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ゴブリンネスト襲撃計画

俺の恥ずかしい過去を暴かれたような気がする。


なにが恥ずかしいかって?

そうだなぁ、例えばだ。

例えば、「勇者の災厄、その最初期の反抗戦における最大の英雄にして、全能を謡われた大賢者ロイ・オルティース」なる人物がいたとしよう。


俺じゃないよ。俺じゃないからね。あくまでたとえ話。

で、その人物紹介にこう付け加えるのだ。


(39歳・童貞)と。


「勇者の災厄、その最初期の反抗戦における最大の英雄にして、全能を謡われた大賢者ロイ・オルティース(39歳・童貞)」


やめろ。違う。俺じゃない。俺はロイなんて名前じゃない。俺を見るな。

彼は別人だ。別人だけど、それ以上その人を辱めるのはやめてくれ。

頼む。


だって、かわいそうだろ!

恥ずかしい過去を暴露しちゃって、泣いてる大賢者だって居るんですよ!?


ほんとね、何が大賢者だって話ですよ。

たんにナニのし過ぎで悟り開いてるだけじゃないのかと。

あとお前、全能なのにそれは外せないのかよ。

どんだけ強力な呪いだよ。


と、このように、童貞という単語をつけられると、どんなものでも大概、酷いことになる。

本当にひどい。

なんで死んでまでこんな辱めを受けなくちゃならないんだ。


しかしこれで、俺の苦悩についてもよーく理解してもらえたとおもうんだ。


童貞の呪いはすべてを超越する。

これは世界の真理だ。

数少ない真理の一つだ。

間違いない。

ゆえに俺は、この呪いを何が何でも引きはがさなくてはならないのだ。



さて話を本編に戻そう。

廃墟の案内を終えた俺は、リコとともにマイホーム(B1F)に戻っていた。

外はもう夜になっていた。


寝床にリコが腰掛けて、俺は、リコに用意してもらった椅子に腰掛けた。

自分が座る椅子すら介護してもらうとか、もうね。

涙が出そう。


ホームに戻ったリコは、何かこうスイッチが入ったようにキリッとしていた。

やる気に満ち溢れてる感じだ。

若さを感じた。溢れ出る若さだ。


でもあとから聞いたのだが、この当時リコは26歳だったのだそうだ。

神生エルフの因子を持っているから、年を取りにくいのだと教えてくれた。

ロリババアだよ!と誇らしげに宣言した彼女に、俺のストライクゾーンはお姉さんキャラだと正直に申告したら、ものすごい勢いで機嫌を損ねられて大変だった。

斜度40度ぐらいの勢いで一気に傾いてほんと焦った。

ご機嫌取ったらすぐに戻ったけど。


そんな見た目だけ幼いリコは、凛々しく今後の計画について発表をはじめた。


「グールさんには進化を目指してもらいます。進化すれば体の組織も再構成されるからその怪我も治るはず!」

"おす!"

「返事は『はい』だよ、グールさん」

"はい!"

「幸いこの付近には大規模なゴブリンの巣が確認されています。ここを強襲、中に巣食うゴブリン及びその上位個体から魔石を奪取してグールさんの強化を行います」

"はい!反対です"


リコはむっとした顔で俺を睨んだ。

俺は白濁した目で睨み返した。

リコ眼力強い。押し負けそう。

でも俺は反対だ。


なぜか。


ゴブリンやオークと言った亜人は、人間の女性をさらって繁殖する生態がある。

勿論、一般人女性が近づくのはご法度だ。

だが、戦いに慣れている女性であっても、原則近づくべきではないと俺は考えている。

なぜなら力が強い母体からは強力な個体が産まれやすいからだ。


逆に繁殖できなければ、その亜人の群れは自然消滅する。

要は女性が近づかなきゃ、それで万事解決するのである。


多分リコは強い。

捕まること可能性は低いのかもしれない。

だがその強いリコが何かの間違いで捕まってしまうと大変なことになる。


「理由は?」

"リコが危険だ"

「却下。私自身に関わるリスクは私が評価します。グールさんよりは私のほうが実戦慣れしてるはずだからね」


リコは断定するような物言いだった。

そして、そう言われてしまうと弱いのが俺の立場だ。

要介護者状態では、何を言っても説得力もない。


これ以上ゴネると、爺さんと娘さんの

「わしはお前のことが心配なんじゃぞ!」「はいはい、そうね、おじいちゃん」

みたいなやり取りになってしまう。


ただ俺は、リコの命を危険にさらしてほしくなかったのだ。

この当時、俺はそこまでこのグールの生に執着があるわけではなかったので、リコの都合を優先してもらいたかった。

まぁお察しの通り、要らないお世話であった。

リコはかなりマッシブな撲殺天使であったのだから。


「言うより見てもらったほうが早いかな。30分ぐらい待っててね」


そう言ってリコはトコトコっとマイホームを出ていき、30分ぐらいでテケテケっと帰ってきた。

ほんとにテケテケっ感じだった。

体の横に手を添えたペンギンみたいなスタイルっていったらわかるだろうか。

ヒゲダンスみたいな感じ。


可愛い小走りで俺の前まで来たリコからは、むわっと濃厚な血の匂いがした。

ゴクリと喉が鳴る。

つばなんてもう枯れちゃってるから出ないけど、グールの本能だ。

美味しそう。


「はい、グールさん」


貼り付けたような笑顔のリコが両手に抱えた革かぶとには、血塗れの魔石が山盛りになっていた。

尋常じゃない量だ。軽く30はありそうだ。

これ全部、今狩ってきたに違いない。

ちょっとそこまでお散歩に~、みたいな気軽さで、この天使の顔をした少女はゴブリン30匹の脊髄ぶち抜いてきたのだ。

とんでもない。


「折角とってきたから、とりあえず食べてよ」


リコが俺の目の前に兜を置く。

ごとりと兜が揺れ、ごくりと俺ののどが鳴った。


リコは相当な手練だった。

いや手練なんてもんじゃない。

彼女は、確か魔法を使うのを躊躇していた。

おそらく今回も、魔法は使っていない。

つまりその物理力だけでこの戦果をあげたのだ。

間違いなく化物に片足突っ込んでる。


「強行偵察に出てきたわ。残念ながら上位種はなし。いても大した脅威じゃないしね。そもそも私、ゴブリンごときにおくれを取るほど弱くはないの。心配しないで」


凄みがある声だった。

リコは鋭い眼光で俺を睨んだ。

もう文句ないよね!?そんな感じだ。

おれはコクコク頷いた。


いえす!いえす!まむ!


「作戦は日の出とともに開始。敵ネストに接近すれば勝手に向こうからつっかかってくるでしょ。グールさんは私から離れないこと。あとは自衛に徹して私が処理したゴブリンの魔石を取り込むことに専念してね。多分500ぐらいあれば進化できると思う」

"はい"


リコは軽く500と言った。

だが、俺には気が遠くなるような数字だ。


前にも言ったが、俺が一年間で確保できた魔石は3つだ。つまり俺単独だと進化までに単純計算で166年かかったってことだ。

とんでもない。

166年間って、年利5%の債権100万G買っといたら33億Gまで増えてるんだぜ?相当だ。なおこの利率は税引き前のものです。


リコがいてくれて本当に良かった。

おれには、勇ましく薄い胸を反らす彼女の後ろからさしこむ後光が見えた。


リコの見た目は、全体的に平たい。

彼女の肢体からは、すごい機能美を感じる。

リコの美貌も相まって、俺はとてもカッコイイと思う。

超古代にあったステルス戦闘機みたいなかっこよさだ。


リコはぐっと拳を握り込んで、意気込んだ。


「がんがんいくわよ!」

"い、いのちを大事にね"

「でも、グールさん命ないじゃない」


ややこしいけど、一応動いてる間は生きてるってことにしてくれませんかねぇ!


そして俺達は、翌日の出撃に備えて就寝した。

リコはグールの俺さえ驚く寝付きの良さで、瞬く間に眠りについた。


寝顔はやっぱり少し顰め面をしていた。

眉間の皺にちょっとした年季を感じて、俺は笑った。



後に、俺はこの当時の事をリコから謝られた。

善意のふりをして、自分の都合を押し付けてしまった、私はとても愚かであった、と。


でも、おれはリコに感謝していた。

ここまでの俺を見てもらってもわかると思うんだが、俺は主体性に乏しい。

強いて言うなら童貞を外したいんだが、それすら後でいいかなーですませてもう40年だ。


そんな俺からすると、勝手にがんがん話を進めてくれる相方は大歓迎だった。

ベルトコンベアーに流されるような人生を希望する俺にとって、リコのぐいぐい引っ張ってくれるスタイルはとても居心地が良かったのだ。


奴隷根性なのだろうか。

そう考えるとなんか卑屈かな。


でもかわいい女の子の奴隷とか、割とみんなのあこがれポジションじゃない?

かなり何でも許容できる気がする。


「グールさん、自害せよ!」


とかリコに言われたら、変な印とかなしに死ねる自信がある。

まぁ俺死んでるけど



加えて、俺は、リコの焦りを感じとっていた。

彼女からは、誰かに追われている気配を感じた。


リコは強い。


俺も、それなりに場数踏んできたから分かる。

今でこそ俺は、しなびたきゅうりみたいになってるが、むかしは太ったナスみたいにたくましかったのだ。

あんまり強そうじゃないな、太ったナスって。

スカスカしてそう。


まぁそんな俺から見ても強いリコが恐れる相手なんて、俺の知る限り勇者ぐらいしかいなかった。

だから対勇者戦闘を前提にリコと自分の能力のすり合わせをすすめるつもりだった。


自分のために勇者と戦う気にはならないが、リコのためなら別にいいかと俺は思っていた。

今の俺からすれば勇者もゴブリンも変わらん。

戦えば死ぬ。


でも、この体だと肉盾にすらならないんだよなぁ。

もうちょっと選択肢が欲しい。

切実に。



床に身を横たえながら、俺は、以前、勇者とやりあった時のことを思い出していた。


俺が戦った勇者たちは、みな餓狼みたいな戦いっぷりだった。

奴らは本当に強かったんだ。当時は。

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