりあえず現実時間で九分間間茹でてみますか。


【料理】ボイルドエッグ レア:N 品質:E

 茹でられた卵。


 ぬぅ……品質が低い……。

 試しに一つ食べて見ると、黄身がパサパサになってしまって食べられたものじゃありません。いや、あくまで個人的にですが。

 原因ははっきりしていますし、今度は茹でる時間をゲーム内で九分にしてみましょう。

 

【料理】ボイルドエッグ レア:N 品質:D

 茹でられた卵。


 ん、さっきよりも品質があがりましたね。中身は……うん、良い感じの半熟具合です。とろりとした黄身のまろやかさが口の中に広がって美味しいですね、贅沢を言えば醤油が欲しい所ですが。


 料理スキルのレベル上げを兼ねて、持っている卵を全部茹でてしまいましょう。一気に作れないのが少し残念ですが、まあ良いでしょう。大した時間もかかりませんしね。

 ただ、料理をしている場所のせいなのでしょうが、道行く人がなにしていんだこいつ……って視線を送ってくるのが辛いです。

 

 突き刺さる視線を我慢しつつ、持っていた卵を全て茹でる。

 スキルレベルが3になりましたけど……新しい調理法の解放はされていません。スキルと同じで考えるのなら、おそらく5レべ刻みで新しいものが覚えられるはずですし、とりあえず料理用の素材集め、です。


 えーっと、鳥系討伐のクエスト詳細を……んん?

 クエストの詳細選択をしたら白い糸のようなものが現れました。その糸のようなものは街の外へと続いていて……ああ、なるほど。これガイドですか。

 これを追っていけば、選択したクエストの目的地まで辿り着くことが出来る、と。へぇ、便利ですねこれ。


 糸の先へと向かって街の西口からマップを移動。

 痩せこけた原野へと到着しました。

 枯れ果てた木々と、草一本すら生えてない痩せた土地が目の前に広がっています。


 辺りには、小さなニワトリような生物が。

 鳥の頭に蛇の尻尾……ということは、あれは――ミニトリス?

 ああ、小さいコカトリスだからミニトリスですか。なるほど。いや、バジリスクでしたっけ? あの辺りは伝承がごちゃごちゃしているせいで、ややこしいんですよね……。


 まあ、別段狩る分には何の問題もないでしょう。

 ミニトリスの肉が鶏肉メインなのか蛇肉メインなのかで私のやる気が若干上下しますけど。そういえば、あれって本体はどっちなんでしょうか。

 身体の割合だけで言えばニワトリの方がメインっぽいですけど、どこかの文献では蛇がメインだと記述があったはずです。

 個人的にはメインがニワトリであってくれた方が嬉しいんですが。蛇肉なんてジャパンスネークセンターくらいでしか食べる機会がないので、食べてみたい気持ちはあるんですけどね。


 そもそも鳥系モンスターを倒しに来た理由は卵を集めるためなので、肉は関係ないんですけどね。重要なのは卵が鳥類のものなのか、爬虫類のものなのかですよ。

 私が本体を気にしている理由はそこにあるんですよ。鳥類の卵だったら何も問題はないんですけど、爬虫類の卵だった場合どう料理すればいいんでしょうかね?

 蛇とかって何処から卵を産むんでしょうか……? 口? 大魔王じゃあるまいし……私が知らないだけでちゃんとそういう器官が存在するんでしょうね。


 とりあえず、ドロップ品を考察する前にクエストを完了させてしまいましょう。えーっと、鳥系モンスターを十匹討伐ですか。

 モンスター区分が鳥系になっているので、きっとミニトリスも鳥なのでしょう。


 一応、背後に回ってから……あれ、見つかった!?

 あっ! 背後に蛇の目があるせいですか! 

 マーカーが赤くなり、ミニトリスが戦闘状態へと移行する。先手で攻撃したかったのですが、仕方ないですね。真っすぐ一直線にミニトリスとの距離を詰めようとした所で、出鼻を挫かれる形で、相手からの攻撃を喰らってしまう事になりました。

 背を向けているから攻撃されることはないだろうという油断が、なかったとはいいませんが……まさか、蛇の口から毒の塊が飛び出してくるとは思いませんでした。


 んー……毒状態ですけど、そこまで体力が減るわけでもないですね……。このまま続行しても問題ないでしょう。時間も一分だけみたいですし。


 正面と背後に立たないように移動しつつ、側面から≪ツインスラッシュ≫を繰り出す。ミニトリスは「グワァッ」と小さな鳴き声を上げながらよろける。畳みかけるように一撃、二撃と追撃した所で、ミニトリスはそのまま倒れて動かなくなる。


 ふむ……。側面から攻撃してしまえば、反撃されることなく倒せそうですね? そもそも、レベルがそこまで高くないお陰で攻撃自体も痛くないですし。いや、痛くないのはキャラのHP的な問題で、全身を回る毒はなんというか……その、全身を指圧されてるような痛みがあるのでむしろ毒になりたいというか……。


 いや、Mではないんですけど。心地いい気持ちよさといいますか。

 あ、忘れる前にミニトリスを解体しておきましょう。


【素材】ミニトリスの羽 レア:N 品質:C

 少し小さなドラゴンの羽のようなもの。


 ん……。今回は肉じゃなくて、羽ですか。解体という文字面から肉のみかと思って居ましたけど、よくよく考えれば確かにそんなわけありませんよね。解体すれば皮や骨なども出てくるわけですし。

 確率のドロップ品よりも、解体すれば確実にアイテムが手に入るわけですし。まあ、望んでいるモノだけが出るわけじゃないのですが。スキルレベルが上がれば狙って手に入れる事が出来るようになればいいですけど。



 それから、クエストの完了のためにミニトリスを狩っては解体を繰り返し、ニ十分程経った所で目標の討伐数に到達……したんですけど……。


 卵……一個もないんですが?


 解体しても、羽やら肉やらが出るばかりで卵がないですし……。もしかして、卵ってドロップしないんですか? そもそも、このミニトリスに雌雄の概念があるかも怪しいですが。

 あと、倒してる途中に舐め腐ってミニトリスに正面から挑んだ結果一瞬だけ石化してしまうという事故がありました。

 小っちゃいとはいえ、ちゃんと毒に石化とコカトリスの能力を持っているんですね。長時間の石化ではありませんでしたけど、コカトリスやバジリスクと戦う時は気を付けた方が良いかもしれません。

 

 それから、スキルレベルを上げるためにしばらく狩っいましたが、卵は一度も出てこなかったので今のところは諦めましょう。


【食材】ミニトリスの肉 レア:N 品質:D

 ミニトリスのもも肉。


【素材】ミニトリスの皮 レア:N 品質:D

 ミニトリスの滑らかな皮。


 ドロップ品は羽と肉と皮ですか。んー、そうなると、当初の目的であるゆで卵量産計画に変わる何かを考えないといけません。

 お湯に卵を入れるだけで出来るゆで卵は作るのも簡単で、素材も卵一つだけで出来るので手間も時間もかからないので楽ではあったのですが……肝心要の卵が手に入らないのは予想外です。NPCからの購入も週制限があるようですし……。


 手間がかからない料理……?

 今、手持ちにある食材が……蝙蝠の肉とミニトリスの肉……それに、宿屋のボックスの中に置いてきたスピアフィッシュですか。


 ふーむ。

 蛙の肉みたいに、茹でてしまうのが一番簡単なのでしょうけれど、ただただ肉を茹でるだけではあまり経験値が入ってなかったような気がしますし。

 いっそ、焼いてみましょうか。調味料が別タブにある事はさっきゆで卵の時に分かったので、塩コショウだけの単純な味付けになってしまいますが。


 そうと決まれば、マップの端っこへと移動して料理を開始する。小さなカセットコンロの上にスキレット置いて少し温めてから、油を薄く引く。

 今回投入するのは、先程手に入れたミニトリスの肉です。どうやら、見た感じでは鶏肉っぽいので、チキンステーキにしてしまいましょうか。


 ナイフトフォークで、ミニトリスの肉の筋を切ってから皮目が縮まないように、穴を開けてからスキレットへとお肉を投入。

 本来であれば、下味をつけて時間を置いて味を染み込ませたい所なのですが……。時間もかかるので、塩をもみ込むだけにしておきましょう。今回の目的は、あくまで料理レベルを上げる事ですし。


 出来るだけ作る時間を短縮して、レベリング効率を上げたいのです。とりあえず、弱火でゆっくり炙ってから……ん、皮がパリパリになって来ました、良い感じですかね。

 余分に溢れ出た油を拭き……拭き……キッチンペーパーがありませんね?


 むむ……仕方がないですが、このまま続行してしまいましょう。

 胡椒を振りかけてから、肉を裏返し中火にして数分放置。

 うふふ、良い感じの匂いがしてきました。


 皮がパリパリになっているのを確認してから、お皿へと盛り付ける。

 うーん。美味しそう……美味しそうではあるんですが……。付け合わせが何もないのは少し寂しいですね。とはいえ、私の手持ちで付け合わせに出来そうな素材なんてありませんし……。

 ポテト……ポテトが欲しいですね?

 やはり、付け合わせの王様と言っても過言でないじゃがいもの入手は必須になりそうです……。じゃがいもと言えば……畑? 畑って実装されてましたっけ?

 後々実装予定のハウジングでは確か家のサイズに応じて畑が作れるといったような話だった気がしますが……実装時期が未定だったんですよねえ。


 まあ、現状ないものねだりをしても仕方がありません。

 あるものである程度賄って行かなければ……。クラフターというか生産系スキルの序盤はどうしても素材が不足しがちですし……。言ってしまえば調理法も未だに二つしかないですからね。


【料理】ミニトリスのパリパリチキンステーキ レア:N 品質:D

 引き締まったミニトリスの肉を焼いた料理。

 

 今はこれで我慢しておきましょう。

 レベリングも兼ねて、持っている肉を全部チキンステーキにしてしまいましょう。幸い、そこかしこ至る所に材料はありますし、ね。


 肉を焼いているだけで就寝時間が近づいて来たので今日は早めに就寝です。

 ただでさえ、昨日夜更かしをしすぎたせいで起きるのが遅かったですし……。あきれ果てられたのか、お母様からのお夕飯ご連絡もありませんでしたし……。

 ふぅむ……明日の朝は、まずお母様に謝る所から始めないといけませんね?



 翌日、早起きをして台所にいるお母様に文字では表せない程にダイナミックでスタイリッシュな土下座を三十分に掛けて披露した所で(私の名誉にかけてここで詳しい記述は伏せておくことにしましょうお母様の赦しを得る事が出来ました。これ以降、同じことがあればコフィンごと焼き払うという恐ろしい条件付きでしたが。

 あれって……焼けるんでしょうか……?

 

 流石に、忠告を頂いたその当日から長時間コフィンに潜るわけにもいかないので一週間程度は様子見をしなければなりませんかね……?



 結局、お母様に怒られた月曜日から土曜日の夜まで、毎日数時間程度、キャラクターと料理スキルのレベリングしか出来ませんでしたが。

 毎日数時間はやりすぎじゃないの? なんて突っ込みが飛んできそうでしたが、私しかいませんし。

 そもそも、夏休みの学生なんて自由時間を持て余しているでしょう? 受験生の三年生ならまだしも、私はまだぴちぴちの二年生ですし。

 十七歳JKですよJK。

 まあ、山積みになっている課題に取り掛かれたので、残りの夏休みは殆どゲームに費やせるといっても過言ではありません。

 今日は流石に疲れたので、今からバベルオンラインを起動しよう、だなんて思いませんが。

 ある程度料理スキルもキャラレベルもあがったので、明日から本腰を入れてやっていきましょう。


 おやすみなさい。また明日。 


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