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第百十二話 彼女はとっても魅力的


『恋だよ!』なんて、笑顔アンドサムズアップで宣う魔界の主に少しだけ――じゃねえ、無茶苦茶痛む頭を振りながら、俺は魔王様に対して口を開く。

「いや、恋だよって。なんすっか、その覚醒条件」

「だから~、文字通り『恋』なんだよ! 恋は女性を美しくするって言うじゃん? アレだよ、アレ。サキュバス族の族長の一族は恋をする事によってより美しく、洗練された女性へと成長を遂げるんだよ~。いや~、流石に『美』を司る一族だけあるよ! もう、乙女心満載だね!」

「……どっちかって言うと中二病満載な感じもするんですが」

 今日び、『眼鏡を取ったら美少女』並みに使い古されたワードの気がするんだが、『女は恋をして美しくなる』って。

「ま、これによってトリムちゃんは一段階女性としてのレベルを上げたね! いや、これは流石にユメちゃんの母親である私もフォロー仕切れないよね~。ユメちゃんじゃ勝てそうにないモン」

 そう言ってマジマジとトリムを眺めながら『ほうぅ』とか『うへぇぃ』なんて変な声を上げる魔王様。そんな姿に、トリムは少しだけ怯えた様に俺の背中へその身を隠す。先程までなら俺の背中の後ろから体が覗いていた筈なのに、この『変身』を遂げたトリムならすっぽりと隠せるぐらいの小柄さと――頼りなさげに俺の服の端をぎゅっと摘まんで来るその姿に、少しだけ俺の心臓も高鳴る。

「ん~? おやおや~? 早速『くらっ』っと来ちゃったかな~?」

 そんな俺の心情の変化に気付いたか、魔王様がニヤニヤとヤラシイ笑みを浮かべて来やがる。ちくしょうめ。

「……まあ、確かに今のトリムは絶世と言っても良いレベルの美少女ですからね。密着されたらそりゃ、ドキドキぐらいはしますよ」

「へえ! 義理の母親の前で堂々と浮気宣言なんて、マリアくん、やるぅ~」

「いえ、そういう意味じゃ無いんですけどね!」

 ……まあ、ドキドキしたのはマジだよ。嘘ついても多分この人には直ぐバレるしな。

「ま、マリアくんの浮気癖は置いておいて」

「おい、置いておくな」

「置いておいて! そろそろ『仕事』もしなくちゃな~って」

「だから! 俺は別に浮気ぐ――」

 ……ん?

「……え? 仕事?」

「うん、仕事。お仕事。ジョブ。働きたくないでござる」

「最後! いや、それよりも……え? 魔王様、仕事で来たんですか?」

「あったりまえじゃーん。なに? マリアくん、私が遊びに来たとでも思ったの?」

「いや、思いますよ」

 打ち返し、ノータイム。そんな俺の言葉に、魔王様がぷくーっと頬を膨らませる。

「もう! そんなわけないじゃん! 私、こう見えても魔界の王様なんだから! 忙しい身の上なんだよ!」

「いや、散々ウチの家で正月酔っぱらってましたよね!?」

「年末年始は休みなんだよ、魔王業。基本、土日祝日はお休みだしね」

「初耳なんですけど! っていうか意外に公務員気質!?」

 いや、まあ国のトップだって特別職の公務員だし、土日祝日休みでも別に良いっちゃ良いんだけどさ? でも、そうなったら俺の『週末魔王』ってどうなのよ?

「ま、それはともかく。取りあえずトリムちゃん? おめでとうございます。貴方は本日、たった今からサキュバス族の族長に認定されました。これは前サキュバス族族長であるユリア・サキュバスの意思でもあり、魔界を代表する魔王、アイラ・マ・オー・エルリアン及び共同統治者であるコースケ・マ・オー・エルリアンの意思でもあります。今代のサキュバス族を率いる者として魔界の秩序維持の為、我ら魔王に忠誠を尽くす事を誓いなさい」

 ニコニコと笑顔を浮かべたまま、そんな爆弾発言をぶちかます魔王様。いや。いやいやいやいや!

「ちょ、魔王様!? なんすっか、それ!」

「ん~? サキュバス族は次代の族長候補が『覚醒』する事が族長に就任する条件なんだって。それで覚醒次第、サキュバス族は族長の任を後任者に譲り渡すのが通例なの。本来であればサキュバス族族長であるトリムちゃんのお母さん立ち合いの元行う予定なんだけどね~。ま、折角魔王たる私が居るんだし? いっかって」

「いや、いっかって」

 そんな簡単に決めて――ああ、良いのか。魔王様だし。

「トリムちゃんのお母さんとも話合ってたし、別に構わないんだよ。それに、私はサキュバス族のボスのボスだよ? 枝の組長の就任ぐらいは取り仕切るぐらいの権限はあるんだって」

「だから、『枝』って」

 言い方!

「お、お待ちください!」

 少しばかり頭を抱えたくなる様な言動をする魔王様を白い目で見ていた俺の後ろから声が上がる。言わずもがな、トリムだ。

「ん~? どったの、トリムちゃん?」

「い、いえ! わ、私がいきなりサキュバス族の族長? な、なんですか、それは!」

「なんですかって、言葉通りだよ? 今日からトリムちゃんはサキュバス族の族長。ユリアは引退して旦那さんとラブラブ生活送るってさ~。いいな~、ユリア。私もダーリンとそんな生活したいな~。マリア君、早く魔王になってくれない? 引退させてよ、私を」

「で、ですからお待ちください! わ、私はまだまだ若輩者、しかもサキュバス族としては未熟です。容姿も醜く生まれ落ち……そして、それ故に『魅了』の力も一族でとびぬけて強い訳ではありません。いいえ、むしろ下から数えた方が早いです! その様な私に――」

「ストップ」

「――族長など……え?」

「トリムちゃん、真面目か」

「ま、真面目?」

「その辺りがユリアの娘らしいっていうか、なんていうか……ま、ともかくね? トリムちゃんはサキュバス族としての族長の条件を誰よりも満たしているのよ。醜く生れ落ちた? そんなもん、今のトリムちゃんを見て誰が信じるかって話じゃん? 過去は過去、今は今。それでイイじゃん。それに、若輩者だから受けれませんって……んじゃ何時になったら受けるのさ? 自分の成長なんか、自分で一番把握できないモンだよ?」

「そ、それは……で、ですが! 『魅了』は! サキュバス族の秘伝でもある、『魅了』の能力は私にはありません!」

 悲痛な叫びをあげるトリム。そんな姿を見て、魔王様は慈しむ様な笑みを浮かべて見せた。

「いいじゃん、別に」

「よ、良くはありません! だって!」

「……ま、トリムちゃん……っていうか、サキュバス族の前で言うのもアレなんだけどさ? 私、魅了の魔法ってちょっとどうかな~って思うんだよね?」

「そ、それは……ど、どのような意味ででしょうか?」

「いや、だってさ? ぶっちゃっけ、魅了ってマガイモノな訳じゃん? 本当に相手に愛されてる訳でも無いのに、その相手を自分の虜にしちゃう訳でしょ? それって、殆ど洗脳と一緒じゃん?」

「……ですが、それが『魅了』の魔法です。私達サキュバス族は、そうやって長き時を生きて来ました」

「うん、だから別に『サキュバス族』としての『魅了』の魔法を否定するつもりは無いんだよ」

「? それは……どういう意味でしょうか?」

 意味が分からないとはてな顔を浮かべるトリム。そんなトリムに、魔王様は優しい微笑みを浮かべたままで。



「サキュバス族としては良くても……『女の子』としてはどうかな~って」



「――っ!」

「そうでしょ? 自分はその男の子を虜に出来る。純粋に好きなのかも知れないし、タダのステータスとして見てるのかは分かんないけど……ともかく、自分の意中の相手を簡単に自分のモノに出来るんだよ? 相手の感情なんてお構いなしに。それってどうよ? そんなので相手が靡いて、本当にうれしいのかなって。しかもサキュバス族は容姿端麗でしょ? 生まれ持ってアドバンテージ持ってる上に、そんなチート持ちじゃ人生……じゃないけど、楽勝過ぎてつまんなくない? 本当に好きになった相手だったりしたら最悪だよね? だって、その人が自分の魅力に気付いてくれたのか、それとも『魅了』の魔法の効力でそうなってるのか、どうやって判断付けるのさ? 人の心を操る事は出来ても、人の心を覗く事は出来ないでしょ、サキュバス族と云えども」

「……はい」

「んで、トリムちゃんに話を戻します。トリムちゃんは……まあ、嘘ついても仕方ないからはっきり言うけど、やっぱり容姿は、ね?」

「…………はい」

「でもさ? それ以外はトリムちゃん、なんでも一生懸命やってたんでしょ? 掃除も、洗濯も、料理も、家事は全部できるでしょ?」

「それは……人並みには、ですけど」

「十分じゃん。それに、自身の容姿のせいもあって慎ましく、自らが傷ついて来たから誰よりも優しい」

「……」

「そんな女の子なんだよ、トリムちゃんは。『魅了』の力は弱いかも知れない。でも、『魅力』はこの中の誰よりも強い……そんな女の子だよ?」

 一息。

「……それにしても……覚えてる、マリアくん?」

「へ? な、なんっすか?」

「前に言ったでしょ? サキュバス族は乙女な一族だって」

 そう言って会場を――目にハートを浮かべてんじゃねーかって程の視線をトリムに向ける男性を見渡して。



「――魅了の魔法なんかじゃなくて……『本当の自分』を愛して貰える『魅力的』な女の子を族長に据えるなんて、ね?」




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