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第三話 シュウマツの魔王、爆誕

日刊ランキングに乗りました。皆様のお陰です、ありがとうございます!

……三カ月書いてるP・M・Gを一日で抜きおった……だ……とっ……! 嬉しいんですけど、ちょっと悲しい……


「意味がわかんねぇよ! なんだよ、『魔王』になってくれない? って!」

 先程の深呼吸……プラス、ヒメの笑顔で少しだけ落ち着いていた俺、再びの大パニック。そりゃそうだろう? いきなり真っ暗な空間に連れて来られたと思ったら、『魔王になってくれない?』ってなんだよ、それ!

「ちょ、だから! 落ち着いてよ! ちゃんと説明するから!」

「落ち着け? 落ち着ける訳があるか! っていうか、この場面で落ち着いてる人間なんて仙人かなんかだろうが、ぜってー! 落ち着ける――」

「ああ、もう! うるさい!」

 俺の言葉を遮る様、ヒメの絶叫が漆黒の空間に満ちる。と、同時、ヒメの綺麗な青い瞳が深紅に染まった。



「『黙れ、うるさい』」



 先程の絶叫に比べれば蚊の鳴くような、まるで囁くようなそんな声。だって言うのに。

「――っ!」

 俺の体は金縛りに会ったように微動だに出来ない。どれ程力を入れても、どれ程動こうとしても、全く言う事を聞かない、まるで自分の体じゃない様なそんな感覚に背中にタラりと冷汗が流れた。な、なんだよ、これ!

「……な……ん……だよ……これ……」

 捻り出す様な、掠れた声。どうにかこうにか出せたのがコレって、随分情けなくなるが……それでも、この行動はヒメにとっては意外だったのか、眼を丸くして見せる。

「……驚いた。結構本気で『掛けた』のに、喋れるの? 容姿といい、性格といい……ホントに規格外ね、マリア」

「おま……え……の……」

「それじゃ喋りにくいでしょ? 此処までしておいてなんだけど……お願い、説明させて?」

「……わか……った……だから……はや……」

 俺の承諾の意思が伝わったのだろう。嬉しそうに笑顔を浮かべて、ヒメがパチンと指を鳴らして見せる。と、今までウンともスンとも言わなかった体が、まるで重力の鎖から解き放たれたかの如く自由に動き出す。

「……なんだよ、今の」

 自身の右手を恐る恐る二、三度開閉。自由に動く事を確かめて、視線をヒメに向けて。


「――って、おい! なんで頭下げてるんだよ!」


 視線の先に、頭を下げるヒメの姿を見た。ちょ、なにしてんだよ!

「……ホントにごめん、マリア。巻き込んじゃって……その、申し訳ないと思ってる。こんな事で許して貰えると思ってないけど、せめて私に謝らせて」

 そう言って頭を下げるヒメの足元にポタリと一滴、水滴が落ちる。ちょ、ちょっと!? 泣くの? え? なんでお前が泣くんだよ!

「わ、分かった! 分かったから! 分かったから泣くな!」

「えっと……説明……」

「聞く! 聞く聞く! 説明でもなんでも聞くから!」

 泣く子と女の子には勝てねーよ! 今、目の前には『泣く女の子』だぞ! 最強だろう、そのコンボ!

「……うん、ありがと」

 ぐすっと瞳を潤ませながら、ようやく頭を上げるヒメ。そのまま、少しだけ言い淀む様に三度口を開閉させる。

「……慌てなくていいからゆっくり話せ。黙って聞いてやるから」

 俺の言葉に安心したか、ヒメがおずおずと、それでもしっかりと口を開き。



「その……ね? 私のママ……『魔王』なの。それで、私はその一人娘なのよ」



「……」

 ……デンパだ。デンパな人だ。

「ちょ、ちょっと! なによ、その『うわー』って眼!」

「いや………………えっと…………うわー」

「あーーーー! 言った! 声に出して言った! 黙って聞くって言ったのに! マリアの嘘吐き!」

「す、すまん! いや、ちょっとビックリしただけだ!」

「嘘だ! 絶対、『頭の可哀想な子』って思ったでしょ! 分かった! それじゃ証拠を見せる! もう一回、マリアの体の自由を――」

「わ、分かった! 信じる! 信じるから!」

 ヒメの眼が再び深紅に染まるのを見て、俺も慌てて両手を振って降参の意を示す。さっきの、地味に怖いし。

「……むう」

「……悪かった。そうだよな? 急に真っ暗な空間に連れ込まれて体の自由を奪われたんだもんな」

 魔王かどうかは知らんが、少なくとも人知の及ぶ存在じゃないんだろう。見るまでは信用出来んが、実際に経験したし……そもそも、此処でごねても話が進まん。

「……それで?」

「……お願いしといてなんだけど、順応性高いわね、マリア」

「騒いでもどうしようも無い時は騒がない事にしてるんだよ」

「そう……分かった。ありがたいし、そっちの方が。それじゃ、説明を続けるね? ウチの家――エルリアン家は現在、魔界の王家を務める家なんだけど、先日ウチのママが引退するって言いだしたのよ」

「……引退? あんの、魔王に引退とか」

 精々、勇者に倒されて強制退場のイメージしか無いが。引退制度とかあるんだな。

「……普通は無いんだけど」

「あ、やっぱり?」

「……なんか……『私はこれから、愛に生きまーす! ヒメちゃん、後は宜しくね~』って……勝手に引退しちゃった。あ、正確には引退が決定しただけで、まだ現役は現役なんだけど……次の魔王が決まったら、直ぐに引退するって」

 ……自由だな、おい。いや、良いのか? 欲望の限りを尽くすのが魔王ってイメージだし、イメージ通りって言えばイメージ通りなんだが。

「……いいのか、それ?」

「……まあ、娘の私が言うのもなんだけど、ウチのママはぶっちぎりで『強い』魔王だったの。魔界って純粋に『チカラ』が重要だから……まあ、チカラがあるんだったら、多少の我儘も許されるのよ」

 私がルールブックです、ってか? 分かり易いって言えば分かり易いな、それ。

「それで、ママが引退した後の魔王なんだけど……私が魔王の一人娘だからって、即、魔王を継げる訳じゃ無いの。魔界って血の繋がりよりも、純粋にチカラが重要だから。私は、私の『チカラ』を示さないと、『魔王』として認められないのよ、他の魔族に。そして、各魔族の代表者に『誓約』をして貰わないといけないの。私――ヒメ・マ・オー・エルリアンを、次期魔王として認めるっていう――誓約を」

「……血よりも力を重要視する所といい、ヤクザの跡目相続みたいだな、それ」

 血の繋がりよりも、盃の繋がりを重要視するってか?

「身も蓋もないけど……まあ、そういう感じかな? 一応私は魔王の娘だし、魔界の姫だから、ある程度『本命』ではあるの。でも……というか、だからこそ、かな? 他の魔族の前に現魔王であるママに、魔王になる事を認めて貰わなくちゃいけないんだけど……」

 そう言って、言い淀む様に視線を上下に向けるヒメ。なんだよ、溜めんなよ。超怖いんですけど?

「……えっと……うん! 女は度胸!」

「……愛嬌だろう?」

 そんな俺の言葉を華麗にスルー、意を決した様に両手の拳を『むん』と握って。



「……ママが出した条件が……『共同統治者として、自分の伴侶を見つけろ』なのよっ!」



「……おうふ」

 色んな意味で斜め上のお言葉、頂きました。

「ママ曰く、『まあ、アタシもそうやってダーリン見つけたからね~。ヒメも頑張って』って……」

 言い難そうに、もじもじしながらそういうヒメ。おい、両手の人差し指同士を『ちょんちょん』ってさせながらの上目遣い、マジで止めろ。怒ってもイイ所なのに、つい許してしまいそうになるぐらい可愛いじゃねえか。

「……分かっ――」


 ……いや。


「……正直、全然訳はわかんねーけど……まあ、いい。それで? なんでそれが『俺』なんだよ?」

 この国にだって腐る程人が居るだろうが。別に俺じゃなくても良くね?

「『伴侶』となる人は誰でもイイって訳じゃ無いの。ママが決めた制約があるんだけど……私がママから課せられた制約は『同じ人に、三回優しくして貰う』なのよ」

「……なんだか魔王っぽくない条件だが……っていうか、三回優しく?」

「マリア、私を助けてくれたでしょ? コーヒーも奢ってくれたし、プレゼントだってくれた。これで三つの条件を満たしているの。だから……」

 そう言って、心底申し訳無さそうに頭を下げるヒメ。

「……ごめん。貴方は現段階で、私の『伴侶』っていう……つまり」


 魔王候補になったの、と。


「……おうふ」

 二度目の、おうふ。なんだ? 絡まれてる女の子助けて、コーヒー奢って、プレゼントあげたら即、魔王候補か?

「……最近のラノベだってもうちょっと設定捻るぞ?」

「……う……まあ、そうなんだけど……でも、ママの制約は『絶対』なの。今更、変更も取り消しも利かなくて……」

「……ちなみに、俺が断ったらどうなる?」

「……」

「……おい。なんか言え。だんまりはこえーじゃねーか」

「……それって、マリアが『魔王に逆らった』って事になるのね。魔界って、メンツ潰されるの嫌うから、だ、だから……そ、その……多分、死んだ方がマシぐらいの――」

「……ああ、もういい。ソレ、絶対聞きたくないヤツだ」

 少なくとも、幸せな生活は送れそうにないな、うん。つうか、マジで堅気の世界じゃねーよ。メンツって。

「……酷い話だな、それ」

「わ、悪かったわ! ホントに、ホントに申し訳ないと思ってる! で、でも、安心して! 変更も取り消しも利かないケド、一度『履行』すれば問題ないのよ!」

「……履行?」

「そう! 一度、その……わ、私の……そ、そうね! 『婚約者』として魔界に来て貰う。それで今回の『制約』は終了するの!」

「……えっと……」

「分かり易く言えば……『死刑』が執行されて、死刑囚が死ななかったら『刑自体』は執行されて無罪放免、みたいな?」

「……分かり易いか、それ?」

 まあ、言いたい事は分かるが。ともかく、一遍魔界に行って、魔王様にご挨拶すればいいんだろう?

「そういう事! 取り敢えず、『魔王候補』になってくれればいいから! それで……その、私が他の魔族に『魔王』って認めて貰えれば、その時は『魔王』、辞めて貰っていいから!」

「いいのか、それで? いや、俺的には何の問題もないけど……その、魔界的に」

「どうせママの気紛れだし、大丈夫! 別に離縁だって珍しくないし、魔界。マリア、学生でしょ? 平日は難しいでしょうから、土日だけ『出勤』して貰ったらいいから! バイトだと思って、バイトだと! 勿論、給料も出すわ! ホラ、週末魔王、みたいな!」

「……週末魔王って」

 だが……ふむ、なるほど。土日限定のバイトだと思えばイイのか。給料も出るし、あくまで短期契約みたいな感じで良いのか?

「……まあ、悪くはないかな?」

「ほ、ホント? わ、悪くないかな? 受けてくれる?」

「……っていうか、断ったら『死んだ方がマシ』なレベルの酷い目に合うんだろ? そもそも選択肢なんかねーじゃねえか」

「う……」

 俺の言葉に、言い淀むヒメ。なんだよ?

「その……せ、正確には無い訳じゃ無い。私が、『魔王』になる事をリタイアすれば、マリアは魔王候補にならなくてもイイの」

 ああ、そっか。そもそも『魔王』として認められるためだもんな。ヒメが諦めれば、それでこのゲームは終了か。

「そうする訳にはいかない、って?」

 そういう俺に、こくんとヒメは頷いて見せる。

「……今の魔界って、凄く平和なの。ママの統治のお陰もあるんだけど、混乱も争いもない、平和な世界なの」

「魔界が平和って違和感が半端ない――と、すまん。話の腰を折ったな。続けてくれ」

「小さい頃から世話をしてくれている『じいや』曰く、ママが魔王に即位する前はそんな魔界じゃなかったらしいの。血で血を洗う様な抗争があって、毎日どこかで誰かが倒される様な、そんな世界だったらしいの」

「……」

「……魔界には、チカラを持った魔族が沢山いる。私にチカラが……魔王と認めるだけのチカラが無いと思われたら、きっと我こそが『魔王』になろうと色んな魔族が戦争を始めるわ。そうなると魔界は昔の様な……戦闘と悲鳴が溢れる、そんな世界になる」

 それは、イヤだ、と。

「……私は、今の魔界が好き。私が育った、平和な……魔界にしてはおかしいかも知れないけど、でも、そんな魔界が好き。大好き! 今の魔界を守りたい。だから――私は、どうしても魔王になりたい。だから……だから!」


 ――お願い、マリア。私にチカラを貸して、と。


「……ふむ」

 そう言って、ドキドキする様な、期待する様な視線を向けるヒメを目の前に腕を組んで見せる。ああ……ええっと……うん。

「えっと……その、なんだ? お前は良いのか?」

「私? なにが?」

「あ、いや……その、なんだ? 伴侶って、要は『結婚』って事だろ? 自分で言うのはなんだけど、俺みたいな……こう……いかつい感じの男で」

「……え? そ、それは! え、えっと……そ、その、別に……え、えっと、わ、悪くはないかな~……って」

 頬を染め、上目遣い。なんだか潤んだ瞳を向けて来るヒメに、心臓が早鐘の様に鳴る。え? な、なに? それってまさか、え?

「……へ、変なぁあ」

 ……声が裏返った。

「……どっから声出してんのよ。今までで一番怖かったわよ、今の」

 う、うるせー! 放っとけ。

「コホン。ああ……変な事を聞くようだが」

「うん」

「その……まさか、ヒメ……お前、俺に惚れて――」



「あ、それはない」



「――たりって、否定がはえーよ!」

 最近のツンデレだってもうちょっと優しいわ! 一刀両断かよ、おい!

「あ、ご、ごめん! そ、その、マリアは良い人だと思うのよ! 優しいし、お人好しの所はタマに傷だけど、それもちょっと可愛いとも思うし、結構冗談とかも言って、面白い人だな~とは思うの! 思うんだけど……ま、まだ、好きとか嫌いとかには、こう……」

「……もういい。アレだな? 『大本君って良い人だけど……』のパターンのやつだな?」

 概ね、『どうでも良い人』なんだがな、それ。でもまあ、初対面である事を勘案すれば、俺にしてはそれでも上出来だと思う所がなんだか悲しい。可愛いなんて生まれて初めて言われたぞ? 比喩じゃなく、マジで。出生体重五二〇〇グラムだったし。

「……それでも良いのか? そんな人間と、フリとはいえ『結婚』なんかして?」

「ホラ、私って一応、魔界の姫だし? 望んだ人と結婚出来るなんて事は無いって思ってるから。マリア、見た目の割には優しいし……マリアだったら御の字ではあるわ」

 ベストでは無いけど、ギリギリ合格点って事ね。

「見た目の割に、は余計だ」

「ごめん。そ、それで……その……」

 両手を組み、まるで祈る様な仕草で例の上目遣いな視線を向けて来るヒメ。ああ……女ってずりぃよな? 狙ってやってねーんだろうけど、自分が可愛く見える映り方を心得ていらっしゃる。

「……ど、どう?」


 ……これだって、立派な『人助け』だよな。人じゃねーんだろうけど……でもまあ、こんな美少女に上目遣いでお願いされて、『いや、無理』ってのも……ねえ? どっちにしろ、断ったら死んだ方がマシな罰ゲームが待ってるんだろ? だったら――


「……分かった。それじゃ……やってみるか」


 ――その……『週末魔王』ってやつを。


終末じゃないですよ?

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