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第九十五話 サキュバスの告白

タイトル負け


 スーパーの入り口付近に作られた簡易休憩所。『イートイン』と言えるほど洒落たモノではないが、机と椅子が置かれたそのスペースで俺の通う天英館高校の一個上の先輩で美術部所属の葛城小太郎先輩とその妹であるユメ先輩が座っている。小太郎先輩は……アレだ。人の事言えた義理では無いのは百も承知だが、まあ無茶苦茶イケメンって訳ではない。無いのだが……なんだろう? なんとなく纏う雰囲気がイケメンだったりする。ちなみにこの小太郎先輩の先輩に当たるのが孝介の彼女である結衣さんだったりするので、その縁で小太郎先輩には色々とお世話になった。

 まあ、この先輩は美術部だけあって絵は勿論巧いし、その上で勉強も出来る。結衣さん曰く『高一までは本当にどうしようも無い奴だったんだが』との事だが、何があったか……というか、理由なんか一つしか無いんだろうが、死に物狂いで勉強と絵を頑張った結果『美術のコンクールを総ナメしつつ、東大も余裕』みたいなチートキャラになってたりする。その上、小太郎先輩を慕う学校の二大美少女もいます、なんてちょっとリア充爆発してくれませんか? みたいな感じなのだが、持ち前の人当たりの良さと……なんて言うか、その辺りの経緯を懇切丁寧に結衣さんから聞いた俺的には『愚直なまでの努力家』なイメージもあり、結構尊敬していたりする先輩だったりする。

「……」

 そんな小太郎先輩の隣に座っているのが義理の妹、葛城ユメ先輩で『天英館の二大アイドル』の一人だ。義理の妹とは言うが小太郎先輩とは同い年、なんでもご両親にご不幸があったらしく、高校二年の時から小太郎先輩の家に居候している。二大アイドルと言っておいてなんだが、そこらのアイドルなんて目じゃねーほどの整った容姿、普通ならモテてモテて仕方ないのだろうがこのユメ先輩、隣の小太郎先輩に随分ご執心で浮いた噂の一つもない。多くは語らんが、結衣さんの口振りではこのユメ先輩にエエ格好したくて小太郎先輩も頑張ったフシがあり、その辺りの微妙な小物臭も小太郎先輩を憎めない要因だったりする。

「……お久しぶりです、トリム様」

「……久しぶりですね、ユメ」

 まあ、それはともかく、だ。『……あ、あれ? と、トリム様? トリム様ですよね!』『久しいですね、ユメ!』なんて会話がスーパーの入り口で繰り広げられ、『折角ですし!』『そうですね、折角ですので!』なんて会話が続いて俺ら四人は休憩スペースに向かい合って座る、なんて状況になっていたりする。どうでも良いが、美少女、フツメン、魔王、樽の四人の会合ってのがとてつもなく目立つのか、奥様方からの視線が痛い。子供? 俺の顔見たら目を逸らすさ。

「ええっと……ユメ? トリムさんと知り合いなのか?」

 きゃいきゃい女性陣に対し、どちらかと言えば座りの悪い俺ら男性陣を代表して小太郎先輩がユメ先輩に声を掛ける。その言葉に、ユメ先輩が微妙な表情を浮かべて見せた。

「知り合い……っていうか……う、ううんと……どう説明したらいいのか……」

 少しばかり困った表情のユメ先輩が、視線を逸らして『あー』とか『うー』とか言って見せる。と、その視線が不意にこちらに向いた。

「……っていうか、なんでマリアくんはトリム様と一緒に居るの? なーに? またなんか人助けでもしたの? 前も言ったでしょ? マリアくんのそのお人好しな所は好感がもてるけど、気を付けなきゃ怖い思いもするかも知れないって! まあ、トリム様を助けて下さったんだったらお礼はするけど……」

「いや、ユメ先輩? なんか俺の事、人助けが趣味な人間みたいに思ってません? んなことねーですから」

「嘘ばっかり! マリアくんは何時でも人助けしてるイメージだもん。こないだだって、ナンパから女の子助けたんでしょ? サクヤちゃんから聞いたよ? 言ったでしょ? 優しいのは良いけど、危ないのはダメだって!」

「……勘弁してください」

 ユメ先輩は明るいキャラもあって妹ズとも仲良しだ。加えて、妹ズのナンパ虐待話や質の悪いナンパから助けたら逆に警察に問い詰められた話やらを小太郎先輩に話したからか、ユメ先輩の中では随分と俺の『良い人』フィルターが上がってたりする。元々面倒見のよい人だし……まあ、兄貴分の小太郎先輩の妹だからな。なんだか姉貴に怒られてる様でちょっとばかし座りが悪い。

「ユメ? 別にマリア様は私を助けて下さったりした訳ではありませんよ? まあ、ご一緒すると楽しいのは事実ですが」

 居心地の悪そうにしている俺のフォローがトリムから入る。チラリとそちらを伺うと優しい微笑みを見せた後、トリムはコホンと一つ咳払いして見せた。

「ええっと……それで、ユメ? その……小太郎様には……お話しているのですか?」

「ええっと……まあ、はい」

「そうですか……ちなみに、私の方もマリア様にはお話しております」

「え! そ、そうなんですか!? ええっと……そ、それじゃ……」

「そうですね。これも何かの縁です。私も小太郎様にお話させて頂いても?」

「……はい」

「ありがとう、ユメ。それでは小太郎様?」

「え? ……あ、は、はい!」

 急に話を振られたか、少しばかりきょどった仕草をして見せる小太郎先輩。そんな先輩に、トリムは例の優しい微笑みを浮かべて。



「改めて名乗りを。私の名前はトリム。トリム・サキュバニア・サキュバスと申します。魔界七大魔族が一、サキュバス族の族長の娘。こちらの世界でいう所の……サキュバスの『姫』と言えばご理解頂けますか?」



 ……なるほど。人の口ってあんなに開くんだな。小太郎先輩、地面に顎が付くんじゃねーかってぐらい、大口開けて――



「……私も言っておくね? マリアくん、私は葛城ユメ。葛城小太郎の義理の妹、って事になってるけど……実は私も、サキュバスなのよ」



 ……うん、多分俺もスゲー顔してんだろうな。見ろよ? 入口のガラスに映った俺の顔、変顔のレベルを超えて凶器レベルにこえーもん。っていうか、さ?



「「………………は?」」



 あまりの急展開に付いていけない男性二人は、みっともない顔を浮かべたまま、情けない声をハモらせていた。


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