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第百二話 みにくいあひるのこ


 目覚めに妙齢の美女から『おはよ』なんてハートマーク付きで言われる、なんてのは男の夢の一つかも知れない、と思う事がある。普段は大人っぽい彼女が、寝起きだけ子供っぽい感じで『おはよぉ』なんて言ってくるのもグッと来るだろうな~なんて、経験ないけどなんとなくまあ、分からんでも無い気はする。

「おはよ~、マリア君。げんきー?」

 ……いや、美女だけどさ?

「…………此処、俺の部屋ですよね? 何してんっすか、魔王様」

 ベッドの端に両肘を乗せて掌で顎を支えてニコニコしてるのは現魔王様であらせられるアイラさん。いやね? そりゃ俺も妙齢な美女って言ったよ? ああ、うん。美女は認める。認めるけど、流石にいい年の女の子産んだオバ――

「――っ! あぶな! なんで目潰ししてくるんっすか!」

「いや、なんか失礼な事考えてそうな顔をしてたから?」

「だからっていきなり武力的制圧に乗り出します!?」

「魔界では普通だから。気を付けてね~、マリア君?」

 そう言って、改めて『おはよう!』と元気いっぱいに言ってくるアイラさん。なんだろう? ハートマークじゃ無くて髑髏マークが見えるんですが。

「……はあ。おはようございます。それで? なんでこんな朝っぱらから魔王様がウチに来てるんですか? 今日、なんかありましたっけ?」

「んー? そろそろ事情説明が必要な頃かな~と思って! そんな訳で、わざわざ忙しい中顔を出して見たのよ」

「事情説明って……」

「トリムちゃんのこと」

「っ」

「マリア君もいきなりトリムちゃんが『お嫁さんになります』って来たら吃驚してるかな~って思ってね? まあ、そんな訳でちょーっと顔を出して見ようかと思った次第ですよ」

 そう言って楽しそうにケラケラ笑うと、魔王様は俺のベッドから離れると勉強机の椅子に腰を掛ける。その姿を見やりながら頭をガシガシと掻くと、俺もベッドから体を起こした。

「……魔王の娘、ヴァンパイアの姫と来て今度はサキュバスのご令嬢ですよ? なんすっか、これ?」

「その間に幼馴染の妹たちも入ってるでしょ? ま、それはともかく……やっぱり魔王に成ろうかって人だからね、マリア君は。そりゃ、ある程度はあるのよね、政略結婚が」

「……ある程度所の話では無いんですが。つうか、俺って入り婿でしょ? 入り婿に政略結婚って……どうなんですか、それ?」

「魔王の配偶者は同列だからね。だからまあ、皆がどう考えようがやっぱりマリア君は魔王なんだよ。よくもわるくも、魔界の最高権力者だからね」

 そう言ってニパっと笑う魔王様。その姿に深々と溜息が漏れる。

「……それじゃ、トリムもその『クチ』ですか?」

 まあ、トリム自身も政略結婚って言ってたしな。そりゃ、そのクチだろうが――

「……ううん、違うよ?」

「……へ?」

「トリムちゃんは違うんだ。彼女自身は『政略結婚だ!』って思ってると思うけどね? それでも彼女は違うの」

 真剣な、まるで吸い込まれそうな視線を向ける魔王様の視線に、俺も目を逸らせない。そんな俺を見やり、魔王様はふっと笑んで見せた。

「……彼女も色々抱え込んでるからね。まあ、トリムちゃんの『立場』なら仕方ない所もあるんだけど」

「立場? 立場って……アレですか? トリムがサキュバスの女王の娘なのが問題って事ですか?」

「問題、じゃないけどね。うーん……どう説明したらいいかな?」

 そう言ってしばし悩むよう、魔王様は中空に視線を飛ばす。

「……サキュバス族の女王の家系ってね? サキュバス族の中でも最も力の弱い者がなるのよ」

「……力の弱い者が?」

「そ。魔界の中でも異常って呼べるぐらいの事なんだけど……それがサキュバス族の伝統なんだ。当代のサキュバス族の女王はサキュバス族の中でも最も『チカラ』が弱いの」

「……ええっと……」

「乙女だからね、あの種族」

「乙女?」

 ……意味が良く分かんないんだが。乙女?

「こっちの話。とにかく、現時点でトリムちゃんのチカラはサキュバス族で最も弱い。そのチカラってのはこれから強くなることはまず無いの。だからまあ、トリムちゃんがサキュバス族の族長になる可能性は高いの」

「……高い、どまりなんですか?」

「ええ。トリムちゃんが今のままじゃ、サキュバス族の族長には絶対なれない。ただ、これからのトリムちゃんの活動次第ではトリムちゃんがサキュバス族を率いる可能性は非常に高いと言えるのよ」

「活動次第って……」

「マリア君、今の君のやっている事は間違ってないよ? だから、そのままの形でトリムちゃんを支援してあげてくれれば良いわ。そうすれば、トリムちゃんはきっと女王様になれるから」

 そう言って椅子から立ち上がると魔王様はパンパンとお尻を二回叩く。いえ、別に埃は溜まってないんですが……じゃなくて!

「ちょ、魔王様? 事情説明って言いながら全然事情説明をしていないんですけど!」

「したじゃん。トリムちゃんは政略結婚だ! って思って来てるけどそうじゃないよ、マリア君のやり方は間違ってないよ、だから今まで通りに接してあげてね、それでトリムちゃんをサキュバス族の女王様にしてあげて~……って話」

「その……魔王様はトリムが女王様になった方が良いって思ってるんですか?」

「逆に聞きたいけどさ? マリア君は潜在的な抵抗勢力のボスの力が強い方が良い訳? できれば、力の弱いトップの方がやり易いと思わない? なに? マリア君ってそっちのケがあるの?」

 ……そりゃそうか。サキュバス族の中で最も力の弱いトリムが女王になれば、支配もし易いって寸法か。

「……分かりました」

「そ。それじゃ宜しく頼んだよ~」

 じゃあね~っと窓から身を翻す魔王様。その背中に、俺は声を掛けた。

「待って下さい、魔王様。トリムのチカラが、サキュバス族で一番弱いってのは分かりました。分かりましたけど……そもそも、サキュバス族の『チカラ』ってなんですか?」

 そんな俺の言葉に、魔王様は翻していた体の顔だけをこちらに向けて。



「決まってるじゃん。サキュバスのチカラは『魅了』。トリムちゃんは、サキュバス族で最も『魅了』のチカラが弱いサキュバスなんだよ」



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