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第三十六話 大本家の女子会 その3

長くなったのでタイトルをナンバリングに変更しました、どうも疎陀です。ま、まあ何時もの事ですので……笑って許して頂ければ。


 麻衣の言葉に、ヒメの処理能力は追い付いていなかった。一体、麻衣は何を言っているのか? それを考える様に、ヒメが自身の記憶を探り。



『――宜しければ、教えて貰えませんか? ヒメさんは……マリアの、何処が好きですか?』



「……? ……――っ! ~~!!」

 声に成らない声が、ヒメの喉奥から漏れる。顔を真っ赤にして、手をワタワタと振りながら、それでも何とか言葉をつむ――

「ちょ、ちょちょちょま、マイちゃん!? わ、私がま、まままままマリアをす、すき? は、はい? え? そ、それ、え? は? はぁー?」

 ――紡げなかった。テンパり、あわあわ状態のヒメを視界の端にチラリと治め、奏は麻衣に向き直って溜息を吐いて見せる。

「……聞き方があるでしょう、麻衣さん? いきなり『何処が好きですか?』は……少しばかり、早急過ぎでは?」

「う……ご、ごめん。まさかヒメさんがこんなにテンパるとは思って無くて……」

「まあ、お気持ちは分からないでは無いですが」

 もう一度、溜息。その後、奏は視線をヒメに向けてにっこりと笑んで見せた。

「ヒメさん、落ち着いて下さい」

「わ、わわわわわわたしはお、落ち着いていえいえ!」

「……落ち着いてませんね」

 肩を落とす奏に、流石に年長者としての自覚……というより、何となく情けなくなって来たヒメが大きく深呼吸。吸って、吐いて、吸って、バクバクと鳴っていた心臓が少しずつ沈静化した事に、ヒメは深呼吸とは別種の息を吐いた。

「……ごめん、もう大丈夫」

「それでは……そうですね、答えたくない質問であれば、勿論答えて頂かなくて構いません。ですが、宜しければ少しだけお付き合い頂ければ助かります」

「えっと……う、うん。わかった」

 人の『コイバナ』を聞いておいて、自分のコイバナ……かどうか、ヒメにも判断が付いては居ないが、それでもなんとなく全拒否は不義理の気がしてヒメは小さく頷く。

「ありがとうございます。それでは……そうですね? ヒメさんは、どうやってマリアさんと出逢いになられたのですか?」

「マリアとの出逢い? えっと……あのね? 私、クリスマスイブの日に海津駅前でナンパされたのよ。それを……」

「マリアさんが助けてくれた?」

「……うん」

「はぁ……アイツ、デートでフラれたって言ってた癖にこんな美人を引っ掛けてたのか。っていうか、ヒメさん、ズルい! 良いな~」

 やり切れない、といった感じで布団に後ろ向きにボフンと倒れ込む麻衣。その姿に、ヒメが慌てた様に両手をワタワタと左右に振って見せた。

「ま、マイちゃん! べ、別にマリアは引っ掛けたとか、そ、そういう訳――ズルい?」

「あー……はい、その辺りは分かってます。アイツ、そういう所では……まあ、多少は格好つけもあるんですけど、見返り期待して助ける様なキャラじゃないんで。ズルいって言うのは……」

 溜息一つ。

「……私もそうですけど……奏も咲夜もそこそこ『強い』んですよ。こう……なんだろう? ヒメさんみたいにナンパから助けて貰う事なんてないな~って」

「……そうなの? そんな事、無いと思うんだけど?」

 幾ら柔道や合気道、空手の有段者と云えども純粋に男と女では体格差・体力差というモノがある。特に、マリアはこの四人を妹分として可愛がっている以上、『強いんだから自分で解決しろ』なんて、そんな事は絶対言わないだろうと思ったヒメの言葉に、麻衣が気まずそうに顔を逸らした。

「……えっと……なに?」

「……その…………まだKIDでデビューする前の事なんですけど……私達四人で海津の街を歩いていたらナンパされたんですよね? チャラい系の五人組で……まあ、結構めんどくさい感じのナンパの仕方だったんですよ。こう、腕とか肩とか触って来ようとするカンジの。んで……えっと……アレ? あの時って誰が一番最初にキレたんだっけ? 私じゃないのは覚えてるんだけど?」

 麻衣の言葉と、ぐるりと回される視線。その視線を受け流す様に、咲夜と鳴海の視線が一点に注がれる。

「…………私です」

 気まずそうに小さく手を挙げる奏。その姿に、麻衣がポンっと手を打った。

「あ、そうだった。そんで投げ飛ばしたんだよね、奏?」

 奏の『告白』に、あんぐりとした顔で見つめてくるヒメ。そんなヒメに対し、まるで先程のヒメの焼き直しの様、慌てて奏が両手を振って見せた。

「ち、違うんです! 違うんです、ヒメさん!」

「……なにが?」

「だ、だって……その男の人達、私の肩に手を回そうとしたんですよ!」

「……あー」

 ヒメ、まあ分からんでもない。ナンパ男に体を触られるなんて、勘弁願いたいのはヒメだって一緒だ。そう思い、頷きかけて。

「その男の方が付けていたブレスレットが服に引っ掛かったんですよ!? 折角、マリアさんが作って下さった服に、あ、穴が空いたんですよ!! 作って貰ったばかりの、おろしたての服だったんですよ!!! 投げ飛ばすでしょう、普通!?」

「……ごめん、あんまり理解出来ない」

 服は大事にするのは良い事だろうが、幾らなんでも投げ飛ばすのはやり過ぎだろう、どう考えても。

「えっと……まあ、そんな感じで……こう、その五人組を叩きのめしたんですよ。こう……なんでしょう? ちょっと立ち直れなくなるぐらいに……ボコボコに」

「……いいの、それ?」

 ジトーっとしたヒメの目線に、たっぷり二秒。


「………………警察、行きました」


「……」

「まあ、ナンパして来たのは向こうだし、物損もあるからって事で過剰防衛には眼を瞑って貰って許して貰いましたが……こっぴどく絞られました。次は無いぞ、って」

「……でしょうね」

「慌てて警察に駆け付けてくれたマリアも、警察署で泣きながら赦しを乞うナンパ男たちの姿に……その、すっかり呆れちゃって。警察官に事情を聞いて、申し訳なさそうに頭下げた後で、見た事の無いぐらい冷たい目で『勝手にやってろ、お前ら。もう助けん!』って」

「…………でしょうね」

 流石のマリアも匙を投げるだろう。

「なもんで……そういう『お姫様』みたいな役割ってちょっと憧れるんですよ。なんていうのかな? こう、ピンチに駆け付ける白馬の王子様、みたいな。だから、ちょっとヒメさんばっかり良いな~って……」

「物凄く自業自得の気がするんだけど、それは置いておいて……白馬の王子様? え? 誰が?」

「……まあ、マリアには黒馬の方が絶対に似合いますけどね。自転車も黒だし。黒王号って名前付いてるんですよ、マリアのママチャリ」

 ちなみにネーミングは咲夜である。

「……」

「……と、話の腰を折っちゃいましたね、済みません。それで? その後、どうしたんです?」

 頭を一つ下げ、続けて下さいと言わんばかりに右手を差し出す麻衣。その姿に一つ頷き、ヒメは口を開いた。

「えっと……自分でも何言ってるか良く分かんないだけど……コーヒー奢って貰って、プレゼント貰ったのよ」

「……済みません、理解が追い付かないんですが。ヒメさんがコーヒーを奢ったんじゃなくて?」

「……だよね? 私も意味が良く分かんないもん。一応、お礼で奢るっていう話だったんだけど……伝票、取り上げられて」

 ナンパから助けて貰って、なんでコーヒー奢って貰ってプレゼントまで貰っているのか、よく考えたら相当おかしな話ではある。

「……ですが、麻衣さん? マリアさんですし」

「そうだよ、麻衣ちゃん。マリアお兄ちゃんだよ?」

「……あー……まあ、マリアだしね」

「……分かるの?」

「『女の子に奢って貰うのが格好悪い』とかですよ、きっと。格好つけだし、アイツ」

 そう言って溜息を吐き、麻衣がオレンジジュースを自分と、残りの四人の分に注いだ。礼を言って受け取ったヒメが一口、そのオレンジジュースを嚥下する。喉を潤す甘さにほぅと息を吐き、ヒメは言葉を続けた。

「……それで……えっと、まあその後ちょっと色々あったのよ」

「その色々は、聞いても良い事ですか?」

「……ごめん、詳しい内容はちょっと言えないんだけど……なんて言うのかな?」

 一息。


「――私にはね? 『夢』があるんだ」


「……」

「でもね? その私の『夢』って、ちょっと変わってるのよ。普通の人が聞いたら、笑っちゃう様な、そんな夢で……でもね? マリアは、私のそんな夢を笑わないでくれたんだ」

 過ごした時間は短く、紡いだ思い出は少ない。思い出すのに時間が掛かる様な、或いは絶対に忘れない宝箱に入っている様な、そんな思い出では決してない。

「……それが……その事が」

 でも。

「――私は……凄く、凄く、嬉しかったんだ」

否、だからこそ、四人に語り掛けながら、ヒメは自身に問いかける。

「それに……マリアは、口だけじゃ無かったのよ」

 貴方は、ヒメ・マ・オー・エルリアンは。

「『応援する』って言ってくれて、そしてその為に自分が傷付く事を厭わないでくれた」



――マリアが、『大本麻里亜』が、好きですか? と。



「……私の為に、ボロボロになっても頑張って、傷ついて、何も出来ない私の代わりに――」



『嫁さんの『夢』ってのはな? 旦那の『夢』なんだよ』



「――っ」

 ああ、と、ヒメは思う。

「……ヒメさん?」


 そして――ズルい、とも。


「……なんでも無い」

 あんな事。

「大丈夫ですか? なんか急に考え込んでたみたいだけど……」

「うん、大丈夫。ただ――」


 あんな事、言われたら。


「……そうね。私は多分……マリアの事が、好き……なんだと、思う」



 ――惚れない筈、無いじゃないか、と。



「……私は……マリアと、一緒に居たいんだと……そう、思うわ」

 認めてしまえば、とてもシンプル。心の何処かにあった澱の様な感情が一気に払拭される様な、そんな感覚にしばしヒメは酔う。自身が『恋』をしているというその事実に心が軽くなり、詠いだした様な、歌いだしたい様な、そんな明るい気分で――そして、そんな明るい気分が、ドンドンと沈んでいくのがヒメは自分でも分かった。

「……そ、その……」

 ヒメがマリアを好きになる、という事は、目の前にいる三人の『恋敵』になるという事だ。自身が幸せになるという事は、マリアを幼い頃から慕い続けた、その三人の目の前から、マリアを掻っ攫っていくと……そういう事だ。

「……ごめん、なさい」

 何に対する謝罪か。自身でも理解できない、そんな感情のままに頭を下げるヒメ。

「……頭を上げてくださいよ、ヒメさん」

 そんなヒメの頭上に、麻衣の声が掛かる。どれ程の罵倒を受けるか、そう思いながら恐る恐るヒメは下げていた頭をゆっくりと持ち上げて。



「……ありがとう、ヒメさん。マリアを――大本麻里亜を、好きになってくれて」



 視界に入ったのは、マリアの『妹達』の笑顔だった。

 


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