グールの死闘
死体が匍匐前進してるとマジでホラーっぽい絵面になるよね。
こんにちわ、グールです。
現在、廃村から入ってすぐ、街道脇の森の中で大変都合よくゴブリン三匹のチームを発見して接近中です。
人の手が入ってない森は、入口付近でも下草が鬱蒼としている。
アンブッシュ、アンブッシュ。
茂みが多いのはとても助かります。
ゴブリンズと俺との距離は、おおよそ歩幅50歩分ぐらいか。
向こうはまだこちらに気づいていない。
弱そうなゴブリンAと、弱そうなゴブリンBと、革のかぶとをかぶった、すこしごついけどやっぱり弱そうなゴブリンCが、車座に座ってごぶごぶ言いながら笑ってる。
ちょっと楽しそうだな。
仲間がいるのが羨ましい。
対する俺はここ一年ずっとぼっちだ。
一人ぼっちは、やっぱり寂しいよぉ。
俺も仲間がいれば、もうちょっとマシな手が、いや、どっちが危ない橋渡るかで喧嘩になりそうだな。
やっぱなしなし。
ずりずりと身を這わせながら俺は思考する。
体は泥ででろでろだ。
しかし、一番最初に見つけた群れが都合よく三匹なのはホントついてた。
二匹以下の集団はまずいない。ゆえに一番いい乱数を引けたと思って間違いない。
これは行けるぞ。勝率5%が15%ぐらいになったはずだ。
三倍だぞ三倍。
およそ5分以上かけて、俺はようやく魔法の射程圏内まで接近した。
ゴブリンの近くの茂みにもぐりこみ、魔力を練り始める。
物音で気づかれないものなんだな。
三匹ともおしゃべりに夢中なのかもしれん。
そして俺は所定位置につくと同時に仕掛けた。
こんにちわ、死ね。
ガッという鈍い音とともに、ゴブリンBの頭上に石塊が直撃する。
当たった!
重力さまさまだ。
俺は、上空約5mからから魔法で形成した頭部と同サイズの石の塊を落とした。
そこそこの威力は出たはず。
重力加速度が乗った良いパンチを貰って、ゴブリンBの体がぐらりと揺れる。
残り二匹は、慌てて立ち上がると、周囲の警戒を始めた。
おっそいぜ。坊や達!
俺よりスローリーとか相当だぜ!
果たして今ので仕留めきれたかどうかは分からないが、俺はすぐに次の詠唱に取り掛かった。
次はかぶとをかぶってるゴブリンCを狙う。
革にうまいこと着火してくれると俺としてはとても助かる。
こいつちょっと強そうだし。
そして魔法が完成すると、ゴブリンCの頭部からキャンプファイヤーが上がった。
頭部が炎上して絶叫するゴブリン。
「ごぶー!!!」という叫び声がどこかコミカルに響く。
俺の動きがよぼよぼの爺さんみたいに緩慢なのもあって、ひどく緊張感にかける絵面だ。
お互い命かけてんだけどな。
仲間が立て続けに攻撃されて、動転するばかりの残る一匹に俺は肉薄した。
あとはこいつに俺の爪で一撃与えれば、リーチだ。
常人の二倍ぐらいの時間をかけて、のそーっとした動きでゴブリンAに近づいたおれは、奴の背中に爪を立てた。
ガリッという手応とともに、相手の体がびくっと痙攣する。
正座してビリビリすると敏感になるよね。
多分、あんな感じなんだと思う。
どうせ突くなら女の子を突きたかったなぁ。
そして俺は、手に握った短刀を相手の腹に突き込んで捻った。
短剣を突きこまれたゴブリンAは、血を吐いて悶絶する。
俺は短剣を引き抜き、もう一度体重を乗せて突き刺した。
「ごぶっ」
最期までその鳴き声で通すんだな。
俺はちょっと感心した。
ゴブリンAはそのまま絶命した。
同時に短剣も柄から折れて絶命。
前倒したゴブリンからの戦利品だったんだが、よくやってくれたよ、錆びた短剣!
ゴブリンAは今仕留めた。
ゴブリンBは?
よし死んでるな!
おれは座った姿勢のまま横に崩折れているゴブリンBを見て、撃破を確信する。
残りはゴブリンCだけ!
ん?やつはどこいった?
俺が敵を求めて首を回した、その瞬間、おれの萎びた体を横殴りの衝撃が襲った。
ぐえー。
ゴブリンCが手に持った長剣をぶん回したのだ。
それが俺の貧弱ボディを横からぶっ飛ばした。
奴め、戦線復帰してやがったか。
おれは宙を水平移動しながらも、どこか冷静に自分の身を見つめていた。
そのまま地面に叩きつけられ、ころがる。
ぐえーとかぬるい悲鳴をあげてみたが、落下の衝撃で全身の骨がばらばらにりそうだ。
クッションになる肉が殆ど無いせいだろう。
二度、三度と地面を跳ね、立ち木にどう、と当たって静止する。
そして、グールは動かぬ死体となった。ふりをした。
まだだ、まだ終わらんよ。
奴の長剣の刃がほとんど潰れていたのは幸いだった。
下手をすればまっぷたつでおだぶつだが、俺は幸い生きている。
ゴブリンの怒りの咆哮を遠くに聞きながら、俺はまだ戦意を失っていなかった。
明らかにパワーは向こうが上、多分スピードも敵わないだろう。
だが、死んだふりからの奇襲が決まれば、まだチャンスは有るはずだ。
ちなみに遠くから投石されたらアウトだ。俺の負けが確定する。
いきなり飛びかかられてもアウトだ。またしても俺の負けが確定する。
俺が動く前に、上からのしかかられてもアウトだ。やはり俺の負けが確定する。
敗北条件が多すぎる。
こんなの酷いよ…
ゴブリンCは徐々に近づいてくる。
慎重な足取りだ。
俺の魔法を警戒しているのかもしれない。
横たわる俺は、その足音に耳をすませながら、自分の体の状況を確認していた。
直撃をもらった右の腕が感覚が無い。動かないと見たほうが良さそうだ。
足は問題ない、はずだ。
体は、今の一撃で骨が何本か逝ったかもしれんが、あと一匹仕留める間だけ保ってくれればいい。
ワンパンで即死させられなかったのは本当にラッキーだった。
ゴブリンに一撃死させられかけてる時点で、割りと涙目な状況なんだが、今それを嘆いても仕方がない。
俺の作戦は単純だ。
最速で立ち上がり、左手で掴みかかって麻痺を入れたら武器を奪って一撃入れる。
奇襲からの正面攻撃だ。
ゴブリンが近づく。
俺は、頭のなかでイメージを作り、そして、それを実行に移した。
俺が立ち上がる姿を見たゴブリンCは、手持ちの長剣を振りかざした。
残念ながらちょっと間合いが遠かった。大股で三歩ぐらいの距離がある。
気が急いてしまったようだ。
くそう、やっぱ奇襲は無理だよなぁ。
ゴブリンCが踏み込みつつ振り下ろす長剣の軌跡をみて、俺は、構わず前進し、奴の喉元に食いついた。
剣閃が走り、ゴブリンの絶叫がこだまする。
そしてグールとゴブリンがもみ合いながら地面に倒れ込んだ。
くんずほぐれつ、濃厚な二人の絡み合いが、今始まる…




