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第二十七話 乙女は強く、麗しく

この話がストーリーの進行上、本当に必要かと言われると疑問符ですが……楽しかったんで長くなってしまいました。


 電話口の向こうから、何が楽しいのか弾んだ声をあげる麻衣。その声に、俺はもう一度首を捻った。

「えっと……なんで? なんで麻衣が出るんだ? これ、咲夜の携帯だよな?」

『咲夜はちょっとなげ――手が離せないから、代わりに私が出たの!』

「……おい。今、『なげ』って聞こえたんだが? お前、まさか……」

『やだな~、マリア。私、これでも一応柔道黒帯だよ? 素人相手に投げ飛ばす訳ないじゃん!』

 ……ホントか? なんだか、遠いところで『嘘だっ!』って声が聞こえて来るんだが?

『耳が悪くなったんじゃない? なに? 年でも取ったの? お爺ちゃんみたいな事言わないでよ~』

「お前と同じ速度で年齢を重ねている筈なんだけどな?」

『それより! 久しぶりだね、マリア! 元気にしてた?』

「あー……まあ、元気っちゃ元気だけ――」

 喋りかけた俺の言葉を遮る様、腕をくいくいっと引っ張られる感覚にそちらに視線を向ける。そこには、瞳を『キラキラ』させた魔王様の姿があった。

「――悪い、麻衣。ちょっと待ってくれ」

『へ? えっと……う、うん。いいけど……』

 電話口の向こうで訝し気な声を出しながら、それでも了承をしてくれた麻衣に心の中で頭を下げ、俺は通話口を手で押さえて魔王様に向き直る。

「……なんですか?」

「ねえねえ! 今の『麻衣』って……『マイ』ちゃん? KIDの?」

「そうですけ――」

「代わって! 電話代わって!」

「―-どって喰い気味で来ましたね! いや、代わってって言われても……」

 流石にいきなり魔王様に代わる訳には行かんだろう。そもそも、どう説明すればいいんだよ? 『これから魔王様に代わります』って、絶対頭が可哀想な人だと思われるジャマイカ。

「そ、それじゃせめて! せめてスピーカーにしてよ! 私もマイちゃんの声、聴きたい!」

「それじゃ会話の内容が筒抜けに――分かりました! 分かりましたから目をうるうるさせるの止めて下さい!」

 明らかにウソ泣きだと分かる泣き真似をしやがる魔王様に溜息一つ、俺は通話口に当てていた手を取って麻衣に話しかけた。

「あー……麻衣?」

『なに?』

「いま……ええっと、ツレといるんだが」

『………………ツレ?』

「……麻衣? どうした? なんかアイドルが出しちゃいけねー低い声が聞こえるんだけど?」

『……確認の為に聞くけどマリア? その『ツレ』って勿論……男の子だよね?」

 麻衣の声に、俺は室内を見回す。ええっと、ヒメに魔王様に……ラインハルトか。

「男もいるぞ」

『……男『も』? それじゃ、なに? 女の子もいるの?』

「居るよ?」

『……何人?』

「あー……」

『……なに? なんで言い淀むのよ?』

 いや、なんでって……ヒメは良いよ、ヒメは。でも、魔王様は女の『子』では――

「……マリア君? 言いたい事があったら聞くけど?」

「二人! 女の子は二人だ!」

 ――女の子だよ、うんっ!

『……へ、へー。な、なに? 二対二で遊んでるってわけ? ご、合コンとか? ふ、ふーん。よ、良かったね、マリア? 可愛い女の子に囲まれてきゃっきゃうふふってしてるんだ? それじゃ、私に電話掛けて来る暇ないんじゃないのっ!』

「……なに怒ってんだよ、お前」

 つうか俺が電話を掛けたのは咲夜であってお前じゃねーよ。

『なに怒ってるんだ、じゃないわよ! っていうか、マリア! 貴方、クリスマスイブにデートに行ったらしいわね!』

「……なんで知ってんの?」

『咲夜から聞いた! 何よ、デートって! マリアの癖に! 調子に乗るんじゃないわよ、バカマリア!』

 受話器の向こう側からぎゃーすぎゃーすと騒ぐ麻衣の声が響く。大音声のそれになんだか耳が痛くなり、俺は顔を顰めて受話部分から耳を離した。

「……痴話喧嘩?」

「そんなんじゃないっす。なんだか機嫌悪いみたいで……もうちょっと待って貰って良いですか?」

 小さく頷く魔王様に了承を取った事を悟り、俺は再び受話器に耳を近づける。第二ラウンドだ。


『……ひっく……バカ……マリアの……ばかぁ……』


「……なんで泣いてんだよ?」

 ……いきなり出鼻を挫かれたぞ、おい。

『うるさい! なによ! 去年までは毎年、私達とクリスマスパーティーしてた癖に! なんで今年は開催されないのかな~って思ってたら、マリアがデートに行ったなんて……バカ! 本当にバカ! 私、楽しみにしてたのに!』

 そう言って、受話器の向こう側でグズグズと鼻声を出す麻衣。あー……

「……ちょっと落ち着いて俺の話を聞け」

『……ひっく……な、なによ?』

「その……なんだ、楽しみにしてくれてたのに悪かったな」

『……ひっく』

「でもな? ホレ、お前ら来年は受験だろ? 今年はKIDの活動も忙しかっただろうし、あんまり無理させるのもな~って思ってさ?」

『……ホント?』

「ああ。悪かったよ、ホントに。来年は盛大にやろうな?」

『……ひく……でも、マリア……でーとに、行ったって。来年はその『彼女』と……う、うううっ!……ひっく……その、デートで出来た、か、彼女と一緒に過ごすって事にも……』

「……あー……その心配は、取り敢えず無い」

『……ひく……なんで?』

「フラれた」

『ひっく……え? ふ、フラれた?』

「フラれたんだよ。正確にはフラれてすらねーけどな。すっぽかされたんだよ、俺は」

『……』

「……おい、なんか言え。無言は同情されてるようでなんだか――」



『え……えへへへへへへへへへっ!』



「――なんか言えとは言ったけど、笑えとは言ってねーよ! カンジ悪すぎだろう、お前!」

『ち、違う! そ、そういう意味じゃなくて!』

「じゃあどういう意味だよ!」

『い、いや……そ、その……』

「……その?」

 たっぷり、二秒。



『…………ま、マリアがフラれて……う、嬉しいなぁ~って』



「本当に最悪だな、お前っ!?」

 悪魔か、コイツは! むしろヒメより魔王っぽいぞ!

『ち、違うんだって! いや、ち、違わないんだけど、違うくて! ホントにそういう意味じゃ無くて! え、えへへ……じゃ、なくて! え、えっと、えっと……』

 電話口の向こうながら、きっと『あうあう』してるんだろうな~って簡単に想像が付く麻衣の言葉に思わずため息が漏れる。

「……いいよ、もう。それより、ちょっとお願いがあるんだけど」

『……お願い?』

「さっき言ってたツレがどうしてもお前と話がしてみたいらしい。なもんで、ちょっとスピーカーにしても良いか?」

『あ、そういう事? ええっと……良いケド……どうしよう? こっちもスピーカーにしよっか? 奏も鳴海も居るし』

「……マジか」

 本当にお前ら仲良いよな? つうか良いのかよ、受験生?

『別に遊んでる訳じゃ無いよ? 受験勉強だよ、受験べ――は? ちょ、何言ってんのよ! 今私が話して――』

「どうした?」

 不意に麻衣の声が遠くなる。何事が起ったかと訝しむ俺の耳元に、麻衣の声が――

『ま、マリアさん! 御無沙汰してます!』

「……奏か?」

『は、はい!』

 今度は奏の声が聞こえて来た。えっと……

「……麻衣は?」

『麻衣さんは少し気分が悪いとかで横になっていますわ』

「は? 大丈夫なのかよ?」

『ええ、大丈夫です! ですので私が代わりにお電話差し上げてますわ!』

「……背後から『騙されないで、マリア!』とかいう声が聞こえて来るんだが?」

『気のせいですわ。それより、マリアさん! お正月のご予定はどうなっておりますか?』

「正月? あー……まあ、特に予定は無いかな?」

『そ、そうなんですか! そ、それではお正月、是非我が家に遊びに来て頂けませんか? 父も、久しぶりにむす――ではなく、マリアさんにお逢いしたいと言っておりますし!』

「あー……どうしよっかな。お前の親父さん、俺に無理やり酒呑ませようとするしな……」

『君なら飲めるだろう、マリア君!』とか言いながら一升瓶持ってくるし。俺、まだ十七だっつうの。

『そ、それでは父は地下牢に隔離しておきますので、是非! 是非お越しください!』

「……それ、意味なくね?」

 お前の親父さんが逢いたいって言ってくれてんだろう? それで親父さん座敷牢に隔離したら何しに行くんだよ、俺。

『そ、その……じ、実は新しい振袖を購入しまして……ぜ、是非、マリアさんに一番に見て頂きたいな、と……その……』

「そっか。んじゃ行く」

『ご無理を申し上げているのは――え? よ、宜しいんですの!?』

「お前、振袖似合うじゃん。和風美人って感じだし、目の保養も兼ねてな」

『わ、和風美人……め、目の保養……はう! はう……う……うふふふふふふふふふふふふ~っ!!』

「……おーい。奏? 帰ってこーい」

 俺の言葉が聞こえないのか、『うふふふ』と気味の悪い笑い声を上げたままの奏の声がフェイドアウトする。うん、大体分かる。この流れはアレだろ?

「次は鳴海か?」

『う、うん! 元気、マリアお兄ちゃん?』

「今となってはお前だけだよ、俺の事を『お兄ちゃん』って言ってくれるの。昔は俺には妹が四人居るって思ってたんだけどな~……」

『ふふふ。あ、そうだ! お兄ちゃん、私、天英館受ける事にした!」

「は? 何言ってんだよ、お前。お前は成績良いんだから折が丘受けるって言って無かったか?」

 折が丘高校、通称『オリコウ』は地区で一番の進学校だ。中学の先生からも言われてなかったか、お前?

『うん。でもね? ホラ、お兄ちゃん、高二でしょ? そしたら……一年は一緒に登校出来るかな~って……』

「……」

『……お、お兄ちゃん?』

「……あー……お前の気持ちは分かる。分かるけど……なんだ? 友達作るの自信が無いからって、わざわざ天英館に来るって云うのはダメだと思うぞ? そら、咲夜や奏、麻衣も天英館だろうし、そっちの方が楽だろうけどな? 楽な道に進むのはお兄ちゃん、どうかと思う」

『そういう意味じゃないよ! なんでそんな斜め上の勘違いが出来るのっ!』

「違うのか?」

『と、友達が出来ないとかじゃなくて……え、えっと……そのね? 出来れば『お兄ちゃん』とはお兄ちゃんだけじゃない、も、もっと……ふ、深い仲になりたいって、そう思―-『こら、鳴海!』『鳴海さん! 抜け駆けですわよ!』ふわ! ちょ、ちょっと! 私の番だよ! 邪魔しないで『おにーちゃーん~……たすけて~……麻衣ちゃんがおもいー』『ば、さ、咲夜! マリア! 太ってない! 私、太ってないからね……ちょっとしか……』『ま、マリアさん! 聞いて下さいまし! 私――』わー! わー! マリアお兄ちゃん! 聞いちゃダメ! ダメだか――』

 電話口の向こう側で、何やら騒ぎながら受話器を取り合っている音が聞こえる。と、不意に『がちゃ!』という音が聞こえ、次いで『ツー、ツー』と電話の切れた音が聞こえて来た。その音に俺は耳元から携帯電話を離し――なんだか、とっても冷たい目でこちらを見やる魔王様に視線を向ける。

「えっと……切れました」

「うん、見れば分かる。見れば分かるし、マリア君の会話内容でどんな話してたかは大体分かる」

「そうっすか」

「うん。それでね? それを踏まえた上で……」

 そう言って、にっこり笑って親指をグッと立てて見せて。



「――取り敢えずマリア君、地獄に落ちたら良いんじゃないかなっ!」



 その親指を逆さまに向けた……って、なんでだよ!


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