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第六十五話 魔王様は我儘!


「……はあ」

 少しだけ……訂正、がっつりSAN値を削られながら俺はローザとクレアを含む皆の下に歩みを進める。なんだろ、コレ。なんか物凄く疲れたんだけど。

「……マリア?」

「あん?」

「その……なんだ? サクヤ嬢はなんと言っていたのだ?」

 俺の牛歩の如く重い足取りを訝しんだか、それとも純粋に咲夜が心配か……或いは両方か、心持心配そうにそうラインハルトが声を掛けて来る。

「……はー」

「……おい。なぜ、私の顔を見て溜息を漏らす?」

 いや、そりゃ……うん。俺だってそりゃラインハルトは良いヤツだと思うよ? 気が合うってのもあるし、一緒に居て楽しくねーわけじゃねーからな。でもな?

「……義弟」

「は?」

「なんでもねーよ」

 その……ラインハルトが『義弟』ってどうよ? いや、中学生の色恋でそこまで行くか、とは思うが……咲夜、思い込んだら嘘みてーに視野が狭くなるしな。可能性としては十分ある。

「……なあ、ラインハルト?」

「なんだ?」

「お前、普通の人間とガチでやり合っても余裕で勝つよな?」

「……お前に一撃で倒されたが?」

「アホか。俺は普通じゃねーよ」

 色んな意味で。

「……まあ、そうだな。お前程の豪の者でなければ、勝つことは難しくは無いだろう」

「……だよな」

 親父、『咲夜の旦那になる様な男は俺を倒す男でないと認めん!』とか言ってたけど、流石にラインハルト相手じゃ分が悪そうだよな、親父も。んであの筋肉バカな親父は強いヤツイコール良いヤツの方程式が成り立つし……行かん。どんどん咲夜が嫁に行く幻想しか見えん。

「……良識を持てよ、ラインハルト」

「……何が言いたいのだ、お前は」

 後はラインハルトに期待だ。人の恋路だしな。

「なんでもねーよ。おっほん。さて……それじゃ、クレアとローザだけど……まあ、勿体ぶっても仕方ないか。咲夜との間で話が纏まった。ああ、正確には纏まったって言って良いか良く分からんが、ともかくお咎めはなし、って方向で良い。だからホレ、お前らも正座なんて止めろ」

 まるでキツネに摘ままれた様な顔をするクレアとローザを立たせ、その頭をポンポンと二度撫でる。しばし呆けた顔をしていた二人だが、先に冷静さを取り戻したローザが早口で捲し立てた。

「ちょ、ちょっと! クレアはともかく、私がなんで許されるのよっ! だ、だって私は、その……み、皆に酷い事をしたのよ! そんなの、許される訳ないじゃない!」

「さっきも言ったろ? 誰もお前に酷い事をされたなんて思ってないの。精々、夜中に『美味しいお肉があるから食べに来なさい!』って無理やり連れて行かれてご馳走になった、ぐらいの感覚なんだよ」

「そ、そんなの……そんなの、おかしいよ!」

「……」

 うん、俺もそう思う。もうちょっと『マトモ』だと思ってたんだけどな、妹ズ。

「……まあ、気持ちは分からんでもない。俺だって実際そう思うが……なんだ、もうあきらめろ、な? アイツらを常識で図ろうとするな。無駄だから」

『アンタには言われたくないんですけど!』とかいう麻衣の言葉が後ろから掛かるが……まあ、俺だって大概規格外だとは自覚してるが、お前ら程じゃねーよ、失礼な。

「……なんか凄い勢いで後ろから反論が飛んでるんだけど……」

「気にするな」

「……いや、あの子とか、本気で殴り掛かって来そうな勢いなんだけど……」

「気にするな」

「で、でも」

「気にするな」

「そ、その」

「気にするな」

「……」

「気にするな」

 RPGの村人の様に、『気にするな』を連呼する俺。その姿に、ローザがクスリと笑みを漏らした。

「……分かった。気にしない」

「おう、そうしろ。俺たちはただじゃれてただけだ。悪い事なんか、なにも無かった」

 そう言ってニカっと笑って見せる。怖い? 放っとけ。

「……魔王様は、優しいね」

 そんな俺の笑顔にも別段怯えた風もなく、ローザは晴れやかな笑みを浮かべて見せる。

「そうでもねーよ」

 ヒラヒラと手を振って次はクレアに視線を向ける。俺の視線にビクリと怯えた様な仕草を見せた後、諦めた様にクレアが肩を落とした。

「……本官も、免罪されるでありますか?」

「勿論だ。つうかな? そもそもお前に対して責任はねーよ」

「そ、そんな事はありません! 本官は……本官は、マリア様の御身内を……」

 唇を噛み締め下を向き、何とか声を絞り出すクレア。その姿を溜息と共に見つめ、事の成り行きを見つめるヒメにちょいちょいと手招き。

「……なに?」

「おい、ヒメ。おでこ出せ」

「……は?」

「でこだよ、でこ。前髪上げておでこ出せ」

 俺の言葉に頭に『はてな』を浮かべながら、それでもおでこを出すヒメ。おー、ヒメってでこ出しても美人なんだな。いっつも前髪作ってるから分かんなかった。

「はっ!? び、美人!? え、ええっと嬉しいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 言葉の途中で、ヒメがおでこを押さえて蹲る。うん、綺麗にクリーンヒットしたな。クリーンヒットしたけど……

「……そんなに痛いか? 俺のデコピン。だいぶ力抜いたんだけど」

 ちょん、だぞ、ちょん。そんな俺の言葉に、おでこを抑えたまま涙目でこちらを睨みつけるヒメ。こえーよ。

「痛い……事は、確かにそんなに無かったけど! びっくりするでしょ! なんで!? なんで急にデコピンなんてしたのよ!」

 返答次第じゃタダじゃおかないと言わんばかりの視線をこちらに向けて来るヒメ。うん……超怖い。

「……ホレ、魔王様が言ってただろ?」

「……ママが?」

「『クレアは既にヒメ付きの侍女』って話だよ」

 だから、仕掛けて来たローザを許さないって話だ。でもな? それって裏を返せばよ?

「んで、ヒメ付きの侍女がミスをしたんだ。んじゃ使用者責任でお前が責任取るべきだろ?」

「……あ」

 俺の言葉にようやく合点が行ったか、ヒメが驚いた顔の後に素晴らしい笑顔を見せて見せる。可愛いじゃねーか、コンチクショウ。

「……んで、使用者たるヒメが、被害者の一人である俺から罰を受けたんだ。これで『俺ら』からの罰は終わり。後は――」

「私がクレアに『罰』を下せば終了ね?」

「……そういう事。台詞、取るなよな?」

 俺の言葉にニシシと笑ったあと、ヒメはクレアに視線を向ける。呆然と成り行きを見守っていたクレアがびくりと小さく体を震わせた。

「……ヒメ、様」

「クレア。貴方に『罰』を下します」

「……はい。どの様な罰でも、本官は受けたいと思います」

 そんなクレアの言葉に、ヒメは大きく頷き。


「クレア・レークス。今後、私の側仕えとして誠心誠意、私に尽くしなさい。一瞬の手抜きも、気の緩みも許しません。分かりましたか?」


 そう言って、柔らかく微笑み。

「……気付いて上げられなくてごめんね、クレア」

「――あ」

 地面に蹲り、泣きじゃくるクレアの肩にヒメが優しく手を置く。それがきっかけ、ヒメの胸に顔を埋めてクレアは滂沱の涙を流した。

「……まるで、聖母様だね」

「魔王候補なのにな。おかしな話だ」

「ホント」

 そう言って、いつの間にか隣に来ていたローザが笑う。朗らか、とは形容し難い、陰のある笑みに訝し気な表情を浮かべたのに気付いたか、ローザが困ったように苦笑を浮かべて見せた。

「……新魔王様は許してくれたけどね? きっと、ヴァンパイア族の族長は許してくれないから。ううん、これを機会に、きっと私の家を……アインベルク家を取り潰す」

 ……は?

「……は?」

「ウチの実家、ヴァンパイア族でも権力のある一族だから。そこの愛娘が、謀反なんて不祥事を起こせば、これ幸いとお家お取り潰しに――」

「そうじゃなくて。いや、その事情は知ってるけど」

 魔王様が言ってたからな。これを機会に粛清するだろう~みてーな事を。

「……新魔王様、もしかしてウチの実家を守ってくれようとしている? でもね? 仮に私が許されたとしても、実家は監督責任を取らされる。魔族として、ではなく、ヴァンパイア一族として。だからね? きっと――」

 ローザの言い分を手で制し。

「何言ってんだよ、お前は」

「――え?」

 何を言っているか分からない、と首を傾げるローザに。


「お前の家なんて潰させる訳、ねーだろうが。つうかな? そもそも俺はクレアの親父さんに腹が立ってんだよ」


 そう。


 誘拐云々はともかく……クレアの親父には腹が立っている。


「だから、ローザ? お前、転移とか得意だろ? クレアの親父の所に送ってくれ」

「お、送ってくれって……ええっと……え?」

 半分パニックになりながら、『え? ええ?』とおろおろするクレアに邪悪な笑みを見せて。


「知らねーのか、ローザ? 魔王ってのはな? 我儘なモンなんだよ?」


 ヴァンパイア族の決まりとか事情なんか、知った事か。


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