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第三十話 魔界七大魔族


「……は? べ、勉強?」

 突然の魔王様の『お勉強』発言に、ポカンとバカみたいに口を開ける俺。そんな俺を気にした風もなく、魔王様がパチンと指を鳴らす。一瞬の浮遊感と軽い酩酊感に思わず開けていた眼を瞑り、次に目を見開いた時に見えたのは既視感のある部屋の風景だった。

「……玉間?」

 魔王様の居室である玉間。先日お邪魔した時には無かった中央の椅子とテーブルに首を傾げる俺を他所に魔王様はそのテーブルに腰を掛けると、俺の方に笑顔を向けて見せた。

「さ、マリア君も座って座って」

「……は、はあ……?」

 なんだか良く分からないまま、俺は魔王様に言われる通りに椅子に腰を降ろす。そんな俺の姿にうんと頷いた後、魔王様は口を開いた。

「それじゃ、お勉強たーいむ!」

「いや、それじゃって言われても……」

 正直、意味が分かんないだけど? そんな俺の姿に、小さく魔王様が溜息を吐いて苦笑を浮かべて見せた。

「ホラ、マリア君、魔王に成る訳じゃん? それなのに『魔界』の事、全然知らないでしょう?」

「一通りヒメからレクチャーは受けたんですけど……」

 あれじゃダメって事か?

「ダメって事じゃないけど……もうちょっと、詳しい説明が要るかなって。例えば……ホラ、『魔界七大魔族』とか。マリア君、七大魔族って何が居るか知ってるの?」

「……ああ、確かに。そう言われて見れば」

 七大魔族の族長から認められるとは言っていたが、具体的に『どれ』が七大魔族かとかは聞いていなかった気がするな。

「でしょ? だから、その辺りのレクチャーが居るかなって?」

「……お願いできれば」

 俺の言葉に魔王様は『うん』と頷いて見せる。

「ヒメちゃんも言ってたと思うけど、魔界には幾つかの魔族が暮らしているわ。その中で、チカラを持った種族の上から七つを総称して七大魔族って言うの。具体的には『オーク族』『ヴァンパイア族』『夢魔族』『竜族』『エルフ族』『堕天使族』『リッチ族』の七つの部族の事よ」

「ええっと……なんでしょう? RPGの最初の方に出て来る様な……そうですね、例えばスライムみたいな魔族っていないんでしょうか?」

「居るわよ。でも、スライム族の力は非常に弱いわ。だから、魔界の七大魔族に数えられていないってだけよ。もし、スライム族がチカラを付けてくれば……ひょっとしたら、オーク族に成り代わって七大魔族に入る事もあるかも知れないわね?」

 ま、そんな事は有り得ないけどと肩を竦める魔王様。その言葉に、俺は少しだけ違和感を覚えて口を開く。

「ええっと……七大魔族って流動的なんですか?」

「ざっつ・らいと。魔界は『チカラ』が物を言う場所だからね。七大魔族って言ってもその地位が安寧とある訳じゃ無いわ。そもそも『七大』って言っても単純に、チカラが強いモノを上から七つ並べているだけだし」

「……はあ」

「魔界の歴史の中では七大魔族は結構頻繁に入れ替わっている。エルフ族が入る前まではハーピー族が七大魔族の一角だったし、オーク族だってエドアルドの二代前から七大魔族入りだし、堕天使族なんて私の代からだもん」

「……そうなんっすか」

 でも、まあ……言われて見ればそりゃそうだよな。魔王様自体がチカラで伸し上った魔族な訳だし、その『下』に付く魔族だってそりゃチカラ重視か。

「そんで、此処からが本題なんだけど」

「拝聴します」

「ありがと。そんな七大魔族の中でもヴァンパイア族は七大魔族の座を一度も落ちた事のない、由緒正しい種族なのよ。純粋な魔力はリッチに一歩譲るけど、高度に洗練された社会性と文化、それに知能を併せ持った……そうね、『魔界の公爵』って言った所なのよ」

「リッチには一歩譲るんですね、魔力」

「リッチは『種族』というより『個』だからね。そもそも、リッチってコミュ力ゼロの引き籠り集団だし」

「……そうなんですか?」

 ノーライフキングとか言われてんじゃないの、リッチ。あれ? あれはヴァンパイアの別名だっけ?

「『永遠の命を!』みたいな考えで、人間止めた研究バカの理系の集団だから、あそこ。『働いたら負け!』が合言葉らしいわ。その癖、無駄にポテンシャルは高いのよね。頭だって良いし」

「……一番性質悪いパターンじゃないですか」

「まあ、リッチはどうでもイイわ。それより問題はヴァンパイア族が自分たちの『姫』を魔王城に差し出した、って所なのよね」

「……なんか問題があるんですか?」

 良くは知らんが……ほれ、昔のヨーロッパでは貴族の娘が別の、もっと高位の貴族の元に行儀見習いで下働きに出るってよく聞く話なんだが?

「……ラインハルトが来たのとは訳が違うんですかね?」

 あいつ、族長の息子だろ? 言ってみれば王子様じゃん。白馬の、では無いかも知れないけど。

「全然違うよ。オーク族は七大魔族で最弱の魔族だもん。魔王に『人質』を出してもおかしくないよ」

「……人質なんですか、ラインハルトって? っていうか、オークってそんな事する種族なんです?」

 イメージ、『捕虜になるぐらいなら死ね!』ぐらい言いそうなんだが。

「エドアルドはああ見えてクレバーな所のある人だしね。現実的判断でラインハルトを人質に出して、魔王に恭順するって選択肢も全然取る男だよ?」

 そう言って、溜息一つ。

「……まあ、今回は単純にマリア君の事を気に入っただけっぽいけど。ラインハルトもマリア君の事を気に入ってるみたいだし。モテモテだね、マリア君?」

「……男ばっかりですね、モテるの」

「はははー。死ねばいいのにぃー」

「ナチュラルに罵倒された!?」

 酷くね!?

「酷いのはマリア君だと思うけどね? ま、それはともかく……ヴァンパイアだよ。一度も七大魔族の地位を落ちた事のない、あの誇り高き頭脳派集団であるヴァンパイア族が、自分の所の『お姫様』を人質に差し出すなんて……しかも、秘蔵っ子のクレアを」

「その……」

「ん?」

「その、ラインハルトが言ってたじゃないですか? 『お前なんか見た事ねー』みたいな事を。魔王様はクレアには……」

「私? 私は一遍……ん? 二回かな? とにかく、クレアがうーんっと小さい頃に逢った事はあるよ。だから、ヴァンパイア一族に『クレア』っていうお姫様が居る事自体は知ってたよ? ただ、あの子が本物かどうかは聞かれても分からないけど……」

「なんで『秘蔵っ子』だったんですかね、クレア?」

「んー……一応、理由らしい理由があるにはある」

「マジっすか?」

「マジっす。でも、それを今此処でマリア君に教える訳には行かない」

「……なんでです?」

「今の貴方には、それを『知る権利』が無いから」

「……」

「未だ魔王の『候補』に過ぎない貴方には、それを知る権利は無いんだよ、マリア君。言ってみれば、これはヴァンパイア族の『爆弾』みたいな物だから」

「そんな爆弾抱え込んだんですか? その……今更ですけど『断る』事とかは出来ないんです?」

「どうやって断るのさ? 仮にも向こうは『一族の姫』を人質で出すって言ってるのよ? 言ってみれば忠誠の証なのに、『いや、要らないですから』とか言えって? 言えるわけないじゃん、そんなの」

 そう言って溜息を吐く魔王様。

「ヒメちゃんにどれぐらい聞いているか分かんないけど、一口に『魔界』って言っても一枚岩な組織って訳じゃないのよ」

「えっと……『魔王』自体が盟主みたいなカンジって聞きましたけど」

「ああ、巧い事言うね。そうね、『魔王』は盟主って感じかな? もっと言えば、魔王って言うのは魔界っていう『装置』の部品にしか過ぎない感じなんだよ。部品が我儘ばかりも言えないでしょ?」

「……今までの貴方の言動を思い出すと我儘ばかりな印象ですけど?」

「一応、時と場合を考えて我儘言ってるつもりだよ? そもそも、ヴァンパイアはプライド高いからね。クレアを追い返したら高い確率で揉めちゃうし……それにまあ、クレア一人を抱え込んだからって、そんなに現時点で『ウチ』に取ってデメリットが大きい訳じゃ無いから。貰える弱みは貰っておこうか、って感じ?」

 そう言って肩を竦めて溜息一つ。

「無論、デメリットが大きくなったら速やかに『排除』はさせて貰う。でも、それまではマリア君もあんまりクレアちゃんの事を……そうね、『悪く』は見ないで上げて欲しいかな~って」

「……えっと……え?」

 あ、あれ? なんかおかしく無いか、それ?

「なにが?」

「こう……なんでしょう? もっと『気を付けろよ』みたいな事を言われるかと思ったんですか……」

「向いて無さそうだしね、マリア君にはそういう『腹芸』。だから、私がお願いしたいのは自然体で居て欲しいって事。ありのままにクレアちゃんを見て、ありのままにクレアちゃんに接してあげて欲しいのよ。完全に心を許せ、とは言わないけど、それでもラインハルトに言われてたみたいな、穿った見方をしないでね? って事」

 ね? っと微笑みを浮かべる魔王様。なんだろう、物凄く難しい事を言われている様な気がするが……

「……取り敢えず、あんまり難しく考えずに接する様にします」

「ん、そうして~」

 そう言って笑顔のままでヒラヒラと手を振る魔王様。と、その手をピタリと止めて俺のズボンのポケットに視線をやった。

「……なんです?」

「いや……そう言えば、サクヤちゃんとの話中途半端だったな~って。もう一遍、話したいな~って」

「……えー」

「えーって何さ! いいじゃん! ね、お願い! マリア君、電話掛けて見てよ!」

 パチンと両手を合わせて『お願い!』のポーズを取る魔王様。い、いや。

「……マジで面倒くさいんですけど?」

「そんな事言わずに! あ! それじゃサクヤちゃんの電話番号教えて! 今すぐとは言わないから、『私に教えてもいいかな?』ぐらい、聞いてくれない?」

「……まあ、それぐらいなら」

 自分が間に入るのは面倒くさいけど、そういう事ならいいか。そう思い、俺は切っていた携帯電話の電源を入れて。



 ――『不在着信:57件』という、着信履歴を見た。



「……」

 こえーよ! 咲夜だけじゃなくて麻衣からも鳴海からも奏からも入ってるじゃねーか! メールボックスも大変な事になってるし!

「どうしたの? なんか凄い顔になってるよ、マリア君」

「元からですよ、凄い顔は」

 しぶしぶ溜息を吐き、俺は手元の携帯電話のメールボックスを開き。

「……ははは……はぁ……」


 ――『しっかり事情説明をしないと、海津湾に沈める』という、麻衣からの犯行予告メールに乾いた笑いを浮かべた後、盛大に溜息を吐いた。


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