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第八十五話 父親の気持ち

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!


 魔王城内のとある一室。前回――アレだ。ラインハルトとバトったときに泊めて貰った部屋に案内された俺はさして変化のない部屋に一つ頷き、上着に手を掛ける。

「……うし。やるか」

 脱いだ上着をベッドの上に放り投げて、上半身裸のままベッドに足を乗せる。そのまま床に手を付いて、腕立て伏せを。

「……一、二……」

 最初は楽だった腕立て伏せも、その数が百を超える辺りで徐々に腕に対する負荷が強くなっていく。額から零れる汗が、床に小さな水たまりを作り始めた所で俺はベッドから足を下ろして息を吐く。

「……ふ――」

「……マリア? 起きて――きゃ、きゃあああぁぁぁぁぁ!!!」

「――う……って、ヒメ!? ノック! ノックしろ!」

「ご、ごめん!」

なんか前もこんなの無かったか!? 風呂上りなのか、少しだけ上気した頬が色っぽいが……たぶん、今真っ赤なのはそれじゃないよね、うん。

「ど、どうした!」

 慌ててベッドの上の上着を着て心持さわやか――に見えたらいいな~と思う笑顔を浮かべる俺。そんな俺の姿を見て落ち着きを取り戻したか、少しだけ困った様な照れ笑いを浮かべたヒメが口を開いた。

「……その……」

「ん?」

「えっと……御免ね?」

「気にするな。二回目だしな」

「へ? 二回目? 二回目って――っ! そ、そうじゃなくて!」

 なんだ? 俺の裸見た事への謝罪じゃないのかよ?

「そ、そっちもだけど! そ、その……何だか変な事になっちゃって」

「……ああ」

「あの……一応、フォローしておくけどパパ、普段はもうちょっと『まとも』なのよ?」

「ああ、それは別に……」

 ……。

 ………。

 …………。

「……『ちょっと』、なの?」

「……ええ」

「……」

「……その……き、嫌いじゃないのよ? ちょっと子供っぽい所はあるけど、でも優しいし」

 でも、と。

「……正直、ママはパパの何処が良くて結婚したのかが……私には、分からない」

「……」

 ……何だろう。ちょっと泣けてきた。

「で、でも! さっきも言ったけど、その、家族には優しいし……悪い人じゃないのよ? ただ、ちょっと今日は虫の居所が悪かったというか、何と言うか……」

「ああ、イイよ。気にしなくて」

「……イイの?」

「そりゃ……まあ、あんなもんだろう?」

「……あんなもん?」

「……俺にも娘が出来たらそうなる自信、あるしな~」

 娘が彼氏を連れて来た日には、絶対冷静ではいれないだろう自信があるぞ、うん。

「マリアも?」

「大事な娘が何処の馬の骨か分からん奴に取られちゃうんだぞ? 咲夜がラインハルトに惚れてるのだって若干『もにょ』っとしてるのに、実の娘だぞ?」

「……呆れた。ソレじゃ親バカじゃない」

「まあな。お前のパパさんと一緒だ」

「パパは親バカじゃないわ。バカ親よ」

「ひでぇな、おい」

 そう言って二人でくすくす笑う。

「……そうだ! 聞いて置きたい事があったんだ!」

「聞いて置きたい事?」

 そう! と、びしっと俺を指差して。

「何で勝負なんて受けたのよ?」

 そう言ってじとーっとした眼をこちらに向けて来るヒメ。いや、なんでって……

「ええっと……一個は、ガス抜き」

「『ガス』抜き?」

「その……さっきも言ったけど、やっぱりお前のパパさんも不満が溜まってると思うんだよな」

 なんせ娘の結婚相手が『同時に嫁候補が複数人』とか言ってるんだもんな。不誠実に接するつもりはないんだ! とどれだけ言った所でそれはこっちの言い分だし。

「……まあ、男親ならああいう気持ちになるってのは分かる――まあ、正確には分かる訳じゃないけど、想像は出来るからさ」

 だから、パパ魔王様が納得する様にしてやるかってのが一つ。

「もう一つは?」

「……」

「……マリア?」

「……笑わないか?」

「笑うわよ」

「そっか。それじゃ――って、おい!」

 笑うのかよ! そこは『笑わない』だろうが! 百歩譲って『聞いてみるまで分からないじゃないのかよ!

「笑う様な事なんでしょ? じゃあ笑うわよ」

 笑う様な事かって言われたら……まあ……

「その……『格好悪い』って言われたから」

「……え?」

「だ、だから! パパ魔王様に、『勝負を逃げるって超格好悪い』って言ってただろう? その……それが、ちょっとカチンと来て」

「……そんな理由?」

「……そんな理由」

 ……だって……しょうがないだろ?

「……格好悪いとこ、見せたく無かったし」

「……」

「……」

「……その……私に?」

「……そう」

「……そう……なの」

「……ああ」

「……」

「その……な? こう……アレだ。ヒメには、あんまり格好悪いとこ、見せたくないし」

「……」

「……」

「……え、えへへ……」

「……何だよ。笑うなっつっただろうがよ?」

「……納得してないもん、私。それに」

……ちょっと、嬉しかった、と。

「……そっか」

「……ごめん、嘘。ものすごっく……嬉しい」

 頬を、朱に染めて。

 嬉しそうに、上目遣いでこちらを見やり。

「……じゃあ……絶対、負けれないわね?」

「ああ」

 心配すんな。ちゃんとお姫様には勝利をプレゼントするさ。

「え、えへへ~」

 俺の言葉に、嬉しそうにぎゅっと服の端を握りしめて。

「ね、ねえ、マリア?」

「なんだ?」

「そ、その……最近、私達、ちょっと二人でお話する時間が少なかったと思わない?」

「そう……ああ、そう言われれば……」

 確かに何だか色々あった気はするな、うん。

「なんだ? 寂しいのか?」

「さ、寂しいって! そ、その……そんな事は……あ、あるけど」

 頬を真っ赤に染めてごにょごにょとそんな事を宣うヒメ。いや、ヒメ? 俺、難聴系主人公じゃねーから全部聞こえてるんですが。そんな俺の顔をあわあわしながら見つめていたヒメが覚悟を決めた様にぎゅっと唇を結び。


「だ、だから! そ、その……きょ、今日は私……こ、ココで寝ても……イイ?」


 ――時間が止まった。

「……」

「……だ、駄目?」

「……いや、駄目に決まってね?」

「……い、一緒のお布団とかじゃなくて! こ、こう……私、下に布団布くから! そ、その……ね、寝るまでお話とか……で、出来たら……い、いいな~って」

 顔を真っ赤にして、上目遣いでチラチラとこちらを見て来るヒメ。

 ……。

 ………。

 …………いや、あかんって。

 だってヒメ、嫁入り前の娘だぞ? そんなもん、良い訳なくね? ダメに決まってるじゃんかな? 自分の中でそう決意し、俺は口を開き。


「……布団、持ってこい。ただし、ベッドはお前が使え」


 ……あれ?

「……あ……う、うん!」

 ……うん、御免、もう無理。だって顔真っ赤にしながら、涙目で、それでもちょっと期待してる眼をしながらこっちをチラチラ見るヒメだぞ? 庇護欲+嗜虐欲、刺激され過ぎだろ、常考! こんなん、断る選択肢はねーだろうが!

「え、えへへ! それじゃ、お布団持ってくるね! あ! 先に寝ちゃだめだよ!」

「わか――って、おい! 近い! 近い!」

 嬉しさ余ってか、俺の服の端を握ったまま身を乗り出すヒメ。ふんわりとシャンプーの香りが鼻孔を擽ると共に、目の前には目をキラキラさせたヒメの笑顔が――



「起きてるか! まあ、寝てても起こすけどね! 出来たぞ! さあ、コレが明日の勝負の内容だ! しっかり見て、精々たい……さく……で……も?」



 ――タイミング、悪し。

「……」

「……」

「……」

「……き」

「……」

「き、きさまーーーーーーーー! な、なんばしよっとっか!」

「ちょ、魔王様!」

「パパ!」

「殺す! もう絶対コロス! 殺して殺して殺して殺しきる!」

「やめて、パパ! 止めてったら!」

「どいてヒメ! そいつ殺せない!」

「パパ!」

「ぐわーーーーーーーー!」

 ……その夜。

 俺とパパ魔王様の追いかけっこは夜を徹して行われました。ええっと……うん、まあ今回は俺も悪いと思います、はい。




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