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グールの進化

俺はリコから受け取ったゴブリンジェネラル(リコ談)の魔石を取り込んだ。

(リコ談)と注釈したのは、リコからもらった魔石の色が俺の知ってるゴブリンジェネラルとちょっと違ったからだ。

俺が知ってるゴブジェネの魔石はクリーム色なんだが、リコからもらったのは、なんか青かった。

後にリコにも確認したが、「でもゴブリンジェネラルっぽかったよ」という曖昧な回答をもらったので、リコが無理に強い相手を狩ってそれをごまかしたわけではないようだ。

もはや手がかりもないので、俺達の中では迷宮入り案件となっている。

俺が進化するのに、十分なマナが蓄えられていたのは事実だ。


そして俺の進化が始まった。


モンスターの進化っていうと、こうピカーっと光ってギュインと新しい体に入れ替わるイメージがあるかもしれない。

進化が完了すると、ファンファーレとかなっちゃう感じだ。

ついでに、Bボタンでキャンセルできる。

電気ネズミさんをいい加減、進化させてあげて下さい。


しかし、俺たちの世界のモンスターの進化は、だいぶ違う。

俺達の進化は、昆虫の変態に近い。

変態って言っても、俺みたいなエッチな奴のことじゃないよ。

イモムシが蝶に変身するアレだ。

イモムシから蝶になる際に蛹を経由するんだが、あの蛹段階が進化になる。

進化っていうのは、ものすごい勢いでイモムシが溶けて蝶に生まれ変わると思ってもらえればいいと思う。

生物学の学者さんたちが「それは進化じゃねぇ!」って騒いでたんだが、世の中の声に押し流されて消えていった。


進化では、自分の体内の魔石に溜め込んだマナで体を再構成しつつ、古い体組織を分解吸収していくのだ。

俺はこの進化を体験した。

一言で言おう。


くっそ痛い。


もう、死ぬほど痛いのだ。

実際、モンスターを使った実験でも結構な割合で外傷性ショック死を起こす。

それぐらいの痛みだ。

強くなるための道はなかなか過酷だ。


痛みは神経の信号だ。


進化すると、すごい勢いでむき出しの神経がぐりぐり肉の中を這い回りながら新しい体が再構築される。

それに並行して古い組織の神経がグズグズになって溶けていく。

この間、物理的な刺激がバンバン神経にハードタッチするので、当然のことながら痛みは凄まじい。

俺は我慢強さに自信があるが、そんな俺でも生身で食らうことになったら泣きが入るレベルできついと思う。


モンスターにも力を求める個体は存在する。

でも、一度進化を経験した個体は、二度と次の進化を目指さなくなるそうだ。

さもありなん、ってレベルの苦行だった。


ちなみ俺の現在の体はグールだ。

幸い、痛みにはかなり鈍感だ。


そんなグールボディで実際に味わってみた感じだが、多分尿道結石の痛みよりは下で、麻酔無しで歯を抜くよりは上だった。

歯の方は抜かれたことがある。

一応言うと拷問じゃない。親知らずの抜歯だ。

俺の歯の治療をしていたメリッサとかいう闇医者が、「ん!?麻酔忘れたかな?」とかいいながらぶっこ抜きやがったのだ。

血がドバドバ出たので、謝礼の代わりに拳骨をくれてやった。


グールでさえそのぐらい痛い。

生身だとこれ以上の痛みだということだ。

いや、ほんと、初めて自分がグールで良かったと感謝した。


進化自体は二時間ほどかかった。

この間、俺は、リコの目の前でぶっ倒れて、びくんびくんとのたうち回っていた。

もう、これは責任とってリコのお婿さんにしてもらわないと、ぐへへ。ってレベルのひどい醜態だったと思う。

耐えられると言っても、痛ければ体は反応しちゃんだ。

仕方ないよね。


あと、リコの視線がとても気になった。

この子、びたんびたんしてる俺のことじっと見てたんだ。

絶対にSだよ!



進化を済ませた俺はのそりと立ち上がった。

左手を動かし、右手を動かし、顔を触る。


「やったね、グールさん!感じはどう?」


リコが緊張の面持ちで尋ねる。


俺は体の感覚を確かめる。

失った手も、目も戻っている。体のうごきも滑らかだ。

俺はみなぎるパワーを感じていた。


間違いなく、進化は成功だ!


ちなみにだが、単純な膂力は元が酷いことも手伝って進化前の100倍ぐらいに増強されていた。

100倍パワーって相当だぞ。

10kgの荷重しか持ち上げられなかった非力ちゃんが、魔導車二台まとめて運べるようになるのだ。

俺はやっと人並みの戦闘力を得たのだ。


なお、もうちょい後の話になるが、ゴブリン程度なら普通にパンチ一発で昇天させられた。

元魔法使いの俺が、嬉々としながら前衛することになるとは思わなんだわ。


俺はガッツポーズを決めつつ、リコに向き直った。


"おう、やったぜ、リコ!最高の気分だ"

「よし、きた!いいね」

"でも俺には、気になることがあるんだ"

「なぁに、グールさん?」


リコはちょこんと首をかしげた。

おれは一拍ためてから、とてもとても重要な問いをした。


"俺の体、やっぱりしわしわなんだけど、もしかしてグールさん、グールのままじゃない?"

「だってグールさんはグールだもの。当然じゃない!」


そうだね、当然だね!

っておーい。


前のしなびたボディと比べて、今の体は見違えるほどたくましくなっていた。

干からびたごぼうが、超新鮮なごぼうに生まれ変わった感じだ。

近所の農家の人が、「うちのごぼうは特別だかね!あんた、一本持ってきな!」ぐらいの感じで渡してくれるごぼうに近い。

だがごぼうはごぼうだ。

大根とは違う。


体はガリガリ肌もしわしわ。

前と比べれば明らかにみなぎるパワーを感じるのだが、おれが期待していたのとはちょっと方向性が違った。


"おれ、ヴァンパイアとかのほうが良かったんだけど…"

「わたしはグールさんのその姿好きだよ」

"まじで!?"


リコの美的感覚はおかしい。

俺は確信した。


俺は体の感覚を確かめるために、ぴょんぴょんはねたり、なんとなくシャドウボクシングしてみたりしたのだが、動きに切れがあった。


体が軽い…

本当に生まれ変わった気分だ…

もう何も恐くない━━━!


心臓止まってるからな。

死亡フラグも怖くないのだ。


まぁ俺が一気にパワーアップしたようにみえる裏の事情は、皆さんご存知のとおりだろう。

前のボディが抱えていた300年分の経年劣化がなくなったのだ。

そりゃあ強くなるに決まっていた。


"これって、なんて種族なんだろう?"

「グレーター・グールってやつじゃないかな。わたしは初めて見るけど。ちょっと浅黒いね」


リコは言った。

グールからグレーター・グール。

進化にもいくつか方向性はあるのだが、単純に基礎性能が強化される感じになったのだろう。

特に進化先を指定するような場面はなかったので、これ一択だったと思っていい。


グレーター・グールか。

俺も聞いたことはあった。

ただ天然のグールは進化などしない。

ゆえにグレーター・グールが自然発生することはほぼありえない。

実験室レベルでしか存在は確認されていなかったはずだ。

グレーターになるとパワーは無印グールの3倍ぐらい出たんじゃなかったか?

でもしわしわは元のままなんだよなぁ。


萎びた両手を見つめて俺はちょっと肩を落とした。


"まだグールのままかぁ、ちょっと残念だな"

「でもグールいいじゃない。再生能力も強いし。パワーもあるし」

"いや、早く受肉してリコにさわりたかったなって"


俺は本音をぽろっと零した。

リコが吃驚した顔をした。

俺は気づいた。


グールさんアウトです!セクハラ有罪確定だ。


俺は即座に動いた。

ノータイム土下座だ。ラップタイムを更新する勢いの鮮やかな加速。

俺の向上した身体性能は、土下座の速度と姿勢維持に遺憾なく発揮された。

この体すごいぞ。

流れるような土下座が可能だ。

俺の生前以上に滑らかな動きだった。

生前の体の感覚なんてもうよく覚えてないけど。


地べたに額をこすりつけた俺の頭上から、リコの声が響く。


「グールさん。わたしに触りたいの?」

"はい、でもグールだと感覚が鈍いんで、普通の肉体が欲しかったのです"

「そ、そうなんだ。へー」

"何卒、何卒、お慈悲を頂きたく。これは本能で御座いますゆえ、何卒"


俺は平謝りするばかりだ。

しばらく沈黙があったが、リコは「いいよ、別に」といって許してくれた。


やっぱりリコは天使だ!


俺は確信した。

ここに記念碑を建てよう。


俺はムクリと立ち上がった。

この勢いで懸案を片付けてしまおう。


"よし、じゃあリコ。服を脱いでくれ"

「へっ」

"怪我してるだろう。背中だ。すぐ見せなさい"


リコが青ざめた。

隠しても無駄だぞ。俺は賢いんだ。


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