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第五十八話 マリア無双


 どっちが悪役か分からない、なんて失礼な事を――失礼? ま、まあ事実っちゃ事実だが……ともかく、ジト目を向けて来るヒメから視線を切り俺はローザと残りの二人に視線を向けてる。

「――ひぅ!」

 俺の視線を受け、びくっと体を震わせるローザ。明らかにビビった様なその姿勢のまま、体を『ザ・参謀!』を地で行くような眼鏡イケメンの後ろに隠す。あれ? ちょっとショックなんですけど? なに? 俺、そんなに怖い?

「ふ、ふん! 流石、新魔王になろうってするだけはあるわね! で、でもね? クラウスとカエサルは我が『ローザ四天王』の中では弱い方の二人よ! さあ、アレックス! やってお仕舞いなさい!」

 眼鏡の参謀役の肩をドンと叩き、その背中を押すローザ。押し出された眼鏡……アレックスが、『え? お、俺!?』みたいな視線でローザを見やるも、ローザからの返答は親指をグッと上げたサムズアップのみ。その姿にしばし呆然とした後、アレックスはふうと息を吐いてこちらに振り返った。

「……やれやれ。我が主の命とあれば仕方ないですね」

「……え? 此処で格好つけるの、お前? さっきの『無理ですって!!』みたいな顔、がっつり見たんですけど?」

「……」

「……」

「……や、やれやれ。我が主の命とあれば、し、仕方ないですね?」

「……」

 無かった事にしやがった。ちょっと声が震えてるけど……まあ、良い。んで? どーするよ、おい? やんのか?

「ふふふ。慌てないで下さい、新魔王様。クラウスとカエサルが『ああ』でしたから考え違いを為されているかも知れませんが……我ら『ローザ四天王』はローザ様のお力の一部を受け継いだ吸血鬼です。クラウスがローザ様の『力』を、カエサルがローザ様の『素早さ』を受け継いでいるのです」

「……要は劣化版って事か? ローザの一部分の力しか受け継いでいないって事だろう?」

「れっ――!! ま、まあ? 確かに私達単体ではローザ様の足元には及ばないでしょう。ですが、ただ規格外のローザ様のお力の一端でも受け継いだ我々は、それだけで他の吸血鬼よりも強い力を持っていると言っても過言ではないのですよ?」

 そう言って挑発的に笑んで見せるアレックス。あれか? カセットテープの原テープよりもMP3の方が録音しても音質は良いって事か?

「……あっそ。んな事はどーでも良いんだよ。ほんで? クラウスがパワーキャラで、カエサルがスピードキャラだったら、お前は何キャラだ? 見た目は頭脳キャラっぽいけどよ?」

「ご名答、新魔王様。私はローザ様の有り余る知性を受け継いだ吸血鬼。そして、四天王の纏め役でもあるアレックス・アインベルクと申します。我が主、ローザ様より『家名』を賜った吸血鬼ですよ」

「……あっそ」

 家名を賜ったって……え? それって凄い事なの?

「……ヴァンパイア族は超純血主義よ。その分、種族自体の数も少ないの」

「知っているのか、らい――ヒメ」

「『らい』? ラインハルト? え?」

「すまん、こっちの話だ。それで?」

「おかしなマリア。ええっと……だから、その分『家族』を大事にするし、家族以外に『家名』を授ける事なんて滅多にないの。そんなヴァンパイア族の中にあって、真祖でもない吸血鬼が――」

「ストップ。未確認ワードが出て来た。なんだ、真祖って?」

「生まれながらの吸血鬼の事よ。聞いた事ない? 吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になるって」

「ああ……うん」

 お話の中だけの事かと思っていたが。

「違うわ。真祖に血を吸われた吸血鬼はその吸血鬼の『子』になる。そんな『子』の吸血鬼に家名を与えているとしたら」

 そう言ってヒメは視線をアレックスに向けて、『きゅ』っと唇を結ぶ。

「……きっと、強敵よ」

「……そうかい」

 なるほど。それなら気を抜かずに掛からなきゃいけねーな。さんきゅ、ヒメ。良い事を教えてくれ――

「……」

「……」

「……」

「…………なあ」

「…………なに?」

「家名を与えられた吸血鬼は、強敵なんだよな?」

「……そ、そうよ?」

「……んじゃさ? なんでアイツ、『土下座』してんの?」

 俺とヒメの視線の先には、床に頭を擦り付けたアレックスの姿が映っていた。


「本当に、ほんっとううううううううに、申し訳御座いませんでしたっ! 無理っす! 自分、新魔王様には叶いません! 済みませんっした! 命だけは! 命だけはお助けくださいぃいいいいーーー!」


「……」

「……」

 涙と鼻水を流しながら。ええっと……は?

「ちょ、ちょっとアレックス! 何考えてるのよ! なんでみっともなく土下座なんかしてるのっ! ホラ! さっさと立ち向かいなさいよね!」

「いや、無理ですってローザ様っ! 私、頭脳キャラですよ!? ぶっちゃけ、そこら辺のガリ勉と大差ない筋力なんですって! 勝てる訳ないじゃないですか、あんなゴリラに!」

「誰がゴリラだ、誰が」

「ひ、ひぃいい! す、済みません済みません! 言葉のアヤです! 新魔王様がゴリラな訳ないじゃないですかぁ! い、いよ! 流石、新魔王様! 魔界きってのイケメン魔王っ!」

 俺の言葉に、殆ど卑屈なまでに頭を地面に擦り付ける。あからさまなおべんちゃらに、少しだけムッとして、俺はつかつかと土下座を続けるアレックスの下に歩み寄る。

「え、ええっと……し、新魔王様? な、なんで私の首根っこを掴むんですかね? これじゃ私、まるで子猫の様じゃないです? あ、あれ?」

「……誰が子猫だ、誰が」

 気持ち悪い。どこの世界に眼鏡掛けたイケメン子猫が居るんだよ?

「あ、あはは! ちょっと自分、調子に乗りましたね? そ、それで? その、私、一体、どうなるのかな~って……」

「どうなるって」

 俺は首根っこを掴んだまま、その手をグルグルと回す。

「ちょ、い、痛い! 痛いです、新魔王様! 回すのイタ! やめイタ! 足! 足がガンガン当たってるんですけど!?」

横にじゃなく、縦に。

 その場で、ガン! ガン! と音を立ててアレックスの足が地面を抉っていく。当たる足が多少の負荷を掛けて来るも、元がアホみたいに軽いせいかそんなモノは大した抵抗になりゃしない。

「石ぃ!? 下、石でイタ! 削れてる! 石が削れてイタっーーーー!? うぷっ……は、吐きそう……」

 そろそろ好いか?

 既に数十回以上回したせいか、アレックスの目が漫画みたいにぐるぐると渦巻いてやがるし……吐かれても面倒くさい。

「それじゃ……いけぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 野球ボールを投げる要領でアレックスを中空に解き放つ。同時、悲鳴を響かせながらアレックスが宙を舞い、そのままの勢いで屋根を突き破って屋外へアイ・キャン・フライ。遠心力も加わって、物凄いスピードで飛んで行ったアレックスの姿が、やがてキランと光った。

「……さて」

 消えて行ったアレックスから視線を切った俺は、そのままその視線をローザに向ける。ポカンとしているか、怒り心頭か、そのどちらかと思っていたローザの表情は、意外な事に少しだけ戸惑った様な、何とも言えない『もにょ』とした表情だった。

「……なんだよ?」

「えっと……なんだろう? 『アレ』があんなんだったからか、いまいち素直に怒れない」

「……」

「……むしろ、感謝するまであるんだけど……」

「……」

「……」

「……その……なんだ? 部下は良く選んだ方が好いと思うぞ?」

 俺も部下を持った経験は無いけどな。だがまあ……あんなに簡単に白旗上げる部下ってのはどうかと思うぞ?

「……うん」

 俺の言葉に、素直にコクンと首を傾けるローザ。なんだろう、若干可愛らしいぞ、おい。

「……なに鼻の下伸ばしてんのよ、バカマリア」

「っ! は、鼻の下なんか伸ばしてねーよ!」

「嘘ばっかり! ちょっと可愛い仕草みたらデレデレしちゃって! マリア、きもい!」

「きもっ! おま、それは結構俺の心にグサッと来るぞ!」

 怖いとか、恐ろしいは今まで結構言われてるけどな! きもいはダメだろ、きもいは! なんか存在とかを否定された気がするんだがっ! それは――



「きゃあーー!」



 そんなバカ話をする俺の耳に不意に、悲鳴が聞こえた。慌てて悲鳴の方向に視線を向け。


「……動くな」


 首筋に刃物を突き付けられ、震える鳴海の姿が視界に入った。


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