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第百十三話 あいのこくはく


 魔王様の『サキュバス族は乙女DAZE!』発言の後、会場は騒然となった。まあ、そりゃそうか、なんせトリムの劇的なビフォーアフター、魔王様襲来、トリム族長就任とイベント目白押しだ。

「……なあ?」

「はい?」

そんな状態では和やかに歓談、なんてまあ無理な話、『と、取りあえず本日はこの辺りで』なんて幹事を務めていたナターシャが半泣きで締め括った後、俺とトリムは二人して会場を後にし、自宅までの道を歩いていた。なるだけ、大通りを避ける形の道を選んで帰ってはいるが勘違いすんなよ? トリムの格好が格好――まあ、殆ど全裸に俺のコートを羽織っているだけっつう一歩間違えたら両手にワッパ掛けられ兼ねない状況だからだからな? やましい事は何一つない。何一つ無いんだが……

「どうされましたか、マリアさま?」

「いや、どうされましたかってワケでも無いんだが……」

 隣には絶世の美少女が愛くるしい笑顔で、俺のコートだけを羽織っている状況、しかもそのコートの下は滅茶苦茶色っぽい恰好と来ているんだ。しかも、『サキュバス』が、だぞ? 俺だって健康的な高校男子、そりゃ若干緊張して――トリム相手に何言ってんだって話ではあるが、まあ、なんだ。そんな状況に少々テンパり気味、無言の気まずさもあり、何とか会話をしようと取りあえず声を掛けて見た次第であります、ハイ。

「ええっと……そうだ! 族長! あれ、ホントに良かったのか?」

「良かったかどうか、と問われましても……正直、私には荷が勝ちすぎていると思っている所ではあります。今日の今日の事ですし、心の準備も出来ておりません。不安も一杯あります」

「……そりゃそうだよな」

 いきなり『んじゃ今日からアンタ、ボスね?』なんて言われても普通は取り乱して終わりだろう。そういう意味ではトリム、すげーなと思う。

「今まで私は族長になる事は諦めておりました。この――ではないですか、あの様な醜い容姿のモノが、美に関しては絶対の自信を誇る我らが一族のそのトップに立つのはおこがましいと……やはり、ナターシャやクリスの様な容姿端麗なモノが族長に就くべきでは無いかとそう思っておりました」

「……ナターシャと言えばアイツ、殆ど半泣きだったな」

 醜いアヒルの子が白鳥に進化だもんな。散々容姿をバカにしてたナターシャの立つ瀬も無いだろう。

「ナターシャには可哀想な事をしましたね」

「なんだ? 嫌味か?」

「折角の同窓会ですよ? それをこの様な形で壊してしまって……今度、何か御詫びを致しましょう」

「……いや、やめとけ。それは殆ど死体蹴りと同じだぞ?」

「し、死体蹴り? な、なぜですか?」

「なぜって……そりゃお前、散々バカにしてたヤツが大変身してお礼参りに来るんだぞ? 戦々恐々じゃねーか」

「そ、その様なつもりはありません! その……で、出来ればナターシャとも仲良くしたいと思っております」

「……マジかよ。散々、いじめられて来たんだろ?」

「いじめられて、と言われると……まあ、否定は出来かねますが」

 それでも、と。

「……いじめられていたから、いじめかえす、と云うのは……違うと思います」

「……」

「寂しいですからね、一人は」

「……どんだけ人が良いんだよ、お前。女神か」

「辞めて下さい、縁起でもない」

俺の言葉に苦笑を返し、トリムは大きく息を吸い込む。

「……族長をやってみようと思います、私」

「……」

「不慣れで、不器用で、出来ないことは沢山あると思います。あると思いますが……それでも、頑張ってみようと思います。サキュバス族の族長として、後身を引っ張っていける様に……そんな風に、頑張ってみようと思います」

「……そっか」

「……はい」

「んじゃ……これで、お別れだな」

 正直、少しばかり寂しい気もする。イヤ、少しばかりじゃないな。無茶苦茶寂しい気もするが、でもトリムが前を向いて歩きだすんだ。ならば、俺もトリムの意思を尊重して、送り出してやる――

「……はい? お、お別れ?」

 ――あれ?

「……え? 違うの?」

「ち、違います! な、なぜお別れなどと言うのですか! な、なんですか? マリアさまは私を捨てると、そうおっしゃるのですか! わ、私の側室入りは、魔王様もお認めになっておられるのですよ! 今更やっぱりなし、なんて、そんなの絶対にダメですからね!」

「うお! お、落ちつけ! 近い! つうか、見える! なんか大事なモンが色々『こんにちは!』しそう!」

 涙目で睨むように俺に詰め寄るトリム。だから、そのサイズ感の服でそういう行動を取るな! 捕まるだろう、俺が!

「い、いや、だってな? お前、俺の所に来たのは『ステータス』目的だったんだろ? 醜い容姿のお前が、独り身じゃ不味いし、仮にもサキュバス族の姫がそこら辺の男捕まえる訳にも行かねーからって」

 ぶっちゃけ、『魔王』って肩書を持つ俺を婿取りする事でトリムの容姿の醜さをカバーしようって作戦だった筈だし。

「でも、今のお前は十分美少女じゃねーか。サキュバス族の中でも群を抜いて美少女なんだから、何もこんな魔王面――まあ、実際魔王なんだけど、ともかくもうちょっと良い相手がいるんじゃね?」

「そんな事ありません!」

「なんでだよ? いやまあ、魔王って肩書はあった方が良いのか? にしても、別にサキュバスの旦那さん全員が全員、魔王って訳じゃねーんだろ?」

 種族の地位向上の為に魔王を垂らし込む、ってのはあるのか? でもまあ、サキュバス族に――サンプルが少なすぎてアレだが、ナターシャやクリスさん、それにユメ先輩見る限り、少なくともラインハルトの所のオーク族みたいに切羽詰まった事情は無さそうだが。

「わ、私はマリア様が魔王様でなくても構いません! それどころか、別に無職でも構いません! 毎日ぐーたら過ごすようなそんなダメダメな男性でも構いません!」

「……いや、それは俺が構うわ」

 この容姿でニートはどうよ。

「い、いえ……済みません、出来れば私も何か働いては頂きたいですが」

「だろ?」

「う、ううん! そうではなく! そうではなくですね! わ、私が言いたいのは――」

 大きく息を吸い込んで。



「――魔王で無くても、決して何者でも無くても、何者でも無くなっても。貴方が貴方、『マリア』である限り、私は貴方の側に居たい」



「……」

「……寂しかった私の心を満たしてくれた、そんな貴方の側にずっと、ずっと居たい」

 ――お慕いしております、マリア様、と。

「……」

「……」

「……」

「……そ、その……な、なにか……仰っては下さいませんか?」

「……その……なんだ。スゲー嬉しい」

「……良かった」

「いや、でも……なんだろ? 俺だぞ? もうちょっとお前、見栄えで選ぶとかさ?」

「……マリア様をお慕いしておりますが、そのお言葉に関しては不満です。殿方を容姿のみで選ぶような、その様な軽い女に私は見えますか?」

「いや、そりゃ見えねーけど……でも、限度もあるだろ?」

「いいえ。マリア様程魅力的な男性は他に居ません」

 そう言って一歩近づき。



「――だって私、貴方の魅力にメロメロですから」



 まるで音符でも付きそうな程に楽しそうに耳元で囁かれたその言葉。

「……メロメロって。昭和か」

「……ふふふ! マリアさま、耳が真っ赤ですよ?」

「……鏡見て言え。お前だって顔真っ赤じゃねーか」

「ええ、でしょうね? だって私、こんなにドキドキするのは生まれて初めてですもの!」

 まるでクルクルと踊る様にその場で一回転ターンを決める。

「……先だっては失礼な事を申しました。お詫びして、訂正します」

「訂正だ?」

「ええ。私、『対外的にお側に置いて下さい』とか『夫婦生活を望みません』なんて、可愛げのない事を言いましたが」

 見惚れる様な笑顔を浮かべて。



「――お願いですから……私の事も、愛して下さいね?」




サキュバス編、完結! エピローグ挟んで次々回からは新章へ突入予定です!

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