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第五十七話 ストラックアウト


 プラプラと右手を振って見せる俺の姿を、バカみたいにポカンと口を開けたまま見つめて固まるローザ。おい、ローザ。そろそろ反応してくれないと俺、ちょっと辛いんだけど? 具体的には格好つけて振ってみた右手の所在とか。

「……え? ちょ、ちょっと? 新魔王様? え?」

 そんな俺の気持ちを斟酌した……訳では無いんだろうが、ようやく再起動したローザ。再起動した割にはちょっと何言ってるか分からない状態ではあるのだが。

「……相変わらず規格外だな、マリアは」

 反応を返さないローザに呆れた様に溜息を吐き、その後俺に視線を向けて肩を竦めて見せるラインハルト。その姿をチラリと見つめて。

「居たのかロリコン」

「ロ――っ! 違う! 私はロリコンでは無い! 誤解を生む様な発言をするなっ!」

「ロリコンは皆、そうやって言い訳するんだ。おい、咲夜? コイツに近付いたらダメだ! 危険だからなっ!」

「マリア! ち、違う! 違うんだサクヤ嬢! 話を聞いてくれ!」

「……本当に何やってんのよ、貴方達は……」

 俺とラインハルトの掛け合いに、ヒメが疲れも露わにやれやれと首を振って見せる。いや、ヒメ? 大事な事だぞ、これは!

「……分かったわよ、シスコン。ともかく! ローザ! これでマリアの力が分かったでしょう? 今なら私がママに取りなして上げるから、さっさと降参しなさい!」

 俺に失礼な言葉を投げかけながらそれでもビシッとローザを指差すヒメ。その姿に、はっと気付いた様にローザがきゅっと口を結んだ。

「ふ、ふん! さ、流石次期魔王になろうって男だけはあるわね。こっちも少しだけ油断したわ! 手加減なんか必要なかったって事ねっ! これは失礼したわ、新魔王様! カエサル、行きなさいっ!」

「……え? っ! お、おう!」

 ローザの言葉に、ポカンとしていたカエサルが意識を取り戻したかのように返事をすると、そのまま背中の羽を広げて空中にその身を投げる。あ、なるほど。吸血鬼だから空飛ぶように天井が高いのか。

「く……くっくくく……ケーッケッケッケ! 流石、新魔王様って所だな? あの馬鹿力のクラウスをあそこまで吹っ飛ばすなんて、中々やるじゃねーか!」

「どうも」

「だが、調子に乗るのも此処までだ! お前がどれだけ強かったとしても、『種族』の壁は越えられねーんだよっ! 背中に翼を持たないお前じゃ、俺の体に傷一つ付ける事はできねーだろうっ! お前はそこで、俺に芋虫の様に嬲られるだけだっ!」

 そう言って高笑いをして見せるカエサルとか言うチビ。流石に俺もカテゴライズは人間だし、空を飛ぶ事はできねーだろうな、うん。

「ヒメ? 俺、流石に空飛べたりしねーよな?」

「人間辞めたら飛べるかも知れないけど……今は無理だと思う」

 だよな。流石に跳躍じゃ届かないだろうし……仕方ないか。

「ラインハルト?」

「……なんだ?」

「ほれ、アソコ。あそこに彫像あるじゃん?」

 そう言って俺が指差した先に視線を向けるラインハルト。指先、最も入口に近い彫像に目を止め、ラインハルトが首を捻る。

「……あるが?」

「アレ、持ち上げたりする事が出来る?」

「それは……まあ、可能だと思うが。私がやるのか? 正直、お前がやった方が早いと思うが……」

「あ、多分俺じゃ無理なんだよ」

 俺の力……っていうか、ヒメの『チカラ』は対物には向いてないからな。良く考えたら結構制約多いな、このチート。

「……分かった」

 釈然としないまま、ラインハルトが彫像に向かって歩く。そのまま、彫像を台座の上から持ち上げるとその体勢のままこちらに首を捻って見せた。

「それで? この彫像をどうすれば良いんだ?」

「その彫像を、そのまま上に放り投げてくれ」

「……上に? その後は? まさか、受け止めろとか言うのか?」

 ラインハルトの言葉に、俺は首を横に振る。


「いんにゃ。そのまま地面に落としてくれれば良い」


「ちょーっと待ってぇーーーーーーーー!」

 俺とラインハルトの言葉を遮る様にローザが叫んだ。なんだよ?

「『なんだよ?』 じゃないでしょう! なに勝手に人の家の物壊そうとしてるのよっ! それ、結構高いのよっ!」

「知るか。壊されて困るんなら、こんな所に飾っておくな。つうかな? 人の家に勝手に侵入して置いて、自分ちの物は壊さないで下さいなんて我儘が通じると思ってんのかよ? 戦いは人気の少ない、広い所で行いましょうってのが戦闘の鉄則だろうが」

「そ、それは……で、でも! それでも――」

「だあ、もう、うるせー! さあラインハルトさん、やっておしまいなさい!」

「ちょ、だ、ダメ! ダメだって!」

 俺の声に、頭に疑問符を浮かべながらもラインハルトが中空に彫像を放り投げる。『ダメー!』なんてローザの叫びとは裏腹に、彫像はゆっくりと宙を舞い、そのまま地面に自然落下。結構な高さから放り投げたせいか、ドン! という音と共に彫像がバラバラに砕け散った。

「……」

「……よし!」

「よし、じゃないわよぉ! ど、どうしてくれるのよ、コレ! お、怒られちゃう! パパに怒られちゃうでしょ!」

「お前はちょっとぐらい怒られた方がいいんだよ。ええっと……」

 ばらばらに砕けた彫像……だったものの側に寄る。ええっと、手頃な感じの……お? ああ、コレなんかいいんじゃね?

「ちょ、ちょっと! 怒られた方がって――……えっと……新魔王様? なに? なんで彫像の破片を拾い上げたの?」

「なんでって……そりゃ、お前、こうする為に決まってるじゃないか」

 そう言って、俺は持っていた彫像の破片を握りなおすと視線を上、空中でホバリングしたまま事の成り行きが今一理解できていないカエサルに視線を向ける。

「おい、そこの吸血鬼。動くなよ?」

「……へ? 動くなって――って、おい!」

 ヒュン、と風切り音を立てながらカエサルに向かって飛んでいく彫像の破片。眉間を狙ったそれは、ストライクの直前に身を躱したカエサルによって中空を突き抜け、天井に大きな穴を開けた。

「……おい。避けるなって言っただろうが」

「避けるわっ! つうかなんだ、アレ!? あんなん当たったら俺の頭がパーンなるだろうが! 潰れたトマトみたいになるわっ!」

「マジでか! うへ、グロいのは勘弁。それじゃ……ああ、そっか。羽辺りを狙えば良いのか。それならパーンならねーだろうし」

 ホラーは大丈夫だが、スプラッターはあんまり得意じゃないからな。それじゃ羽に狙いを定めて――

「……マリア」

「ん? どうした、ヒメ?」

「笑顔が怖い。悪魔みたいな顔になってる」

「……」

 ……酷くね? 

「……まあ、魔王だしな? 悪魔みたいな笑顔かも知れんが」

 でも、ちょっと傷付いたぞおい。仕方ない。それじゃさっさと決着を付けるか。

「ふ、ふん! さっきのは少し驚いたがな! だがな? 羽を狙うと宣言されれば、俺だって避ける事ぐらいは――」

「あ、さっきのなし」

「――容易……って、え?」

「羽狙うって言ったの、取り消す。つうか正確には羽だけなんか狙えないし」

「……はい?」

 口を開けてきょとんとするカエサル。そんなカエサルから視線を切った後、俺は落ちている彫像の破片を両手で抱えれる限界まで抱えて、もう一度カエサルに視線を向けた。

「…………あの……新魔王様? それは一体、なにをされるのでしょうか……?」

「なんで敬語? いやさ、一個一個投げてたら当たるものも当たんねーからな。だから、さっさと決着を付ける」

「……」

「こんだけ投げれば、一個か二個ぐらいは当たるだろう?」

「ちょ、まっ――」

「それじゃ――おらぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「――って……へぶぅーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 言ってみれば散弾銃の様なもの。

 俺が投げた破片達は、回避を許さないかの如く空中でまるで投網の様に広がり、カエサルを巻き込む。沢山抱えて投げたせいか先程の様な威力は無いも、五月蠅い吸血鬼を撃ち落とすのには十分だったか、見事にヒットした破片達と共にカエサルが錐揉みしながら落下した。


「「「……………」」」


 地面の上でピクピクと震えるカエサル。そんなカエサルに一瞥をくれて、俺は黙ったままのローザ達にニヤリと笑って――


「……どっちが悪役だが分からなくなって来た」

「……うるせーよ、ヒメ」


 ……うん。俺もちょっと思った。

 


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