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第八十六話 戦いの幕開け


「……大丈夫ですか、魔王様」

 明けて、翌日。

 魔王城内にあるパパ魔王様の部屋の中で、ジーヤさんが心配そうに――それ以上に、呆れた様な表情を浮かべながらそんな事を言って見せる。

「だ……だいじょばない……だいじょばないけど……だいじょばない」

 そのジーヤさんの視線を受け、眼の下にトンデモ無い大きさの隈を作って虫の息のパパ魔王様。吐く息の端々から何だか白い魂の様なモノが見えるが……大丈夫だよな?

「……何があったのでしょうか?」

「こ……おーく……ひめちゃ……ゲホォ!」

「……マリア様、ご説明を願えますか?」

「いや、説明って言われても……」

 パパ魔王様との『追いかけっこ』は、至極短時間で終わった。昨日の『百科事典振り回し事件』でも分かる通り、元々体力の無い人みたいだから、ちょっと逃げるだけで息も絶え絶え、床に這いつくばってしまったのだ。足腰も立たない様子でこちらを恨めしそうに睨んで来るパパ魔王様に終わった終わった、なんてあの時の俺は思ったもんだ。

「……怪奇! 魔王城に響く謎の音……みたいな?」

「……なんでしょうか、それは?」

 ……そう。『追いかけっこ』自体は短時間で終わったのだが……問題はその後。

『……許さん……許さんぞ……』

 なんて、呪詛の言葉を吐きながら五体を地に這わせ、こちらににじり寄ってくるパパ魔王様。その光景はまるでゾンビ。

「……」

 ……しかもこのパパ魔王様、体力こそ無いものの、それを補って余りある『根性』……というか、『執念』があった。加えて、俺にとっては土地勘の無い魔王城内だが、パパ魔王様にとっては文字通り勝手知ったる我が家だ。何処に逃げても『……見つけたぞ~……』と言う声と、ずる、ずるっという地を這う音が聞こえて来て……

「……おお」

 ……やば。思い出しただけで鳥肌立った。まあ、そんなこんなで雀がちゅんちゅん鳴きだし、『……何やってるんですか、貴方?』なんていうアイラさんの声でお開きになるまで、俺とパパ魔王様はリアルバイ○ハザードごっこを楽しんでいた訳だ。いや、全然楽しく無かったが。つうか、ヒメ。お前、物凄く愛されてんな? 愛が重いけど。

「……分かりました。いえ、正直全く分からないのですが……ともかく、魔王様? その様な状態で勝負など出来るのですか?」

「……ちょっと……きびしい……ブゲフォ!」

「……これは少し厳しそうですね」

 そう言ってジーヤさんは頷き、視線を俺の方に向けて。

「……それでは魔王様の不戦敗と言う事で、勝者マリア――」


「諦めたらそこで試合は終了するという言葉を忘れたのかい、ジーヤ!」


「――魔王様……」

 ――ジーヤさんが勝ち名乗りをあげる寸前、先ほどまで床に四肢を投げ出し、潰れたカエルみたいになってたパパ魔王様が不意に立ちあがりシュッシュッとシャドーボクシングの真似事を始める。つうか……何だったんだ、さっきまでのは。

「……なんですか、魔王様。油断を誘う為にあのような真似事をされていたのですか? 仮にも貴方様は魔王城の、この魔界の主。その様な――」

「いいや。私、結構限界だったよ? でもね? ヒメちゃんへの愛は体力すら凌駕するから!」

「――……意味が理解出来ないうえに、相当気持ち悪い事を言っておられますが?」

 深い……本当に深い溜息。

「……分かりました。それでは不戦勝は取り消し、勝負の内容について、魔王様から説明して頂きます」

「……っていうか、いいの、マリア?」

「あん? なにがだ?」

「いや、だって十中八九パパの得意の種目になるよ? その……だ、大丈夫?」

 ヒメの心持心配した様な表情にこくりと頷く。良いさ、ハンデだよ、ハンデ。

「心配すんな。『ヒメ』様は勝利を信じて待っとけ」

「……うん。それじゃ、勝利を祈ってるね?」

「魔王がマリアに祈るなよ。大丈夫。ギッタンギッタンにしてやんよ」

「……何かマリアが何時になく攻撃的な気がするけど……それじゃパパ、ルール説明をお願い。あ、但し! 痛いのとか怪我しちゃうような危ないのは駄目だよ! サクヤちゃんとかに申し訳が立たないし!」

「任せておけ! やい、泥棒猫! 聞け!」

「泥棒猫って。はいはい、聞いてますよ」

「昨日、アイラから言葉による深刻な精神的負荷を負った私だが……気付いたのだ!」

「……はあ」

「確かに! 確かに君は……そこそこ優秀なのだろう! 料理も裁縫も勉強もスポーツだって出来るんだろう! ああ、ああ! いいさ、それは認めてやろう!」

「……どうも」

「しかーし! 翻せば、それって君には『コレ』と言った特技がないという事だよね! つまり……唯の器用貧乏に過ぎないってわけさ!」 

「……はあ」

 まあ……否定はしないよ、うん。勉強だって……まあ、出来ない方じゃねーけど学年で一番! とかじゃねーし、運動神経だって悪い方じゃねーけど流石に部活でやってる奴らにかてねーしよ。料理や裁縫だって趣味の領域だし、ギターなんてそれの最たるモンだ。ヴァイオリンはちょっと自信あるけど……まあ、オーケストラに入れる程の腕でもねーし。

「……平均的に能力が高い、という発想は無いのですか、魔王様に」

「そんなのは妄言! 何でも出来るってのは何にも出来ないのと一緒なの~」

「各方面の皆さま方を敵に回しそうな発言を……まあよろしいです。それで? 一体、何の勝負をなさるおつもりなのですか?」

「ふふふ! ココに来た事で分かるだろう!」

 そう言ってパパ魔王様は両手を広げて見せる。えっと……此処に来た事で分かるって……


「――勝負内容はズバリ! 『超かわいいヒメちゃんをイラストに残して置こう』対決だ!」


 そう言って、机の上に並ぶペン立てを指差した……って、は?


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