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第三十七話 大本家の女子会 その4

確定申告提出した! 疲れた! どうも疎陀です!

今回で一応、書きたい事は書き切ったので……次回以降はストーリーが進められるかな~と思っております。お付き合い頂ければ!


 まるで、先程の光景をもう一度リプレイしているかの様な、そんな錯覚。麻衣や奏、鳴海が何故笑顔を浮かべて『ありがとう』と言っているのか、その理由が全く分からず、ヒメは少しだけ上擦った声で口を開いた。

「あ、あの……あ、ありがとう? あ、ありがとうって……ありがとう?」

「うん、ありがとう。っていうか、ヒメさん、何言ってるんですか? さっきから『ありがとう』しか言ってないんですけど」

 しかも疑問形で、と、おかしそうに笑う麻衣。そんな麻衣と同じように苦笑を浮かべていた鳴海が、ゆっくりと口を開いた。

「……私達はマリアお兄ちゃんの事が大好きなんです」

 なんだか、胸の奥が『チクリ』とする様な鳴海の告白。泣きたくなる気持ちを抑え、ヒメは気丈に頷いて見せた。

「……うん」

「勿論、男の人として……そうですね、マリアお兄ちゃんの『お嫁さん』になりたいっていうのもあるんですけど……どう言えば好いのかな? 幸せ……? うん! マリアお兄ちゃんに幸せになって貰いたいって云う気持ちも、確かにあるんですよ」

「……幸せに?」

「はい」

 そう言って、鳴海は浮かべていた苦笑の色を少しだけ強くする。

「マリアお兄ちゃんって……その……ちょっと、『怖い』でしょう、見た目?」

「……ああ……う、うん」

「本当は凄く優しい人なのに、本当は凄く温かい人なのに、本当は凄く人間味に溢れた、とっても格好の良い人なのに……お兄ちゃんは容姿で損をしているんです。怖いと言われ、化け物を見る様な目で見られ、自分で『俺の容姿は世紀末覇者だからな』って自虐的に笑ってますけど……でも、それって絶対悲しい事の筈なんです」

 悲しそうな鳴海の表情に、ヒメは気付く。否、正確には『思い出す』



『恐怖ってのは悪意だからな。人の悪意なんて、好き好んで受けたいモンじゃないだろう?』



 そうだ。マリアは言っていたのだ。人の悪意に『慣れる』事はあっても、悪意を『受けたい』訳ではないと、そう言っていたのだ。

「……あ」

「常々、思っていました。私の様に、最初はマリアお兄ちゃんを『怖い』と思っても、いつかマリアお兄ちゃんの事を『好き』と……あの外見ではない、真に心を見てくれる人が出てくればいいなって。そして……マリアお兄ちゃんの内面が分かる人と……仲良くなりたいなって。そんな人が出てきてくれたら……きっと、幸せだろうなって」

 少しだけ照れ臭そうに、鳴海は笑い――そして、頭を下げる。


「……だから……ありがとうございます、ヒメさん。マリアお兄ちゃんを――私の好きな人を、好きになってくれて」


 丁寧に、心の底から。

そんな鳴海の態度に、悲鳴にも似た声がヒメの口から漏れた。

「ど、どうして!」

「はい?」

「だ、だって……わ、私はその、ま、マリアの事を『好き』って言ってるんだよ? それって、だって、私がマリアの、そ、その……お、『お嫁さん』になるかも知れないのよ? それでも良いの? 貴方達、小さい頃からずっとマリアが好きだったんでしょ? なのに……なのに!」

「まあ……確かに、焦燥感が無いと言えば嘘になりますわ」

 ヒメに返答をしたのは鳴海ではなく、奏。

「ヒメさんは容姿の整った方ですし、お話をお聞きする限り、きっと心根の優しい方だと思います。そんな素晴らしい方がマリアさんを慕っていると聞いて、焦るな、と云う方が無理に決まってますわよ、そんなの」

「じゃあ!」

「ですが……それでも、そんな方が、マリアさんを――私の大好きな人を好きになって下さるのはとても嬉しい事ですわ」

「そ、そんな!」

 そんな事は、ない。自分の大事な人に横恋慕されているのに、それが幸せだと、それが嬉しいと、そんな事、思える筈がない。そう思い、思わず声を上げるヒメに奏は不思議そうにコクン、と首を傾げて見せる。

「あら? 何故ですの?」

「な、何故って……」

 巧く言葉を紡げないヒメに、奏は笑いかけて。


「私の大事な人が、大好きな人が、愛している人が、他の方からも認められたのですよ? 嬉しいに決まってるじゃないですか」


 思わず見惚れる様な、そんな笑顔で。

「……まあね? これでマリアが超絶イケメンで、ヒメさんが顔に惚れただけ! とかだったら、私達も『なにを!』ってなると思うんですよ」

 何も言えず、ただただ奏を見つめるヒメにそう言って麻衣が声を掛けた。

「でもまあ、ホラ。マリアって容姿は思いっきり残念じゃないですか? そんなマリアの事を『好き』っていうって事は、きっと内面を……私達が『大好きな』マリアの、そんな大事な所を見てくれたんだなって、そう思うんですよ。ヒメさんぐらいの美人さんなら、きっと選り取りみどりだろうに、それでも他に居ないから、じゃなくてマリアを選んでくれたってのは……凄く、嬉しい事なんですよ」

「……」

「あれ? もしかして妥協だったりします? なんですか? 前世から続く罰ゲームとかなんかですか? どんだけ前世で悪い事をしたんですか、ヒメさん?」

「そ、そんな事はない! そんな事は……」


 ない、のだろうか?


 マリアとヒメの出逢いは偶然だが、その後マリアが魔界に来たのは必然だ。マリアを『伴侶』に選んだのだって、他に選択肢が無かったからに過ぎないのだ。

「……」


 そんな自分に、『マリアを好き』という資格が、あるのだろうか?


「……中々複雑そうな感じですね~、ヒメさん」

 物言わず、考え込む様に下を向くヒメに麻衣が苦笑を浮かべた。

「んじゃ、ヒメさん? マリアが『じゃあ俺、明日からお前の所にいかねーわ』とか言ったらどう思います?」

「……イヤ」

「『麻衣を選ぶから。ヒメ、お前とはこれっきりな』」

「……イヤ」

「『これでお別れだ、ヒメ。バイバイ』」

「……イヤ」

「『ヒメ、お前は可愛いな。ずっと俺の側に居てくれ』」

「……誰、それ?」

「う……私も言った後に『あ、これは無いな』って思いましたけど……でも、言われたら嬉しくないです?」

「……まあ……うん、嬉しい」

「そういう事ですよ」

「……どういう事よ?」

「ヒメさんとマリアにどういう関係があったのか分かんないですし、最初は妥協……というか、なんか事情があったのかも知れないですけど。でも、『今』のヒメさんはマリアの事が好きなんでしょう? 外見は凶悪犯バリに怖いケド、中身は優しいマリアの事が」

「……う、うん」

「じゃあ、それで良いじゃないですか」

 そう言って、あっけらかんと笑う麻衣。

「……良いのかな?」

「良いんですって」

「でも……私は皆みたいに、マリアを……す、好きになる理由が……」

「そもそも、恋愛なんて理由が要るモンじゃないですし。私だって服を作って貰ったからって言いましたけど……アレだって、後で思い返してみたら『ああ、あそこから好きだったんだな~』ぐらいのモンですし。劇的に恋に落ちた訳では無いんですよ、別に」

「……そうなの?」

「ええ。ですから、ヒメさんは何にも気にせずにただマリアを好きでいいんです。私達に遠慮する事なんて無いんですよ? それに……」

 一息。



「――遠慮なんかしてる余裕、あるんですか? 私、負ける気はありませんよ?」



 浮かべていた笑顔を、好戦的なモノに変える。

「強敵揃いなのは認めますが……でも、ヒメさんに限らず、奏や鳴海にもですけど私、負ける気は無いですからね!」

「……あら? 何を言っているのかしら、麻衣さん? 私だって貴方がたに負ける気はさらさら無いですわよ?」

「わ、私だって負けないもん! それに、マリアお兄ちゃんが一番可愛がってるのはきっと私だもん!」

「あ、それを言ったらお終いじゃん! でもでも! きっとマリアが一番気兼ねしないのは私だもーん!」

「わ、我が家は両親公認ですわ! 何時でもマリアさんを婿に迎える準備はあります!」

「……奏ちゃん、いっつもそう言うけどさ? マリアお兄ちゃん、長男だよ? 大本家はどうするの?」

「私が男の子を二人産みます! 一人は我が家を、一人は大本家を継ぎます! 明るい家族計画です!」

「中学生がいう事じゃないよ、奏!」

 ヒメを放置して騒ぎだす三人。その姿を苦笑で見つめ、咲夜がヒメの隣に腰を降ろした。

「……ごめんなさい、ヒメさん。騒がしくて」

「あ、それは……良いんだけど……」

「あの三人、お兄ちゃん好き過ぎだから。妹的には嬉しい事ですけど」

「……そうだね」

「あ、ちなみに私はヒメさんの味方ですから」

「……いいの?」


『なんで』でも、『私なんか』でも無く――『いいの?』


「はいー!」

 ヒメのその言葉がなんだか嬉しくて、咲夜は苦笑を笑顔に変える。

「……ありがと。心強いわ。でも……ちょっと意外。貴方は……」

 迷いは、一瞬。

「……あの三人の誰かの味方になるって……そう、思ったから」

 そんなヒメの言葉に、咲夜はヒラヒラと手を振って見せる。

「まっさかー。そんな事したら、誰かが私の義理の『姉』になるんでしょう? 今更って感じですし……やり難いじゃないですかぁー」

「……そうなの?」

「そうですよ。それに……きっとお兄ちゃんが誰を選んでも、皆、不幸ですからね」

「……不幸……かな?」

「選ばれなかった二人は悲しい思いをして、選ばれた一人はそんな二人を見て悲しむと思うんですよ。そんな三人を見て、お兄ちゃんは悲しむし……きっと、私も辛いから」

「……誰も選ばないのが一番幸せって……そういう事?」

 選ばれない不幸を二人で分かち合うのではなく、三人で分かち合う。それが一番幸せの形なのかと問い掛けるヒメに、咲夜は苦笑を浮かべて手を振った。

「そうじゃないです。そうじゃないですが……」

 そう言って咲夜はオレンジジュースの入ったコップの縁を人差し指でなぞる。

「……お兄ちゃんって」

「うん?」

「お兄ちゃんって……見た目はあんなですけど、優しい人なんです」

「……知ってる」

「自分に危険が迫ったとしても、自分の身を犠牲にして、人を助ける人なんです」

「……うん……うん」

「そんなお兄ちゃんからしたら……私も含めた四人を『妹』として見てる気がするんですよね。自分より弱く、守って上げる存在だって、そう思ってると思うんです」

「……」

「それはお兄ちゃんの良いところだと思うし……小っちゃい頃からお兄ちゃんに『守られている』私達はきっとこれからもずっと、お兄ちゃんに『守られる』と思うんですよ。強いお兄ちゃんの庇護の下で、ぬくぬくと暮らして行く事になるんじゃないかなって。まあ、お兄ちゃんだって兄貴肌ですから、それで納得もするんでしょうけど……」

 そう言って、咲夜はオレンジジュースのコップを手に取り、一口。


「――誰かが、お兄ちゃんに『頑張らなくていいよ』って言って上げないと……お兄ちゃん、潰れちゃうんじゃないかなぁって」


「……」

「お兄ちゃんは……妹の私が言うのもなんですけど、とっても『強い』人なんです。強くて、自分の事より人の事を優先して考えてくれる、とっても優しい人。でもね、ヒメさん?」


 ――傷付かない訳じゃ、無いんです、と。


「不器用だから、絶対に自分からは言わないんですけど……でも、お兄ちゃんだって偶には体を休めたいと思うんですよ。誰かに泣き言を言ってみたいと思うんですよ。寄り掛かって、甘えてみたい時だって、あると思うんですよ。だって、お兄ちゃんだって人間なんですから。でも……きっと、私達じゃその居場所にはなれないと思うんです。守って貰う事はあっても、守って上げる事の出来ない……お兄ちゃんの『妹』である、私達には」

 悲しそうに微笑む咲夜に、思わずヒメの息が詰まる。そんなヒメに苦笑を浮かべて、咲夜は居住まいを正した。

「……だから……勝手な事を言っているのは重々承知しています。していますが……ヒメさんに、お願いします。私の兄の――大事な大事な、大好きなお兄ちゃんの、『居場所』になって上げてください」

 そう言って頭を下げる咲夜。その姿に、なんだか覚悟の様な物が芽生えた気がしてヒメはきゅっと唇を固く結んだ。

「……うん。私もまだまだ、全然その領域には達してないと思うけど……精一杯、頑張る。マリアが、私にだけは『弱音』を言えるように……頑張るね」

 ヒメの瞳に浮かぶ、意思の強い瞳。顔を上げた咲夜の視界に映る、その瞳の色がとても心強くて。


「……はいー! 期待していますっ!」


 咲夜は、嬉しそうに微笑んだ。


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