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第六十三話 幼馴染の『アイ』

この世界にはきっと、幼馴染愛がある。


 頬を真っ赤に染めてラインハルトを見つめる咲夜。そんな咲夜の視線に気付いたのか、ラインハルトが視線を咲夜に向ける。と、同時、物凄い勢いで咲夜が視線を逸らしやがった。

「……マリア」

「……なんだ?」

「その……私は、サクヤ嬢に嫌われているのだろうか? 慌てて視線を逸らされたのだが……」

 そんな事を言いながら、心持肩を落とすラインハルト。そんな姿を見て、ヒメがラインハルトと俺の顔を交互に見やる。なんだよ?

「いや……類は友を呼ぶんだな~って」

「一緒にすんな。俺はコイツみてーなリア充じゃねーし、そもそもコイツ程目ん玉腐ってねーよ」

 見ろよ、あの咲夜の表情。真っ赤な顔して下を向きながら、それでもチラチラとラインハルト見てやがるじゃねーか。

「……マリアがそんな事言う?」

「趣味が人間観察だからな。ある程度、人の心情の機微は分かるつもりだ。人間ソムリエって言われてんだぞ?」

まあ、アレだ。まるまるさんがばつばつ君を好きです~、みたいなのを見抜くのには自信があるんだ。そして、そんな俺の目から見て、今の咲夜の表情はだな?

「……あー」

……なあ? 俺、なんで妹の恋路をリアルで見せつけられねーといけねーの? どんな罰ゲームだよ、コレ。

「マリアの人間ソムリエ云々は置いておくとしても……やっぱりそうかな?」

「おい、なんで置いておくんだよ」

「置いておくとして! どう? お兄ちゃんの目から見て」

「……完璧に不治の病だな、ありゃ。つうかあんな咲夜の表情見た事ねーよ」

 生意気な所もあるが、そうは言っても『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と懐いて来てくれる可愛い妹ではある。そんな妹が特定異性感染精神疾患、別名恋の病に罹るとは。なんだろう、この『もにょっと』感。

「……シスコン」

「ちげーよ! 身内がそうなったら何となくもにょっとするんだよ! お前だってお前の親父さんが楽しそうにデートしてる姿見たらもにょっとするだろうが!」

「ママと? それだったら結構見てる気が――」

「魔王様以外と」

「――するって、ママ以外の人だったらもにょっとどころの騒ぎじゃないんですけど、それ!? 血の雨が降るよ、冗談抜きで! っていうか、色んな意味で怖い事言わないでよ!」

「……すまん」

少し例えが悪かった。だがな? イメージとしてはなんとなく分かって貰え――ああ、そうだ。

「奏」

「……はい?」

「お前の目から見てどうだ? 小っちゃい頃から知ってるお前なら、俺の意見に同意できる所もあるんじゃないか?」

「いえ……まあ、はい。マリアさんの意見が分かる所もあるのですが……それよりも、その……」

 そう言って、震える指で咲夜を指差し。



「…………誰ですか、アレ?」



「現実を認めろ。残念ながらアレはお前の幼馴染だ」

「い、いや、ですが! さ、咲夜さんですよ? 何時でもがちゃ――じゃなくて、天真爛漫、殿方との甘い語らいよりも、甘いお菓子と運動が大好きな咲夜さんですよ! 恋愛観は小学生以下の、あの咲夜さんですよ!?」

「言いたい事は大体分かるが酷くねーか、お前?」

 恋愛観が小学生以下って。っていうか、未だにプルプル指が震えてるんですけど?

「もういい。おい、麻衣? お前から見てどうだ?」

 奏から視線を外し、丁度鳴海を抱えてトコトコ歩いてきた麻衣に声を掛ける。アレだ。お前だってどっちかって言えば咲夜寄りだろ? 色恋沙汰より運動する方が好きなタイプだろ?

「……マリアが私の事をどう見ているか良く分かる言葉をどうもありがとう。それはともかく……ようやく咲夜も真面な恋愛が出来る様になったか~って感慨深いモノはある。まあ、なんだろう? アレだけ顔真っ赤にしてチラチラ見ている咲夜って絵面がなんだか気持ち悪いけど」

「途中までイイ感じだったのに、最後で台無しだよコンチクショー。あー……鳴海、大丈夫か?」

「んー……うん。もーだいじょーぶ。迷惑かけたね~、マリアお兄ちゃん」

 心持、トロンとした目でこちらを見上げる鳴海。未だに夢見心地なのか、麻衣に抱きかかえられたままで気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らしてやがる。猫か、お前は。

「それで……なんだっけ? 咲夜ちゃん?」

「あー……そうだな。体調が大丈夫そうなら答えてくれ」

 ゆっくり寝かしてやりたい処だが、ちょっと幼馴染達が酷過ぎるからな。こうなったらKIDの良心と呼ばれる、温厚な鳴海から――



「脳が腐るね」



 ――おい。

「……流石に咲夜が可哀想になって来たぞ、お前ら」

「いや……」

「でも……」

「よく考えてよ、マリアお兄ちゃん? 咲夜ちゃんだよ? 山猿か咲夜ちゃんかって言われた咲夜ちゃんが乙女モードだよ? 脳が腐るに決まってるじゃん」

「……もういい。取り敢えず鳴海、お口にチャックな?」

 あまりにも不憫過ぎる我が妹に視線を向けると、『こっちこっち!』と言わんばかりにぴょんぴょん飛び跳ねながら手招きしてやがる。あのまま放置すると面倒そうだし、ちょっと――

「……ああ、そうだ。おい、お前ら?」

「はい?」

「なに?」

「むー?」

「鳴海はちゃんと言い付け守ってお口にチャック中か。いや、お前らさ? 今、誘拐されてた訳じゃん?」

 そんな俺の言葉に、三人が顔を見合わせる。おい、お前ら。一応お前ら、誘拐されてたんだからな?

「……ステーキしか食べてないけど……まあ、うん」

「……もういい。ともかく、それでな? そこで正座している犯人二人の取り扱いなんだけど……どーする? お前らが望むなら……こう、仕返し的な事も出来るけど?」

「いや、マリア? さっきも言ったじゃん? ステーキ食べただけだって。むしろお金払わなくていいの? あれ、結構いいお肉だったんでしょ?」

「恐らく、A5ランクの神戸牛だと思いますわ。誘拐と言っても、特段何かをされた訳でもないですし、むしろその様なお肉を頂戴しましたし……そもそも、誘拐の経緯もその……こう、『誘拐』という大仰なモノでもありませんでしたし」

「むしろ自分から連れてけって言ってたもんな、お前ら。鳴海は……ああ、うん。何もしないって事でいいな?」

 手をバタバタと振って意思表示を見せる鳴海に軽く頷く。俺の言葉に、鳴海もにこーっと擬音の付きそうな笑顔でコクリと頭を下げた。

「……うし。それじゃ、ローザにクレア。お前らへの処罰は無しって事で」

「…………は?」

「いや、『は?』じゃなくて。別に命を貰うなんて事はねーから安心しろ」

「で、でも! そ、そんなの――」

「そうであります! 本官は、決して許されない――」

「うるせーな! 良いって言ったらイイんだよ! どうしても何かがしたいってんだったらコイツらに喰わせたA5ランクの神戸牛、俺にも出せ!」

 我が家はエンゲル係数が高いから、そんな高級なモンは出て来ねーんだよ。

「え、えっと……に、ニンニクたっぷりじゃなかったら……」

「生肉でいい、生肉で」

「……え? そ、その……そのまま、食べるの?」

「食うか! 調理は自分でするって意味だよ!」

 良い肉が入ったらしてみたかった調理方法も、料理もあんだよ。まあ、A5ランクの神戸牛ならどんな料理にしてもうめーんだろうけどな。

「わ、分かったわ。それじゃ、それで……」

「交渉成立だな。んじゃ、楽しみにしてるから」

 そう言って何かを言いたげなローザとクレアに背を向け――『おせーよ!』と言わんばかりのガン飛ばして来やがる咲夜に盛大に溜息を吐きつつ、俺はそちらに歩みを進めた。


幼馴染愛? ねーよ。

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