第六十八話 それは誰の責任か。
俺の言葉に、二、三度と目をぱちくりとさせた後、ピーターが小さく溜息を吐いてやれやれと首を振って見せる。その後、少しばかり小馬鹿にした様に小さく笑んで見せた。なんだろう? スゲームカつくんですけど。
「……なんと仰いましたか……私の責任、ですか?」
「そう。お前さんの責任だよ、お前さんの。クレア・レークスを育てた、ピーター・レークスの責任についてのお話だよ」
「……年は取りたくないものですな? 私の耳が悪くなったのでしょうかな? 先程新魔王様、貴方はクレアには恩赦を賜るとお聞きした気がしますが?」
「言ったよ。『クレアには』恩赦を出す。ローザに唆されて俺の妹ズを攫った罪は許すさ」
そう。『クレア』にはな?
「でもな、ピーター? 俺の住んでる国には『使用者責任』って言葉があるんだよ。今のクレアの使用者、つまり上司はヒメだろ? だから、ホレ。ヒメにも責任を取って貰ったんだよ。なあ、ヒメ?」
俺の言葉にコクリと無言で頷くと、ヒメはイソイソと前髪を上げておでこをピーターに見せる。少しだけ赤くなったおでこをしかめっ面で見た後、ピーターが視線をこちらに向けた。
「……ヒメ様に……暴力を振るったのですか?」
「別に暴力……っちゃあ暴力か。まあ、デコピンしただけだ。それでもヒメは文句を言わずに甘んじて受け入れたぞ? さあ、ピーター? お前はどうする?」
「……」
「……」
「……先程のご説明では、使用者に責任があるとの事ですが? 今現在、クレアの使用者は私ではありませんが?」
仰る通り。でもな?
「日本にはこんな素敵な法律がある。PL法ってんだけど、知らねーか?」
「……寡聞にして」
「製造物責任法、略称PL法だ。ざっくり言えば、作ったモンが欠陥品だったら、作った人が責任を負いましょうね、って法律の事だよ。お前、クレアの製造者だろうが? 責任取れよ、ちゃんとな」
そう言って、ピーターを睨みつけ――うん、ヒメ。俺がピーターを睨む以上の視線で、顔を真っ赤にしてこっちを睨むな。そうだよな。クレアの『製造者』って言い方、ちょっとアレな感じだよな、色んな意味で。それは分かる。分かるけど……
「……このムッツリが」
「む――!? だ、誰がムッツリよ、誰が!」
「いや……そりゃ、自分でも『あ、この言い方はちょっとな~』とは思ったよ? でもな? 『製造者』って聞いただけで顔真っ赤にするってどういう事だよ? なに想像したんだよ、お前」
「なななななななななにって、ナニ!? っていうか、な、なんて事言わそうとしてるのよ、マリア! セクハラよ! セクハラで訴えるわよ!?」
「……何処にだよ。魔界にもあるのかよ、裁判所っぽい施設」
顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせるヒメに溜息を一つ、視線を再びピーターに戻す。
「まあ、ヒメはアレな感じだけど……でも結局、どう言い繕った所でクレアってお前の娘なんだろう? んじゃ娘の仕出かした不始末、親が責任を取るのって別段珍しいとか思わねーんだけどさ? どう思うよ?」
「……そうですな。否定はしません。確かに『アレ』は私が仕込んだ娘ではありますから」
「仕込んだとか言うな、なんかヤラシイから。んじゃ、お前が責任を取るのは別に珍しい話じゃねーよな? 道義的にも間違ってなくねーか?」
「……そうですな。確かに、そういうお考えもあるでしょう」
努めて無表情をして見せるピーター。そんなピーターの姿に、俺は小さく溜息を吐いた。
「大して面白くもねー昔話をしてやろう」
「……」
「そんなイヤそうな顔するな。直ぐに終わるから。まあ、見たら大体分かると思うけどよ? 俺はちっさい頃から体もデカかったし、普通の人より体力も力もあったんだよ。んで……なんだっけ? もう理由も覚えてねーけど、ガキの時にツレと喧嘩したんだよな」
「……それが?」
「俺もガキだったし、力の加減が出来ねーからついついそのツレ、思いっきりぶん殴ったんだよ。仲間内でも一番チビなヤツだったから……こう言っちゃなんだけど、面白いぐらいにぶっ飛んでな? まあ、運がいいのか悪いのか、池に落っこちたんだよ」
アスファルトだったらヤバかったかも知れん。漫画とかでありそうなカンジで、『ぴょーん』って飛んでったからな。
「んでまあ、ソイツはびしょ濡れになって帰るんだが、当然親も聞くよな? 『なんでこんな事になったんだ』って。それで俺と喧嘩した事を喋る訳だよ。ソイツの親御さん、出来た人だから『男同士の話だ。正々堂々と喧嘩をしたなら、マリア君は悪くは無かろう。強いて言うなら、どっちも悪い』ってお咎めなしだったんだよな」
「……」
「でもまあ、悪事って千里を走るんだよな? それが親父にバレてよ?」
……おうふ。今でも思い出すと背中に怖気が走る。
「……ソイツの家に連れて行かれて、ソイツの前でボコボコにされたんだよ。親父、頭を丸めて謝りに行ってな? 『コイツは体も大きいし、力も強い。暴力を振るうなと教えたつもりだったが、誠に申し訳ない』って」
唯でさえ厳つい親父がスキンヘッドにしたからな。どっからどう見ても、そのスジの方にしか見えんかったさ。
「……まあ、喧嘩なんであっちの親御さんが言うように、どっちも悪いんだよ。だから俺が親父にボコボコにされるのも可笑しいっちゃ可笑しいんだが……」
なんとなく、分かる気はするんだよな。俺の力は唯でさえ強いから、むやみやたらに使っちゃイケなくて、それを喧嘩なんかで使う様じゃ駄目だって、そういう意味だったんだと思うんだよ。
「……まあ、俺の為に叱ってくれたんだよ、きっとな。頭を丸めてな」
「……私にも頭を丸めろ、と?」
「いいや。誘拐って言っても、飯食ってただけだしな、アイツら。『普通』はそれでもイイだろうけど、お前の所は普通じゃないだろう?」
「……それは」
「まさか、自分の所が『普通』だとでもいうつもりか? 笑えない冗談だな、おい」
誰がどう考えてもまともじゃねーからな、レークス家は。まあ、何を以ってマトモって言うかにもよるんだろうが……少なくとも、幸せな家庭には見えんからな。
「なもんで、俺はお前の所の教育方針が気に入らねーんだよ。だから、そこの所を何とかして貰いてー訳だよ」
「……なんとか、と言われましてもな」
憮然とした表情を浮かべるレークスに溜息一つ。俺はヒメの目の前に手を差し出した。
「……なに?」
「出せ」
「だ、出せ? 貴方、それが人に――っていうか、何を?」
「お前、魔王様からなんか貰ってただろう? 『必要なモノが出て来る』とかなんとか言ってたヤツ」
「……ああ、『魔石』の事?」
「そう、それ。ピンチの場面でも使ってねーんだから、あるんだろう?」
「……」
「……なんだよ?」
「いや……なんだか私が使うの忘れてたみたいな言い方したけど、ピンチの場面なんて無かったからね? 圧勝だったでしょう?」
う、うぐぅ。いや、別に圧勝って訳じゃ……鳴海の暴走モードとか地味にヤバかったし。
「……一番のピンチが人質に取られた本人の暴走ってどうなのよ?」
そう言ってこちらも溜息を吐きながら、俺の差し出した手にビー玉サイズの魔石を乗せるヒメ。その姿にサンキュと礼を言い、再び俺は視線をピーターに向けた。
「この魔石ってのは地面に叩きつけて割ったら、その時一番必要なモノが出て来るんだってさ」
手の中でビー玉サイズの魔石を転がし――そして、それを高々と天に向かって突き上げる。
「だから――どんな事が起こるかは、割って見てからのお楽しみっ!」
その言葉と同時。
俺は高々と突き上げて『魔石』を思いっきり床に投げつけて。
「「――――は?」」
パリン、と魔石が割れる音と同時、俺とヒメの声が重なり。
「――ぐ……ぐはぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ピーターの悲鳴と、ドサドサという音と共に、大量の『にんにく』が降って来た。
………………って……は?




