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第六十話 芸達者

主人公、最強モノですから。


「きゃ、きゃーーーー! 来ないで! こっちに来ないでよっ!」

「キャハハ☆ 待ってよぉ~」

「ひぃいぃぃぃぃ! 助けて! 新魔王様、助けてっ!」

 ちょっとしたホールぐらいはあるだろうローザの部屋。その中で、黒髪を振り乱して逃げ惑うローザと、某殺人人形の様にナイフを逆手に持って血走った目で追いかけまわす鳴海、なんて風景が俺の眼前で繰り広げられていた。うん、地獄絵図だな、これ。

「って、なにしょうもない事を言ってるのよ! マリア、コレって不味いんじゃないの!」

 腕を組んでその光景をじっと見つめる俺に隣からヒメのツッコミが飛んだ。いや……そう言われましても。

「……『ああ』なった鳴海はもう止まらないからな。さっきも言ったけど、燃料切れるまでえも……じゃなくて、いけに……でもなくて……えっと、目標? 目標を殲滅しない限りは難しいんじゃないかと」

「『えも』とか『いけに』とか不穏な言葉が聞こえて来たんだけど! それって獲物とか生贄って事だよねっ!?」

あー……いや、言葉のアヤだ。うん、言ってないよ?

「ともかく! なんとかしてよ、マリア!」

 そんなヒメの声に、少しだけ困ったような視線を俺はラインハルトに向ける。そんな俺の視線を受けて、こちらも少しだけ困った様な視線をラインハルトは返して来た。

「……その、なんだ。マリア、『あの』状態になったナルミ嬢でも、流石にローザに止めを刺す事はないんだな?」

「完全に大丈夫とは言わんが、それでも過去に前科は付いてないから大丈夫だとは思う。つうか、ぶっちゃけ鳴海の細腕で吸血鬼に止めを刺せるとは思えん」

 リミッター外れてるからある程度動きにキレとかはあるが、それでも人外の領域に達している訳じゃ無いしな。ぶっちゃけ、反撃されたらやべーんじゃないかとは思う。

「正直、ローザが巧く逃げ回ってくれればいいんじゃね? とは思ってるぞ。体力勝負なら鳴海よりもローザの方が上だろうしな」

「……やはりな」

「分かるか?」

「お前が余りにも冷静だったからな。本気で『ヤバい』訳では無いだろうとは思っていた。だが、先程の……ユリウス、だったか? アイツはナルミ嬢に良いようにやられていたと思うが?」

「鳴海、奏から合気道とかも教えて貰ってるからな。護身術代わりに。元々、読書っ子で勤勉だからアイツ、知識自体はあるんだよ」

「後は体の動きが伴えば何とかなる、と。なるほど、今の状態であれば自身が学んだ通りに体が動くという事か?」

「そう。まあ、それも相手を捕まえてナンボの話だからな。このままローザが逃げてくれれば何とかなるんじゃないかな、とは思ってる」

 結局、鳴海がどれ程頑張ってもローザの影すら踏めないだろうしな。だったら、あの追いかけっ子を続けて貰えばいいんじゃないか、とは思う。

「でも! それじゃローザ、可哀想じゃない!」

 ……まあ、確かに。今にも泣きそうな顔でこっちを見てるしな。可哀想っちゃ可哀想なんだが……

「……ヒメ様」

「なによ、ラインハルト!」

「その……お忘れかも知れませんが、本来『誘拐』という大罪を犯したのはあちら側、つまりローザの方です」

 ……そうなんだよな。ぶっちゃけ、悪いのはあっちの方なんだよ。だから俺的にもなんとなく、止めにくいモンがあるんだ。いや、この状況見たら完璧にこっちがヒールなんだけど、そもそも俺、アイツら助けに来たんだからな?

「そ、それは……そうだけど! でも……その、ホラ! 罪を憎んで人を憎まずって言うし! 確かにローザが悪かったかも知れないけど、さっきちゃんと『ごめんなさい』してたじゃん! それじゃ、許して上げてよ!」

「……本当に日本大好きだよな、お前らって」

 まあ、一理あるが。そもそも、そんな潤んだ上目遣いはズルいだろう。なんとかしてやりたいと思っちゃうじゃねーか。

「……マリア」

「あー……まあ、方法が無い訳じゃ――」

「あるの!?」

「――ないって、近い! 顔を寄せて来るな!」

 ドキドキするだろうが!

「ご、ごめん! で、でも、方法があるの!?」

「……」

「ま、マリア?」

 ……まあ、あるっちゃある。あるっちゃあるんだが……こう、色々と『危険』なんだよな。

「き、危険? 危険なの? あ、危ない事? マリア、怪我したりしちゃうの?」

「怪我は……まあ、無いかな? 少なくとも、身体的に何かしらの傷を負う事はないな」

「……えっと……ど、どういう意味?」

 ……はあ。仕方ないか。

「……奏?」

「え、ええ! わ、私もですか! マリアさんだけで宜しいではないですか!」

「……一人じゃ流石にきついんだよ! お前も付き合え!」

「……ええ~……折角、ゆっくり堪能させて貰おうかと思いましたのに……はあ。仕方ありませんわね。分かりました!」

「すまんな」

「いえいえ! 良く考えれば久しぶりですものね? これも良いかも知れませんわ」

「……なんか嬉しそうじゃない、お前?」

「そうでもないですわよ?」

 視線を向けた先で、そんな事を言いながらも奏がウキウキした顔を浮かべてやがる。その姿をジト目で睨みながら、俺はもう一度盛大に溜息を吐く。

「……いつもの『アレ』な?」

「分かりましたっ!」

 そう言って、コホンと一つ咳払い。その後、爪先で床をトントントンとリズムを取るように叩いて。




「――――なーるみは良い子だ、ねんねしなぁ」




 綺麗なメゾソプラノの声が響いた。

「「…………は?」」

 不意に歌い出した奏の姿に、ヒメとラインハルトが『きょとん』とした顔をして見せる。そんな二人を見やった後、俺も続けて。




「――鳴海のお守りは~、どこ行ったぁ~」




「「……………………え? …………え、えええええええええええええーーーーーーーーーー!!」」

 俺の声に、ヒメとラインハルトが驚愕の顔をして見せる。くそっ! だから嫌だったんだよ! ええい、さっさと終わらせてやる!


「……鳴海は良い子だ、ねんねしなぁ」

「鳴海のお守りは、マリアだよぉ」

「イイ子にしてる鳴海には、きっとマリアが土産持ちぃ」

「買って帰って、来てくれるぅ」

「だから泣かずにおねんねよぉ」

 俺と奏の二重奏。その歌声が鳴海に届くと同時、先程まで血走っていた鳴海の瞳が、徐々に、だが確実に『とろん』としてくる。よし、もうちょっと!



「「――鳴海は良い子だ、ねんねしなぁ~」」



 最終節を歌い切ると同時、鳴海の手からナイフがからん、と音を立てて落ちる。そのまま、膝から崩れ落ち掛けて――って、ヤバい!

「麻衣!」

「任せて!」

 既に動き出していたのだろう、ゆっくりと崩れ落ちる鳴海が床とキスをする直前、麻衣が鳴海の体を抱き上げる。あ、あっぶねー。

「……よし、取り敢えずコレでオッケーだな」

 視線の先でサムズアップする麻衣に笑顔を返し、俺はヒメとラインハルトに振りかえ――ああ、うん。分かってた。そうなるよね、うん。

「……言いたい事があるんだったら、聞くが?」

 そんな俺の言葉に、ヒメが震える指で俺を差して。


「……マリア……滅茶苦茶、歌が上手い。っていうか……声が、その……凄く色っぽいんだけど……」


 ……そうかい。それはありがとうよ? でもな? 必ず俺の歌声を聞いた奴は言うんだよ。




「………………顔に、似合わず……」




 ……分かってるよ、ドチクショウ! だから嫌だったんだ!


ソフトのスペックは高いんですよ、スペックは。ハードが残念なだけで。

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