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第八十四話 戦いの序曲

本年もお世話になりました。今回が今年最後の投稿になります。完全にタイトル負けです。来年もよろしくお願いします~。



 あっかんべーをしたまま、鼻の穴に親指を突っ込んでこちらに手をひらひらと振って見せるパパ魔王様。結構イケメンなのにその姿がその……なんだろう? すげー腹立つんですけど?

「パパ!」

「なんだい、ヒメちゃん? まさかヒメちゃん、この男の肩を持つのかい? 聞いたよ? 何でもこの男、色んな女性を一度にお嫁さんに迎え入れようとしてるらしいじゃないか」

「そ、それは……」

「なに? 違うの?」

「そ、その……それは……そう、だけど……で、でも! マリアは決して不誠実じゃないわ! 凄く優しい人よ!」

「へ~へ~! 不誠実じゃないんですか~! いろーんな女の子に手を出してる男が不誠実じゃないと? へー!」

「ぐぅ……それは……」

「何時からヒメちゃんはそーんな心の広い女の子になったんでしょうか! パパ、びっくり!」

「パパ!」

「『そこに、あいが、あるから~』なんて戯言はパパ、聞きませんよ!」

「そ、そんな事言わないわよ!」

「じゃあ良いじゃん~。パパ、この人嫌いだし~」

「……パパ」

「……はぁ。ちょっと、貴方!」

「つーん!」

 アイラさんの言葉に、そう言ってそっぽを向いてしまうパパ魔王様。『つーん』って。いや、此処まで見事に嫌われると、一周回っていっそ心地いいぞ。

「……それでは魔王様、どうしたら納得されるのですか?」

 見かねた――か、面倒くさくなったか、ジーヤさんがそんな言葉をパパ魔王様にかける。

「納得なんてしない! 私は嫌だ! ヒメちゃんがどっか行っちゃうの嫌だ!」

「イヤだって……子供ではないのですから、魔王様」

「パパ、まだこど――」

「もうそのネタはやりました。とにかく、魔王様? 魔王様だって何時までもヒメ様を手元に置いておくわけにはいかないでしょ?」

「いいや、置いておく! ヒメちゃんは何処にも出さない!」

「……それでは何時まで経っても結婚出来ないではないですか」

「良いじゃないか、結婚なんかしなくて! ずっとココに住めば!」

「いや、ココに住めばって……」

「大体、ヒメちゃんだって昔言ってたじゃん! 『ヒメ、パパのお嫁さんになるぅ~』って! ね! 言ったよね!」

 ……うわー。ソレ、大分イタイんですけど。何と言うか……そら、言うだろう、小さい頃は。だからと言って――



「えっと……そんな事言った記憶無いだけど……?」



 ――へ?


「そ、そんな事ないよ! 言ったよ、ヒメちゃん! 『大きくなったらパパのお嫁さんになりたい』って!」

「いや……本当に」

「……」

「あの……その……わ、私ね? 小さい頃からママみたいな『魔王』になりたくて、ずっと憧れてたから……い、言い難いんだけど……私、『お嫁さんになりたい』なんて、小さい頃は一度も思った事がなくて……その……パパにそんな事を言う筈ないんだけど」

「……」

「……」

「で、でも! 思った事! 思った事ぐらいあるよね!」

「いや……ごめん、パパ」

「け、結婚するならパパみたいな人が好いな~、ぐらいは!」

「……年末年始に嬉々として……そ、その……え、えっちな本を買いに行くパパは……ちょ、ちょっと……」

「……」

「……」

「そんなの……そんなのないよ! パパ、頑張ってるよ! めちゃくちゃ頑張ってるよ! ヒメちゃん、知ってる? 今、この食卓に並んでる野菜! 『魔王印の天然野菜』って言って、魔界でもの凄く人気何だよ!」

「……そう言われても……っていうか、パパ、野菜なんか作ってたの?」

「野菜『なんか』って何さ! 野菜作りをバカにしちゃだめ!」

「いや、別に野菜作りをバカにしてる訳じゃないけど……あれ? パパ、魔王だよね?」

「そだよ?」

「魔王の仕事は? それをしなくてもイイの? 野菜作りは趣味なの?」

「まさか。真剣に取り組んでるさ! 何言ってるの、ヒメちゃん?」

「あ、あれ? 私が間違えてる? その……例えばさ? 料理屋の主人が料理はめちゃくちゃ下手くそだけど、家作りが巧かったらどう思う?」

「料理の勉強をしろ! って思う」

「でしょ?」

「でもパパ、入り婿だよ? 別に魔王の家系でも何でも無いよ? どっちかって言ったら農家出身の三男坊だよ?」

「いや……そうなんだろうけど」

「……もしかして……パパ……いらない子?」

「い、いや! そうじゃないけど」

「……そこの……そこの不届者がいるから、か?」

 そう言って、ギンっとこちらを……って、ちょっと待て! 何かトンデモ無い所から飛び火して来たんですけど!

「お、俺? そ、そんな事無いです! 誤解――」

「……あー」

「――ですって……アイラ様?」

「あ、いや……別にウチのパパさんがいらない子って訳じゃないけど……」

 そう言って、マジマジと俺を見つめるアイラさん。な、何だよ?

「いや……そう考えるとマリア君、結構『イイ』よね?」

「……は?」

「いや、だって……」

 ちらりとパパ魔王様に視線を滑らせて。

「……ウチの旦那さま、お手伝いなんてしてくれた事なんて無いし」

「ぐうぅ!」

 ちょ、アイラさん! パパ魔王様、胸を押さえて倒れ込んでるぞ!

「ちょ、ちょっと待て下さい! 別に俺だってヒメの手伝いなんか……」

 ……ああ……うん。してるか。

「……いっつも、助かってる。ありがとう、マリア」

「……べ、別にお礼を言われたい訳じゃ……その……な? 俺がしたいからしてるだけで……そ、その……」

「ハイそこ。甘い空気を作らない、ウザいから。それにマリア君、料理も裁縫も出来るでしょ?」

「いや……まあ……でも、趣味の領域ですよ?」

「あれだけ出来たら十分だよ。聞いたんだけど、歌もギターもヴァイオリンだってイケるんでしょ?」

「……ほんの手遊び程度ですが。っていうか、どっから聞いたんですか、それ?」

「へへへ~。魔界の情報網を舐めて貰っちゃ困りますね~」

「魔界怖っ!」

 プライベートとかプライバシーとかの素敵ワードは無いのか! 個人情報保護法でも可!

「それに比べて……ウチの旦那さまは……」

 アイラさんの言葉に、視線を逸らしてぴゅーぴゅーと口笛を吹くパパさん。そんな姿を呆れた様に見つめ、アイラさんが言葉を継いだ。

「……ま、マリア君は結構な優良物件って事。スポーツだって出来るし、頭だって悪くない。料理もお裁縫も出来て……ああ、年下の面倒見も良いから、アイドルの信頼も厚い……きゃー、すてき~」

 そう言ってわざとらしく歓声をあげて見せるアイラさん。いや、ね?

「わ、私は! 私だって街の八百屋のオヤジさんの信は厚いよ! 『魔王様の作る野菜はいつも新鮮だね~』って、嬉しそうに言ってくれるよ!」

「……アイドルと八百屋のオヤジさんを同列に扱ったら色々不味いんじゃないかな~。いや、別に八百屋さんがダメって訳じゃないけど……」

「ぐ、ぐぅーーー! で、でも! 私、優しいよ! 私の半分は優しさで出来てるよ!」

「あー……マリア君は体の半分どころか殆ど全部が優しさで出来てると思うんだけど……」

「なん……だと……?」

 ……アイラさん、それ以上は止めましょう。貴方の旦那さん、完全に膝をついてグロッキージャマイカ。

「……」

「あ、あの」

「……」

「……え、えっと……」

「……」

「……」

「……」

「……く……」

「?」

「……く……くくく……はぁーはははははは!」

 不意に、パパ魔王がガバァと起き上がり高笑いをし始める。その余りの光景に、全員が固唾を……つうか、ドン引いた。

「……壊れた?」

「……誰のせいだと思ってるんですか?」

「私? 違うよ~。マリア君がウチの旦那より優秀で、ウチの旦那より女子力高くて、ウチの旦那より優しいからイケないんじゃん」

「……お願いアイラ、もう止めて? 流石にちょっとくじけそう」

 高笑い状態から戻ったパパ魔王さまが、引きつったぎこちない笑顔でアイラさんを見る。

「と、とにかく! おい、ソコの駄馬!」

「だ、駄馬って……俺ですか?」

「そうだ! お前以外に――」

「どっちかって言うと、貴方の方が駄馬っぽいけど」

「――本当に勘弁して、アイラ。私、そろそろ泣くよ? イイ大人がわんわん泣くよ?」

 既に眼をうるうるさせ、アイラさんに抗議の……つうか懇願するパパ魔王。辞めて! パパ魔王のライフはもうゼロよ!

「と、ともかく! 勝負だ!」

「……は?」

「だから! 私と勝負しろと言っているんだ!」

「しょ、勝負?」

「そうだ! 家族の前でこれだけ虚仮にされては一家の家長としての沽券に関わる!」

「家長って、どっちかって言えば私じゃない?」

「…………私は強い子、泣かない子!」

「……はあ」

 というか……そもそも虚仮にしたのは俺じゃなくてアイラさんだと思うんですが。 

「か、家長じゃないとしても! とにかく、父親として貴様に負けるわけにはいかん! ヒメちゃんが欲しくば、私の屍を越えて行け!」

「いや、屍を越えてたら魔王様、負けてますけど……」

「あげ足を取るなぁ!」

「……」

 ……あげ足って。

「い、いや、でも! 勝負って、そんな穏当じゃないのはちょっと」

 それに……こう、なんだろう? 明らかに体格差的にも俺が勝ちそうな感じなんだが。そう思い、チラリと視線を向けて。


「あーん? なんだ? びびってるの~?」


 ……ものすごく『イラっ』とする表情を浮かべる魔王様と目が合った。

「あ、負けるの怖い? あーあー、御免ね~? 弱い者イジメ、しちゃったかな~?」

「……弱い者イジメって」

「勝負挑まれて逃げる男って、超格好悪いけど仕方ないよね~? あー、御免ね? 恥かかせちゃって?」

「……」

「へいへい~、びびってるぅ~」

 そう言って、完全に小馬鹿にした感じでこっちを挑発してくるパパ魔王様。

「……」

 ……あー。


 ……何だろう、ちょっと『カチン』と来たぞ?


「……分かりました。その勝負、受けて立ちます!」

「ちょ、マリア!」

「止めるな、ヒメ」

「止めるなって……ど、どうしたのよ、マリア? 貴方、こんな事で怒る人じゃないでしょ!?」

「へへーん。ヒメちゃんの前だから格好つけようとしてるんだよ、そいつは。浅ましいね~」

「……家族の前で格好つけようとしてる貴方には言われたくありませんけど?」

「そ、そんなんじゃねえし! はあ? 意味わかんねぇし!」

「……は」

「あ、てめぇ! 鼻で笑いやがったな! へん! 精々ヒメちゃんの前で恥ずかしい姿でもさらせば良いさ!」

「こっちの台詞ですよ、ソレ! ヒメのお父さんだって言っても手加減しませんから!」

「は! それこそこっちの台詞だ! 覚悟しやがれ!」

「……」

「……」


「「……はん!」」


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