第百話 魔王様とダイエット その2
記念すべき100話目!
聞く? と可愛らしく首を傾げる鳴海。その姿に若干じとーっとした目を向けた後、俺は小さく溜息を吐いた。
「……鳴海がダイエットだ?」
「は、恥ずかしいけど……わ、私だってダイエットするんだよ、マリアお兄ちゃん」
俺の体がデカいってのもあるが、妹ズは基本的に然程違和感のあるサイズ感ではない。まあ、奏なんかは上背もあるし出るとこもしっかり出てはいるが、それにしたって全員標準的な中三女子の体型の範囲内ではある。
――鳴海を除いて。
鳴海は中学女子の平均をぶっちぎりで下回るミニマムサイズだ。身長だって体重だって正直小学生ぐらいのサイズなのである。
「……お前、ダイエットなんかいらねーだろうが」
「そ、そんな事ないよ! そ、その……やっぱり、食べ過ぎるとお腹が出て来たりするからさ。だからほら、ある程度はダイエットもしてるんだよ」
「……マジか。んな風には見えねーんだが」
麻衣や奏はよく『ダイエット、ダイエット』って叫んでる姿を見る気がするが。鳴海に関してはそんなイメージが全然ねーぞ。
「……普通は好きな人の前で『体重が増えたー!』とか言いたくないもんだよ、マリアお兄ちゃん。女の子は」
「……だな」
じゃあ奏や麻衣はなんだって話になるんだが、まあそれは良い。
「……んじゃ、参考までに聞くけどさ? 鳴海のダイエット方法ってなんだよ? 麻衣みたいに運動するのか? それともまさか奏みたいに怪しいダイエット食品に頼るって訳じゃねーだろうな?」
「ちょ、マリアさん! 怪しいってなんですか、怪しいって! 怪しくないですから! あれはアメリカで大ヒットしてるダイエット食品で!」
一生懸命『怪しくないです!』アピールをしてくる奏を軽くスルーし、俺は視線を鳴海に固定したままで続きを促す。
「うーん……奏ちゃんの言ってる商品が怪しいかどうかはともかく……どっちにせよ、ダイエット食品とかダイエット器具とかってお金が掛かるよね? その……私個人の感覚で言えば、何かを『減らす』って行為にお金はあんまりかけたくないな~って思うの。お小遣いだって限りがあるし」
「おい、アイドル」
お前ら最近人気絶頂……とは言わねーが、そこそこ人気があるだろうが。結構いいギャラ貰ってるんじゃねーのか?
「お給料は全部お父さんとお母さんに全部渡してるから、私は幾ら貰ってるのかよく分かんないの。まだ中学生だし……あんまり沢山お金があるのも、なんだかお金の有難味が分からなくなりそうで怖いし」
「……出来た子だよな、お前は本当に」
「そ、そんな事ないよ? 私は本当に対して欲しいモノも無いし、使い道が無いってだけだから……っていうか、私より麻衣ちゃんの方が偉いよ?」
「へ? 私?」
不意に話を振られた麻衣がきょとんとした顔を浮かべて見せる。ああ、そうだな。そういう意味ではこいつが一番偉いかもな。
「お前、給料の殆どを家に入れてんだもんな」
ちなみにその内の一部は『食費』という形で我が家に渡されていたりする。いらんと言っても聞かんからな、麻衣も麻衣のお母さんも。
「ええっと……え? それ、そんなに凄い事じゃなくない? マリアが家で料理とか洗濯とかするのと同じでしょ? マリアのお父さんとお母さんはお金を稼げるから、稼いで来る。マリアは料理が上手だから、家族の為に料理を作る。それと一緒でしょ? 私はお金を稼げるから、稼いだお金をお母さんに渡す。家族なんだから、助け合うのは当たり前で……あ、あれ? なんか変な事言ってるかな、私?」
「……麻衣、鳴海、来い。頭を撫でてやる」
来い、と言いながらも大股で二人の下に自ら歩き、頭をぐりぐりと撫でてやる。基本アホの子だが、こう云う所があるから可愛いんだよ、コイツらは。
「な、なんか私達に不利な流れの気がする!」
「そ、そうですね……なんか私達、凄く悪い子みたいです」
「別に咲夜や奏が悪いってわけじゃねーぞ? 本来は子供がそこまで気を回す必要はねーんだよ。それでも、偉い子は褒めてやるってだけの話だ」
ま、咲夜がしおらしい顔で『お、お兄ちゃん……今月のお給料です』なんて持ってきたらドン引くしな。つうか、俺と咲夜の金銭のやり取りはどう見てもカツアゲにしか見えんという不具合もある。
「……と、話がそれたな。そんで? 食品や器具系じゃないとすると……アレか? 麻衣と同じ様なやつか?」
飛んだり跳ねたりのトレーニング系か?
「ううん。ああ、別にそれがダメって訳じゃないんだけど……ほら。人間って向き不向きもあるじゃん? 流石にトリムさんに麻衣ちゃんのメニューはちょっとキツイかな~って思うんだ」
「……まあな」
「だからね? 私のダイエット法はもっと簡単なの。っていうか、そもそも皆、ダイエットについて難しく考えすぎなんだよ」
「難しく考えすぎ?」
「そうだよ。運動とか、器具とか食品とかじゃなくて、もっとシンプルに考えてみてよ」
「シンプルって言われても……」
「それじゃ、一個質問です。ねえ、マリアお兄ちゃん? 体重って、なんで増えると思う?」
「なんでって……」
なんだ? 哲学的な話か? 我思う、故に体重が増える、みたいな。
「違う違う! そんな難しい話じゃないよ! 体重が増えるのってね? 単純に摂取したカロリーが消費したカロリーを上回っているから増えて行くんだよ?」
「いや……まあ、そりゃそうだろうよ」
一日二千キロカロリーの食事をとって、千キロカロリーしか消費しなかったらそのあいさかが毎日千キロカロリーずつ溜まって行くって事だろ?
「そうそう! 麻衣ちゃんや咲夜ちゃんがあれだけ食べても今の体型を維持できるのは単純に摂取したカロリーより消費したカロリーの方が多いからなんだよ。まあ、体質とかもあるから一概には言えないけど、基本的な考え方は多分そんなに変わらないと思うな~」
「……確かに」
仰る通りだ。仰る通りだが。
「じゃあ、何か? 単純に食事療法でダイエットしようかって話か?」
もちろん、そのつもりもある。カロリーを控えて、それでも満腹感のある食事を作ろうかなって思ってはいるんだが。
「……違うのか?」
そんな俺の言葉に、首をゆっくりと振る鳴海。
「違うよ。食事療法……はまあ、食事療法なんだけど、トリムさんの体型考えたらそれじゃ効果は薄いと思うから」
そう言って鳴海はにっこりと笑い。
「――食べなきゃいいんだよ、ごはん」
……トリムの顔が真っ青に染まった。




