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第九十二話 ベストカップル


 ――トリム、来襲。


 サキュバスの姫であり、仮にも年頃――かどうかわかんねーけど、見た目は妙齢の女性に対して言う言葉じゃねーんだろうが、なんだろう? その言葉がとてもぴったり来る様なその独特の容姿に思わず俺はリビングの椅子に深く座りなおす。

「……すげーな、おい」

「……私の体型の事ですか?」

 思わず口を出た言葉に、俺の目の前の椅子に座ったトリムがにっこり微笑んで見せる。なんとなく失礼な事を口にしてしまった感に苛まれた俺はそっぽを向いて頬をポリポリと掻く。

「あー……その、な?」

「気を使われなくても結構です。私自身、私の容姿が……そうですね、麻衣さんや奏さんや鳴海さん、或いはヒメ様に比べて著しく劣る事は自覚しておりますから。無論、私が魔王マリア様に釣り合うとも思ってません」

 そう言ってコロコロ――悪意はねーぞ? コロコロと笑うトリム。その姿に、最初に言葉を上げたのは麻衣だった。

「そっかな? トリムさん、結構マリアにお似合いだと思うけど?」

「マイさんもそう思いますか? 私もです」

「やっぱり二人ともそう思う? 私もなんだよね~」

 続いて奏、そして鳴海と三人が声を合わせる。そんな三人の言葉に、先程までの笑顔を困った様な表情に変える。

「……そうですか? 私よりも皆様の方がお似合いでは無いですか?」

 そう言って、困った様な表情を先程の優雅な笑顔に変えて。



「――まるで悪魔の様な容姿のマリア様には、私の様な醜女が良く似合うと、そうおっしゃいますか?」


 

そんな台詞を言って見せる。ある種挑戦的なトリムのその言葉に、麻衣、奏、鳴海の三人は顔を見合わせて。

「……ええっと」

「……その」

「……なんて言うか……」

 非常に言い難そうにお互いの顔を合わせる。んだよ? 何か言いたい事があるんだったらはっきり言えよ。お前ららしくもねーな。

「……はあ。別に私がこんな事言う義理は無いんだけどさ? トリムさんってすっごい優雅じゃん?」

『お前が行け』と言わんばかりの二人の視線に負けたか、諦めた様に溜息を吐きながら麻衣が口を開く。

「それは……『嫌み』でしょうか? ドラム缶の様な体をしている癖に、と暗に言っておられるのですか?」

「そうじゃなくて! そりゃ……まあ、あたしらだってアイドルしてる訳だし? そんじょそこらの女の子に遅れを取る容姿をしている、なんて思ってる訳じゃないよ? 無論、美を磨く……って言ったら大袈裟だけど、ある程度美容には気を付けてるしさ。だから……そうだね、まあ正直私らの方が『男受け』はするルックスだとは思ってるわよ」

「……はい。そうでしょうね。では、なぜマリア様に私が似合うと?」

「さっきも言ったけど、トリムさんってすっごい優雅で物腰も柔らかでしょ? なんていうのか……こうね? マリアの隣に立つと凄いしっくりくる感じがするのよ」

 麻衣の言葉に首を捻るトリム。そんなトリムに、呆れた様に咲夜が口を開いた。

「わっかんないですかね~? マイちゃんもカナデちゃんもナルミちゃんも、一山幾らの女の子じゃないですよ、トリムさん。アイドルです、アイドル」

「ええ、存じ上げておりますわ。KIDの人気はサキュバスの里にも届いておりますので」

「ぶっちゃけ、お兄ちゃんよりも格好良かったり、お兄ちゃんよりもお金持ってたり、お兄ちゃんよりもダンディな俳優さんやアイドルにも逢ってる訳ですよ。でもね? 言ってみれば選り取りみどりなこの三人が、嫁になりたいって思ってるのはお兄ちゃんなんですよ?」

「……すみません、サクヤさん? 仰ってる意味が良く分かりかねますが……」

 今度こそ、本当に困った顔でそう言うトリム。そんなトリムに、サクヤは無い胸を勢いよく張って。



「私の幼馴染が、好きな人を顔面偏差値で選ぶ筈がない」



「……おい」

 いや、確かにイケメンだとか思った事はねーよ? ねーけど流石にそれは酷すぎないかい、マイシスター?

「お兄ちゃんは黙ってる! まあつまりですね? 私の幼馴染のこの三人衆はルックスだけじゃなくて、人の内面を――まあ、お兄ちゃんの優しい所とか、頼りがいのある所とか、そう云った所を評価してるんですよ。だからまあ、さっきマイちゃんが言った『優雅』って言うのは別に嫌みでもなんでもなくてですね? 本当に……なんていうの? 所作? そういうのが優雅だな~って思った訳ですよ。別に嫌味とかそんなんじゃなくて、本当に純粋にそう思ったってだけの話で」

 私だってそう思うしと付け加え、ヒメに視線を送るサクヤ。

「どうです、ヒメさん?」

「……まあね。そりゃ、正直私の方が……よ、容姿は整ってるんじゃないかな~なんて思うんだけど……でも、トリムがマリアの隣に居るのがしっくり来る気はするのよ、不本意だけど」

「そうなんですよね、ヒメさん。なんかマリアの隣にトリムさんって凄いしっくり来るんですよ、悔しいけど」

「そうですわね。何故か分からないんですけど……しっくりきますわね。腹立たしい事に」

「うん! マリアお兄ちゃんの隣にトリムさんが居るのってそれが正しいって気がして……妬ましいけど」

 四者四様、そんな事を言って見せながら首を捻る。そんな四人に、サクヤは小さく溜息を吐いて。

「……四人とも本当に分からない? そうだな~……例えばさ? お兄ちゃんがおじいちゃんになった時に、隣でのほほんとお茶を入れるのは誰が似合う気がする?」


「「「「…………あ」」」」


「待て」

 ちょっと待て。どういう事だよ、それ。

「いや……だってさ? もちろん、イイ子ってのは共通してるんだけど……マイちゃんは『がちゃがちゃ』でしょ?」

「ちょ、サクヤ! 誰が『がちゃがちゃ』よ、誰が! がちゃがちゃ代表のアンタには言われたくない!」

「そりゃ、私もお転婆な方だけど……マイちゃん程じゃないよ。お兄ちゃんからの電話に出る為だけに、普通親友投げ飛ばす? 柔道の有段者が」

「ぐぅ!」

「カナデちゃんだって一見『お嬢様!』みたいな顔してるけど、ああ見えて結構、危ない所あるし」

「さ、サクヤさん!? なんですか、それ! わ、私はどちらかと言えば……か、感じが悪いですが、お、お嬢様キャラですよ! なんですか、危ない所って!」

「どこの世界線のお嬢様がお兄ちゃんに作って貰った服を破かれたからって、発狂して男を殴り飛ばすのさ」

「うぐ!」

「ナルミちゃんだって」

「わ、私!? 私は正統派の妹キャラで!」

「一線越えたらバトルジャンキーになる妹ってなに? 怖すぎるんだけど?」

「ふみゅ!」

「それに、ヒメさんは……」

 チラリとヒメに視線を飛ばし。


「…………なんか、結構『ポンコツ』の香りがするし」


「ちょっと! サクヤちゃん、誰がポンコツよ、誰が!」

「まあ、ヒメさんはともかく。そういう意味ではトリムさんってそんな所、無さそうじゃん? まあ、現状ではまだ分かんないけど……少なくとも、話をした感じでは一番女子力高そうだし。ちなみにトリムさん、料理とかできるんですか?」

「……へ? あ、ああ! はい! お料理は好きな方です」

「得意料理は?」

「その……和食は自分も好きなので、良く作ります。里芋の煮っ転がしとか」

「ほら。この辺で『シシリー風パスタ』みたいなお洒落系料理を出さない辺りが凄くお兄ちゃんにお似合いっぽいんですよ。裁縫とかも出来たりします?」

「……はい。サイズ的に入る服が少ないので……自分で作ったりは……」

 少しだけ恥ずかしそうに俯きながら、それでもそう言って見せるトリムにうんうんと頷き。



「……ね? お似合いっぽいでしょ?」



 義姉候補達に無双をかました実妹が得意げに胸を張っていた。



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