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第三十四話 大本家の女子会 その1

三人称です。

 お風呂上がりで湿った髪の毛をタオルで拭きながら、リビングで談笑――と云うよりは大いに盛り上がってる大人組プラス、クレアに『お風呂、頂きました』と声を掛けてヒメはトントントンと二階に続く階段を軽やかに駆け上がる。


『おま! それはズルいだろう!』

『ふん……悔しかったらお前も使えば良かろう? コマンドは分かるだろう?』

『つうか、なんでオークの癖にこの二十連コンボとか出来んだよ!』

『我が里にも有ったからな、このゲームソフト』 

『ゲーム受け入れる余裕があんだったら農業ぐらい受け入れてくんねーかなぁ!』


 突き当りの部屋から聞こえてくるマリアとラインハルトの会話の声。まるで昔からの仲の良い友達がじゃれている様な、そんな会話の内容に微笑ましいモノを覚えてヒメはクスリと笑みを漏らした。

「……よし!」

 その声に少しだけ勇気を貰い、さあ次は自分の番だと言わんばかりに目の前にあるドアノブに手を掛けると、そのままゆっくりドアノブを捻って室内に顔を出した。

「……お風呂、頂きました……」

「あ! お帰り~、ヒメさん。熱かったです?」

「う、ううん。丁度良いお湯加減でした」

「敬語なんていいですから! さ、ヒメさん! 座って、座って! オレンジジュースでいいですか?」

 頭を中央に向ける様に、円形に室内に引かれた六組の布団。その中央部に置かれたジュースのペットボトルとコップを手に取る咲夜に小さく頷き、自分の居場所を探すようにきょろきょろと小さく視線を動かす。

「あ! ヒメさん、こっち! 私の隣で寝よ!」

 そんなヒメの視線に気付いたのだろう、麻衣が元気よく両手を挙げる。その姿にほっと息を吐き、ヒメは麻衣の隣に腰を降ろした後、自身の『パジャマ』を見つめて申し訳無さそうに口を開いた。

「その……ごめんなさい。急にお泊りさせて頂く事になっちゃって……ウチの母があんなに酔って……本当に、ご迷惑をお掛けします」

「構いませんわ。アイラさんがあの様な状態では、帰るに帰れませんでしょうし」

「そ、そうです! あの状態で帰るのは危ないです!」

「そうそう! 自分のウチだと思って気兼ねなく寛いでよ、ヒメさん!」

「……いや、なんで皆が言うのさ? でも、ヒメさん? 本当に遠慮なく寛いでくださいね! 折角のお泊りだし、『女子会』と洒落込みましょう!」

 順番に奏、鳴海、麻衣と歓迎の言葉を続けた後、呆れた様に苦笑をしながらそう付け足す咲夜。なんだかその姿が本当の姉妹の様に見えて、ヒメは小さく微笑んで見せた。

「……ありがとうございます。本当に皆さん、仲が宜しいのですね?」

「あー……仲が良いっていうか……ね、咲夜?」

「もうなんか、腐れ縁ですよ、腐れ縁。このままお婆ちゃんになるまで皆で過ごすんだろうな~って。四人で縁側で日向ぼっことか。結婚もせずにさ?」

「イヤですわよ、そんなの。私はまり――素敵なお爺ちゃんの隣に座っていたいですわ」

「う、うーん……そうだね。四人とも結婚しないって言うのは……ちょ、ちょっとイヤかも」

 咲夜とはまるで反対、ある意味では好き勝手な事を言いながら、それでもその表情に険も陰りも見られない事に少しだけ感動を覚え、ヒメは言葉を続ける。

「……いいですね、その様な御関係をきず――」

「ストップ!」

「――け……ストップ?」

 言葉の途中、咲夜から声が掛かる。きょとんとしているヒメをチラリと見やり、咲夜は人差し指を立てて『チッチッチ』とその指を二、三度振って見せた。

「この言い方は失礼かも知れないですけど……ヒメさんって、私達より『お姉さん』ですよね?」

「え、えっと……た、たぶん」

「だったら、年下の私達に敬語なんて要らないですよ~。お兄ちゃんにはタメ語でしょ?」

「そうそう! 遠慮せずに、私らにもタメ語使って下さい!」

「そうですわ」

「そうです!」 

 口々に言い募る四人。その姿をポカンとして見つめた後、小さく笑みを浮かべて見せる。

「……よろしい――」

 違う、そうじゃない。

「……いいの?」

「勿論!」

「……ありがと、サクヤちゃん、マイちゃん、カナデちゃん、ナルミちゃん」

 一人一人、大切なモノを紡ぐように名前を口にするヒメ。そんなヒメの言葉に、口元を『もにょ』とさせた咲夜が言葉を継いだ。

「……ん~……やっぱり綺麗なお姉さんに『サクヤちゃん』って言われるのは良いね~。やっぱりごっついお兄ちゃんより綺麗なお姉さんの方がいいね~」

 なんだか『おっさん』みたいな事をいう咲夜に、麻衣が呆れた様に溜息を吐いてペシっと頭を叩く。

「こら! そんな事言わないの!」

「ぶー! 麻衣ちゃん、痛い!」

「痛くしたんだから当たり前よ。大体、今日だって咲夜はマリアのカレーをお代わりまでしてたでしょ? いいお兄ちゃんを持ってるんだから、文句を言わない!」

「別に文句じゃ無いんだけど……こうね? もうちょっと見栄え的なモノをさ? あ! そう言えばヒメさん、お兄ちゃんのカレーどうでした?」

「……うん、美味しかった。その……ちょっと、悔しいぐらいに」

 買い込んだ数種類のスパイスから作られた、マリアお手製カレー。『圧力鍋使ってるからちょっと手抜きだけどな?』なんて言いながら、それでもお金を取れるレベルじゃないだろうかと思う程に美味であったそのカレーの味を思い出し、ヒメは小さく微笑む。

「なんか……こんな事言ったら失礼なんだろうけど、マリアの見掛けからは想像付かないっていうか……それぐらい、美味しかった」

「あー……はい。まあ、あの見た目で料理が得意ってのはどうかと思いますけど……でも、身内の贔屓目で見ても凄く美味しいモノが出来てると思います」

「その上、裁縫まで得意なんでしょう? なんだっけ……『女子力』? 高過ぎない?」

「あー……そうですね。お兄ちゃんに『女子力』って違和感半端ないんですけど」

 そう言って苦笑する咲夜に笑顔を浮かべ、ヒメは言葉を続けた。

「裁縫も凄いよね? なんか、元々皆の学芸会の衣装を作ったって…………聞いた……け……ど?」

 ヒメの言葉尻が徐々に小さくなる。なんだか微妙な顔をする四人に変な事を言っただろうかと首を傾げたヒメの目の前で、小さく麻衣が手を上げる。

「あー……多分ソレ、私のせいですね」

「マイちゃんの? え? せいって……なにが? マリアの裁縫が趣味って事が?」

 頭に疑問符を浮かべるヒメ。その顔を見つめ、麻衣が少しだけ口の端を歪めて苦笑をして見せた。

「……ええっと……えっとね、ヒメさん? その……あんまり、こういう楽しい場面でいう事じゃないんだろうけど……」

 迷いは、一瞬。


「私の家って……両親、離婚してるんですよ」


「……へ?」

 麻衣の声が耳朶を打ち、ヒメの脳がその意味を正確に理解するまでに、もう一瞬。

「――っ! ご、ごめん!」

 慌てて頭を下げるヒメに、麻衣は苦笑を浮かべて小さくヒラヒラと手を振った。

「あー、そんなに気にしないで下さい。当時は……まあ、ちょっと辛かったんですけど、今では結構吹っ切れてますから」

「……そ、そうなの……? で、でも、本当にごめんなさい!」

「イイんですって。それで……小学校二年の時に私、学芸会のお姫様役に選ばれたんです。凄く嬉しかったんですけど……ホラ、お姫様役って言っても小学校の学芸会でしょ? 衣装なんかも、お母さん達の手作りになるんですけど……ウチの母親、離婚したてで仕事も忙しかったし私自身、お母さんに巧く『甘え』られなかった事もあって、どうしても『衣装を作って!』って言えなかったんです。だから、辞退しようと思ったんですよ。お姫様役が制服じゃ格好も付かないし、咲夜も奏も鳴海も同じクラスだから、別に私がお姫様じゃなくても良いじゃんって、そう思って……」

 そこまで喋り『クックク』と、なにかを思い出すように喉奥を鳴らす。

「……私が悩んでいるのを気付いてくれたんでしょうね。マリアが『どうした?』って聞いてくれたんです。それで、お姫様役を止めようと思うって言って……そしたらマリアがね? 言ってくれたんですよ。『アホか、お前は。折角のお姫様役だぞ? 衣装? んなもん、俺が作ってやる。心配スンナ、家庭科は『5』だ!』って」

 そう言ってもう一度、おかしそうに喉奥を鳴らす。

「……大本家も共働きで、咲夜も大事な役だったから、私と咲夜の衣装、文字通り夜なべして作ってくれたんですよ、マリア。全部の指にカットバン巻く程に怪我しながら、それでも一生懸命に作ってくれたんです。スパンコール一杯付けて、キラキラした衣装でね? もう、すっごく可愛くて……嬉しくて、嬉しくて……本当に、涙が出るほど、嬉しくて」

 何かを懐かしむ様にそう言って、麻衣は手元のオレンジジュースのコップを傾ける。

「……あれからですかね? マリアが私達の服を作ってくれる様になったの」

「……そっか」

「そうです。ですので……ええっと……」

 何かを悩む様に、口を二、三度開閉し――その後、諦めた様に溜息を一つ。

「……ああ、もう! 何となく、ヒメさんに隠し事するのはフェアじゃない気がするんで言っておきましょう! その……私がマリアを『異性』として意識しだしたの、それからです」

「……服を作ってくれたのが嬉しくて?」

 そんなヒメの言葉に、ゆっくりと麻衣は首を振る。



「違います」



 横に。

「と、ああ、違うって言うと嘘になるのかな? 勿論嬉しかったんですけど……それ以上に、なんて言うのかな? 凄く安心したんです」

「……安心?」

「離婚の直前は毎日親が喧嘩してましたし、離婚したら離婚したでお母さんは私の事なんて構ってくれませんでした。アイドルやって、お金を自分で稼ぐようになった今では、あの時は私の為に一生懸命働いていてくれてたんだって分かりますけど……やっぱり、寂しかったのは寂しかったんです。なんだか、世界中の皆が自分の事なんて見てくれて無い様な気がして……寂しかったんですよ」

 そう言って、麻衣は何かを慈しむ様に両手を胸の前で組んで見せる。

「だから……マリアが私が悩んでいる事に気付いてくれて、それでその悩みを解決する為に、自分が怪我をして、しんどい思いをしてまで動いてくれたのって……その、物凄く嬉しかったんです。この人だけは、きっと私を見捨てずに、ずっと見守ってくれるって――」

 一息。


「――ずっと、見守って欲しいって……そう、思ったんですよ」


 そう言って、照れ臭そうにオレンジジュースを一口。その後、視線を奏に向ける。

「んで? 奏は?」

「……私も言うのですか?」

「あったりまえじゃん。だってホラ、女子会って言えばコイバナでしょ!」

「そういうモノですの?」

「そういうモノだって。女子会の話は『コイバナ』って相場が決まってるの!」

 顔を真っ赤にしてそういう麻衣。あからさまな照れ隠しであるソレに、奏は苦笑を浮かべ、その後小さく溜息を吐いて見せた。

「もう、麻衣さんったら……でも、そうですわね。ヒメさんには聞いていて貰った方が良いかも知れませんね」

 そう言って奏は綺麗な笑顔をヒメに向けて。


「……私、小さい頃はピーマンが食べられなかったんですよ」


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