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第百十七話 マリアの言い分


「つまりだな! 私はどうあっても働きたくないのだ! なぜ、私が働かなければならないのだ!? 魔界の発展? んなもん、知るか! 私は私で忙しいんだ!」

 人――じゃないけど、人として結構最低な発言をしながら、それでも鼻息荒く俺に詰め寄るアリス。いや、忙しいって。

「お前、引き籠りじゃねーの?」

「引き籠りだって引き籠るのに忙しいんだよ! そんな事も分からないのか? なんだ? 新魔王殿は引き籠り差別をするつもりか!」

「差別って。いや、でもな? その……なんだ? アリスはアレだろ? スゲーリッチなんだろう? だったらほら、その力を魔界の為に使ってくれてもいいんじゃね? 今より魔界が良くなったら、皆も喜ぶしさ」

「皆って誰だ? 『皆持ってるから~』の皆か? そんな皆、知るかっ! なぜ私が見ず知らずのドラゴンやヴァンパイアの為に魔界を発展させてやらなければならないんだ! そもそも、そんな奴の為に働けば私が不幸になるじゃないか!」

「いや、不幸って」

「不幸だ! いいか、新魔王殿? 私は働きたくないと言っているんだぞ? なのに君はそんな私に無理やり働かせようと言うのだろう? ほら! 私に取っては不幸以外の何物でも無いじゃ無いか!」

「……え~……」

 いや、まあ、うん。そう言われればそうなのかも知れんけどさ。

「そういうもんなのか、これ?」

「そういうもんに決まってるだろう! そもそも新魔王殿? 君はどうなんだ?」

「俺?」

「そうだ! もし、君が……そうだな、宝くじで十億当たったとしよう。何もしなくても生きていけるだけの金額だ。どうだ? それでも君は額に汗水たらして働くか?」

「……」

「どうだ? 毎日毎日、乗りたくも無い満員電車に乗って下げたくもない頭を下げて雀の涙ほどの給料を貰う生活をしたいか? したくないだろう!」

 ……いや、まあ……そう言われれば……うん。

「……確かに」

「ちょ、マリア!?」

 ヒメの慌てた様な声が耳に入って来る。そんなヒメに『ちっ』と舌打ちをし、アリスはまるでしな垂れかかる様に俺に身を寄せるとその唇を俺の耳元に――近づけようとして身長差で諦めたか、忌々しそうに俺を睨みつけて手でメガホンを作って見せる。

「ほーれ。どうだ? そんな生活をしたいか? それならば、家でのんびり過ごす方が良く無いか? 君には無いのか、趣味は?」

「……ギター」

「ほれ! 毎日ギターを弾いて――」

「…………と、バイオリンと料理と裁縫と掃除」

「――……なんだ、その趣味。何処のお嬢様だ」

「……」

 なんも言えねぇ。

「その顔で」

「顔は余計だ!」

 言えるわ! 放って置け、趣味なんだよ!

「マリアさん、マリアさん」

「……どした、奏?」

 そんな俺の側にちょこちょこと寄って来た奏がアリスとは反対側――左耳の側でメガホンを作って。

「…………私と結婚して下されば、そういう生活、させて差し上げますわよ?」

「……アホか」

 一気に冷静になったわ。なんだよ、そのヒモみたいな生活。

「……ともかく、そんな生活は嫌だよ」

「なんだ? 額に汗水垂らしてこそ、金は尊いとでもいうつもりか?」

「んなつもりはねーよ。どんな方法で――とまでは言わんが、非合法な事じゃ無ければ額に汗しようが楽して稼ごうが別に構わねーとは思ってるしな」

 そもそも、得意分野で稼いだ金に綺麗もきたねーもねーよ。

「だから別にそんな事は言うつもりはねーけど……俺のこの容姿で、延々家に引き籠って見ろ。はたから見たらちょっとしたホラーだろうが」

 怪奇! 家に引き籠るオーク! って喧しいわ。

「……」

「なんだよ? その可哀想なモノを見る目は」

「いや……なんだろう? 理由があまりにも悲しすぎて」

「喧しいわ!」

 本気でな!

「……まあ、別に引き籠ってるんだからそんな評判を気にする必要もねーんだけどよ」

 つうかな?

「ま、別に良いけどよ?」

「……なに?」

「だから、アリスは働きたく無いって言うんだろ? だったら別にそれはそれで良いんじゃね?」

 俺の言葉に、アリスが一瞬ポカンとした顔をして見せる。なんだよ?

「そ、それは……その、何か? 私に王城に出仕しろ、とか言うつもりは無いと……そ、そういう意味か?」

「ああ、そういう解釈で有ってる。つうか、別にアリスだって……なんだっけ? マリン? その双子の妹が『魔王城で働きたい!』って言うんだったら反対はしねーんだろ?」

「あ、ああ。私もそこまで自身のエゴを押し通すつもりは無い。というか、働きたいなんて言うマリンの気が知れんとは思うが、体を張って止めようとは絶対に思わん」

「マリンの意思を尊重して?」

「いいや、面倒くさい」

 ……おい。

「……ま、いいや。つまり、俺としては別にお前が働きたく無いんだったら無理に働く必要はねーと思ってる。ただまあ、リッチ族の頭脳ってのは優秀なんだろうし、働く気のある人間に出仕して貰えばそれでイイよ」

 やる気のない人間が――まあ、アリスが魔王城でこの格好でゴロゴロしてたら士気も下がりそうだしな。だったらいい方は悪いけど、隔離していた方が無難だとは思うぞ、うん。

「そ、そうか! いや、なんだかその言い方では私が物凄いダメリッチに聞こえるが……と、ともかく、そう言う事なら良かった!」

「いや、ダメリッチじゃん」

「ダメではないぞ、ダメでは。私は私のやりたい事しかやらないと、そう言っているだけだ!」

「その考え方が最早ダメの典型の様な気もせんではないが」

 ま、いんじゃね? 本人にやる気がなくて、そしてそれでも生活出来る能力や才能があるんだったら、別にそれを尊重して――


「ダメに決まってるでしょ!」


 ――やれば……って、え?

「……ヒメ?」

「何言ってるの、マリア! アリスにそんな自堕落な生活を送らせる訳には行かないわ! アリスには絶対、魔王城で働いて貰います!」


 そう言って。


「これは私の魔王としての勅命よ、アリス!」


 腰に手を当てて、ヒメが右手の人差し指でアリスを『びしぃ!』と擬音が付きそうな程の勢いで指さした。


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