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第九十八話 魔王の嫁取、その条件


 ――実はね? サキュバス族の学校の卒業生の間では人間界に行ったサキュバスの間で同窓会? みたいな会合があるのよ。


 ――永遠のパートナーを見つけたサキュバスだけが参加できる会合で……言ってみれば卒業式代わりなの。自身のパートナーを見つけたサキュバスのお披露目会も兼ねているから、この『同窓会』に参加したサキュバスはサキュバス族の中で初めて『一人前』って認めて貰えるの。


 ――別段、パートナーの条件とかは無いんだけど……ほら、自分で言うのもなんだけど、サキュバスって容姿は整っている子が多いし、サキュバスの学校では将来のパートナーに愛され続ける為に色んな事を教えて貰うのよ。料理とか、裁縫とか……可愛げとか。


 ――だからその……気を悪くしないでね? こう……なんていうのか……連れて来る男性の……その、『レベル』も凄く高いのよ。そんな子ばっかりじゃないのは当然だけど、やっぱりほら……中には男性を『ステータス』で考える子もいるから。さっきのナターシャなんかその典型的なタイプで……実は私もちょっと苦手なんだ。


 ――私? わ、私はその……ま、まだ『生涯のパートナー』が見つかって無いからね? 今回は参加しない方向で……こ、小太郎とはそんな関係じゃないわよ! 何言ってるの、マリアくん!


◇◆◇◆


「……」

「……」

 ナターシャが微妙に小物臭を漂わせた後、ユメ先輩が申し訳無さそうに説明してくれた言葉を反芻しながら、俺はチラリと視線を目の前の――某有名ハンバーガーショップのパクリ、わくわくドーナツ通称ワクドの二人掛けテーブルに座ったトリムに這わす。俺に視線を向けられたトリムは申し訳なさそうに体を小さくし、チラリと上目遣いで見てくれる。あのデカい体がこれだけ小さく見えるって事は、流石に色々思う所もあるのだろう、そう思い俺は小さく息を吐いた。

「……どうした、トリム?」

「そ、その……マリア様を怒らせてしまったかと思いまして」

「怒る?」

「……先程のユメの説明を聞いたでしょう? その……私が、マリア様に……嫁ぎに来たのは……」

「……『魔王の奥さん』ってのはステータスだもんな、確かに」

 俺の言葉に『あうっ』と言いながら恥ずかしそうに眼を伏せるトリム。うーむ……なんだかな~、という感じではある。

「その……なんだ? ぶっちゃけな? 俺、別にお前がどんな目的で俺の……まあ、お嫁さん? 候補に名乗りを上げたかってのはそんなに気にしてねーんだよ」

 つうか、普通に考えてそりゃそうだろう。だってトリムはサキュバス族のお姫様な訳だし? 政略結婚なんて当たり前にあるべきっちゃあるべきだろうがよ。ヒメだって出会い方はまあアレだけど、やってる事は大差ねーしな。

「だからまあ、別に気にしてねーよ。むしろ俺にもステータスとしての価値があるのかって驚きの方が大きい」

「……喜びは?」

「タナボタなステータスで喜べるほどは単純でもないからな、俺も」

 自身で努力した結果を評価され、それがステータスになるんなら俺だって喜ぶけどな。『魔王』なんて肩書だし、別に俺が何かをして貰った……のは貰ったけど、それを手に入れる過程を考えれば全然だ。

「だからまあ、別にそれは構わん。俺を『ステータス』として利用したいんなら、利用して貰えば良いと思う、マジで」

 そう言って俺は手元のポテトを一つつまみ口の中へ。そんな俺をまじまじと見つめた後、おそるおそると云った感じでトリムが口を開いた。

「その……そ、それではマリア様? マリア様は何をそんなに憤って居られるのでしょうか……?」

 ……まあね? 別にトリムが俺の『魔王としての価値』を利用する分には全然腹も立たん。正直、好きな様にしてくれれば良いとも思う。

「お前、同窓会に出るつもりなのか?」

「え? ……え、ええ。マリア様が『是』としてくれるのであれば、私も同窓会に参加したいと思っております。むしろ、それが目的と云っても過言でありません」

「……やっぱりか」

「……申し訳ございません。その……仮にも私はサキュバス族の姫です。その姫が、何時までも独り身で過ごすというのも……」

「まあな。俺だって大して詳しい訳じゃねーけど、貴族や王族の責務? そんなもんに理解がねーわけじゃねー」

 所謂『産めよ増やせよ』だろ? 幸いなるオーストリアじゃねーけど、お貴族様は結婚も仕事の内だからな。だから、別にそこに腹が立ってる訳じゃ無くてだな?

「……お前さ? さっき言ってたじゃん? 『私は別にこの容姿になんの不満もありません』みてーな事」

「……はい」

「んで……まあ、正直に言うわ。お前、容姿的には全然だろ? そんなんでどうやって俺の嫁になるつもりなんだよ? 別に顔が全てって訳じゃねーし、俺だって人様の事偉そうに指摘出来る容姿をしてる訳じゃねーからアレだけど……それにしたって流石にもうちょっとなんかねーのかよ?」

「……無論、心得ております。持参金も多額に用意させて頂きますし、夫婦生活を求めたりも致しません。ただ、私をそばに置いて下さり、対外的に――」

「だから」

 ……なんでわかんねーかな、コイツは。

「俺が言いたいのは、それにしたって全部『親』のモンだろうが。俺が言いたいのは、『お前』はなんか努力してるのかって話だよ!」

「っ!」

「さっきも言ったけど、俺は自身の力で何にも為して無い癖に偉そうな奴が大嫌いだ。よく考えて見ろよ? 今のお前、そんな俺の大っ嫌いなヤツと、やってる事は一緒だぞ?」

 自身は何にも努力をせず、ただ親の財を当てにして嫁になるというトリム。酷い人身売買だぞ、これ。

「……ら」

「あん?」

「だったら! だったら、どうすれば宜しいのですか! 私はこの様な醜い見た目です! そんな私が、貴方様に気に入られる方法なんか有りはしないではないですか! だから………だから、こういった方法を――」

「あるだろ、方法」

「――取って……あ、ある? あるとは、何がでしょうか……?」

「だから、お前がお前の『努力』で俺の奥さんになる方法だよ」

 そう言って、俺の顔をポカンとした目で見つめるトリムに大きく頷き。



「……お前、ちょっと痩せろ。ダイエットだ」



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