グールになった男
俺は死んだ。
勇者を名乗る強盗団に、町ごと滅ぼされて死んだ。
俺をなぶる暴漢共を前に、俺の心には強烈な思いが渦巻いていた。
怒り?悲壮?それも勿論あったさ。
だが勝てないものは仕方ない。
天災にやられたようなものなのだ。
そんなことより、なによりも、強烈な心残りが俺の体を突き動かした。
俺は、まだ、童貞を捨てていない!
金ならたくさんあったのに、おれは研究にかまけるばかりで、風俗行くならあとで良いかと、ぐだった結果が突然の死!
悔しい!悲しい!
故に俺は一縷の望みをかけて、研究中の新薬を飲み干した。
延命薬。
瀕死の状態で命をつなぐ、新開発のお薬だ。
効果は"瀕死"の人間を延命させるもの。
しかし俺の心臓を貫いた凶刃を見て、俺は失策を悟った。
完全に死んだら薬の効果意味ないじゃん!
そして意識が暗転した。
以上が、俺の死の直前の記憶である。
酷い、我ながら酷い。
突然強盗に襲われたのだから、慌てるのはわかるが、今際の際に思うことが、自分の童貞のことってほんと酷い。
そこは両親か、かわいい幼馴染のことでも考えとけよ。
だからモブから脱出できねーんだよ。
なお、俺に可愛い女の子の幼馴染はいない。
俺の初恋の女の子であるミシェルちゃんは、俺が街に留学してる間に他所の男に引っ掛けられて遠くにお嫁に行ってしまった。
この辺のエピソードで、だいたい俺の立ち位置はご理解していただけるであろう。
俺はそういう人間であった。
しかし、ろくな生前の思い出がないな。
悔しくて涙が出そうだ。俺の涙腺死んでるけど。
そして、俺は土から這い出した。
そう土からだ。
多分埋葬されていたんだろう。
自分が呼吸していない自覚はあった。故にアンデッドは確定。
この場合、可能性は概ね二択、スケルトンかゾンビのどっちかだ。
生前の俺が死霊術師でなかった以上、高位アンデッドの線は薄い。
もしゴーストなら土に引っかかることはない。土をすり抜けてふわーっと浮かび上がる。
そして殆どのゴーストはそのままふわーっと成仏する。
成仏の瞬間はとても気持ちが良いらしい。第二の自我を得た瞬間に幸せな最期がやってくる。
ちょっと羨ましい。
のっそりと体を起こした俺の目に、干からびたごぼうのような自分の手足が飛び込んできた。
よくよくその様を眺める。
腐ってもいないけど、骨だけってわけでもないな。
ゾンビより清潔で、スケルトンより肉がついてる分少し豪華だ。
なんぞこれ。
むくりと起き上がり、ペタペタ自分の体を確かめた俺は、一つの結論を得る。
これグールだ。
一度死んだ俺は、グールになって蘇った。