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第五十五話 シスコンと、ロリコン

酷いタイトルだ……


「まあ、そういう訳で……ともかく、サクヤちゃん達は無事。後は救いに行くだけだけど――もう! ラインハルト! 一々拗ねないの! 面倒くさいじゃない!」

 部屋の隅っこで未だに体育座りをしてこちらに背を向けるラインハルトにそう声を掛ける魔王様。うん、言ってる事は間違っちゃいない。あんだけでかい図体をしたラインハルトが部屋の隅で丸まってたら結構ウザいからな。結構ウザいんだけど。

「……貴方が言いますか、それ?」

 典型的な『お前が言うな』だ。可哀想過ぎだろう、ラインハルト。

「なによ~。だって、勝手にラインハルトが深読みして、勝手に自説を語り出して、勝手に自爆しただけでしょ? 別に私、悪くないじゃん」

「……やめてあげて下さい。ラインハルトのライフはもうゼロです」

 そんな俺の言葉に、不満そうに唇を尖らせる魔王様。もうね、多分この人、子供だわ、子供。

「ともかく! さっさと助けに行かなきゃダメでしょ? ホラ、ラインハルト! 何時までもウジウジしないの! サクヤちゃんに嫌われてもイイの?」

 ビシッとラインハルトを指差す魔王様。その姿に、ラインハルトの背中がびくっと震えて――

 ……。

 ………。

 …………マテ。

「……魔王様?」

「なに?」

「ええっと……え? どういう事? サクヤに嫌われるって……え?」

「あれ? マリア君、知らなかったの?」

「ま、魔王様!? ま、マリア! 違う! 違うんだ! 私の話を――」

 先程までの『拗ね体勢』が嘘の様、思いっきり立ち上がって慌てた様に喋るラインハルトから完全に視線を切り、魔王様へ。そんな俺の視線に、魔王様はイイ笑顔を浮かべて。


「ラインハルト、サクヤちゃんの事大好きなんだよ? 昨日もお酒飲んだ時に、『サクヤ嬢は……本当に、可憐だ……それだけではなく、心も清らかで、美しい……』とか、ぽーっとした顔で言ってたもん!」


 ……おい。

「……………………おい」

「ち、違うんだ! マリア、違う!」

「なにが違うんだよ? あん? まさかお前、酒の席の冗談で言ったってか? サクヤは可憐じゃないとでも――」

 一息。

「……まあ、無いかも知れんけど――」

「な、なにを言うか! サクヤ嬢は可憐だ! あの笑顔、あの声、心の清らかさ、どれをとっても最高だ! 本当に、全てが――――――あ」

「……」

 ……うわー……

「うぐぅ! そ、その……た、確かに! 私はオーク族であり、この様な感情を抱くのが失礼だとは思う! 思うが――」

「あ? いや、別にそれは構わんのだが」

「――しかた……なに?」

 オークだなんだってのは別に構わん。まあ、咲夜がどう言うかは別として、少なくとも俺はその辺について言うつもりはない。無いんだが。

「……なあ? ラインハルトって幾つなんだよ?」

「……」

「知らんけど、俺より年下って事はねーよな? 成人……ええっと、人間でいう所で二十歳は越えてるってカンジで良いんだよな?」

「……」

「……」

「……」

 ギギギッと、壊れたブリキのおもちゃ並のゆっくりとしたスピードでソッポを向くラインハルト。そんなラインハルトから視線を逸らし、俺は魔王様へその視線を向けた。

「……魔王様?」

「うーん……まあ、魔族は基本人間よりも長命だから一概には言えないし、その上ラインハルトはエルフの血も混じっているからね。そう考えると……そうだね。人間で言えば二十四とか二十五くらいじゃないかな?」

「……咲夜って、誕生日二月なんですよね」

「うん?」

「っていう事はアイツ、まだ十四歳なんですよ。んで、ラインハルトが二十四歳なんですよね? っていう事は……」

 そう言って俺は、心持震える指でラインハルトを指差す。



「…………ロリコン?」



「違う!? な、何を言っているんだ、マリア!」

 完全に慌てたラインハルトの否定の声。いや、何を言っているんだはこっちの台詞なんだが!

「何を言っているんだじゃねーよ! お前、咲夜はまだ中学生だぞ!? 二十四とか二十五って社会人だろうが! なに考えてんだよ、お前はっ!」

「ち、違う! べ、別にそういう訳では無い! わ、私は……そ、そう! ただ純粋に、サクヤ嬢がこう……ま、眩しいというか、なんというか……そ、そう! ファンだと言っただろう! 純粋な、ファン心理だ!」

「……」

「ほ、本当だ! 本当なんだ! 信じてくれ!」

「……じゃあ、お前、咲夜が『好きです、ラインハルトさん。私と付き合って下さい!』とか言って来たらどうするんだよ? 『私とサクヤ嬢では年齢が違い過ぎる。君にはもっと年の近い、素晴らしい人が居るだろう』って潔く身を引くか?」

「……」

「……」

「……」

「……おい。なんか言え」

「……そ、それは……その……あ、有り難く……お、お付き合いを……」

「はい、決定! このロリコン伯爵がぁ!」

「は、伯爵!? 無駄に高い爵位を――ではなく! だ、だが、流石にそれはどうなんだ? わ、私がサクヤ嬢に好意を寄せていて、サクヤ嬢が私に好意を寄せてくれているのであれば、それは問題がないのではないか!? さ、サクヤ嬢だって悲しむ筈だ!」

「好意!? 好意を寄せているって言ったな、お前! おまわりさーん! こっちです! こっちに変質者がいます!」

 イエスロリータ、ノータッチ!

「だ、だから違う!」

「何が違うんだよ、お前は! つうかな? お前、ヒメの事も『可憐だ』とか言ってたじゃねーか! そんなに簡単にポンポン次から次へとまあ……この腐れイケメンが!」

「ちょっと待てぇ! それ、今言うか!?」

「ともかく! そんな浮気者には大事な妹はあげませーん!」

「う、浮気者!? ち、違う!」

「さあ、魔王様? さっさとサクヤ達助けに行こうぜ?」

 勿論、ラインハルトは抜きでな。

「ま、マリア! 何を言っているんだ!? 私も行くに決まってるだろう!」

「あん? 別に良いって。つうかなんでお前が来る必要あるんだよ?」

「心配だからに決まってるだろう!? 何を言っているんだ、お前は!」

「……ああ、ポイントアップ狙ってるのか?」

「マリアっ! 怒るぞ!」

 肩でぜーはーと息をしながらこちらを睨みつけて来やがるラインハルト同様、俺もラインハルトを睨みつける。それも数秒、どちらからともなく『ふんっ!』と背けた顔の先、ヒメと魔王様の呆れた様な顔があった。

「……なにしてるのよ、マリアもラインハルトも。今、そんな事してる場合じゃないでしょ!」

「いや……」

「ですが……」

「『いや』も『ですが』も無いの! マリアがシスコンだろうが、ラインハルトがロリコンだろうがどうでも良いけどね? やらなくちゃいけない事がまず何か、それを考えなさい! 優先順位を大事にしてよね!」

「ちょ、ヒメ! 俺は別にシスコンじゃねーよ!」

「ひ、ヒメ様!? 私は別にロリコンでは!」

 ヒメの怒声に縮み上がったのは一瞬。口々に無罪を主張する――おい、ラインハルト! お前は有罪だろうが!

「違う! なんども言わせるな、マリア! 私は別に幼い子が好きな訳ではない! た、ただ、その……じゅ、純粋にサクヤ嬢を……」

「段々遠慮なくなって来たなお前! 認めん! お兄ちゃんは絶対に認めませんっ!」

「……貴方達は……もういい! ママ! さっさと私達をサクヤちゃん達の所に送って! ママなら出来るでしょ、転移の魔法!」

「あー……転移かぁ~……私、ああいう細かい魔法、あんまり好きじゃないんだよね~。こう、目当ての場所にばしん! と移動させる事、出来るかな? 怒んない? 石の中に居る、とかになっても」

「怒るに決まってるでしょ! 冗談は良いから、早く!」

 俺とラインハルトの言葉を無視し、魔王様に怒鳴るヒメ。そんなヒメの姿に溜息を一つ吐いた後、魔王様はポケットから一つのビー玉を取り出した。

「これ、『魔石』っていう魔道具ね。地面に叩きつけて割ったら、その時一番必要なモノが出て来る様になってるから。ヒメちゃん、持って行きなさい」

「ありがと、ママ」

「頑張ってね、ヒメちゃん。よし! それじゃママもいっちょ頑張りますか! おーい、そこのロリコンとシスコンのコンビぃ~」

「だから、シスコンじゃねーよ!」

「私もロリコンではありません!」

「もうなんでもいいよ。とにかく、三人とも固まって! 私、転移の魔法苦手なんだから話しかけないでよね? 変な所に飛ばされたくないでしょ!」

 魔王様の言葉に俺とラインハルト、それにヒメの三人が仲良くその場で整列する。その姿にうん、と一つ頷き。魔王様がゆっくりと右手を挙げた。

「――それじゃ三人とも、頑張って!」

 親指と中指がパチンと音を立てる。と、同時、まるでフリーフォールに乗っている様な浮遊感に俺は堅く、堅く眼を瞑る。上下左右、まるで全方向に落ちていくような感覚に思わず酔いそうになりながらも、それでもようやく地に足が付いた様な感覚を取り戻し、俺は瞑っていた眼を開けて。


「………………は?」


 目の前に、ニンニクたっぷりのステーキを美味そうに頬張るKIDの四人と、俺達の姿を呆然と見つめるローザとクレアの姿が目に入った。あ、あれ? これって……

「……」

「……」

「……は」

「……」

「…………は……はろ~?」

「……は」

「……」



「ハロー、じゃないわよっ! ねえ、なんで? なんでいきなり私の部屋に侵入してくるのよっ! 段取りってものがあるでしょうがぁあああああ!!!」



 ……うん。流石に俺も、転移先がラスボスの部屋とは思わなかったよ。



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