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第百十九話 アリスの告白


 ニッコニッコニーと擬音でも付きそうな程の良い笑顔を浮かべる魔王様は、はいはいーとばかりに手を挙げたままで口を開いた。

「やっぱりマリア君の言った通り、働きたくない人間を無理に働かせるのはどうかな~って私思うのよね! ね、マリア君? マリア君だって働きたくないでござるだもんね!」

「いや、別に俺はそこまで無気力な訳じゃ無いんですけど……でもまあ、魔王様の言う通りですね。別に無理して働く必要は無いと思います」

 仕事ってのは別に金の為だけにするもんでは無いとは思う。やりがいとかだってあるし。でもまあ、そうは言っても報酬があるから仕事をするって側面は否定は出来んし、そもそも報酬いらんって人間に『やりがい』とか『滅私奉公』を説いて働かせるのは無理だろ、普通。

「何言ってるのよ、ママ! アリスの力は魔界に取って必要な力よ! 魔界を今以上に発展させる為には、アリスの協力が必要でしょ!」

「いや、なに言ってんのさ、ヒメちゃん。アリスは嫌だって言ってるんでしょ? そんなもの無理やり働かせた所で良い話になる訳ないじゃん。働いて貰わない方が良いわよ。そもそも、アリスって半分引き籠りでしょ? コミュ力無さそうだし」

「そんな事ない! それに、仮にコミュニケーションに難があっても、能力が高ければ問題ないでしょ!」

「あるって。まあね? 能力が抜群に高ければ別にコミュ力とかはいらないと私も思うよ? 結局、円滑に業務を進める為にコミュ力って必要だと思うし、一人で全部出来るだけ能力が高ければ別にコミュニケーションなんて必要ないし。まあ、そうは思うけど、それは最低限本人にやる気があっての話でしょ? アリスにはやる気が欠片も無いんだし、そんな人間を無理やり徴用して働かせても良い事なる訳ないじゃん」

 そう言って詰まらなそうに頭の上で手を組む魔王様。そんな魔王様を、まるで親の仇を見る様な視線で睨み付けるヒメ。いや、実の親を相手に親の仇って表現もなんだか変な――

「……なあ」

「ん? どうした、アリス」

「あー……いや、うん。なんかさっきから私の事をボロクソに言ってて酷いだろうとか言いたい事は腐る程あるんだが……ともかく」

 そう言ってチラリと視線を魔王様に送り。

「……なんで魔王様、此処にいるの?」

「……なんでだろうな? 暇だったんじゃねーの?」

「暇って。仮にも魔界のトップだぞ、魔王様。そんなお方がなぜ、人間界のそれも一般家庭に突然現れる? 護衛の一人も付けずに」

「……」

「……どうした?」

「……護衛とか絶対要らんだろう、あの人」

「…………まあな。魔王様は歴代最強の力を誇る魔王様だし、下手したら護衛の方が足手まといになる可能性もあるが……それにしたって。というかだな? いきなり魔王様が現れたのに、君たちは随分とまあ、普通の対応だな? 驚かないのか」

「あの人のする事に一々驚いていたら付き合いきれんさ」

 想像の斜め上をスキップで飛び越える人だからな、この人。

「……生粋のトラブルメーカーか?」

「まあ、お前も人の事は言えんと思うぞ?」

 そもそもこの魔王様襲来イベントだってアリスがウチに来なけりゃ起こって無いんだし。つうことは元を辿れば全部アリスのせいとも言えるな、うん。

「……うん、アリス。お前が全部悪いや」

「いや、悪くないだろう!」

「だってウチにお前が来なければ何の問題も起こらなかった訳だろ?」

 つうか元々アリス、なにしに来たんだよ?

「何しにって……さっきも言っただろう。私は働きたくないと。だから、無理に出仕しろとか言われたら敵わないと思って予防線を張りに来たんだ」

「いや、それは分かるんだけど。それだったらさ? 別にどっかに隠棲とかしとけばよくない? わざわざ表舞台に立ってとか、凄く面倒くさい気がするんだが」

 自分で言っておいてなんだけど、リッチに隠棲ってなんだか凄く似合う気がする。

「リッチの力を役立てろ、というのはリッチ族でも良く言われている事なんだ。特に私の妹のマリンなんかがな。よくも悪くもリッチの研究には金が掛かるし、魔王城に出仕すればいい稼ぎになるだろ?」

「……まあ、そうなんだろうな。報酬は約束するってヒメも言ってるし」

「ただまあ……なんだ? リッチ族ではマリンは優秀な部類に入るんだが、頭の固いやつでな。『お姉さまが出仕していないのに、私が魔王城に出仕など出来ません』って折れる事を知らないんだ」

「ほぅ。優秀なのか、マリンって妹は」

「リッチ自体が不老不死の領域に至った研究者の集まりだからな。まあ、基本は全員優秀ではある。融通は効かんがな」

「融通?」

「さっきの通りだ。リッチは研究者肌で……まあ、良くも悪くも素直なんだよ」

「素直? 何が?」

「能力の高い者には無条件の尊敬と信頼を寄せる。んでまあ、自身より優秀な人間を立てようとするんだ」

「……良い種族じゃね?」

 普通、自分より優秀な人間が居たら足を引っ張ろうとするもんだろ? それを、無条件に尊敬して立てるって、まあ中々出来る事じゃ無いんじゃねーか?

「よりけりと、程度によるだろう。私が出仕しないなら種族全体で出仕しないなんて殆ど狂信者の域だぞ? 正直、私も困る」

 そう言って溜息一つ。

「だからまあ、私が新魔王殿を訪ねた理由は概ね二つだ。一つは、私を勧誘する様な真似は止めてくれ。もう一つは」

 じっと視線をこちらに向けて。



「――私を、族長から引退させて欲しいんだ」



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