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第七十八話 ヒメの告白(色んな意味で)

前回、『これで『ヴァンパイア編』は終了です』って書き忘れてました。今回から新章突入です!


 あの後の事を少し話して置こうと思う……と書くと、なんだか漫画やアニメのエピローグみたいな話の仕方だが、基本、アレはハッピーエンドだから言える話であって、普通はそんな事はねーんだよな、うん。何が言いたいかって言うと……まあ、麻衣、奏、鳴海の両親に普通に怒られた。

『いや……マリア君の事は信用しているけどさぁ~……いきなり娘を『嫁さん候補にします。しかも候補は複数人』って言われたら……なんだろう? 若干、もにょっとするかも。つうかね? マリア君だって知ってんでしょ? ウチの旦那、浮気癖が治らないから離婚したんだよ? 娘に同じ轍を踏ませるのは母親としてどうかな~』

 とは麻衣の母親の談。仰る通りである。

『……まあ、重婚自体は否定されるものではないとは思う。日本でこそ異常に思うかも知れないが、文化が違えば別段珍しい話ではないからな。だがな、マリア君? 普通、自分の娘を『妾で迎えます』と言われて、納得が行くかと思うかね? なに? 妾ではない? ではなんだと言うんだ?』

 これは奏の親父さんだ。世界相手に商売しているだけに、一定の理解は示してくれるも、あんまりいい顔はしない。そりゃそうだ。

『……は? いやいやいや! 何言ってるのよ、マリア君! そりゃね? 鳴海だけじゃなくて麻衣ちゃんも奏ちゃんも小さい時からマリア君に懐いているけど、いきなり『三人と結婚します!』って、ちょっとおかしいと思わないの!? しかも鳴海はまだ中学生よ? なにバカな事言ってんのよ!』

 これは鳴海のお母さんだ。正直、全員に塩を撒かれなかっただけでも儲けもんだと思う。

「……真面目だよね~、マリア。はい、年越し蕎麦」

 自宅の炬燵に突っ伏して息も絶え絶えになる俺にそう言ってヒメが器に入った蕎麦を手渡してくれる。きっと、死んだ魚の様な目をしてそれを受け取った俺に、ヒメが『あ、あはは』と困った様な笑い声をあげた。

「……酷い顔してるか、俺?」

「……う、うん。少なくとも『気力体力、共に充実!』みたいな顔はしてないかな~って」

「……だろうよ」

「その……別にこのタイミングで言わなくても良かったんじゃない? もうちょっとこう……本当に『お嫁さん』にしたいって思ってからでも」

「……まあな。確かに言わんとしてる事は分からんではないけど」

 ちなみに今、妹ズは全員帰宅中である。年越しをこの家で迎えると言ってはいたが、流石に『嫁候補です!』と言った男の家に残すのは不安があるのか、有無を言わさず――訂正、有無も実力行使もあったが、渋々全員引き上げた。すげー恨みがましい目で見られたけど。

「でしょ? マイちゃんなんか『マリアのせいだ!』ってすごく怒ってたし」

「……気持ちは分からんでもないが……でもな? 今はこんな事になったけど……それでも、俺はあいつ等の兄貴分であるつもりなんだよな」

「……うん」

「やっぱりさ? 此処で内緒にするのは……なんだか、裏切りの様な気がするし」

 なんだかんだ言っても、可愛い妹分であることは間違いないし、出来ればそんな可愛い妹分には皆に祝福して貰いたい。親御さん達にも世話になってるしな。

「……まあ、現実はそんなに甘くないって事だな。これからの課題だよ」

 そう言って、俺はズズズと蕎麦を啜る。ほっこりする様な温かい蕎麦の汁に思わず『ほぅ』とため息に似た吐息が漏れた。つうか、美味いな、これ。

「……ちなみにそれ、クレア作」

「マジか。あいつ、料理も出来んの?」

 すげーな。掃除、洗濯完璧で料理もか。一体、どこのメイドさん――ああ、魔王城のメイドさんみたいな扱いになんのか?

「違うわよ。不本意ながら、マリアのお嫁さんよ」

「……そうか」

 ……言うなよ。今、それを一番気にしてるんだから。

「ちなみに、ネギは私が切ったからね! 私だって料理、出来るんだからね!」

「ネギ切ったぐらいで――ああ、待て。お前は包丁を逆手に持つ奴だったな。すげーじゃねえか」

「あんまり褒められてる気がしないけど……うん! 頑張ったよ! 手も切ってないし!」

「へえ。スゲーじゃんか。あのレベルで手を切ってねーって――」

「………………二回しか」

「――……そうか。その割には絆創膏もしてないみたいだけど……」

「……魔法で治した」

「無駄遣い甚だしいな、おい」

 お手軽すぎんだろう、魔法。つうかお前、そんな魔法使えんの? 『痛いの痛いの飛んでいけ』だけかと思ったんだが。

「……クレアが」

「……俺の中でのクレア株がどんどん上がっていくんだが」

 すげーな、マジで。万能メイドさんじゃん。

「ち、違うもん! 私だって理論は完璧なのよ! 包丁を振り下ろす角度とか、速度、力量だってちゃんと計算しているのよ! た、ただ……体がついていかないだけで! わ、私だって頑張ってるんだから!」

「……いるよな、そういう奴」

 頭でっかちってやつだろ、要は。

「……つうかお前、今日はガシガシ来るな? なんだ? 褒めてほしいのか?」

 よしよしって頭を撫でてやろうか?

「そうね。そうして」

「うし、分かった。それじゃ頭を――なんとな?」

 言うが早いか、そのまま頭を『ん!』とこちらに突き出してくるヒメ。いや……え?

「……なによ? 撫でてくれるんでしょ?」

 拗ねたように上目遣いでこちらを睨んでくるヒメ。畜生、可愛いじゃねえか……じゃなくて。

「……なんなの? ガチでガシガシ来るね、お前? なに? 好きなの? 俺の事、本当に好きになったりしちゃってるの?」

 冗談めかしてそんな風に問いかけてみる。そんな俺を、まるでゴミでも見るような目で見つめて。

「……何言ってるのよ、マリア」

 そして、その後見惚れるような笑顔を見せて。


「私は貴方の事が大好き――って、なんで? なんでほっぺた抓んでるの?」


「いや……」

 いや……は?

「えっと……マジで?」

「マジで。っていうか、大体分からない? それっぽい事、結構言ってきたつもりなんだけど?」

 ……まあ、うん。『あ、コイツ、俺の事好きじゃね?』とは思ったよ? でもさ、ほれ。やっぱりこう、自己防衛本能――まあ、傷付くのは嫌だし、思うじゃん? 『ははは、勘違い、勘違い』って。

「そう。それじゃ勘違いじゃないわ。私は貴方の事が好き。大好き。正直、クレアとかローザとか、妹ズにじゃなくて、私だけに笑いかけて欲しいな~って思ってるわ」

「……マジっすか」

「マジっす。でもまあ、それは今後の私の努力次第って所かな~とは思ってるから、マリアは気にしないで良いわよ。とにかく、私が貴方の事が大好きって知っていてくれれば良いから」

 そう言って、『ああ、すっきりした~』と言わんばかりにうーんと伸びをして見せるヒメ。

「……なんつうか……すげーな。このタイミングで来るか」

 反ったことにより主張する二つの膨らみから目を逸らしながらそんな事を言う俺に、ヒメが『ん?』と首を傾げながら微笑んで見せる。

「むしろ、今のタイミングじゃないと言えないかな~って。ライバル増えるし、ちゃんと主張して置こうと思って」

「……さいですか」

「それに……流行んないんでしょ、最近?」

「……なにが?」

「『ツンデレは様式美ですが、所詮は過去の遺物ですよ! 今の時代、『チョロイン』こそが至宝です!』ってサクヤちゃんが言ってた」

「後で説教だ、アイツ」

 何言ってんだよ、あのバカ。

「まあ、私は簡単にマリアがいいな~って思った訳じゃないけど……でもね? やっぱり素直にならないとダメかな~とも思うのよ。だから、ほら! 素直になってみた」

 再び『撫でろぉ~』と主張する様に頭を差し出すヒメ。その頭を苦笑を浮かべながら一撫で。気持ちよさそうに目を細めながら、ヒメは口を開いた。

「……それじゃ、次は私の家?」

「ええっと……ああ、そっか。親父さんに挨拶しなくちゃいけないか」

 魔王様は『まあ、ヒメちゃんが良いって言うならいいけど』と不承不承了解してくれたが、親父さんが居たな。

「……どんな人なんだ、お前のパパさん」

「んー……まあ、温厚な人かな?」

「ありがとう、参考にならねえな」

「あ、あれ!? なんで?」

「その筋の方々だって、娘の前では良いパパだしな」

 まあ、悩んでも仕方ない。いずれは挨拶に行かなくちゃいけねーし、頑張って行くか。

「うー……納得がいかないけど……うん、頑張って! あ! それと、きっとパパだけじゃなくてジーヤもいるから、そっちの説得もお願いね?」

「ジーヤ……ああ、『爺や』ね」

 あれだろ? 某国民的な人気漫画のお金持ちの家に務めるヒデさんみたいな人が居るんだろう? 『お嬢様を幸せにする人以外は認めません』的な――

「……へ?」

「……あれ?」

「ええっと……『ジーヤ』は女性だよ? ジーヤ・ルーキフェル。熾天使の位階を持つ天使だったけど、自由意思を持って神の世界を離れて魔界に来た堕天使の長だよ」

 ……なんと。

「……マジか。ええっと……その堕天使長がお前の……なんだ? お世話係なの?」

「世話係って訳じゃないんだけど……でも、そうかも。小さい時からいつも可愛がって貰ってたから。魔王城に住んでるしね」

「……魔王城に住んでる? あれ? こないだ居たか、そんな人?」

 アレか? 俺を迎えに来てくれた人か?

「……」

 そんな俺の質問に、ヒメが気まずそうに眼を逸らす。なんだよ?

「ええっと……その時はジーヤ、パパと一緒に有明に居たと思う」

「……は?」

「だから……ジーヤも一緒に行ってるのよ、あの『お祭り』。私はあんまり詳しくないけど……なんだったかな? 『一日目こそ至高』って言ってた」

「……それ、堕ちてるちゃう。腐ってるんや」

「なんで関西弁?」

「……なんとなく」

 いや……え? 堕天使じゃなくて腐天使なの? なにそれこわい。

「……なんにせよ、その天使サマも説得しなくちゃいけないんだよな。厳しい戦いだぜ、全く」

 色んな意味で。

 そんな事を思い、俺は湯気の立つ蕎麦を啜って溜息を吐いた。


堕天使編です。いや、腐天使編かも。

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